実話 女編集者のシゴト
恵比寿の某マンション409号室。由貴はメモに書かれた住所をもう一度確認し、腕時計を見た。サクラ色の宝石をデコレートしたブルガリの腕時計。先月、彼氏から29歳の誕生日プレゼントにもらったそれを見て、由貴は小さく微笑んだ。
緊張しながらインターホンを鳴らす。由貴は品の良い顔立ちにとびっきりのスマイルを添えて、インターホンのカメラレンズの前に立った。第一印象が大切。編集長から託った注意事項を実践して、由貴は応答を待った。
「はい」低音だが女性の声が、スピーカーからもれてきた「唯河出版の水野でございます。大月先生はご在宅でしょうか」
「3時にお約束の水野様ですね。少々お待ち下さい」丁寧だが感情のこもらない声がスピーカーからもれて、通話が切れた。
ドアが開き、中から声の持ち主が姿を現した。大学生くらいだろうか、十九か二十、声の印象よりかなり若い女だった。まさか奥さんではないだろう、由貴は目の前の女性が作家の大月とどういう関係にあるのか思いを巡らせたが、これという答えには辿り着けなかった。
「初めまして。麻田若菜と申します。先生にお世話になっている、昔風にいえば書生のようなものです」訊かずとも、女は由貴の疑問に親切に答えた。
「そうですか。それはそれは・・・」続く言葉を思いつけず、由貴は愛想笑いを浮かべた。
「こちらへどうぞ」若菜は細くて白い腕をのばして、由貴を大月の元へ導こうとした。なんと瑞々しく、美しい肌だろう。由貴は自分より十も年下と思われる若菜の身体を眺め透かし、ほのかな嫉妬を覚えた。自分が三十路前の女なのだと思い知らされる。さらにニット地のシャツ越しにパンと張った豊かな若菜の胸を見て、由貴は自分のさほど大きくはない胸に目を落とさなければならなかった。若さハチ切れる若菜の肉体にはない、少し成熟した魅力が自分にはあるのだと、由貴は自身に言い聞かせた。それに自分の身体を愛しめでてくれる彼氏もいるのだ。そのことが由貴のプライドを守っていた。
「水野様をお通しします」若菜は書斎の前で、断りをいれた。書斎の中からは返事がない。間欠的にキーボードを叩くカタカタという音がしているだけだ。
「お邪魔いたします」由貴は恐る恐る書斎の中へ入った。カーテンの閉まった暗い部屋の奥に机があり、大月らしき人物のシルエットが動いている。由貴は眼鏡のフレームを指で押さえながら近眼の目を細めた。パソコンのディスプレイが発している青い光。徐々に目が慣れてきて、由貴はドキリと胸を鳴らした。椅子に座り、キーボードを叩いているのは全裸の男だった。由貴は目を覆えばいいのか、部屋から退けばいいのか分からないまま、頼るように若菜の方を見た。
「先生は、普段から裸で仕事をなさいます」若菜は表情を変えない。ここで動揺してはいけない。自分はこの作家から文芸誌連載の契約を取る為に遣わされたのだ。それに作家たるもの、常人とは異なった生活スタイルをしているのが常。由貴は深呼吸して、決意を固めるように拳を握り締めた。
「大月先生、唯河出版の水野でございます」由貴は正規のお辞儀をした。頭を上げても返事がないので、由貴は大月のそばに歩み寄った。全裸の大月は何やら憑かれたようにキーボードを叩き続け、時々、動作を停め、頭を掻きむしった。
「若菜、台所からビールを持ってきてくれ」初めて大月が喋った。若菜は「はい」と返事をし、書斎を出て行く。今がチャンスと思い、由貴は大月に呼びかけた。
「大月先生、唯河出版の水野です。3時のお約束でしたので参りました」
大月はキーボードから手を放し
「同じことを二度言わなくても分かっているよ」と平静な声で言った。決して頭にきてはいけない。由貴は作家の気ままさを鷹揚に受け入れる覚悟をして言葉を接いだ。
「本日は連載の件で打ち合わせをしたく、参った次第でして」
「はて、連載・・・まだ契約した覚えもないが・・・」
「えぇ、編集長からは契約のサインを頂けるというふうに託ってまいりましたので」由貴は大月の注意を自分に向けようと意識的に声を高くした。
