かけっこ(作・七福笹餅)
かけっこ
「よーいどん」
このかけ声で僕らの朝は始まる。風が襲いかかるが、そんなものはお構いなしに、かき分け切り裂き僕らは走る。前を走るのはみゆきちゃん。僕を置いてぐんぐん走る。桜並木のその下を軽やかに走る姿は、まるで桜の妖精さんのようだ。
「まってよ~」
僕の顔からは滝のように汗が噴き出る。僕が叫んでも振り返ろうともしないみゆきちゃん。いつものことだ。みゆきちゃんは走るのが好きなんだ。だから僕が後ろでへばろうと気にしない。ただ前だけを向いて、ゴールを目指し走っていく。
僕らの朝のかけっこは校門がゴールだ。家から徒歩五分の場所にある学校は、かけっこにちょうどいい。家が隣のみゆきちゃんとは、毎日競争をして学校に通っているのだが、いまだに一度も勝てたことがない。でもいつか絶対勝つんだ。
そんな思いを胸にやっとの思いで校門に着くと、得意げな笑みを浮かべたみゆきちゃんが立っていた。
「今回も私の勝ちね。ようたくん、今日もお疲れさま。」
ちょっと悔しいけどあんまり嫌な気分ではなかった。いつもかけっこが終わると、みゆきちゃんは必ずお疲れさまと言ってくれる。この言葉で、疲れも嫌な気持ちも全部吹き飛んでしまう。だから僕はこの時間が好きだ。
「ありがとう。みゆきちゃんはやっぱり速いね!」
キーンコーンカーンコーン
僕が返事をしたところでチャイムが鳴った。あと十五分で朝活動が始まるという合図だ。僕がこの時間に名残惜しさを感じて、ぼーっとしていると、
「そろそろ行かなきゃね。次は教室まで競争よ!!」
そう言いながら、みゆきちゃんは元気よく駆け出した。みゆきちゃんの声でふと我にかえった僕は、みゆきちゃんはもうずっと遠くにいることに気が付いた。
「まってよ~」
今日二回目の僕の叫びが運動場にこだまする。
僕はみゆきちゃんの背中を追いかけながら、ふと空を見上げた。青空に二つの雲が浮かんでいるのが目に入った。雲は風に乗って太陽めがけて流れてく。まるで僕とみゆきちゃんがかけっこをしているかのように。
かけっこ(作・七福笹餅)