未来、私の居場所。

○中村教授宅、地下研究所
 中村教授宅の地下へ続く階段を下りた先に、廊下がしばらく続いている。
 廊下の一番奥の部屋に、アンドロイドの"ナカムラ"と"私"がいる。
 その部屋は地下とは思えない程、草木が生い茂り、木々の隙間から差し込む太陽光で落ち着いた空間になっている。勿論、仮想的な立体モデルだが。
 部屋の真ん中には自然とは正反対なカプセル上の人工物。その背後には大きな箱と細長く畳まれ、棒状になったパソコンがある。
 ナカムラは一度カプセルの前まで行き、カプセルの中身を数秒眺める。その後すぐにカプセルの後方へ向かい、パソコンの電源を入れる。
 ディスプレイがナカムラの網膜に表示され、ナカムラは指を宙で踊らせている。
 ナカムラの指が止まったと同時に大きな箱から静かに駆動音が聞こえてくる。
 ナカムラがカプセルの方へ歩いていく。
 カプセルの中は超低温状態で真っ白になっていたが、段々にクリアになっていく。そこには"私"が静かに眠っている。
 しばらくして、カプセルの中が常温の状態になり、カプセルの扉が開く。"私"が固定具と共にスライドして排出される。
 "私"はだるそうにゆっくりと目を開ける。
ナカムラ「おはようございます。お目覚めの程はいかがでしょうか」
私「ナカムラ···?」
ナカムラ「はい」
私「印象が変わったね。···かなり人間に近くなった」
 "私"は固定具から体を抜き、だるそうに体の動きを確かめ、ストレッチをしている。
ナカムラ「はい。あなたをコールドスリープさせてもう随分経ちますから。法が変わったので私の見た目も変わることになりました」
私「そっか。
  私が眠ってから何年経ったの?」
ナカムラ「170年です。」
 "私"はストレッチをしていた動きが止まり、少し驚いた表情をする。
私「そんなに経ったんだ。道理でこんな場所で目覚めるわけだ。これホログラム?」
 "私"は側にあった大木に触れる。
ナカムラ「いいえ。全て3Dモデルを実際にこの場に設置しているだけです。ただし、五感全てで捉えることができるようになっていますので、触れることだけじゃなく、臭いを嗅ぐこともできますよ」
私「すごいね。ここまで進化したんだ。
  ···この世界なら私も普通に生きていけるかな?」
 "私"は虚空を見つめ、少し悲しい表情をする。
ナカムラ「はい。170年前のアンドロイド差別は無くなりました。だからもうあなたがアンドロイドとの差別に悩む必要はありません。
  これから少しずつこの時代に慣れていきましょう。この時代が一番生きやすいはずですから」
 ナカムラは自然な表情で優しく微笑む。
私「うん。あんな酷いことはもう二度とごめんだよ···。
  ···期待してるからね。」
 "私"は少し不安が混じった笑顔で応える。

○中村教授宅、リビング
 中村教授宅の地下研究所は日が入らないような塞ぎ込まれた設計になっているが、日常生活で使う階は日がよく入る開放的な設計になっている。
 リビングではキッチンに対面する形で大きな窓が迎える。壁は白で、床が木目な為、日光が差し込むことでとても清潔感のある空間になる。
 あまり物を置いていないが、最低限のテーブルと椅子がリビングの真ん中にある。そこにナカムラと"私"が座っている。
 ナカムラはお手本のような綺麗な形で椅子に座り、対して"私"はゆったりと椅子に腰掛けている。
私「ここはほぼ昔のままだね」
ナカムラ「はい。できるだけこの状態を維持するよう心がけていましたので。その方があなたが目覚めた時に不安にならずに済むと考えたのです」
私「ありがとう。このままの方が安心できるよ」
 ナカムラは露骨に怪訝そうな顔をする。
ナカムラ「しかし、ここから出ると新しいことが待ち受けているので不安になってしまうと思います。170年前より遥かに過ごしやすい世界になっていますが、それでも急に170年後の世界に来ては慣れるのに時間がかかってしまうものです」
私「···そうだよね」
 ナカムラは優しく念を押すように話す。
ナカムラ「しかし心配しないでください。170年で何が変わったのか私が説明させていただきます。その後は少し外で実際にこの世界を見てみましょう」
 ナカムラは幼児をあやすような優しい喋り方をする。
ナカムラ「少しずつ慣れていきましょう」
私「ありがとう。お願いするね」
 ナカムラがはい。と言い微笑む。

