マッシュルーム ハイウェイ

マッシュルーム ハイウェイ

茸短編SF系小説です。PDF縦書きでお読みください

 首都高速を新宿方面に車を走らせていたときである。その日は平日の午前中ということもあって、かなり車は混み合っていた。のろのろ運転を余儀なくされていたのである。いつも使っている人は当たり前のことであろうが、めったに車に乗らない者にとって、かなりの苦痛である。
 渋滞で車が止まってしまったときに、道路の壁際を何気なく見ると、真っ赤な茸が一列に並んでいる。あんなところに生える茸があるのだなと思っていると、どうやら、壁際にそってずーっと列を成しているようである。私の車は左側にハンドルがある、すなわち外車なので、左側車線にいたためによく見えた。右側を見ると、赤いものは見られないので、左側だけのようである。
 茸に気を取られていると、後ろから警笛をならされてしまった。前の車が動き出していたのだ。あわてて車をスタートさせたため、茸のことはすっかり忘れてしまった。
 そんなことがあって、一週間後、また高速道路を通ると、すべての壁際に赤い茸が一列に並んでいた。花が植えられているようだ。
 中央高速に入り、車が勢い良く流れ出しても、壁の左側に赤いものが見えた。しばらく走り、周りに車がいなかったこともあり、少し速度を抑えて壁際を見ると、やはり真っ赤な茸であった。首都高から中央道まで茸が侵入している。それにしても、ニュースにも流れていない。高速の管理の車が気付いてもよいであろうが。
 
 日曜日の朝、テレビでニュースを見ていると、初めて高速道路の赤い茸が映し出された。首都高速道路の全域と、中央高速道路の下り側に赤い茸が列をなして生えているということであった。茸の名前は科学博物館で調べている最中で、外国から来たものではないだろうかということであった。
 赤い茸が大写しになった、松茸のような茸らしい形をしている。ただ、傘の部分が二重になっている、幹は白い。確かに日本の茸の雰囲気がない。
 ニュースキャスターはコンクリートの成分がこの茸の繁殖を促したのではないかと言っていた。毒かどうかもわからないので、とって食べないようにということである。
 それ以降、私は高速道路を使うことがなかったので茸がどうなったかわからなかったが、最初の報道から一週間ほどたったときに、またニュースがながれた。
 全国の高速道路に真っ赤な茸が広がっていた。専門家のコメントが入り、コンクリートの中のほんの少しの水分と土の成分がその茸に適していたのであろうということであった。まだ確証は得られていないが排気ガスも何らかの役割を持っている可能性があるという。 
 この茸は毒ではなかった、むしろうまみ成分がたっぷり含まれていて、食用としては最もよいというコメントが入った。
 これは大変なニュースで、案の定、その夕方のテレビでは、高速道路の路肩に車を止めて茸狩りをしている人たちの映像が流された。危ないから車を止めないようにというテロップが入った。
 この茸には名前がなかった。外国にもこの茸の記録はなかったようである。ということで、専門家が名前を付けた。高速茸という名であったが、ニュースキャスターがよく口にしていた「ハイウエーマッシュルーム」のほうが定着しそうであった。
 この高速茸の研究結果は半年後に科学博物館の研究員が発表した。ほかの茸と全く違う増え方をすることから、新しいタイプの菌類の可能性があるかもしれないという。菌糸というものをつくらない。それではどのように増えるかというと、二重になっている傘の上の方が、風などに乗ってくるくると舞い上がり、道の脇に落ちると、傘から柄が生えてきてコンクリートに定着するというものであった。胞子を作らないのである。分裂繁殖とも言っていた。
