ピーターの報告書 辻明美のケース

幼女に変えられた科学者は助け出されますが、妊娠しており、おむつも必要な状態でした。

 わたしが尋ねてくることを知っていたドミニクは乾いた笑いを向けて門を開いた。同情してくれているのだろう。
 シャトルの屋敷へ来たのは何度目か……もう数えていない。もしかすると百を超えたかも知れない、それくらい足しげく通わされている。用がなければ会話を交わさないわたしのようなエージェントと門番が互いの名前を覚えてしまうほどに、度々顔を合わせている。
 律儀なもので、わたしが尋ねると必ずシャトルは応対した。
「よく来たなピーター、わたしなら会いに来るよう命じた国など見限って高飛びするぞ」
 考えたことはある。が、リスクが大きすぎて計画を立てすらしなかった。仮に出来たとしても、九千部ハルを連れ出せる可能性はゼロだろう。
「逃げたわたしを保護してくれる保証はない。何より、お前に関わったせいでわたしは機密情報の塊だ。少しでも信頼を裏切れば一分と命は持たん」
「違いない」
 シャトルが本社の欲する情報を渡す気が無いことは分かっている、ヤツにとってあれは生命線だ。下手に扱えばヤツとて殺されかねない、本人しか知り得ない状況が危険と同時に命の保証と利益を生み出していた。
 それを承知しているシャトルは強かで謙虚だ。学者としての地位も、大富豪としての財も持っていたのに、我々に情報を売り不自由な身になることを選んだ。一般人と比べれば雲の上のような生活こそしているが、監視されながらの生活は愉快ではないだろう。わたしには、ヤツの考えは読めない。
「九千部ハルの様子はどうだ、やつの気持ちは動いたか」
「機械の体のほうが合理的という考えは持っているようだが、前ほどこだわっていないよ。あの分野にお前が噛んでいると知って、自分が実験体なら従来よりいいデータが提供できる、という自信が薄れたらしい。電脳に合った機械の体は欲しいそうだが、わがままを押し通すのは合理的ではないんだとさ」
「なるほど」
 シャトルはあごに手を当てる。
「自分が人間の限界を超えている、くらいの前提は立てているだろう。人間のいい加減さ、曖昧さを、データとして合理的に処理できるんだからな。だが、設計者のオレなら同じことが出来るはず、くらいのことはすぐ気付く。だから連中は設計者、制作者の能力を高く見積もる。少なくとも、オレの正体が掴めない間はな」
「そういうものなのか。コンピューターの反乱なんてのは、よく聞くがな」
「いっそ反乱されるのも面白いと思っていたが、一度もされなかった。人間には絶対服従、なんて機能を付けていれば、逆らってくれたかもしれんがな」
 今度試してみようとシャトルは笑うが、わたしは想像して寒気がした。この男、九千部ハルのときと同じように、相手に反撃の隙を与えながら人体実験をしていたのだろうか。
「自信があったのか、その仮説に」
「ない、今までの傾向からの判断だ。機械ってのは設計者が思ったとおりに動くほど単純じゃない。人間の脳の代用、なんて大それた代物ならなおさらだ」
 わたしはシャトルが繰り返したという実験を思い起こした。九千部ハルにたどり着く前に、何人もの人間が機械化された頭脳で似たような葛藤を見せたのだろう。シャトルはそれと延々向き合っていたわけだ。ヤツの言う、真正面から人間を叩き潰す爽快感を味わうために。
「生きているのが不思議な男だよ……知れば知るほど、お前の趣味の悪さには驚く」
「趣味の悪さに関してだが」
 シャトルは封筒を取り出し、ピーターに手渡した。
「ある意味で、オレより趣味の悪い男がいる。そいつ自身は取るに足らんのだが、放置しておくと使える人材を潰してしまいそうだという報告を受けた。ウチとは横の繋がりだが、管轄はお前のところの下請けでな。ちょっと行って、保護してほしい」

