ジョージの深い憂鬱と世界の終わり

ジョージの深い憂鬱と世界の終わり

   







   





6月に 銃の撃ち方を覚えたばかりの兵士が

爆弾の詰まった車を運転する子供の突撃で死ぬ 9月。



   

君は なかなか死ねない自傷行為に忙しいが

君から周囲半径1m以内にある液晶画面では 人々は何度も死ぬのに忙しい。



   



   

ここで生まれてさえいなければ……

ここで生きてさえいなければ……



   







   







   




TVではジョージが冷や汗かきながら、クイズ番組で「核兵器の初期破壊は摂氏数千度の熱線だ」と解答を繰り返していた。

司会のM・モンターナの脂の詰まった顔が「ふぁいなるあんさぁ?」と迫る。

ジョージは冷や汗を掻いていた。

ホワイトハウスに電話もかけられない。

スタジオの客の大部分は民主党の刺客である。

スーツの裏側に隠した無線も壊れたようだ。

なんで壊れるんだよ。

ライスに特注させたエンロン社の機密製品なのに。

チキンライスのアマめ、役にタタねえあふぉニグロだ。

せっかく軍人ニグロの後釜に据えてやったのに。

やっぱニグロはどいつもこいつもただのニグロだ。

これだからニグロは使えねえーんだよ。

クイズ「ミリオンのマラ」、ジョージの解答は完全に間違っていた。

「帝国」の「皇帝」でありついでに球団オーナーであるジョージの無線が破壊された事情と、

このクイズの真の解答は、鮮やかなまでにシンクロしたのだった。

ジョージは、番組のCM途中で、シークレットの耳打ちによって知らされたのだった。

つい先ほどワシントンを狙って発射された高濃縮ウラン爆弾搭載大陸間弾道ミサイルが、

大きく標的から逸れてマイアミで炸裂したというニュースを。

「大統領閣下、核兵器の初期破壊は電磁パルスであります。閣下の無線が破壊されたのはその影響であります」

「・・・・・・じゃあ、俺の解答も間違ってたんだな」 ジョージは深い嘆息を漏らした。

「残念ながら・・・・・・閣下、フロリダ一帯は壊滅状態です。屋上のヘリからエアフォースワンへ向かいます、さあ、早く・・・・・・」

硬直した表情に汗を浮かばせて、黒いスーツのシークレットがジョージを促した。

「そんなことよりもな」

そう遮って、世界最強の合衆国大統領は訊いた。

「で、フロリダ壊滅で失ったわが党の票数の損害はいくらぐらいになるんだ?」



   







   







   





夏の来るころには 神に祝福された誰かが どこかの有名な大きいビルを狙う。

秋には その誰かによって子供を殺された他の誰かが どこかのちっぽけな名もなきビルから身投げする。



   



   

なかなか死ねない。 僕はもう一度すべてに背を向ける。



   

いま、ここで生まれてさえいなければ……

いま、ここで生きてさえいなければ……



   







   

ジョージの深い憂鬱と世界の終わり

イラク戦争が始まった頃に書いた作品。
『クイズ・ミリオネア』というTV番組があったが、当時のジョージ・W・ブッシュ大統領が出演したという設定で書いた。

作者ツイッター https://twitter.com/2_vich

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ジョージの深い憂鬱と世界の終わり

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2018-05-21

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