 実際に高速道路以外のコンクリート製の県道には生えていない。アスファルト道路には全く生えない。どこぞの子どもが高速道路から落ちてきた高速茸の傘が一般道路のコンクリートの上で幹を生やしたが、すぐにしおれてしまったのをみているということだ。高速道路でなければならない理由は全くわからない。一般道に落ちてきた高速茸を家に持って帰って、お母さんに料理をしてもらって食べある子どもは、とてもおいしかったと感想を言った。これを聞いた料理の研究家はこぞって高速茸をおいしく食べる方法を工夫し、宣伝をした。
 八百屋のおっさんたちは高速道路の路肩に車を止めて茸をとり、それを売って儲けようとしたが、高速道路の管理会社からクレームがつき、警察からも警告され、中止した。しかし、高速道路の管理会社が清掃の名目で茸を刈り取り、市場に下ろすことになった。それで、国民の口にもこの茸がはいることになった。
 乳離れした赤ん坊も、この茸をすりつぶしたものが大好物であった。日本の国民みんながこの茸を食べた。いくら食べてもすぐ生えてきた。
 そして一年が過ぎたときである。大変なことが起きた。この茸を食べた人々は、この茸を見るのも気持ちが悪くなった。
 それがどのようなことをもたらしたか、車を運転する者が、高速道路を使わなくなったのである。高速道路を管理する人々でさえ高速道路には入りたくないと思うようになった。高速道路を通る車の数が激減した。
 真っ赤な茸たちは遠慮なく、路肩から車線にまで押し寄せてきた。こうなると、人々は全く高速道路を使わなくなった。ドローンのハイビジョンカメラが、高速道路にびっしり生えている赤い茸の絨毯をとらえた。偵察衛星は日本の中にたくさんの赤い筋を映し出した。
 茸がいやになった人々は映像で茸を見るは平気だったが、本物を見るとからだに蕁麻疹まででるようになった。脳が拒否するのである。精神科医がハイウエイマッシュルームシンドロームという名前をつけ治療にあたったが、茸を食べるのをやめると、一月ほどしてその症状はなくなった。
 菌類研究所のスタッフはロボットに茸を取りに行かせ、退治する方法を研究した。さすがに科学者である。その茸の天敵を探し出した。茸虫の一種がその茸をあっと言う間に食べてしまうのである。研究所ではその虫を増やし、まずは首都高速道路に放した。
 青い茸虫は、すごい勢いで赤い茸を喰い荒らした。しかし、うまくいったと思ったのは束の間であった。
 青い茸虫は高速道路から逃げ出してきた。やはり赤い茸が嫌いになったのである。それからがたいへんで、青い茸虫は食べるものがなくなったので、畑に入り込み、野菜果物を手当たり次第に食い散らしたのである。
 菌類研究所は青い茸虫を退治する薬品の開発を迫られ。一年たったときに、それでも有効な薬が開発されたのである。
 その間に、高速道路の赤い茸はびっしり生えた。ここで面白い現象が生じた。鼠が高速道路に入り込み赤い茸を齧りだしたのである。鼠は赤い茸を食べても茸を嫌いになることなく食べていた。
 そうしたら今度は飼い猫たちが高速道路に集まり、茸の脇で眠るようになった。猫は茸をねらってきた鼠を捕まえて食べたが、決して茸を食べようとしなかった。鼠たちは赤い茸の匂いに誘われ、高速道路に上っていき、赤い茸を食べようとした。それを猫たちはねらい打ちした。赤い茸は猫に守られ、猫は餌を与えられたのである。新しい動物と菌類の共同生活であった。
 高速道路が使えなくなった人間たちの生活は、高速電車の方に移行した。すでにリニアが新宿と大阪まで開通していたが、それを複々線にして、貨物専用にする予定ができた。さらに、全国にリニア路線の設置をすることになった。
 そこで高速道路の必要性は少なくなる。国土省はまず、地方の末端の高速道路の一部を壊しはじめた。もちろん茸も一緒にである。その結果どういうことが起きたかというと、高速に平行にはしっていた幹線道路のアスファルトの部分に赤い茸が生え始めた。赤い茸はアスファルトまで進入してきてしまった。