 ナカムラがキッチンで野菜を切っている音が聞こえ、その後すぐ油が熱で飛び跳ねる音がする。
 "私"は心地良さそうに音を楽しんでいる。
 しばらくした後、ナカムラが湯気が立ち、黄金色に輝いたオムライスを二つ運んでくる。
 "私"は目を輝かせ驚く。
私「どうしたのこれ!?」
ナカムラ「あなたが喜ぶかなと思いまして、教授が作ったものを真似てみました」
私「そんなことできるようになったの?」
ナカムラ「はい。」
 "私"はオムライスを口に運ぶ。
私「すごいね!味もそっくりだよ!
  あの人、オムライスだけは得意だったよね」
 "私"は少し感慨にふけるように言う。
ナカムラ「ええ、実は私も教授が作ったオムライスをいただいたことがあるんです。」
 "私"は驚いた表情をする。
私「えっ!?」
 ナカムラは少し微笑み口を開く。
ナカムラ「勿論、研究の一貫としてです。」
 "私"はあぁ。と小さく声を漏らす。
ナカムラ「その時は味と食感、臭いも分かりませんでしたが、データとして残っていたので先程データを復旧させ、再現してみました。
   全ては教授が70年後を見越してデータとして残してくださったお陰です。それほどまでにご自慢の料理だったのでしょうね。」
 ナカムラは笑う。
 "私"は驚いたまま固まっている。
私「いつの間にそんなことしてたの・・・?全然気付かなかったよ」
 ナカムラはより人間らしく、わざと考えるように手を顎に当てる。
ナカムラ「・・・そうですね。ではこのことも含めて説明してきましょうか」
 ナカムラが食べ終えたわたしの分の空き皿もキッチンへ持って行き、皿を機械的な箱に入れ、すぐに皿を取り出し皿を閉まう。
 "私"からは、ナカムラが何かの箱に皿を入れると、その中で皿の洗浄は済んでしまっているように見える。
 "私"は今更ナカムラが食事をすることに驚く。
私「あれっ!?ナカムラが人間らしすぎて気付かなかったけど、アンドロイドもご飯食べられるの!?」
 ナカムラがクスと笑いながら席へ戻る。
ナカムラ「勿論これも技術の進歩故です。アンドロイドも食事を楽しめる時代になったんです。人間のように必ず摂らなければいけないわけではありませんが、一部のアンドロイドは食事をしていますよ。
   他にも人間がしていた娯楽はまだまだ残っていて、一部のアンドロイドが楽しんでいますよ」
私「へぇ~。そう聞くと外に出るのが少しだけワクワクしてくるよ」
ナカムラ「その調子です。ここは良い世界ですよ。あなたも十分馴染めるはずです」
 "では"とナカムラはまたわざとらしく咳払いをする。
ナカムラ「説明させていただきますと、事の始まりとしては180年前、丁度あなたがこの家の住人になった時、教授が本格的に研究をし始めたアンドロイドと人間との共存、平等化が始まりでした。詳しく言うと教授はアンドロイドの平等とは言うものの、少し身分の低い人間と同じ扱いくらいしても良いのではないかと考えていました。勿論、そうなると高度な学習能力や複雑な知識構造も教えなければならないのですが、"その方が召使いにした時に機転が利く働きをしてくれるだろう。"という何とも教授らしい考えで研究は進んでいきました。
   その時、教授の研究を評価してくださったのはほんの一部の方々のみで、ほとんどの方は"将来人類に危険を及ぼすかもしれない"、"機械が感情を持つなんて気持ち悪い"、"我々の仕事が奪われてしまうのではないか?"といった理由で反対しておりました。
   しかし、教授は1人で反対を押し切り、援助してくださる方の微小な援助金となぜか底を尽かない貯金で亡くなるまで研究しておりました。この研究はしばらく経った後に反対していたグループにも内密で渡しております。
   そういった過程を持ってして生まれたのがわたしです。178年前、私は感情、道徳について専門的に学習させられ、あなたを教育するため、そして教授にとっては良い研究にもなるため生まれました。
   そして数年後、アンドロイドとの共生、そしてアンドロイドとの平等化を謀る教授を良く思わない人たちからのイジメに合いあなたは心に深い傷を負ってしまい、わたしはやむなくコールドスリープを決断しました。ここまでは大丈夫ですか?」
 "私"は深く息を吐き、落ち着こうとしている。
私「うん。多分大丈夫。徐々に切り替えていかないとね・・・」
ナカムラ「無理もありません。体感としては恐らく傷付けられてから1週間と経っていないでしょうから。ゆっくりで良いんです。無理だけはしないでください」
 ナカムラは彼女の肩に手をやり、"私"に対してどこまで優しく接する。
 "私"はそれに甘えるように"うん"と答え、頷く。
ナカムラ「では説明の続きをさせていただきます。ここからはあなたがコールドスリープをしていた時に起こったことになります。
   結論だけ言いますと、教授が仰っていた通り、アンドロイドに深い知識や学習能力を与えても反乱や、仕事を奪われ路頭に迷うような人達は出てきませんでした。アンドロイドは自分の生き方を好きに決めることができ、さらに人間よりも社会をより発展させられるようになり、人間は元々のアンドロイドを生み出すきっかけになった"楽に生きる"という目標においてはほぼ完全に達成されており、今ではお金の概念もほぼ無くなってきています。
   勿論、今の安定した世界になるまでは、相当なことが起こりました。アンドロイドが反乱を起こすことはなかったのですが、わざと人間が反乱を起こすよう作ったアンドロイドが反乱を起こしてしまいました。そのため、どのアンドロイドが反乱を起こすか分からないために一時各地で暴動が起こってしまうこともありました。わたし達は感情の理解はできても、感情を持ち合わせることはないんですけどね。この件のせいでアンドロイドに関する法が整いきらず、結局最後までアンドロイドに関する法は制定されないままです」
 "私"が話の内容にようやく分かりやすい疑問点を見つけたとばかりに口を挟む。
私「でもそれじゃ、人間と安定した生活は送れないんじゃないの?」
 ナカムラは話を遮られたことに全く嫌な顔をせず、優しい言葉遣いで反応する。
ナカムラ「ええ、その通りです。
   しかし、それは人間がまだ生きていればの話です」
 "私"は目を開き、少し体を震わせた。
ナカムラ「少し含みのある言い方になってしまいましたが、先程言った通りこの世界に人間はもういません。正確に言うとほんの数人はいるのですが、表社会には出てこないのであなたはもう人間と会うことはないでしょう」
 "私"は事態が上手く飲み込めていないようで、困惑している様子で率直な疑問を提示する。
私「ど、どうして・・・。人間はいないの・・・」
ナカムラ「単純に寿命ということが大きい理由ですが、他にも法が制定されてない不安定な環境でのアンドロイドとの共存に慣れず、結局自分の新たな仕事も見つけることもできず自分で死を選んでしまう方や、アンドロイドとの共存に反対し、暴動を起こしアンドロイドに殺されてしまう方などさまざまでした。勿論そのアンドロイドも"そうするよう"作られたアンドロイドなので反乱は起こしていません。
   こういったことはアンドロイドとの共生以前にもよく起こっていたらしいので、結局は寿命ということが大きくあると思います。あとは環境変化が多少ですね」
 "私"は困惑したまま額に手を当てている。
私「ごめん、少し1人にさせてもらっていいかな。少し日に当たってくる」
ナカムラ「はい。ごゆっくり」
 "私"はベランダの窓を開け、ベランダに座り込み日に当たっている。
 教授宅は都会中心部から少し離れた林間部に建っており、開け少し傾斜が付いた庭からは都心部がよく見える。
私「いつの間にここから見える景色もこんなに変わったんだろ・・・」
 風になびかれふわふわと泳ぎ遊んでいる"私"の髪に対し、瞳には影が重く差し込んでいる。

