軋む…No.14 ～18

14 ワタシガワルイ

彼女は
この種族では疎まれた
両親は優しかったが
周りが彼女に冷たかった

「その目でこっちを見るな！」

「何その 黒くて大きい目気持ち悪い」

「身体が白くて黒目が大きい やーい やーい白黒お化け」

自分の姿が嫌いになっていった
皆と違うこの姿
私がダメなんだ
こんな姿で生まれてきたから
そう思って諦めるようにしていた
両親が優しかったから
大好きな両親に迷惑はかけたくなかった
だから彼女は
笑っていた
両親は彼女を本当に愛していた
彼女がどんな身体でも
本当に愛していた
彼女にも伝わっていた
痛いほどわかるから
わかるからこそ
苦しかった

ワタシガワルイ

その頃この国に新しい風が吹いていた
群雄割拠
小さな箱の中の世界は
目まぐるしく変化していた
新しいサイト
たくさんのデータ
日々日々大きくなっていた
それに彼女達も飲み込まれて行く

15 救いの刃

ここは小さな箱の中の世界
沢山のデータで溢れている
この世界で
名前を持っているものこそ
この世界で生きていると言える

彼女もこの世界で生きたく
彼女の両親のためでもあった
一種のバグと呼ばれる物
この世界での容姿はそんな数字のミスによって
産み出されていた

彼女の髪の毛を黒くする数字
眼を爬虫類にする数字
その違いだけなのだ

しかしここでは
それが重要なのだ
皆と同じ形
皆と同じ考え
皆と同じ…

決して反れてはいけない
そんな中で皆生きていた

彼女はまた
小さな箱の世界で
作られた空を見つめ
あきらめたように生きていた

ドーン！！！

物凄い音が周りに響き渡った
同時に沢山の兵隊達がなだれ込んできた

「攻めろー！！止まるな！！この土地を落とせ！！」

この国は争いもなく
平和な国
こんな事があるはずなかった

誰も何が起きているのか
わからなかった

何もすることができず
みんな
倒されていった

無抵抗な者に容赦なく刃は振り下ろされた

自分をバカにしていた人々が次から次へと
無抵抗に切り落とされていく

切られた事すら気が付かず

子供も大人も

助からない

そう思った時

「走って！！」
母親の声がした
前で手を広げている

母親の姿を見て身体に力が沸いてきた

私の好きなお母さん

諦めていた彼女の足に
血が巡った

母親の手をギュッと握った

隣には父親もいた

「追い付かれる！ここは俺が食い止める
先に行け！」

「あなた！おやめになって！」

父親は口から白い煙のようなものを吐き出した
これが蛇眼族の能力 毒煙と言われているものだ

相手は
身体中刃の男だった

「ほほう、貴様 煙使いか 面白い」

父親は煙に包まれ姿が見えなくなった

「チッ！こいつ戦う気はない！煙幕か！」

父親は周りに大量の煙を吐き相手に目隠しをしたのだ

どうにか
追っ手を逃れた彼女と母親は
水場にいた

「お母さんどうして逃げるの？あの人達は 私をいじめていた人々をやっつけてくれたのよ？」

母親は驚きながら

「たとえいじめたとて殺めてはなりませぬ」

首をかしげる彼女をみて
母親は
泣きながら

「私達はとんでもないものを作ってしまった」

そう言うと母親も口から白い煙を出した
煙は少女の体内に流れこんだ

「もう終わりよ」

毒が彼女の身体を巡って行く
自分達は
助からないと思ったのだろう

彼女も理解した
母親がそれを望んでいたから
それは彼女の頭にも流れこんできた

これで楽になれる
もういじめられない

意識が遠くなり
暗い世界が明るくなりかけた時

「やめろ！」

また暗い世界に引き戻された

「大丈夫か！怪我はないか！この化け物め！こいつは煙を吐いていた 煙使いだ！捕らえろ！」

母親は縄で縛られ捕らわれた
気でも狂ったのか笑っていた

「お嬢ちゃん大丈夫かい！意識あるかい！」
身体を揺すられた

ゆっくり眼を開けると

「おお！美しくい なんという 美しい瞳だ！」

初めて聞く言葉だった

忌み嫌われていたこの瞳を
嘘のない心で
美しいと

その男は
自分をいじめていた者達を
切り落としていた男だった

彼女には神にさえ見えた
全身が刃だらけの男

蛇眼族討伐体隊長の男だった

16 野望 絶望

くしくも少女は
自分達種族を殺戮していた種族に
世話になることになった
少女には救いだった
眼を輝かせながら
馬にまたがる部隊長の背中にしがみついていた

「この子をサイノカワラに預けよう」

サイノカワラとは一種の孤児院である
ここには親を亡くした子供と
それとは別に特殊能力を持った者が集められていた

そもそも
この討伐隊は何かと言うと

時は群雄割拠
名もない存在だった力が
強力な力を持ち

小さな箱の世界を統一せんと
立ち上がった男

名前をサイトという
後のサイト王である

サイトが作った部隊の一つ
全身が刃で覆われた部隊
何でも屋
殺戮集団
蛇眼討伐隊こと
第13部隊

サイトはありとあらゆる能力を手に入れ
少数ではあるが
強力な部隊で
世界を狙っていた

そんなサイトが
一番恐れていたのが
蛇眼の力だった

蛇眼族が住むこの土地を
手に入れたかったのだが
蛇眼族はもともと
平和主義
どの国にも加担しなかった
しかしサイトは
この力無くして
この世界を捕る事は出来ないと考えていた