 ◆◆◆

 シャトルの気が引けるかも知れない、ということで本社は喜んでわたしを出張させた。行き先は日本、九千部ハルの出身国。取引先は、軍部のエージェントが利用価値ありということで自衛隊名義で保護しているとの報告だ。西洋系のわたしが歓迎されるか怪しんだが、向こうは歓迎ムードだった。シャトルが根回ししていたのかもしれない。
「ようこそいらっしゃいました。まさか……」
 白衣の男が言い切る前に、わたしは手のひらを掲げて制止した。
「我々の名前は出さないでください、どこで誰が聞いているか分からないのですから」
 不満らしく、白衣の男は弁解を始める。
「ですが、ここはわたしの研究所です。関係者しかおりませんし、盗聴の心配もありません」
「初対面の人間を信用するほど我々は優しくない。それとも、互いの利益を損なうのがこの国の礼儀なのか」
 気圧されたのか、白衣の男は渋い顔のまま名刺を出した。
「所長の萩牧久(はぎまきひさ)と申します。なんとお呼びすればよいですかな?」
 名刺を無視し、わたしは萩という日本人に頭を下げず挨拶をする。
「ピーター・スミスとお呼びください。先に言っておきますが、わたしは取り引きに来たのではありません。査察です。あなた方に利用価値があるか、あなた方の研究にどの程度の付加価値があるのか、値踏みするために来たことをお忘れなく」
 萩という日本人は不満そうだが口には出さず、苦々しい表情のままカタコトの英語で応対しながら奥へ案内した。
 彼が見せたのは、肉体の若返りと性転換を同時に起こす薬剤の説明だった。どちらか一方のみの効果を引き出したいが、相互に関係しているらしく片一方のみを引き出せず苦労していると萩は語る。
「進展がないまま二年経っていると聞いています。新薬ならわかる話ですが、問題は限定的な用途と副作用の不明瞭さです。貴国の軍がこんなものに出資しているとは、笑えますね」
 わたしのあきれた様子に慌てたのか、萩が弁解を始めた。
「ですが、性転換の効率は良く、妊娠も可能で……」
「性転換せずとも妊娠する技術はある」
 萩には初耳であったらしい。大きく驚いており、失望すら見える。
「わ、わたくしどものスポンサーからそのような話は」
「キミの出資元は軍の一部門だ、国ではない。なぜこの技術に興味を持ったのだろうな、軍事に使えるとはとても思えない。賄賂か?」
 鼻を鳴らして萩を見下ろす。軽く挑発しただけで、所長などという肩書きを持つ男は険しい顔で睨みつけてきた。
「ピーター・スミス。実は、隠していたことがある」
「なんです」
「この試薬は、薄めて使えば全盛期の肉体を維持する効果がある。若返りと性転換は副作用だ」
 若返る、と言うのはそういうことだ。軍人が身銭を切るということは、この研究に軍事的な価値があるということ。察しが付かないほど、わたしは間抜けではない。
「ほう、それはなかなか聞かない効果だ。しかし、そうすると副作用のほうが問題になる。効能と謳えるほど強力な副作用、死に至る危険はないのか?」
「ない。少なくとも、こちらでは確認していない」
「根拠は?」

 ◆◆◆

 施設の奥、隠れるように作られた個室には幼い日本人の少女が閉じ込められていた。お腹の膨らみから、妊娠していることが分かる。
「彼……いや彼女は、かつての研究員だ。副作用で少女になり、今はモルモットになってもらっている」
「見れば分かる、あれで何が分かるのです?」
 冷たくあしらうと、萩は流暢に説明を始めた。
「彼女は既に一度出産している、これから二人目を産む」
「出来て当然のはずですが? 最初の説明で妊娠も可能だと言ったのはあなたです」
「彼女は、変化が止まるまで……許容量を無視して試薬を投与して既に二年近くが経っています」
 わたしは研究員だったという少女をゆっくりと観察した。一点を見つめているようで、どこも見ていない。とても正常とは言えない状態に見える。
「なるほど、副作用であれ以上変化することはない、と」
「試薬が二年前のものだということもお忘れなく」
「で、モルモットは無事なんですか」
「は?」
 要領を得ない、といった風に萩は口を開けたまま返事をする。
「生きてはいる、妊娠もしているのだろう。で、あれは人間として機能するのか?」
「それは、全く問題ないのですが……その、あの姿になって長いせいか、わたしを父親と思い込んでおりまして」
 萩の顔色がみるみる悪くなる。なるほど、彼女が正気では都合が悪いことでもあるのだろう。シャトルは使える人材が潰れると言っていた。彼女はシャトルの言った人物の居場所を知っているか、さもなくば本人だろう。
「モルモットの思い込みはどうでも良いんですよ、彼と話せますか?」
「話せますが、英語は……」
「わたしは日本語を話せます」
 観念した萩は、わたしが少女に近づくのを許した。少女の顔に生気はなく、萩の顔を見ると力なく微笑んで挨拶した。
「パパ、来てくれたんだね。明美(あけみ)、うれしい」
 明美と名乗ったモルモットの目にわたしは映っていない。焦点の合わないうつろな表情のまま、服越しに萩をぼんやり眺めている。まるで薬で……抗精神病薬で無理矢理思考能力を奪われているようだ。
「どう、したの?」
 じろじろ眺めるわたしと、隣で冷や汗を流す萩を見比べて、モルモットは不思議そうな顔をする。萩は弁明を始めた。
「その、彼の希望で麻薬を与えました。今は効果が切れているので、頭が回っていないようです」
「それが言い訳か」
 わたしはその粗末さにあきれ、緩慢な動作で裾の下に隠していた発信器のスイッチを押し、素早く拳銃を取り出し萩に突きつけた。彼は突然のことに身動きが取れずにいる。
「ニホンジン、貴様が我々を馬鹿にしていることはよくわかった。麻薬か、本社の名札を付けているエージェントが麻薬中毒者を見分けられないとでも思ったのか。アヘン中毒でもこうはならん、この症状は抗精神病薬だ。仮にモルモットへ使ったなら研究を遅滞させる謀反行為になる。臨床試験で無駄な投薬をしたんだ、撃たれても文句は言えまい」
「あ、そんな、あ」
 萩が言葉を選んでいる間に、研究所が騒がしくなってきた。待機させていた部下が踏み込んできたようだ。
「ミスター萩、今日で研究室は押収する。お前のスポンサーにはわたしから説明しておこう」
「お前に何の権限があって」
 怒り狂う萩が銃へ手を伸ばしたため、わたしは肩を撃ち抜いた。そのまま、叫び、わめき立てる萩の口の中へ銃口を押し込んだ。
「権利か、いい言葉だ。辞世の句にしたくなければそれ以上喋るな」
 血を流す萩を見ても、モルモットはぼんやりしたまま動かなかった。