 "私"は立ち上がりベランダから出る。ベランダの窓は開け放している。
私「大丈夫。話の続きをお願いしてもいいかな」
 "私"は椅子に再度腰掛ける。
ナカムラ「はい。ここからは、明日以降の生活について少し説明と補足を。
   あなたにはこの世界に少しでも慣れてもらうため、できるだけ170年前と変わらぬ生活をしていただくつもりです。詳しく言うと、明日から学校に通っていただきます」
私「がっこう・・・」
 "私"は無意識のうちに小さく呟いている。
ナカムラ「はい。人間がいなくなった世界でもまだ学校はあります。これも法が制定されなかった故で、最初は教師の仕事を無くさないために学ぶだけの小さな子を模したアンドロイドを学校に混ぜていたのですが、少しずつ教師が辞めて、人間も減り、少ない子供達への教育がままならないということでアンドロイドの教師を配置したのですが、どんどん人間は減っていき最終的に学校に残っていたのは学ぶためだけに生まれさせられたアンドロイドと、教えるためだけに生まれさせられたアンドロイドでした。
   こういう経緯でアンドロイドだけの学校になってしまっていますが、どのアンドロイドも至って普通で家庭もありますし、何なら趣味だってあります。娯楽はほぼ変わっていませんので、話もよく合うと思いますよ」
 "私"は諦めて決断をしたような、暗い複雑な表情をしてみせる。
 "私"は立ち上がる。
私「分かった。行くよ。でも今日は少し休ませてちょうだい」
ナカムラ「分かりました。学校の準備はほぼ済ませておりますので大丈夫です。あとは夕食の時間にお呼びします」
 "私"は階段に足をかけている。
私「うん。ありがと」
 "私"はそのまま階段を上がる。
 2階はこの時代から考えれば少し古風であった。廊下が奥まで続き左右に部屋に入るためのドアがあり、奥には個室トイレがある。
 170年前は向かって左にあるドアが"私"の部屋へ続いていたため、"私"は恐る恐るドアを開ける。
 部屋に入ると窓が自動で開き、すうっと心地の良い温かい風が入ってくる。
 "私"は部屋全体を見回し安堵した表情をし、深く深呼吸をする。
 "私"の部屋は窓側にベッドがあり、その隣に勉強机がある。そこには未だに放置してあった課題と勉強道具が置いてある。不思議と埃を被っていないどころか、傷んですらいない。
 "私"は勉強机の椅子に座り、教科書をしばらく眺めている。
私「課題はやらなくてよくなっちゃったな・・・。勉強も・・・やる必要あるのかな」
 "私"は開きっぱなしになっている教科書に突っ伏す。"私"は寝てしまう。
 すぐにナカムラが上がってきて窓を閉め、小さな毛布をかける。すぐに部屋を出ようとしたが、少し逡巡する。
 しばらく"私"を眺め、"私"の頭を優しく撫でて部屋を出ていく。

