桜散って、恋散って
春の悲しさって何だろうってふと思う。
そうやって考えながら、
桜が舞う道を一人で歩いている。
彼女と出会ったのは去年の同じような春の季節のことだった。
ちょうどその頃の僕は大学生でのサークル活動に夢中になっていた。
彼女は容姿端麗で、おまけに頭脳明晰だったものだからサークル内だけでなく、学内でも高嶺の花と噂されているくらいで、僕にとってはどこか遠い存在だった。
その日はみんなは早々に帰宅してしまった為に、偶々に僕と彼女の二人しかいなかった。
よく覚えているのだけど、その日は土砂降りで帰りたくないなあとか考えていると、ふと、彼女が苦しそうにしているのを見て、僕は慌てて大丈夫ですかと声をかける。
救急車を呼ぶか悩んだところで、彼女は小さな声で薬と何度も繰り返した。
僕は彼女の鞄から薬と、水を取り出して渡す。
「大丈夫かい」
と声をかけると彼女はゆっくりと深呼吸して弱々しい表情で、小さな桜色の唇を震わせながら、大丈夫、とまるで自分に言い聞かせるように繰り返すんだ。
僕はその日は彼女を駅まで送った。
それから僕たちの距離は近づいていったんだ。
一緒に食事に行ったり、映画を見に行ったり、とにかくいろいろなことを彼女と経験したんだ。
僕はいつのまにか彼女に溺れていのだし、また、彼女の方も僕に溺れていたのだと思う。
部屋に自然に彼女の靴とか、生活用品が増えていくこと、愛する彼女と抱き合うことの温もり、そういった彼女と、彼女に纏わるいろいろなことを知っていくにつれて、僕は彼女への愛を深めていった。
漠然とだけど、ずっとこのまま一緒だと思っていた。
でも、僕たちの別れの時は近かったんだ。
冬の寒さが遠ざかり、春が始まろうとする季節。
そこから桜散るまでの一か月近くの苦しみ抜いたことを思い出す。
僕たちは少しずつすれ違った。
僕たちは不器用で、想いをうまく伝えられなかったり、誤解したり、そうやって少しずつもどかしさは苛々に変わっていった。
僕たちは負の連鎖を断ち切れず、
互いを憎しみ合うまでになってしまった。
今までの愛の全てが憎しみへと変わり、
どうしたら不幸にできるのだろう、とか酷いことを一日中、考えていた。
でも、そういうのも疲れていって、僕らはいつのまにか精神的に、物理的に、距離が離れていって、もうどんな言葉も想いも、届かないくらいに遠くにいってしまった。
春の悲しさは、
桜散ることなんだ。
春の悲しさは、
こんな形で恋が散ったことなんだ。
春風が吹き、僕は空を見上げる。遠くの何処かで電車が走る音が聞こえてきた。
空は薄く白い雲に覆われ、その下に広がっている騒がしくも、眩しい、東京。
ふと、終わった、と言葉にして、桜散る道の先を眺めれば、また、重たい身体に否応なしに別れを実感させられれば、涙が溢れて、僕は泣き崩れて。
桜散って、恋散って