3時30分(仮)
1章 ある島国と青年
彼の名前はモラル。
海に囲まれたこの小さな島国に
移り、住むことになったのだけど
彼は1つの選択を迫られていた。
この島には2つの国がある。
『大人の国』名前のとおり大人がたくさん。
『子供の国』名前のとおり子供がたくさん。
モラルはこのどちらの国に住むのか
選択しなければならないのだ。
本来ならばその年齢に見合った国に
半強制的に分別されることになるのだけど
モラルはちょっと例外。
なぜならモラルは17歳。
青年期。マージナルマン。
つまり子供でもあり大人でもある存在なのだ。
2章 大人の国
まずは大人の国を
みることにしよう。
モラルは大人の国にいく。
ここの国民である大人達は
それぞれの仕事をもっている。
サラリーマンだったり、パイロットだったり、
映像作家だったり、とにかく色々。
モラルはそんな色んな仕事を行う職場を
見学していくうちに
違和感を覚えた。
何かが足りない。
この島国に来る前に住んでいた
「大きな島帝国」にはあったもの。
作業しながらもつい気になって
ちらちら見ちゃうもの。
あっ時計がない!
この国民たちにとっての
『時間』というのは時計によって
刻まれるものではない。
僕らが子供だったころ
時計が刻む時間なんて意識しない。
サッカーの時間、おしゃべりの時間
ちょっと勉強の時間など。
子供たちは勝手に時間を刻む。
そう『時間』は僕らが刻むものなのだ。
だからこの国の仕事の考えとしては
勤務時間まで職場に居続けるのが仕事ではなく
その与えられた仕事自体を遂げることが
仕事なのだ。
この時計廃止制は
この大人の国の大人達のメッセージ。
子供の国の子供達がいずれ大人になった時
仕事を思いっきりできるようにと。
大人達は今日もそのために仕事をする。
3章 子供の国
次は子供の国を
見ることにしよう。
モラルは子供の国にいく。
この国の子供たちは
それぞれの時間をつくりだす。
サッカーをする時間、おしゃべりをする時間、
勉強する時間など。
モラルはそんな色々な時間を
刻む子供たちを見ていくうちに
違和感を覚えた。
何かが足りない。
この島国に来る前に住んでいた
「大きな島帝国」にあったもの。
皆といるときも気になって
ついつい見ちゃうもの。
あっ、スマホがない!
この子供の国の子供達は
大人の国の大人達に口酸っぱく
スマホはだめだと言われている。
歩きスマホは危険だとか
目が悪くなるとかなんだとか理由をつけて。
弾圧というのはバネのようにのびて
大きな反乱を起こすものだけど
この子供達は何もしない。
なぜなら大人達の意図、思い、メッセージに
気づいているから。
言葉の意味とか漢字の読み、
愛とか優しさとかそういうものは
自分達が教えたい。
こんな小さな画面になんかに
この大人としての役割を奪われたくない。
きっとこれは非効率な考え方と大人たちも
気づいているけどこの考えを通す。
このワガママを通す。
子ども達はそんな大人達の
ワガママに付き合っている。
「ねえ、この漢字なんて読むの?」と。
4章 美しい島国と輝く青年
「大人の国」「子供の国」
2つの国を訪れたモラルは思う。
「お互いがお互いを思いやっているのに
なんで2つにわかれているの?」と。
すると「それはね。」と後ろから。
「あっ、父さん!」
モラルの父はこの島国生まれ。
この島国に引っ越してきたのも
お父さんの意思。
モラルにこの美しい島国を知ってほしい。
モラルが生まれる前
この平和な島国もある戦争をしていた。
国内じゃなく世界規模。
だから結構劣勢な感じだった。
それで負けまいとするこの島国では
ちょっとおかしな空気が漂よいはじめた。
「お国のため人殺しの兵器を作ろう。」
「お国のために命を授けよう。」
大人達は狂い始める。
大人を見て育つ子供達も徐々に狂い始める。
この島国に住む人々全員が
人でなくなろうしていたとき。
政府の次なる命令がでた。
「子供も戦争に行かせよ。」
「そこで大人達が目を覚まし立ち上がった。
子供達を絶対戦争に行かせるわけにはいか
ない。この島国とは別の安全な国をつくって
子供達だけでも避難させようって。」と父。
「それで子供の国はできたの?」とモラル。
「うん。戦争をする大人の国と平和を目指す
子供の国ができたわけ。まあ、つくってすぐ
に戦争は終わったらしいけどね。」
モラルは話を聞きながら
街を歩く島国に住む人々に目をやる。
「大人の国」と「子供の国」
国なんて付いてるけど国境なんてない。
人々、大人と子供は互いに愛し合っている。
だから、この「大人の国」「子供の国」という
制度もいつか自然に消えていく。
文化の名残が形だけ残っている感じだからね。
ちょっと寂しい気もする。
でも消えないものはもちろんここに。
「父さん!僕この国好きだよ!」
「そっか。それは良かった。」
ふたりは互いに笑い合った。
3時30分(仮)