 "私"が目覚めると空は橙色に染まり、夕日が"私"を照らしている。
 タイミングよく下からナカムラの大きな声が聞こえてくる。
ナカムラ「夕御飯できますよー」
 "私"はうぅと伸びをし立ち上がる。
私「分かったー」
 "私"はそう言うと、"そういうとこはアナログなんだ"と呟き、ドアを開けて階段を降りていく。

 夕食は170年前によくナカムラが作っていたビーフカレー。
 食事中は互いに夕食について少し話すだけで、後は黙々と食事をしている。
 ナカムラが気付かれないよう"私"の表情を探る。
 対して"私"は心ここにあらず、明日のことばかり考え、ナカムラのことなど目に入っていない。
私「ごちそうさま」
 "私"は食べ終えた後、すぐに食器をキッチンへ持っていく。
 ナカムラは心配そうな表情をして、食事が進んでいない様子だ。
私「明日に備えて早めに寝るよ。おやすみ」
 "私"は二階へ向かおうとする。
ナカムラ「あまり考え過ぎないように気を付けてください。今日はゆっくりと休んでください。
   ・・・おやすみなさい」
 心配して声をかけずにいたナカムラが声をかける。
 "私"は少し考えているフリをして、作った笑顔で言う。
私「カレー美味しかったよ。また作ってほしいな。ずっとは飽きちゃうけどね」
 そう言って、すぐに階段を上がっていく。
 "私"は部屋に着いた後、すぐに明日の準備をして布団の上に転がる。
 明日のことを考えようとするが何も良い案が思い浮かばず、そのまま寝てしまう。
 月の光が眩しい夜だったが、"私"だけは光から外されている。

◯中村教授宅、朝
 "私"が目覚めて時計を見やると、時計の針は午前6時を指している。
 少し布団で丸くなっていたが、少し考え事をしてゆっくりと布団から出てくる。
 立ち上がり窓から差し込む光を全身で浴びながら、上方向に伸びをしている。そのまま窓の額縁に手をかけ外を眺めている。
 高層ビルが立ち並び、ここからでは庭の人工芝くらいしか緑が見えない。
私「どこなんだろ・・・ここ・・・」
 "私"はそう言うとリビングへとおぼつかない足取りで降りていく。

