軋む…No.14 11~13
11 裏切り者 恥知らずの
彼はその言葉に反応した
「本当なの?」
俺は表情を変えずに
「もちろんさ、だから協力してくれるかい?」
彼はゴーグルでこちらが見えないながら
しかし
しっかりとこちらを向いて
「かぁちゃんに会えるなら、何でもする!」
よし交渉成立だ
そう思った時
「ねぇ俺のゴーグルとって 」
こちらをさえぎられた目で見ながらそう言った
あのゴーグルをとらなければ
あのゴーグルの下にはなにが?
しかし怯んではならない
何があろうと
俺にだって
大好きなもののためにやらなければならないんだ
そう強く思いながら
彼のゴーグルに手をかけ
ゴーグルを下へ
ゴーグルが外れ
彼は両目を閉じている
その両目をゆっくりと開ける
彼の瞳は
俺たちのそれとは違っていた
真っ白な目に
一筋縦に黒く引かれた線
この眼は爬虫類のそれだ
彼は爬虫類のその目で俺をみつめていた
俺を試すように
正直不気味だと思った
目だけが爬虫類なのだから
だが俺だって
負けはしない
裏切り者の血統なのだから
「全然怖くないよ」
俺は彼に嘘をついた
彼は驚きと同時に嬉しそうな声で
「本当に?本当に怖くないの?」
俺はうなずき彼の目の前へ
そしてその爬虫類のその瞳を見つめ
けしてそらさぬよう話しかけた
「母親に会わせてあげる その代わり協力してもらうよ」
そう言いながら俺は少しだけ笑った
初任務をこなした
これで俺も母親から誉められる
母親を失った彼と
母親を失いたくない俺と
裏切り者
恥知らず
俺が背負っていくはずの名前
12 ログ(記録)の中身
俺の任務は
この蛇の目を持つ者を監視する事
なぜこんな子供を監視しなければ
ならないかと言うと
蛇の目を持つ者は
世界を滅ぼすと言い伝えられてきた
世界を滅ぼす力をもった子供
それが彼ら
蛇眼族(ジャガンゾク)なのだ
ログを見たところ…
この子は
まさか…
サイト王がこの子に封印された何かを求めていることはわかっていた
そのためには同じような子供に彼を監視させる
必要があった
それで裏切り者の
俺ら種族が選ばれた
風を操り人を惑わす
鎖に繋がれた
屈託のない笑顔を見つめながら
俺の感情は微塵も悪びれてはいなかった
「少し待ってて」
彼の眼にゴーグルを付け
そう言うと俺は彼に背を向けた
「うん!かぁちゃんに会えるんだよね!」
「あぁそうとも会えるよ」
彼の母親について調べなければ
俺は彼に殺される
そう本能的に感じていた
怖くはなかった
ただ
失敗して
大好きな母親の
期待を裏切る事だけはしたくなかった
そのためにも慎重に彼を知る必要があった
彼の大好きなもの
母親を
渡された資料の中に
母親のログと父親のログも含まれていた
彼の大好きな母親にアクセスしよう
牢獄を後にして
俺はアクセス環境が良い場所へ
移動した
アクセス環境が良い場所とは
自分を縛れる場所
暴れても大丈夫な場所
鉄で覆われたイスしかない場所
そのイスに自分で自分を縛りつけ
アクセスする
人のログに喰われないように
俺は幸いログに喰われたことは
まだない
始めよう
母親のログを再生しよう
13 悲しく寂しく
ログの中では
その人物の目からの映像が
映画のように
再生される
微かに感情も投影されてくる
母親のログの中
子供の頃の母親
彼女は蛇眼族
蛇眼族とは
その名の通り目が蛇の目をしている
外見から判断出来るのはそこだけで
後は人間と変わらない
ただし
その能力は恐ろしく
身体から毒を放つ事が出来た
しかし彼らは温厚な種族
その能力は
いっさい使うことはなかった
能力最強の力
パープルヘイズを持っていたのが
彼の母親であった
パープルヘイズ
別名紫煙
彼女は
体内から強力な毒を発生させることが出来たのだ
この猛毒こそ世界を終わらせると言い伝えられていた物である
彼女の外見はとても美しく
この種族では珍しい
アルビノ種
全身が白く
黒目が大きいのが特徴である
そのため
彼女は
ほとんど見かけでは
蛇眼族とは思えなかった
しかし蛇眼族の中では
忌み嫌われていた
子供の頃から
真っ白な髪の毛と
黒目が大きく
蛇の眼ではないその瞳を
蛇眼族の人々は
この子は
呪われていると
決めつけ隔離していたのだ
温厚な種族とはいえ
同種族の狭い世界では
こういう事はあることなのだろう
幼い彼女は
どうすることも出来なかった
ただ悲しくて寂しくて
眼が黒いだけなのに
髪が白いだけなのに
それだけの違いだけなのに
この頃のログには
悲しくて
寂しい感情が多かった
彼の母親もまた
一人狭い部屋にいたのだ
彼と一緒だった
彼と母親の寂しいは
似ていた
そして俺も
軋む…No.14 11~13