 高速以外の道も赤い茸に占領されはじめた。人々は茸に邪魔されて多くの道路を使うことができなくなった。少しまっとうな国土省の役人がこれは大変だときがついた。高速道路を壊すのを中止させたのである。そうしないと、他の道路に茸があふれ、車が通れなくなる。将来を見通したのである。高速道路には手を出すなということらしい。高速道路は猫と赤い茸の住居になってしまったのである。
 人々はその状態に適応した。車はよりゆっくり走るようになった。社会の動きがゆったりしてきた。日本人があくせくしなくなったのである。
 研究者たちは茸と猫のいる高速道路の研究を始めていた。監視カメラを設置し、茸の生態をつぶさに観察した。
 ある時、生物学者が赤い茸の間に動くものを認めた。大きさからすると、三センチほどの生き物である。拡大してみて驚いたのはその生物学者だけではなかった。それが報じられテレビを見ていたすべての日本人が驚いたのである。それは人の形をしていたのである。小人であった。そう、全く人間と同じ姿ではあるが、どちらかというと、北欧のトロール、またはフェアリーである。アイヌ伝説のコロボックルといってもいい。洋服を着ている。頭が大きくてよちよち歩いている。何人もいてお互いどうし話をしているようである。日本人は小人たちの映像に釘付けになった。
 なぜこんな者が居るのだ。総理大臣は独り言を言った。だが、悪さしないならほっとく方がよい、とも思っていた。
 生物学者はこの生き物たちに名前を付けた。クサビラ族、その名前は世界に知れ渡った。学者たちはどうかして、会話を成立させたいと考えた。まずはロボットに精密なマイクを設置し、茸の中を走らせた。小人たちに会話は録音できたが、とても人間には判読できなかった。言語学者、暗号解読者が動員されたがだめであった。ところが、生物学者の観察では、猫と会話をしているということが明らかになってきた。超音波発声じゃないかと考えられた。
 猫の生態学者が結集した。猫との会話を試みたのである。猫に人の言葉が通じるわけはなかった。彼らは好きなようにしか生きない。なぜ、猫はクサビラ族と仲がよいのであろうか。原因の一つが明らかになった。赤い茸にマタタビに似た成分が入っていることがわかった。猫にとってクサビラ族もマタタビの匂いがするのかもしれない。
 匂いによる会話をしているかもしれないと一人の猫の写真家がテレビ局で発言した。
 ともかく、クサビラ族とは連絡する方法がなく、政治家たちは弱っていた。
 会議の席で、北欧のトロールの専門家がもそっとこんなことを言った。
 「小人たちは酒が好きなんじゃないか」
 それを聞いた秋田の酒屋が、お酌ロボットを作った。日本酒を小さなコップにいれ、並べたお盆を茸の生えている広場に置いたのである。ちょっと茶運び人形に似ている。 
 その試みは大当たりであった。テレビにライブ映像が流れた。
 クサビラ族が集まってきて、その酒を飲んだ、それはそれは旨そうに飲んだのである。人間と同じように酔っぱらってふらふらしている。中の何人かがそのお盆の上に乗った、そして、上に上げろと指を上に向けた。酒運びロボットは小人を乗せたままお盆をおなかの中に納めると、頭上のプロペラを回して基地にもどった。
 研究者たちはあわてて政府に連絡して、ロボット基地に来てもらった。
 酒運びロボットの腹から出てきた赤い顔をしたクサビラ族が集まった人たちを見た。そして言った。
 「酒はうまかった。どうだ、のぞいていて、おもしろかったか」
 なんと、日本語を話したのである。
 「わしらは、あんたらの生活のじゃまはせんよ、だからほっといてくれ、じゃが、酒だけはたまにくれや」
 というとロボットを勝手に操作して、もどっていってしまった。
 びっくりしたのは研究者たちである。本当はどこから来たのかとか、いろいろ聞きたかったのだ。
 まあ、ともかく、不思議なことに、クサビラ族は人の言葉も話せるし、人間のことをよく理解している。高速道路を乗っ取ると、破滅的ではないが、人間が協力を余技なくしなければならない関係を築くことができると考えたわけである。赤い茸はクサビラ族の重要な道具である。食料ではなさそうだ。というのも、かじっているのを見たことがない。そういえば、クサビラ族はどこにすんでいるのであろう。いつも急に画面にでてくる。もしかすると、赤い茸の中にいるのではないだろうか。