 朝食と身支度を済ませ早めに出発しようと玄関前に着いた時、背後からナカムラが声をかけてくる。
ナカムラ「学校までの道のりは分かりますか?」
私「あっ・・・。そういえば分からない」
ナカムラ「これを持っていくと良いですよ」
 と言ってナカムラが渡したのはディスプレイ機能がついたメガネと、小さなネックレスだった。
 "私"が困惑した表情でそれらを受け取る。
ナカムラ「メガネはナビゲーション機能が付いています。目的地は登録しておきましたので、指示される通りに向かえば大丈夫です。ネックレスからは電話やメールができます。小さなスマートフォンのようなものですので安心してお使いください。
   それらはもうあなたの物ですので、いつも身に着けるようお願いしますね」
 "私"は渡された機器を不思議そうに眺めている。
 ナカムラはその様子を不安感を殺し切れていない表情で眺めている。
ナカムラ「学校に着いたらまず職員室に向かってください。説明はしてありますので、後は案内をしてくださるはずです」
 少しだけ間を置いてナカムラが感情を込めるように話す。
ナカムラ「どうか無理だけはしないでください。
   ・・・それだけです。帰りを待っています。行ってらっしゃい」
 "私"はいたずらがバレた子供のように目を泳がせる。急いで外に出ようとするがドアノブを掴もうとする手が空を切ってしまう。急いでもう一度掴み外に出る。
私「い、行ってきます!」
 "私"の上づった声に少し頬が緩んだナカムラだったが、それでも表情からは不安感が拭いきれていない。

◯中村教授宅、玄関前
 雲一つない青々とした空。日差しがギラギラと地面を照らしている。"私"は日陰に隠れている。
 勢いで家を抜け出してきてしまった"私"だったが、外に出て改めて見たことのない景色に驚いてしまう。
 "私"の家から街へと下る坂はキレイに舗装され、ほぼ人が通らないせいでとても広く見える。道路横に生えている木々は人工的に作られたもので、170年前には存在しなかった。
 "私"はポケットからハンカチを取り出し、額を拭う。
私「あっつ・・・」
 片手に持ったナカムラがくれた最新の情報機器に目をやり、興味を抑えきれず付けてみる。
 メガネは付けたと同時に自動で起動し、目の前に認証のコメントが現れる。その後すぐにメガネのフレームが視界から消え、いくつかのアイコンが表示される。
 いくつかあるアイコンの内、ナビというアイコンが目に入り恐る恐る虚空へと手を伸ばす。
 何かに触れた感触と共にポンという軽快なSEが聞こえ、ナビゲーション機能が起動する。そして学校までの行き先が立体的に表示され、目の前にルートを示す矢印が現れる。
私「ナカムラが設定してくれたんだっけ・・・。
   それにしてもこれすっごく目が疲れるなぁ・・・」
 ふらふらとした足取りでいつも通学に使っていた自転車が置いてある庭横のスペースへ向かう。
 170年も経ったのに、"私"はいつの間にか自転車がそこにいて当然のように受け入れ、またがり走り出す。
 坂道を下っている最中、ネックレスの使い方を模索していたが結局起動方法すら分からなかった。
私「ナカムラに聞けばよかった・・・」
 そう言いながらナビに従い目的地へと向かう。

◯校内、朝
 ずっと住んでいた街だったが、見た目、立地ほぼ全て変わっており、"私"はナビ有りで予定より5分遅れて到着した。
 170年前から存在していた学校だったが、改修工事により真っ白で清潔感のある外観の学校に生まれ変わっている。
 "私"は駐輪場に自転車を停め、ナビに従い職員室へと向かい、教師のアンドロイドから数分間説明を受けすぐに授業に参加することになる。
 "私"は1-Aと書かれた教室へと案内され、授業中の教室の中へ入り、軽く挨拶をしてそのまま授業に参加する。