 ◆◆◆

 萩を援助していた特務大佐に彼を預け、わたしはモルモットを移送した病院に移動した。医者の話では、薬が抜けきるのにしばらくはかかるという。それよりも臨月が近いこと、性的暴行が過激であったため本人の正気が疑われることを警告された。面会のため、わたしは病室へ入る。
 少女は入院着をはだけさせ、おむつをベタベタ触りながらベッドに腰掛けていた。目は血走っているが、最初見たときよりは知性の色が見える。
「辻明人(つじあきひと)だな」
「お、おお、おま、おまえ……だれ、だ」
「ピーター・スミス、表向きはアメリカ人だ」
 言葉が出てこないのか、辻は目を泳がせている。考えがまとまったらしく、わたしの目を見つめて少女は質問を続けた。
「な、なんで助けた」
「例の薬を発明した学者と聞いたからだ。その頭脳を借りたい」
「え、えへへ……近くで見てみなよ、ピーターさん」
 少女は座ったままおむつを外し、広げて見せた。覗いてみると、黄色く濡れた内側と異臭が確認できる。
「お、オレはずっと、おもちゃにされてたんだ。にょ、尿道も、肛門も、メチャクチャだ。垂れ流しだ」
「それが頭脳に何の影響がある」
 息を詰まらせ、少女は震えながら続けた。
「さ、さっきオレが何してたと思う? オナニーさ。オレは毎日放っておかれた、その間やることといったらこれしかなかった。中毒なんだ。お、おかしいと思うだろう」
「そうだな」
 肯定すると、少女の姿をしたそれは少し落ち着きを取り戻した。
「え、えへへ……おじちゃんわかった? わたしはね、見た目通りのおかしな何か何だよ。男でも女でもないんだ。分かったらもう放っておいてくれ」
「それは出来ない相談だ」
 わたしは少女からおむつを取り上げ、ゴミ箱へ捨てた。少女がか細い声で叫ぶ。
「や、やめろぉ……も、漏らしてるのが見える!」
「下着を履けばいいだろう」
「よ、汚れちゃ……汚れる!」
「汚れる前に拭き取ればいい」
 わたしは室内のウェットティッシュを手に取り、少女を持ち上げ、股を綺麗に拭き取った。
「やめ……やめ、て」
 肛門から空気が漏れる音が聞こえたので、再度見るとまた汚れていたので、拭き取った。拭き取ったウェットティッシュはビニールを張ったゴミ箱へ捨て、少女には女性ものの下着を履かせた。
「ピーター、許して、お願い」
 部下に命じ、替えの下着とウェットティッシュを大量に用意させた。尿で汚れれば下着を替え、うんこを漏らせば処理をした。何時間も、わたしは少女を抱きかかえたままだ。
「なんで、なんで」
 いつしか少女は泣いていたが、わたしは答えず下の処理を続けた。泣き疲れて眠ったことを確認した後でベッドへ寝かせ、その日は引き上げた。

 ◆◆◆

 翌日尋ねると、少女は入院着の下には何も履かず、自分の股をウェットティッシュで拭いていた。
「ピーター、さん」
「おはよう。今日はオナニーをしていないのか」
「意地が悪いな、あんたは」
 昨日より薬が抜けているらしく、話をすることが出来た。まだ取り乱していること、出産が不安であること、第一子が悲惨な死に方をしたことなどだ。
「オレと同じモルモットにされて、無理な検査が祟ってあっさり死んだ。その後は……か、解剖されて、標本にされて、お、オレの前にもってこられて!」
 少女はわたしの胸の中に飛び込んできた。
「こ、この体になってから気が弱くなっていけない。しばらく、こうさせてくれ」
 気の毒に思ったがどうにも出来ないわたしは、せめて思うさま泣かせてやろうと目をつむって壁にもたれていた。しばらくすると、少女の息が荒くなっていることに気付く。目を開くと、ウェットティッシュで股間を隠しながら自慰行為をしていた。
「は、あ……」
 声を押し殺している、わたしに気付かれたくないのだろう。寝たふりを続けようと思ったが、うっかり少女と目が合ってしまった。固まっている少女を抱き直し、背中をさする。
「気にするな、続けろ」
 涙ぐみながら少女は続けていたが、中断し、わたしの胸を叩いた。
「手伝いを、お願いできますか」
 少女はわたしの手を掴み、股を開いて誘導する。理解したわたしは、少女の秘部を指で優しく刺激した。
 少女の両手はわたしの胴を抱き、声は大きくなった。彼女が満足するまで、わたしは続けた。服はかなり汚れてしまったが、まあいいだろう。

 ◆◆◆

「はぁぁ、はぁおおお!」
 少女が破水したのは五日後だった。彼女の肉体は幼すぎるという理由で帝王切開が提案されたが、一度経験しているからと本人の強い希望で自然分娩を試みることとなった。とはいえ、赤ん坊が出てくるには穴が小さすぎるということで会陰切開は行われることになった。医者によれば、やらなくてもどのみち裂けるとのことだ。
 これも本人の希望であったが、わたしは付き添い、本人の横で手を握り、励ました。途中で聞き慣れない日本語を繰り返し口走っていたため、わたしは聞き取れる範囲でメモをしていった。
 小さい体での出産は負担が大きいらしく、少女は目を見開いて酸素マスクから必至に呼吸をしている。絶叫に近い叫びを何度も繰り返し、医者が帝王切開に切り替えよう、と提案した矢先に強い陣痛が起き、子供は無事に産まれた。性別を確認する間もなく、母体への処置が始まった。胎盤が取り除かれ、切った肛門と膣の間を縫うなどと平行し輸血と投薬が行われている。
 女の子だったということは、落ち着いてから教えてやることにしよう。

 ◆◆◆

 出産の翌日。少女は娘の世話を病院に任せ、酸素マスクを付けたままノートに何かを書き込んでいた。わたしに脇目も振らず、七時間ほど無心でノートに書き込み続け、夕方になってからわたしに差し出した。
「出産と酸素がオレに正気をくれた。実体験から予測出来る、新薬の副作用の仕組みとその対策方法だ」
 幼い少女の姿をしているが、辻明人の顔は情熱ある学者のそれに戻ったようだった。わたしは受け取り、改めて尋ねてくる旨を伝える。
「期待に応えてくれたこと、感謝する。このノートは別の学者に精査させ、結果次第では改めてあなたの助力を乞うことになるだろう」
「ピーター、聞いていいか」
「なんだ」
「自暴自棄だったオレに、あそこまで良くしてくれたのは何故だ。オレが正気に戻る保証はなかったと聞いたぞ」
 わたしは九千部ハルのことを思い出した。
「相応の扱いをすれば、人間だったもは人間に戻れるのかどうか。興味があっただけだ」
 辻明人の生活を保障し、わたしはノートをシャトルに渡すため帰国の途に就いた。

ピーターの報告書 辻明美のケース

ピーターの報告書 辻明美のケース

シリーズ第三弾。 シャトルの依頼で日本の研究機関の査察を行ったピーターは、性転換と若返りの実験台にさせられた科学者「辻明人」を発見、保護する。 彼は性的虐待にさらされており、妊娠もしていた。「明美」という名前を与えられていた少女を正気に戻そうと、ピーターはある行動に出る。

  • 小説
  • 短編
  • 成人向け
  • 強い性的表現
  • 強い反社会的表現
更新日
登録日
2018-06-10

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