でも、なぜ猫と仲良くなったのだろうか。
 生物学者は首を傾げた。そして、一つの結論を得た。鼠は赤い茸の敵なのだ。だから、猫の手を借りて退治しているのだ。
 ということは猫を怖がらない鼠を作ればいいのだな。
 単純な発想だがそれでも藁をもつかむ気持ちでそのような鼠の開発に着手した。一年かかったが、とてもすばしっこい鼠が生まれた。後ろ足の筋肉がふつうの鼠の倍ほどもあり、ジャンプ力、走力ともに猫より優れていた。
 その鼠は筋肉鼠と呼ばれ、高速道路に放された。予想道理、猫は筋肉鼠に追いつくことができず、筋肉鼠は高速道路で飛び跳ねて、茸に喰らいつこうとした。
 ところが、そこに予期せぬことが起きた。くさびら族の足の速さであった。たった三センチほどで、筋肉鼠と同じほど小さい人間である。しかし、走る早さは鼠どころではない。しかも驚いたことに、クサビラ族の口の中には牙があった。それで、筋肉鼠に噛み付いたのである。鼠はころっと死んでしまったのである。
 さらに驚いたことが続いた。クサビラ族は死んだ鼠の後ろ足をちぎると、赤い茸の元で、火をたき、みんなで取り囲んで焼いて食べたのである。そして、人間が供給している日本酒を飲んだ。ということは、鼠が怖くて猫と仲良くしているわけではないということである。
 ではなぜ猫と仲良くしているのだろうか。
 一人の生物学者が詳しく観察していて気付いたことがあった。
 ある日、監視カメラの映像を拡大して見ていると、一匹の猫が二つの茸の間にカメラの方を向いて座っていた。眼を開けて前を向いている。そこへ一人の年をとっていそうな、腰の曲がったクサビラ族がやってくると、猫の髭を一本一本なめ始めた。猫は気持ちよさそうに半分目を瞑っている。おそらく、喉をごろごろいわせているであろう。すべての髭をなめ終えると、そのクサビラ族の老人は、腰がしゃきっとし、顔つきも若返った。そのクサビラ族は茸に手をかざすと、幹にスリットができ、中にするりと入ってしまった。クサビラ族は赤い茸に住んでいることがそれで分かった。
 さらに、猫の髭に付いている何らかの物質が、クサビラ族を若返らせているようである。猫はというと、しばらくその場を動かず目を閉じていた。いかにも気持ちが良さそうであった。そこに共生の秘密があったのであろう。
 ということで、鼠を改良しても、高速道路は人の手にもどってこなかった。それどころか、このクサビラ族は毒人間である。人間が噛まれたらあっという間に死んでしまいそうだ。高速道路だけにすんでもらうのが、人間にとっても最も平和である。
 やはりコミュニケーションの重要性が浮上してきた。問題は、クサビラ族が日本語を理解し、話すこともできるが、連絡しようとしないところである。高速道路を自分の世界にできればそれでよいのであろうか。いずれ、他ところにも入り込んでくるのではないだろうか。というのが、政治家の心配ごとである。
 ともかく機嫌を損なわないように、日本酒だけは政府の費用で、すなわち税金で供給していた。
 そんなことで三年が過ぎた。いきなり、髭の生えた年寄りらしきクサビラ族が、東京都庁の知事室に現れた。どのように入ってきたか誰もわからないが、ともかく知事が執務をしていると、ノックの音が聞こえ、返事をすると、ドアのところから鼠のような生き物が顔を出したのである。はっとした知事は、老眼鏡をはずして、それがくさびら族であることを認識したのである。
 都知事はなんと言ってわからなかったが、クサビラ族のほうから、
 「急にきてすまんことだが、ちょっと願い事があってなあ」
 ときりだした。
 都知事はクサビラ族が日本語を解すことを知っていたのであまりあわてなかった。
 「なんでしょうか」
 都知事はその時、自分でも落ち着いていたと後で思い出したのである。
 「高速道路はとても住み心地がよいのでな、ゆずっていただけまいか」
 都知事はあんなもののどこがいいのかわからなかった。
 「どのような条件でしょうか」
 「いや、金などはないが、後はきれいにしていきますから」
 という返事であった。
 ここは都知事の思案のしどころである。その返事でなにが起きるか想像がつかないからである。ただ、否定すると、それは怖いことが起きそうであり、といって、そのままはいはいとは言えない。
 「あれは、国民の税金と料金で維持されてきたもの、この十年ちかく、茸のみなさまが来られてからは、使わない高速道路も税金で維持しておりました。国民の納得が得られればよろしいのですが」
 なかなかの名答であった。
 「それはそうじゃ、ともかく、それ相応のものを残しますで」
 都知事はそれ以上要求するのは危ないと判断した。それもとてもよい判断だったのである。
 「よろしゅうございます、ただ、私とあなた様の話の証拠を残さなければならないのですが」
 「それは簡単じゃ、新聞記者を集めればよいではないか、一緒に宣言しようじゃないか」共同記者会見である。
 「はい、それは一番いい方法だと思います」
 クサビラ族が日本の仕組みをよく知っているのにはおどろいた。
 ということで、共同記者会見が行われ、はじめて、クサビラ族の声が、電波に乗って、国民の耳に到達した。
 その辺にいる爺さんとちっとも違わないじゃないの、とは、一般のおばさんたちの感想であった。
 ともかく、高速道路はクサビラ族のものとなった。すると、クサビラ族から、のぞくのをやめてくれと、連絡が入った。高速道路は日本ではないと言った。
 ここで国民はやっと、クサビラ族に進入され侵略されたことに気が付くという日本人らしさを露呈したのである。
 しかし、まことに平和であり、どうも高速道路のあちこちに、猫の飼育場と、鼠の飼育場が作られたらしいということであった。さらに不思議なことに、どのようにしたのか誰もわからなかったが、高速道路の上に蒲鉾状のガラス、いやガラスのように透明なものでできたドームがかぶせられてしまった。
 そしてまたまた、一年たった秋もたけなわの満月の日に人々の度肝を抜くことが起きた。夜の八時ごろである。全国の高速道路が100メートルごとに分断され、脚が付いたまま宙に浮あがった。テレビ局は一斉に報道した。
 高速道路の近くに住んでいる人々は戸外に出て、浮いている高速道路を仰ぎ見て、あっけに取られた。
 高速道路は分断されてはいたが、そのままの形でゆっくりと空に向かって登っていく。月が照らし出し、空飛ぶ高速道路は黄色に輝いて見える。
 どんどん上に上がっていく。新聞社のヘリコプターがぶんぶん舞っている。ただ、何が起きるか分からないので、自衛隊は飛行機を飛ばすのを控えていた。
 たまたま上空を通りかかった旅客機の乗客は、雲の上からさらに上空に登っていく高速道路を見ることができた。
 それは宇宙空間にでると、一列になり、月に向かった。ちょうど宇宙ステーションにいた日本人宇宙飛行士は、そのみごとな隊列に見とれてしまったということである。映像は自動的に記録されており、後で公開されたが、そのハイウェイ宇宙船群団は光速に近いスピードで月に到達し、月の地表で高速道路をもとのように繋ぎ合わせたのである。超高倍の望遠鏡でのぞくと日本のような形のつながり方をした高速道路が見えたのである。

 さて、高速道路が飛んでいってしまうと、そこにできたのは川であった。きれいな水の流れる運河と言った方がよいかもしれない。あまりにもきれいな水で、誰からとなく飲んでみたら、それはおいしい水であった。さらに、彼らが置いていってくれた設計図を元に作り出した船は、その運河をかなりの早さで走ることができることがわかり、車ではなく、船の高速路として、新たに発展をしたのである。
 おかげで、日本橋の上にあった高速道路はなくなり、日本橋があらわれた。
 そのたもとに赤いものがあった。赤い茸が一つ、ぽつんと置き去りにされていた。
