琥珀色の瞳
琥珀色の瞳の魅入られた男の話
![](/img/users/52/c327957-166f14.jpg)
琥珀色の瞳に映る俺。
無様に転んだ俺に差し出された手。
俺は無垢な優しさに歓喜し、無垢な優しさに触れ、己の業に泣いた。
俺は生まれた瞬間から汚れきっていた。
盗賊の両親から生まれ、当たり前のように技術を受け継いで畜生以下に成り下がった。
世界は腐りきっていると思っていた。
ああ!違った!
彼女の瞳に映る俺はなんて眩しいのか。
ぼろぼろの服を纏い、
油ぎった頭、
伸び放題の髭、
浮浪者のようであるのに、汚い姿なのに、
どうして手を伸ばせるのだろう。
彼女は無垢な琥珀色の瞳で俺を見つめている。
ああ、ああ、腐りきっていたのは俺であった。
雲間から差し出された黄金の光は俺を包んだ。
おお、神よ。
彼女の人生に祝福を与え給え。
そして、お導きに感謝しますとも。
どうしてか、ずっと昔に庭で育てていた水仙の花を俺は思い出した。
気持ちよさそうに雨に濡れているのを眺めたあの瞬間に、桜色に燃える感情が心臓から全身を駆け巡ったんだ。
今、この瞬間、俺は同じように全身を駆け巡る桜色に燃える感情を感じている。
走り回りたい!
叫んで教えて回るんだ!
世界はこんなにも眩しいのだと!
私は彼女に手を伸ばす。
さぁ、立ち上がるんだ。
無様に転んだ俺は死んだんだ。
そして、俺は彼女のおかげで生き返ったんだ。
バン
空気の破裂する音を何回か聞いた。
俺はなにも見えない。なにも感じない。
静寂な世界で、今なら笑って死ねるとどこかで感じた。
ちっぽけなコップが雨水に満たされた。
琥珀色の瞳