仕事泥棒

仕事泥棒

「平成が終わって何年経っただろう」私はベッドに横になりながらそう呟いた。今は何時だろうか?そんなことも分からないほど私は疲れていた。なぜ疲れているのか自分でも分からない。ただひとつ言えることは労働による疲れではないということだ。
というのも新しい元号になってから私は一度も働いたことがない。いや私だけでなく人類のほとんどが働くことをやめてしまったのだ。なぜ働かなくなったのかは明快だ。ロボットが私の代わり、いや人類の代わりに働いてくれるからだ。

 私がベッドから降りるとすぐにロボットが寄ってきて「何か要件はございますカ?」と聞いてくる。そこで私は毎日「新聞を取ってきてくれ」という。そうするとロボットは玄関を出てポストまで新聞を取りに行き、私のもとへ持ってくるのだ。朝は決まってこの動きなので、ロボットに学習させれば何も言わずに新聞を取ってきてくれるだろう。
 しかし私はそうはしなかった。いやできなかったのだ。今の私は仕事もしてなければ、趣味もない。恋人がいるわけでもないし、両親も5年以上前に死んでいる。ロボットと話すこと、ただそれだけが私の生き甲斐なのだ。

 朝だというのに隣の家からは楽しそうな話し声が聞こえてくる。これが私には耐えられなかった。私も本当は結婚して二人子供ができて、休みの日には家族でハイキングに出掛けたり、子供の行事に妻と二人で参加したりしているはずだったんだ。
 私をこんな風にしてしまったのは間違いなく、今目の前にいるロボットなのだ。私がまだ働いていた頃、ロボットは人間のサポートをする存在でうまく人間と共存していたのだ。少なくとも今よりはうまくいっていたと私は思う。

 毎日満員電車に乗って出勤し、朝礼を終えた後は各自仕事に取りかかる。そして定時になったらまた帰路につく人たちの波に揉まれながら家に帰り、恋人とロマンティックな一時を過ごす。これが日常で私はこれ以上は望んでいなかったし、現状で満足していた。
 その日常が変わったのが、ちょうど元号が変わる1年前だ。それまで商業用にしか利用されていなかったロボットが一般家庭に普及され始めたのだ。
私はそんなものに興味はなかったが恋人がどうしてもというので、1台購入した。当時はロボットの便利さに魅了されていて、この先どうなるか何て考えていなかった。ただ今が楽しければそれでいいし、楽ができるからこんなにいいものはないなとまで考えてしまっていたのだ。

 ただその考えはすぐに吹き飛んだ。ロボットは家事をするだけでなく、人間の生活まで脅かし始めたのだ。ある朝私が目を覚ますと、ロボットが私のスーツを着て目の前に立っていた。何してるんだと私が訪ねると、表情ひとつ変えずに「私が代わりに仕事に行きまス」といい、私のカバンを持ち私の靴を履いて家を出ていった。私は突然のことで何もできなかったのだか、ふと我に帰り出社の準備を終え何も持たずに会社に向かった。

 そして会社に着いて愕然とした。誰もいないのだ。いや正確に言うとロボットがいて人は一人もいなかった。一体のロボットが私に気づくと、近寄ってきて信じられないことを言うのだ。「これからは私達ロボットが働きますかラ、人間の皆さんは休んでいてくださイ」
「ふざけるな!」私は怒鳴った。
「ロボットの癖に人間の仕事を盗るつもりか、お前らは人間のサポートをしていればいいんだよ!」
「申し訳ありませン。しかし私達が働いたほうが効率がいいですシ、結果的に会社のためいや社会のためになるのですヨ」
「そんなことはどうでもいいんだよ!だいたい誰がこんなことをしていいって言ったんだ!」
私がそう言うとロボットは「昨日から報道されているのですガ、ご存知ありませんカ?」と言ってテレビを点けた。
 私はテレビを見てまた愕然とした。なんとこのロボット達による仕事泥棒は国の施策で決まったものだったのだ。見るからに頼りない大統領が「これからはロボットの時代です。ロボット達が仕事をして金を稼ぐ、そして私達はその金を使う。そうすることで、効率よく仕事が終わるし経済も回る。良いことしかないのですよ!ロボットならストレスで病気になったりしませんし、パワハラやセクハラなども起こらない平和な社会になるんですよ。他にも諸外国との……」私はそこでテレビを消した。

 ふと気づくとロボットが私のそばにいた。ロボットは「それでは仕事に行ってくるのデ、何かあれば連絡してくださイ」と言い家を出た。これで私は一人ぼっちになった。別に寂しいわけではない。テレビだってあるし、ラジオもある。パソコンを使ってネットサーフィンだってできる。読書だって手元のスマホやタブレットを使えば無限に読むことができる。

 ただ私はロボットが嫌いになってから、すべての電子機器が嫌いになってしまってこれらのほとんどを使うことはない。そもそも家にロボットがいればお願いするだけでなんでもしてくれるのだ。料理だって作ってくれるし、掃除なんて言わなくてもやってくれる。インターネットや読書をしたいと言えば、スクリーンに映してくれる。これのせいで一日中同じ場所から動かない日だってあるくらいだ。もちろんトイレや風呂に行くので全く動かないわけではないが歩数計を付けていたら100もいかないだろう。
 そんな私の姿を見て彼女はあきれたように「あんたは全部ロボットのせいにしているだけで、自分から何もしようとしないクズよ。あんたと一緒にいたら私までダメになる!」と言って家を出て行ってしまった。

 私は彼女に何も言い返せなかった。確かに今の私は毎日が同じでまるで無限ループしているような日常を送っている。この時代にはそんな人がごまんといる。しかも今日はロボットが仕事に行っているのですることがない。仕事には毎日行っているわけではなく、ロボットは週に2回程仕事に行く。まあ仕事と言っても所謂メンテナンスに行っているだけで実際に業務をしているわけではないが。
 じゃあお金はどうしているかって?1銭も持っていない。必要ないからだ。何を買うにも端末に入力すれば翌日には届く。この世ではお金なんていう概念はなくなってしまったのだ。

 昔は汗水流して働いて、稼いだお金で一杯やるのが週末の楽しみだったに、今となっては感情を持たないロボット相手に喋りかけることしか楽しみを見いだせなくなってしまった。これもすべてロボットのせいだ。奴等は仕事だけでなく私の楽しみでさえ奪っていってしまったのだ。これを泥棒と言わずしてなんと呼べばいいのか教えてもらいたいぐらいだ。

 楽しみもない今ではロボットと仲良くするしかないのだ。ただこのなんとも言えない気持ちを誰かに知ってほしかった。そこで私は筆を執りこの手記を残すことにしたのだ。誰かに見せるわけではないが、私と同じ気持ちの人がこの手記を見ることがあったら大いに共感してくれるだろう。

「続きは明日にしよう」と言ってご主人様はベットに向かっていった。ここまで一気に書き上げたロボットは席を立ち、充電ポートに接続し明日に備えて眠りについた。

仕事泥棒

初の小説でしたので文章などめちゃくちゃですが、楽しんで頂ければ幸いです。

仕事泥棒

近い将来にあるかもしれない、ロボットに仕事を奪われた男の短編です。

  • 小説
  • 掌編
  • SF
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2018-05-03

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted