*星空文庫

ああ、かちわってやりてえ!

メーヴィス・クイーン 作

 ある老人が森のなかを散歩していると、木こりが斧を振り下ろすたびに大きな叫び声をあげた。

「ああ、かちわってやりてえ!」

 老人は思わずクスッと笑い、木こりのところへ近づいた。

「なぜ、斧を振り下ろすたんびに、『ああ、わってやりてえ!』と言っているのじゃ?」

 木こりは老人を睨みつけた。

「それを言うなら、わってやりてえじゃなく、きりたおしてやりてえと言うもんじゃろ……最近の若造は、言葉の使い方を知らんようじゃって……ホホホ……」

 木こりは終始無言のままタオルで汗をぬぐった。
 老人は腰に両手をあてがいながら、この場を去った。
 木こりは切り株にどっかりと腰をおろした。
 遠ざかる老人の小さな背中をみつめた。

「――なんだ、あのクソ(じじ)いは?」

 しばらくの間、木こりは眉間にしわを寄せた。
 腕組みをしながら黙りこくった。
 蟋蟀(こおろぎ)の鳴き声がした。
 とつぜん一枚の葉っぱがひらりと宙を舞った。

「わかったぜ! あのクソ爺いは聞き違いをしやがったんだ――いわば空耳ってやつさ」

 木こりは胸ポケットから煙草をとりだした。
 煙草に火をつけた。
 煙が目にしみた。
 切りくずが日焼けした毛深い両腕に絡みついたままだ。

「おれは間違っちゃいねぇ」木こりはにやりと笑った。「ああ、かちわってやりてえ!」

「今晩、うちの浮気女房と娘と坊ずの頭を、一人残らず、この斧でかち割ってやる」

 木こりは目の前に飛んできたヤブ蚊を手で払いのけた。
 



 

『ああ、かちわってやりてえ!』

『ああ、かちわってやりてえ!』 メーヴィス・クイーン 作

  • 小説
  • 掌編
  • ホラー
  • 全年齢対象
更新日
登録日 2018-06-14
Copyrighted

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