世界を滅ぼす力さえ手に入れば
世界を捕る事など容易いと
当初はそう思っていた

しかしながら彼らは
そんなサイトをなだめ
考えを改めろ
争いをするな
そう言ってきたのだ

サイトは怒った
「考えが生ぬるい！お前らはその力を使わんと申すか！何のための力ぞ！」

蛇眼族の国王は笑った

「その時は今ではないのだよ 私達は遥か昔から終わらせる為にこの力を授かった訳ではないのだよ 始まらさせる為にこの力を授かったのだ」

サイトは怒り狂いその場を後にした

「ええい！何を訳のわからんことを！あの種族殺してしまえ！パープルヘイズさえ発動しなければなんとかなるはずだ！」

これが殺戮の始まり
サイトは恐れるあまり
最強の力へ噛みついたのだ
結果パープルヘイズは発動されることはなかった
数名の煙使いを捕らえ
彼らを無理やり従わせた
それ以外の蛇眼族は全て殺された
アルビノ種の少女を除いては

17 美しいこと

蛇の眼をもたない
蛇眼族の彼女は
他の種族からは美しく見えた
あの日
独立第13部隊
蛇眼討伐隊隊長から
サイノカワラへ引き渡されたのだった
生活は彼女にとって刺激的だった
親から捨てられた子供達
国から選ばれ親元から離された子供達
子供の寂しいでここはできていた
彼女はとても落ち着けた
多少のいじめはここにも
存在する
でもみんな同じではなかったから
肌の色、髪の色、瞳の色
形、声みんな違っていた
それが彼女は安心できたのだ

(うふふ 私だけじゃないの みんな１人ぼっち うふふ)

そして彼女は恋をしていた
あのソード族の男に
仲間を殺戮したあの男に
彼女は彼に振り向いてもらおうと必死だった
月に一度彼は
この施設にやってきた
沢山のオモチャ、沢山の本、沢山のみやげ話
瞳を丸くして沢山の話を聞いた
大きな熊に襲われた話や
枯れない花、三個の月
子供達は
興奮してその話を聞いている
蛇眼族の狩り
殺しの話以外はしてくれた
彼女はなんだかそれが
嬉しかった
なぜなら
これを知っているのは私だけと
特別に感じていたのだろう

(うふふ みんな知らないのね この話は彼と私の秘密の話よ うふふ)

彼女はみんなと離れて遠くから
彼を見ていた
自分だけが特別なように
たまに彼と目が合った
その度に彼女は彼が好きになっていった
毎回会うたびに
おしゃれをした小さな少女は
その日はレディだった
髪をしっかりと溶かし
赤い花の液を唇に塗った
前の日は沢山水浴びもした
少女はますます美しくなった
早く大人に
あの人と結婚したい
強く願うようになっていった
彼女は成長し大人となった
それはそれは
美しい女性に

18 悲しみのプログラム

この国の話をしなければならない
小さな箱の世界のさらに小さな国の話
俺と彼が生まれた国の話
国はサイト国、国王はサイト、サイト王が作った
我の国の話
サイト王は、とても頭が良かったしそれ以上に野心家だった、位も貧しかったが
彼は入念に計算をして仲間を募った仲間は少数精鋭、皆、特殊能力を持っていた
俺の父親もそんなサイトと世界を盗るため
戦った１人だ、俺の種族は音を操る、音を風に乗せ、時に攻撃、時に癒し想いも伝わる、それが俺らの能力

「時は来た！狼煙を上げろ この世界を そして外の世界を！盗る！」

俺の父親もこれに同調した、物静かな父親だった
俺からすると何にも興味を持たない父親が、命をかけて戦ったのが今でも信じられなかった
こうして狂った小国は誕生した
サイト国、サイト王、サイノメノカワラ、我 、梵
狂った連鎖が形になり、それは異常にそして強力に
王は神になる、国王に支配された者達は
信仰させられる
王を神と幼い頃から
すりこむ、頭へ
意識させないように
すりこむ、身体へ
その時にも俺らの能力は使われた、音に乗せて
すりこませた、無意識に、恐ろしい事をすりこませていた。
王のために命をかける事を、これがプログラムの書き換え、外の世界ではハックと呼ぶ
この王が小さな箱の中に初めて生まれた
バグ、ウィルス
彼さえわかってはいなかった彼が力を持つことで
世界はまた大きく変わっていく
悲しい物語も生まれていく

19伝染

世界は完璧だと滅びてしまう
働きアリの数パーセントは働かない
これは自然界にあるバグ
働かない働きアリがいて
初めてアリの世界は完成した
パーフェクトワールド
そんなものはきっとつまらない
この国もきっと何か意味があるのかもしれない
狂った小国で
そんなことを考えてたやつが
いかほどいたのだろうか？
俺らだって考えてはいなかった
狂った小国の狂った王に狂わされた人々
その子供達
俺らはその世代
この国のバグなのだ
バグの中に生まれたバグ
彼は疑問を持った、そこから始まった
ただの好奇心だったのかもしれない
その好奇心すらも与えられなかった世界
俺も彼と出会うまでは
好奇心なんて
あったのだろうが押さえて、いや押さえつけられて生きてきた
彼と出会って好奇心が生まれた
そして生きたいと初めて思った
彼が命を俺に吹き込んだ
バグが意思を持ち、またバグを生むバグは伝染し広がる
彼がバグで俺はそれに感染した
そして俺もバグになり
下手くそな歌を歌いみんなに広げている
みんなの頭に心に
自由と言う名のバグを歌い続けている
感染させれているかは分からない
でもせっかく生まれたのだから
バグだろうがなんだろうが
死んだように生きるよりよっぽどマシだ
自分の意思でバグになった
伝染とは言ったが
意思を生んだ
生まれて伝染したんだ

だから
今日誰か生まれて欲しい