 これには政府も困った。この茸が道にはびこったら大変なことになる。
 しかも、その赤い茸から、一人のクサビラ族の老人が顔をだし、通る人に日本酒の無心をしたのである。
 その老人はなにもするわけでもなく、酒を欲しがっただけである。ときどき猫と遊んでいる。ニュースに流れたその老人の顔を見た都知事は、わざわざ日本酒を持ってたずねていった。もちろん、記者たちを引き連れてである。
 「久しぶりですね、ご老人」
 都知事が言うと、
 「ほんとじゃ、申し訳ないね、わしゃ、この星に残っちまった。迷惑はかけないから許してくれや」
 「どうぞ、いつまでも居てください」
 「ありがとうよ、仲間は月で新しい高速道路を造っている」
 「ところで、どうして、あなたは地球に残ったのです」
 「はは、日本酒じゃ、こりゃやはり地球のこの国じゃなければだめじゃ」
 「それは光栄です」
 「ところで、あなた方はどこからいらっしたのでしょうか」
 「宇宙空間に浮遊しておった。この茸は中に酸素をつくりだすのでな、中にいれば生きておれる。茸同士は宇宙空間で集まる性質があるし、ほれ、こうやって中にあるひもを引っ張ると、傘が動く、それで宇宙の中で移動することができるんじゃ」
 都知事はさすがに頭が良かった。
 「この茸を栽培することができるでしょうか」
 「それは簡単じゃ、儂が教えてやろう」
 「いかがでしょう、茸の栽培場を作ろうと考えていますが、その責任者として、赴任していただけませんでしょうか」
 「それは願ったりかなったりじゃ、乞食のように酒を無心しているのもむなしいものだからな」
 都知事は日野の南平に大きな茸の栽培所をつくった。クサビラ族の老人はそこに、木造の和風屋敷を与えられた。
 茸はある刺激をすると、傘を飛び出させて、その傘から胴体が生えてきた。
 茸を増やしてなにをしようとしたか、それは極秘であったが、やがて、茸の栽培が軌道になると、計画が発表された。
 海底にドームを作りそこで茸を栽培して、空気を供給する。海底で住めるようにする。それに宇宙空間に浮いている住居の空気の供給を目指したのである。 
 生物学者と物理学者はもっと基礎原理の重要性に着目していた。
 どうして、宇宙空間で酸素を作ることができるのか、という疑問である。
 一つは、宇宙空間に漂っている極小物質と恒星の光のエネルギーを利用しているか、それとも、宇宙の起源がこの茸の中にあるのか。茸を解体してみると、細胞に相当するものから、空気が作り出されている。しかし、酸素を作る酵素らしきものもみあたらず、細胞の核の中から直接現れてくる。それだけではなく、細胞の核の中は電子顕微鏡を使ってものぞくことができず、分解酵素をつかってもばらばらにならず、レーザーを当てても壊れなかった。細胞の核にはDNAが入っているのだが、この茸は暗黒物質か何かだろう。
 茸を構成している細胞は宇宙そのもののようであったため、宇宙茸と改めて名付けられ、謎のまま時間が過ぎた。
 日本での酸素づくりは大成功を納め、月にいけるようになった今、月の住人であるクサビラ族とも交流ができるようになった。クサビラ族は大宇宙をさまよっていた放浪の民であったのが、地球の高速道路を見つけ、さらに、月をみつけ、自分の星を捜し当てたことに至極満足し、日本を介して地球との交流を望んだのである。
 赤い茸は酸素を作るだけではなく、電気を作る力があることがわかり、原子力は廃れていった。緑の地球がよみがえったのである。
 夢のような話だ。
 

マッシュルーム ハイウェイ

マッシュルーム ハイウェイ

首都高速道路に赤い茸が生える。小人が住んでいるようだ。

  • 小説
  • 短編
  • ファンタジー
  • SF
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2018-06-15

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted