試練の道

初めて書く小説ですので、大目に見てください。

 

 悲鳴と似た声が響くこの世界。暗闇に包まれ、その全貌が明らかになることは無い。ただ、一つだけ、私の前に光があった。その光は忘れかけている太陽と同じ輝きを見せ、少しだけ道を照らしてくれる。今の私には、それは有り難いもの。
 私はなんのために道を進み、なんのために生きているのか? それも分からず、光の導きに従い、歩むだけだった。


 灼熱の太陽が照らす、凄まじく大きな砂漠。生き物は焼かれ、舌を枯らす。その熱は例外なく私にも当てられていて、今にも倒れてしまいそうなほど弱らせる。
 光は眩しい太陽と同じ色をしているため、この世界ではどこにいるのかが分からない。しかし、今は光が無くとも、自由に歩き回れる。今回は光の力を借りなくてもよいようだ。
 坂になっている砂の山を登り、頂上に立つと、今回の目的が見えた。
 砂漠の真ん中に佇む巨大な化け物。数えきれないほどの触手を頭に生やし、四本の足で歩くその化け物は、私に気付くと金切声をあげ、猛進してきた。
 私はそれに立ち向かうため、剣を構える。細長く、つばのない剣は、多くの血を吸ってきたため、刀身が若干赤い。マントを脱ぎすて、私も走った。
 私の体を突き刺そうと、多くの触手が次々と向かって来る。それを避けながら触手に刃を立て、真っ二つに切り裂く。赤い血がしぶきを上げ、身に降りかかる。その行為を何度も繰り返しながら、着実に化け物に近付いて行った。
 身を捩じり、寸でのところで触手を避け、触手を足場にして進む。迫ってくる触手の上を走り、化物の頭が目の前に来ると、高く跳んだ。

「ぬうあああっ!」
 
 剣を天高く掲げ、まっすぐに振り下す。
 世界が暗転したかと思うと、次の瞬間真っ赤に染まった。世界が軋み、壊れ始まる。その音が砂漠に鳴り響いた。
 化物の体は荒々しく頂上から首元まで斬り込まれ、分断された頭は力なく左右に垂れ下がっている。
 ああ、次の世界へ行くのか――。私は剣を仕舞い、崩れていく世界の中でそう考えていた。今さら驚く事は無い。もう、何度もこの経験をしてきた。それぞれが全く違う様子を見せる世界に飛ばされ、旅をする。そしてこうやって異形の化け物を見つけると、持てる力をすべて使って化け物を殺す。するとまた違う世界へ飛ばされる。
 これの繰り返しだ。
 もう何度目かは忘れた。何カ月も、いや、何年もこうしているだろう。時間の概念が無いのなら、時は全く進んでいないのかもしれない。現に、私の容姿は全く変わっていない。髪は短いままで、少しだけ伸びている髭も今と最初で変わらないのだ。おそらく、時間と言うものが存在しないのだろう。
 そう考えているうちに、世界は完全な闇に包まれた。太陽が消えると同時に、今まで見えなかった光が現れ、周りをふわふわと浮いている。
 暗闇の中で静かに待っていると、突然光が差し込んだ。それは、新しい世界が拓ける兆しだった――。
 

 目を開けると、次の世界が見えた。
 遺跡のような所だ。灰色の雲が空を覆い、その隙間から光が差し込んでいる。壁や支柱が崩れていて、足元に破片が転がっている。
 しばらく散策してみたが、どうやらここはかなり高い所にあるらしく、空気が薄い。遺跡は天高くそびえ立っており、頂上は雲を突き破り、隠れているため、良く見えなかった。
 私が辺りをうろついていると、光が前に出た後、遺跡の中へと入って行った。私を導いているのだろう。今までもこうして光が行くべき場所を教えてくれていた。それが分かっているため、何のためらいも無くそれについいていく。
 ああ、喉が渇いた――。
 いつもなら世界が変わると体の負傷もリセットされ、癒された状態で新しい世界に向かうのだが、今回はそうでないらしい。防具に砂が付いたままだ。髪を手で払うと砂が落ちる。わずらわしいその感覚に、私はどこかに水場が無いか探した。
 光が遺跡の奥へと行く。そして、広間に出たところで止まった。
 天井に丸い穴が開いていて、淡い光が広間の中央を照らしている。その奥に、小さな滝のようなものが見えた。光は嬉しそうに飛び回り、滝へと向かっていく。私はそれを追った。
 

 冷たい水が気持ちいい。防具を脱ぎ、裸の状態で私は水浴びをしていた。
 剣を取り、水にぬらす。血が染みついている場所を手で擦ってみたが、落ちない。この血は一生落ちる事が無いだろう。私は何故かそう感じていた。
 この剣は、私が窮地に陥った時に、不思議な力を発揮する。巨大な岩をも砕く怪力や、火、雷を使う化け物の力を奪い取るなど、異様な力を持っているのだ。私はそれに何度も助けられ、その度に不思議に思った。この剣は一体なんのために、誰が作ったのだろうと。しかし、化け物がいる世界を渡り歩いてきたため、すんなりと受け入れられる。
 もしかすると、化け物やこの剣、世界の謎を知ることはないのかもしれない。


 赤い髪が水の重さで垂れ、額にかかる。それをかきあげると、私は防具を身に着けた。

試練の道

お疲れ様ですー。

試練の道

全く違った顔を見せる多くの世界。男はその世界を旅し、怪物を倒す。自分が何故そんなことをしているのか、怪物は一体なんなのか、数多くの世界はどうして自分を受け入れるのか、それすらも分からずに。 ただ剣を振るい、神と見紛うほどの怪物たちを斬っていく。それに意味があるのか――?男に知る由は無い。ただ、男は旅をし、怪物と死闘を繰り広げる。それの繰り返しだった――。

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2012-09-20

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