「そうだったかな」大月は椅子から立ち上がり、むき出しの下半身を由貴の前にさらした。由貴は敢て大月の陰部に目をやり、毅然とした態度を崩さなかった。そこに若菜がビールをお盆にのせてやってきた。
「若菜、お客さんだ、電気をつけてくれ」
若菜は大月に言われたとおり、電気のスイッチをオンにした。由貴は明るくなった部屋に浮かび上がった大月の全身を見た。想像していたより若い。まだ三十といった程度で、由貴とさほど変わらない年に見えた。大月はプロフィールが謎の作家だが、その作風から老大家のイメージがある。若くても作家は作家だ。由貴は態度を緩めることなく
「それでは契約に際しての重要事項ですが」と切り出した。
大月は若菜からビールの入ったグラスを受け取り、それに口をつけた。ゴクリと喉が鳴る。それから応接セットのソファに腰掛け、
「若菜、隣に来なさい」と言った。若菜は素直に大月の隣についた。全裸の作家と若い女のツーショットを目の当たりにし、由貴は不思議な気分だった。かなり不自然な光景だ。
「ところで、君はなんでこの仕事をしているんですか」契約の話を逸らすように大月が口を開いた。相対する大月の股間にはズルムケのペニスがぶら下がっている。由貴はそれを何でもないように装い、
「私は小説をはじめとする文芸作品を愛しております故、編集者を生業としております」と答えた。
大月は乾いた笑い声をあげた。
「そんなたいそうなものか、小説などが」
由貴はむっとするのをこらえ、微笑みをつくった。
大月は由貴の目をじっと見つめて、それから隣に座っている若菜の肩を引き寄せた。
「人間にとってセックスをすることが最上の悦びならば、小説を読むなんぞは最低クラスの行為じゃないか」大月は若菜の長く艶やかな黒髪を撫でた。若菜は薄ピンク色の唇にうっすらと笑みをたたえて、大月に身を寄せている。
「でしたら、何故、先生はその最低クラスだとおっしゃる小説を書いておられるのですか」由貴は論理の齟齬を突くように問うた。
「書くのを止められないからだよ・・・」大月は憂いを帯びた声を出し、眉を伏せた。
「今から、小説より面白いものを見せようか」大月は由貴に挑むような眼差しを送り、若菜の唇に自分の唇を重ねた。突然、目の前の男女がお互いの唇を吸い始めたのに、由貴はたじろいだ。一体、大月は何を考えているのだろうか。この作家の意図するもの、提示するものを最後まで見届けなければならない。それが編集者の義務であると、由貴は覚悟を決めた。若菜のふっくらとした唇が白い糸を引き、大月の舌を絡めとる。ジュバジュバと舌を吸い込む音がいやらしく響く。由貴は大月のペニスが膨張していくのを見た。そして、自分のマンコがじわりと濡れるのを感じた。
「身体は正直なものだよ、きみは私達のキスを見て濡れた」大月が由貴の淫気を見つけ出したように指摘した。
「いえ、濡れていません」由貴は濡れた事実を隠した。
「いいだろう。もう少しみていなさい、きみのメスの部分を炙り出していくのも一興だ」そう言って大月は含み笑いをした。大月は濃厚なキスですっかり潤んだ若菜にささやきかける様に「フェラチオを見せてあげなさい」と言った。由貴はフェラチオという言葉に反応し、顔を熱くした。若菜は大月の怒張したペニスをサオの先端から丹念に舐め、いつくしむようにゆっくりと根元に向かった。こんな清楚なお嬢風の子がこんなにもいやらしい肉棒をさも美味なもののように頬張り、ジュバジュバと音を立てながら吸っている様子に、由貴はただ唖然としていた。大月は若菜の髪をゆっくりと撫で回し、快感を貪るように目を閉じている。
「由貴くん、君は心のこもったフェラチオというものが男にどれだけの精神的充実と歓喜をもたらすか知っているかい」
由貴は彼氏にさえフェラチオをしたことがなかった。裕福な名家に生まれ、東大の大学院まで出た自分が彼氏とはいえ男に跪き、その最も野蛮で不浄な肉棒を口にくわえサーヴィスするなど、自身のプライドが許さなかったのだ。由貴は大月の問いには答えず、黙って眼前の行為を見守った。その間も、若菜は手をつかわず、口だけで大月の猛々しく反りたったペニスを舐めては吸い、舌で圧を与えていた。
