猫になったら

泣かなかったら 恨んでやるけど

猫になったら あなたの頬をひっかいてやる
鋭い月のような爪で 白い皮膚に傷をつけて
傷つけられたのにしかたないなと笑う あなたを見て笑ってやる

猫になったら あなたの指を噛んでやる
わたしを撫でようなんて甘い指を 骨まで噛んで
それでもごめんねと言う あなたに鳴いてやる

猫になったら 猫になったら
あなたが愛する猫になったら

気まぐれに脛を撫でて 頬にキスをして 指を舐めて
湿った鼻を押しつけて あなたの腕の中

朝が来ても 邪魔してやる
あなたが一日中 わたしを思ってうろうろする姿を見て 高い塔の上から
尻尾を揺らして

ドアを開けようとする あなたの靴を噛んで
ズボンの裾を爪でひっかけて わたしたちの城を出ていかないように

雨の日は怖いよ 水は恐ろしいよ
あなたが 帰ってこないって思ってること 知ってるよ

だから猫になって あなたの頬をひっかいてやる
指を噛んで 脛を撫でて 一緒のベッドで眠って 

チュールもカリカリも好きだから さっさと帰ってきて
帰ってきても あなたがわたしを呼ぶまでは 返事をあげないけど

帰ってきたのは知ってるけれど わたしの名前を呼ぶまでは
返事をあげないけど

呼んでくれたら 尻尾で返事をしてあげる 震えていた肩のかわりに
あなたのご機嫌をうかがっていた わたしの声のかわりに

わたしはあなたよりも先に死ぬから 泣いてよね 雨の日のわたしみたいに
べつに泣かなくてもいいけど 泣かなかったら恨んでやるけど

猫になったら 猫になったら
あなたが愛する猫になったら

可愛がってもらったら あなたを置いていなくなってやる
猫だから あなたが愛した猫だから

猫になったら

猫になったら

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2018-06-11

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted