あなたの笑顔に魅せられて(1)
第一章 ある日の日曜日
「おんぎゃー、ふんぎゃー、あんぎゃー」
この世に生を受けたことに対する、喜びなのか、怒りなのか、あきらめなのか、様々な感情の玉手箱を爆発させたような、声が分娩室に響き渡る。
「お母さん、産まれましたよ、あなたのお子さんが」
女は、助産師に抱かれた、自らの命と交換することさえ厭わないほどの、必死の思いで産み落とした我が子を一目見ようと、此岸に踏みとどまったまま、やっと眼を見開く。白いタオルには、まるまると太って、あどけない顔をした赤ちゃんが、いるはずなのに、見えなかった。
女は、意識をはっきりとこの世に戻し、目を大きく見開いたが、焦点がまるで定まらない。驚く女に、医者がやさしく囁く。
「あなたのお子さんの姿は、私どもには、見えませんが、お母さんには、きっと存在が感じられるでしょう」
女は、まだ、産みの苦しみから、解放されていないのかと思い、現実への対応力への術を見出せないままでいた。
「私の赤ちゃんは、どこなの?見えないのにそこにいるの?まさか、と・う・め・い・・なの?は、だ、か、の、お、う、さ、ま・・
・」
女は、意識が再び薄れていくのを感じた。もうこの世には、戻れないと感じながら。
あなたの笑顔に魅せられて(1)