「君は下らないプライドから自由にならない限り、本当の愛を得ることはできない。きみのような表面だけ着飾った女の性根は下卑たもんだ。利己的な自己愛に浸かっている」大月の見下すような言葉に由貴は屈辱を感じた。だが、何も言い返せない。ただ唇をかみしめるだけだ。
「そのような性愛論は・・・」由貴は反論しようとして、すっかりびしょ濡れになったパンツを恥じた。それでもそれは間違いなく由貴のマンコが分泌した粘液だった。
「由貴くん・・・、いや由貴、きみは一体なにがしたいんだ・・・」大月は若菜の顔を股間から放し、真意を問うように由貴の目の奥をじっと見つめた。由貴はすっかり大月の醸し出す魔力にも似た啓蒙に惑わされていた。
「あなたも、先生のおちんちんをしゃぶりたくてしょうがないんじゃないの」フェラチオという営為を終えた若菜が由貴に向かって言った。ぽってりとした若菜の唇は大月のガマン汁でてかてか光っている。若菜はその唇をぺろりと舐めた。
「若菜は十九という若輩だが、深い愛の持ち主だ。きみと違って利他的な愛を持っている。だから、幸福感を得ることができる」
大月はソファから立ち上がり、由貴の前へ移動した。そして、
「さぁ、由貴、きみのしたいことをするがいい・・・」そう言って、若菜のフェラチオによって完全体に育てられたペニスを由貴の顔前に突き出した。由貴は催眠術をかけられているように恍惚の表情を浮かべ、大月のペニスを握ろうとした。すると、
「手を使うんじゃない」大月は由貴の頬を固いペニスで叩いた。
「すいません」由貴は腕を後ろに回して、ペニスを口に含んだ。由貴の口に満ちた大月の肉棒は熱く煮えたぎっている。由貴が唇をスライドさせる度に、肉棒はビクビクっと震え、より固く、より大きさを増していった。大月は由貴の眼鏡をはずし、由貴の頭を両手で抱えた。
「フェラチオを自分の悦びに変換できたならば、それは一歩、深い愛へ近づいたということだ」
由貴は肉棒を頬張ったまま、大月の言葉にうなずいた。
「精飲までほどこすのですか」若菜は大月の肩に小さな頭をのせて、夢中になってフェラチオをする由貴を冷たい目で眺めた。大月は諭すように若菜の頭を撫で、それから射精への段階を高めるために集中した。
由貴は唇のスライドを加速し、大月の睾丸を手のひらにのせて優しくバウンドさせた。
「由貴、出すぞ!」大月は由貴の頭を両手でしっかりと抱えこみ、全身全霊の射精をした。
大月のペニスはものすごい勢いで大量の精子を送り出し、激しく震えた。由貴はペニスを口内に閉じ込め、放出された精子を一滴もらさず受け止めた。長い射精が収束し、大月はゆっくりと由貴の口からペニスを引き抜いた。
「仕上げのおそうじだ。物事には終わりの儀式というものがある。さぁ、きれいに吸い取りなさい」
大月の教育的口調に促され、由貴はぬらぬらと光った肉棒を舐めて、吸った。そして、
「精飲」
大月は由貴のマネキンのように整った顔に指を這わせて、呟いた。すると、由貴は口いっぱいに含みこんだ精子を口の中でクチュクチュと撹拌してから、ゴックン、一息に飲み干した。
「合格」と静かに言い渡し、大月はいまだ猛威を振るう己が肉棒を若菜に白い布で拭かせた。
「良かったわね」
大月の肉棒をいとおしげに見つめる由貴を見下ろし、若菜は言った。
「君の心に刺さった棘が茨のほころびを抜けて、落ちたようだ。そんないい表情をしているよ」
大月は呼吸を整えながら、初めて優しい表情をした。そして、
「契約を受けよう。君の成長に敬意を表する意味でも、原稿を書こう」と意気揚々たる声をあげた。
「ありがとうございます」
由貴は床に三つ指をつき、深々と礼をした。
「だけど……」と由貴は堪らない、といった視線を大月に投げた。
「なんだね?」
大月は既に若菜のマンコに己が肉棒を突きたて、大きく、だがゆっくりと腰をグラインドさせている。
「わたくしのマンコにも、挿れて下さらないの?」
「まだ、早い」
大月は懇願する由貴を突き放し、謹撰された若菜の貴いマンコに、ただ誠実に屹立した己が肉棒を擦りつけては、営み続けるのだった。
(了)
実話 女編集者のシゴト