魔法のシャンプー

あるところに、男の子のように髪が短い女の子と、女の子のように髪の長い男の子がいました。2人は自分の髪のことで悩み、お互いを羨ましがっていました。
「君はいいね。その短い髪。すごく凛々しく見えるよ」
「あなたはいいわ。その長い髪。まるでお姫様みたい」
お互いに誉めあったりもしますが、それは男の子と女の子を落ち込ませるだけなのでした。
ある日、町に1人の商人がやってきて、2人に不思議なシャンプーを渡しました。
「これを3日に1回使ってごらん。自分の理想の髪の長さになれるよ。ただし、この3日に1回というペースを絶対に守ること」
2人は半信半疑でしたが、このシャンプーを使うと女の子の髪はお姫様のように長く、男の子の髪は短くなり、たちまち凛々しくなったのです。
2人は手をとりあって喜びあいました。
ですが、2人からシャンプーを横取りした者がいたのです。意地悪でお金に汚いことで有名な、かつら職人のじいさんでした。
じいさんは、最近良いかつらを作るために必要な綺麗な髪を集めることに苦労していました。そのとき、髪の長さを自由に変えられるシャンプーの話を2人の会話から聞き、それを商売目的のために奪ったのです。
じいさんには娘がいて、娘の髪はたいそう綺麗なものでした。
「これを使えば、いくらでも良いかつらを作れる」
じいさんには娘に、今日からはこのシャンプーを使うように言い付け、娘がその通りにすると髪はたちまち長くなりました。娘の長くなった髪を、じいさんは早速大喜びではさみで切っていきました。娘が嫌がって泣いてもお構い無しです。
娘の髪で作ったかつらは飛ぶように売れ、調子にのったじいさんは「3日に1回」という約束を破り、ほぼ毎日娘の髪にそのシャンプーを使うようになりました。
娘の髪はどんどん長くなり、欲が出たじいさんは、瓶のなかのシャンプーをすべて娘の髪にかけてしまいました。すると娘の髪は突如爆発的に伸び、あっという間にじいさんを呑み込んでしまったのです。娘は泣き叫びましたが、髪はどんどん伸び続け、ついには家の外にまで飛び出してしまいました。
その現場を見てしまった男の子と女の子は、慌ててシャンプーを売った商人に助けを求めました。話を聞いた商人は、2人に髪の長さを元に戻すリンスを渡し、3人がかりで娘の伸び続ける髪にそれを使ったのでした。その甲斐あって娘の髪は徐々に短くなり、5分も経てばすっかり元通りに戻っていったのでした。娘の髪の毛に埋もれていたじいさんも無事でした。じいさんは娘に泣いて詫び、男の子と女の子にシャンプーを返しました。
ですが、2人はもう自分のありのままの髪の長さが好きになっていたので、そのシャンプーを商人に返すことにしました。
「私たちには、もうこれはいらないわ」
商人はそれを聞くと、「それはいいことだ」と言い、別の町へと旅立っていったのでした。

魔法のシャンプー

魔法のシャンプー

童話形式のお話に挑戦してみました。髪の長さを自由に変えられる魔法のシャンプーがあったら面白いなと思い、執筆しました。ありのままの自分を好きになることがテーマです。

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2018-05-07

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