*星空文庫

茄子(なすび)尽くし

湯田 夏 作

新年が始まって早半月が過ぎた。
今年こそは幸多い一年でありますように、と初詣で願ったかいがあって、初夢はよかった。
なにしろ茄子をくわえた自分が富士山を登っているとふいに宙から現れた鷹が茄子を掴み捕り飛び去っていく、夢だった。

「早速ご利益があったんだけど」

相棒と開店前の仕込みを一緒にやっていたときだった。

「へぇ、そりゃよかった」

そう言いながらも相棒は手を休めない。

「で、どういうご利益だったの」

見事な包丁さばきで茄子をきざむ相棒が聞いてきた。

「それが、初詣の帰りに福引き回したら特等当たったんだ」

「そりゃすごい!ハワイ往復ペアチケット」

くいついてきた相棒がようやく手を止めて顔を上げた。正月気分が抜けないのか、頭になぜか茄子の形の被り物をしている。

「いや、当たったのは鷹一年分」

「へ?たか?・・・・・・ふつう茄子一年分なんかでしょ」

被り物の他に、さらに茄子を両手に持って振ってきた。

「茄子一年分が特等だなんて安いよ」

「だからって鷹一年分って、365羽貰うの?鷹匠だってそんなに飼わないよ」

大きなリュックを背負った相棒が振り返って言ってきた。
辺りを見回せば岩がゴロゴロ転がる斜面に立っていた。

「ここって富士山?」

相棒の背後に山頂らしきものが見えていた。
突然、地響きが聞こえてくると、

ドーン

轟音とともに黒い煙を噴き上げたのだった。

「ふふふふ、ふ、噴火だ!」

噴煙の先を見上げて確認しようとしたとき、上空に黒っぽい塊が見えた。ゆっくり回転しながら飛び上がり、一瞬止まったと思ったら、やがて勢いを失ったのか、落ちてきたようだ。
足が固まったように動けず見入っていると、音も静かに、しかし、徐々に大きく見えてきた。

「噴石かっ!」

ぶつかる、と身構えながらも近づいてくる黒い塊から目をそらさない。
やがて、いよいよ直撃だと、覚悟を決めるくらいに接近したときだった。はっきり黒っぽい塊が見えて、思わず叫んだ。

「茄子だ!!!」



静かに目が開いた。・・・・・・薄暗い天井が見える。
珍しく、きれいに掛かっている布団のなかで呟いた。

「夢か」

『茄子(なすび)尽くし』

『茄子(なすび)尽くし』 湯田 夏 作

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日 2018-06-14
Copyrighted

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