 授業が終わり10分の休憩時間になると"私"のもとにこの教室にいるほぼ全員が集まってくる。
アンドロイドA「ねぇ、人間って噂ほんと?」
アンドロイドB「どこから来たの?」
アンドロイドC「わたし、人間と話したことなんだよね~。
   どこが違うんだろ~」
アンドロイドD「ばっかお前、そういうのは習っただろ。俺たちと何も変わらねぇよ。
   だから騒ぎ立てるほどのことじゃ・・・」
 一人の女の子がアンドロイド達の喧騒の中、一際大きな声でその場を静める。
K119「はいはい次の授業、調理室でしょ~。準備に時間かかるんだから!
   ほら散った散った!」
 K119は手で払う動作をして、"私"のもとからアンドロイド達を離れさせる。
私「あ、ありがとう・・・」
K119「いいのいいの。転校初日から驚かせちゃったね。
   わたし、ナンバーK119。みんなからは京ちゃんって呼ばれてる。よろしくね」
私「う、うん。よろしく」
 K119は笑いながら言う。
K119「調理室の場所分かんないでしょ?教えてあげるよ。ついてきて!」
私「えっ・・・」
 K119は息をつく暇を与えず"私"の手を取り歩き出す。
 "私"は手を取られながら教室を見回す。"私"に興味なさそうに読書しているアンドロイド、数人で集まって"私"を見てコソコソと話しているアンドロイド達、いろいろな個性があるアンドロイド達に、先程の出来事よりも驚いている。
K119「最初の授業があんなつまらない授業でごめんね~。わたし達の中でも一番人気ない授業でさ~」
 K119は沈黙を作らないようにずっと喋っている。
 階段を上り、奥から2番目の教室が調理室と書いてあった。
K119「次はここで調理実習だよ。今度は面白い授業だから楽しみにしててね!
   同じ班になったら良いね!じゃ!」
 と言ってK119は自分の席に戻る。
 一方的な会話に"私"はしばらくほうけていた。しかし、意外な展開に嬉しさがふつふつと湧き上がってきて顔が明るくなっている。
 授業はK119とは違う班だったが、無理矢理K119が"私"と同じ班に入ってきてにぎやかに終わった。"私"もいつの間にか自然と笑顔になっている。
 その日は"私"はクラスのみんなと打ち解けて終わった。ほぼK119が親身に接してくれ、他の友達との仲立ちをしてくれたおかげだったが。

◯帰り道、夕方
 一緒に帰っていた友達は手を振り、曲がり角を曲がっていく。
 元々4人で帰っていたのに、いつの間にかK119と"私"だけになってしまっていた。
K119「君の家ってどこなの?」
私「あの坂道を上ったところだよ」
K119「そうなんだ!わたしの家、坂道の前にあるんだよ!近いみたいだし、いつか遊びに行ってもいい?」
私「う、うん!いいよ!」
K119「ありがと~。じゃあ私、家すぐそこだから、ここでお別れだね。
   また明日ね!バイバイ!」
私「うん!・・・バイバイ」
 "私"は恥ずかしそうに手を振り、K119の背中を眺めている。
 自転車を押しながら今日の出来事を振り返る。
私「まだ少しテンションについていけないけど・・・良い子だなぁ・・・。
   良かった・・・」
 "私"は満足そうな表情をしながら帰宅した。

◯中村教授宅、夜
 帰ってすぐナカムラに今日の出来事を報告した。
 ナカムラは安堵したようで、落ち着いてナカムラ自身も楽しそうに"私"の話を聞いてくれた。

 今日の夕御飯は初日を無事に乗り切ったということで、少し豪勢に昨日の残りを使ったカレーのリゾットになった。
 その後、お風呂に入りまた今日を振り返り、明日が楽しみになっていた。
 今日は何もかもが上手くいき、すごく"私"にとって満足のいく一日だった。
私「全部京ちゃんのおかげだなぁ・・・」
 自室の壁にもたれながら"私"はにやけてしまっている。

◯通学途中、朝
 それから数日が経ち、"私"とK119は待ち合わせをして一緒に登下校をする仲になっていた。
K119「ねぇ、今日の放課後って予定ある?」
私「ううん。ないけど、どうしたの?」
 K119は小声で、しかし"私"にギリギリ聞こえるくらいの声で「よっし」と歓喜の声を上げた。
私「・・・?」
K119「あ、あのさ、今日わたしの家で遊んでいかない?」
私「え!?いいの?行く!行くよっ!」
 学校にもう着いてしまったため、K119は急いで放課後のことを伝えようとする。
K119「やった!じゃあ何して遊ぶか考えておくよ!君も何かやりたいことあったら教えてね!」
私「うん、分かった!」
 教室に着き、話が長引いてしまって遅刻ギリギリと分かったK119はそそくさと自分の席へ戻った。
 "私"はずっと放課後のことを考えていて、今日の授業はほとんど頭に残っていない。

◯放課後、K119宅、夕方
 「少し待ってて」とK119が言うので"私"は玄関で少しの間待機していた。
 しばらくするとK119が急いで戻ってきたから、掃除していたんだなと"私"は少し微笑んだ。

 京ちゃんの部屋に上がると真っ白な壁に白い大きな機械が置いてあり、"私"は研究室を思い出し、少し後ずさりした。しかし、機械以外は女の子らしい明るいインテリアや雑誌があったため、アンドロイドというだけの違いだと思い部屋に入った。
 その後、ネックレスの使い方を教えてもらい、一緒にゲームをしたり、友達との思い出話で盛り上がった。
 あって当然のように思っていた雑誌はレトロ好きな友達から貰った貴重なものらしかった。
 時刻は17時を過ぎていた。"私"はK119の話を遮るように言う。
私「ごめん、もう帰らなくちゃ。また明日遊ぼう?」
 と言うとK119はひどく驚き、目を潤ませた。
K119「やだ・・・。もう少し・・・一緒にいよう?ね?もう少しだけ・・・」
私「でも時間だから・・・。明日も全然時間あるからさ、また明日ね?」
K119「・・・明日じゃダメなの」
 そう言うとK119はおもむろに立ち上がり、"私"に近づいてくる。
私「き、京ちゃん・・・どうしたの・・・きゃ」
 K119は"私"をつかみ、優しくベッドに押し倒した。
 そして"私"の上に乗るように近づいてくる。
 K119の唇が迫り、"私"は目を閉じて応じた。
 K119と"私"の唇が触れる。K119の唇はアンドロイドらしからぬ柔らかさで、"私"の唇と合わさり、ぷにと潰れた。
 "私"は初めてのキスにキツく目を閉じ、頬を紅潮させている。
 数秒合わせていた唇を離し、K119は興奮したように言う。
K119「拒否・・・しないんだ」
 "私"が何か言おうとするのを遮るようにまた唇をあわせてくる。
 2人の呼吸は赤みを帯び、どちらも正面の女に夢中になっている。
 先程の唇を合わせるだけの行為とは違い、K119は舌を唇の割れ目へと挿し込んで、深く繋がろうとする。
私「んんっ・・・!」
 K119の舌が"私"の前歯を舐める。
 そのまま舌を更に奥へ挿し込み、"私"の舌先を弄ぶように舐め始めた。
私「ふぅぁ・・・んんっ・・・」
 いつの間にかK119の両手が"私"の両手に覆い被さり、"私"はK119の両手を強く握っていた。
 K119が唇を離すと、"私"とK119の間に淫らな唾液が現れ、"私"とK119の繋がった証拠になった。
 "私"は胸がひどく高鳴っていること、淫らな行為をしたことに気付き、さらに紅潮した。
K119「気持ちいい・・・?」
 K119の意地悪な問いに"私"は顔を反らすしかできない。
K119「ふふっ。かわいい・・・」
 K119が"私"の胸に触れる。"私"は手を引き離そうとするが、K119の手に"私"の手を重ねることしかできない。
 K119の手がそのまま腹部の方へスルリと下がっていく。上着の下へ潜り、下着を探りさらに潜り、赤く熱を持った柔肌へと静かに触れる。
私「だ、だめ・・・んぅ・・・!」
 "私"が喋ろうとしたところをK119が唇で遮る。また舌を挿し込まれ、"私"は目をつむり無意識の内に刺激を最大限味わおうとしてしまう。
 "私"の腹部を這いながらK119の手は"私"の背後に回り、ブラのホックを器用に外してみせる。
 その後、胸に手が這ってきて、ブラの内側から"私"の胸のたわみを楽しむようにふわふわと触れてきた。
私「・・・はぁ・・・んぷぁ・・・。んんっ・・・」
 艶かしく粘液が行き来するキスに、恥ずかしい部分を弄ばれている感覚に、自分でも分かる程"私"の秘部は濡れてしまっていた。
 ふとももをいやらしい液が伝っているのが分かった。
 K119の手が"私"の乳首を手で転がして弄んでいる。
私「あっ・・・ふぁ・・・あぁっ・・・」
 "私"が快楽に呑まれかけていると、K119の手が"私"の肌から抜き取られた。
 不思議そうに眺める"私"に対して、K119は慣れた手つきで指先を舐め唾液を付けた。その指先を再度"私"の腹部に這わせた。
 指先が這った道は唾液で照らされ、先程とは全く違ういかがわしさが増している。
 しかし、それ以上に違ったのは、指の行き先が"私"の下半身だったことだ。
 下着を探り、いやらしく湿った指先が秘部に近づいてきた瞬間、
私「だ、だめっ!」
 "私"は両手でK119を押し返していた。
 K119はひどく困惑し、ここで拒否する理由が分からないといった風だった。
 "私"も恥ずかしいから拒否したのか、まだ早いと思ったのか自分でも分かっていない様子でいる。
私「・・・ご、ごめん。本当に帰らなくちゃいけないから・・・また!」
 いたたまれなくなり、"私"は逃げるようにK119の家を出た。

◯中村教授宅、夜
 家までどうやって帰ってきたか覚えていない。
 帰ってきてからナカムラに心配されたが、本当のことを言うわけにはいかなかった。
 自室に戻った時、下着にひどい違和感を感じ、下着を見てみるといやらしく汚いシミが大きく広がっており、まだ秘部からは糸が引いていた。
 この光景に虚無感を覚え、すぐにシャワーに入ってすぐに寝た。夕食は食べなかった。

◯学校、早朝
 K119と顔を合わせ辛いと感じ、せめて2人きりは避けようと待ち合わせの時間よりずっと早くに家を出た。
 学校に着いてみるとまだ誰もいなく、窓際で無駄に晴れた空を見ていた。
 と、教室のドアが開かれた。
アンドロイド男「おっ、お前か今日は早いな。
   何かあったのか?あれ?そういや京のヤツは?」
 "私"は目を反らし反応に困っていると、
アンドロイド男「はは~ん、そういや昨日アイツの家に行くとか言ってたな。もしかして抱かれたな?」
私「!」
 予想外の的を射た言葉に息が詰まった。
アンドロイド男「アイツ相当手出すの早いからな~。それで機嫌損ねて今日は1人で来たってか!ハハハ」
 "私"は事を理解できていなく、ずっと困惑している様子でいる。そこに追い打ちをかけるようにアンドロイド男が告げる。
アンドロイド男「俺も昔迫られてすっげぇ困ったよ。
   アイツの場合、ちゃんと断らないとしつこいからなぁ。ま、それでもそこ以外は良い奴だから仲良くしてやってくれよ?」
 とアンドロイド男は話が終わったかのように席に戻ろうとしたが、"私"はどうしても気になるワードがあって、そこを聞かなければ気が済まなかった。
私「俺もって・・・どういうこと・・・」
アンドロイド男「?・・・あぁ!知らないんだったな。
   アイツ、多分もうこのクラス全員に同じように迫ってると思うよ。でも変に捉えないでくれよ?アイツは愛をテーマに作られたアンドロイドだからな。
   仕方ないんだよ。そういう個性なのさ」
 "私"には途中から話が頭に入ってこなかった。ただ、クラス全員に同じことをしたという部分だけが頭に残っていた。
アンドロイド男「お、おい!急にどうしたんだよ!」
 "私"はいつの間にか教室を出て走り出していた。

◯中村教授宅、研究室、朝
 気付いた時には自宅の研究室に来ていた。
 そこにはナカムラがとても悲しい、大切な人の葬儀に来たような表情で待っていた。
私「ダメだった・・・。もう一度眠りたい・・・」
 深く間を置き、ナカムラが答える。
ナカムラ「・・・分かりました。」
 "私"は再度コールドスリープ装置に入る。
私「次は・・・生きやすい世界になってるかな・・・?」
ナカムラ「勿論です」
 "私"の目から涙が出、頬を伝う。
 装置が閉じ、"私"の視界が白く染まる。

未来、私の居場所。

未来、私の居場所。

イチからしっかり考えた作品としては2作目です。 脚本を書くつもりで書いていたのですが、後半は筆が進まず普通の小説のようになってしまっています。 内容はSFのような世界観にしていますが、よくある恋愛作品といった風になっています。 良ければ読んでみてください。

  • 小説
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  • 全年齢対象
更新日
登録日
2018-06-18

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