酸いも甘いも恋の味

恋の味って味わってみないと分からない。

始まり

「ねぇ…どこに行くの…」
「遠く」
「遠くってどこ…?」
「分からない…でも、ママとパパが決めたことだから…私行かなくちゃ…」
行っちゃう…せっかく仲良くなったのに…
「みっちゃん!!!」

「はぁはぁ…また…この夢…」
俺、駒越 優(こまこえ ゆう)。
園野大学附属高校 1年。
昔、俺が住んでいた所に幼なじみの女の子がいて
俺はその子のことをずっと10年間忘れられない。
その証拠に、たまに見る夢の中にその子が出てくる。あだ名でしか知らないその子を俺はずっとずっと想っている。

「まーた、その子が出てきたのか」
「またって言うなよな…文里」
俺の親友の菊地 文里(きくち もり)。
中等部からこの学校に来て最初の友だち、明るくちょっとぶっきらぼうだけど、友だち思いの奴だ。
優「今日もあだ名呼ぶ所までだった」
文「んー…もう諦めろよ。まともに名前も知らない女のこと想ってても損じゃねぇか?」
優「でも…みっちゃんのこと諦めきれない…それにいつか会えそうな気がするんだ」
文「お前いつもそう言ってるぞ」
優「文里、お前もな」
文「そうだっけか?」
文里は窓の外を見てとぼけた。
文「あれ…なぁ、優」
優「何?」
文「ウチの学校にあんな子いたか?」
優は窓の外に目をやると校門の近くを、見たことのない女子が歩いているのが見えた。
優「いや…いなかったと思うけど…中等部じゃないの?」
文「バカ、よく見ろー高等部の制服着てるじゃねぇか」
優「本当だ」
見たことのない女子を思わず優は目で追ってしまった。
文「意外と可愛いな なぁ?優!さっきから見とれちゃって~一目惚れか~?」
優「なっ!違うっ!」
文「みっちゃんって子なんか忘れて青春しちゃえよっ!」
優「怒るぞ!」
優は文里をバシバシ叩いた。
文「いてててて!もう怒ってるじゃねぇか!」
キーンコーンカーンコーン…
2人が話をしているうちに授業開始のチャイムが鳴った。
文「おっ、チャイムだ じゃあまたな」
文里は足早に優の席を離れ、元の席へと戻った。
優(まったく…文里のやつ勝手なこと言いやがって…みっちゃんは俺の大事な初恋の相手だ)
優「そんなに簡単に忘れてたまるか…」
優は小声でふてくされたようにそう呟いた。
しばらくすると、担任の先生が来た。
先程、外を歩いていた女子を連れて…
女子が教室に入るなり、教室内はざわめいた。
文「おぉっ!外歩いてた女子じゃん!」
担「文里、うるさいぞ」
文「へーい」
担「えー…今日転入になった 七枝 月咲(ななえだ つきみ)さんだ。ご両親のお仕事の都合で隣町から引っ越してきた。みんな仲良くするように、あと分からないことはどんどん教えてあげるように」
はーいとクラスの声が響く。
担「じゃあ、七枝 自己紹介を」
月「あ…はい 七枝 月咲です。引っ越してきたばかりでこの街のことはよく分かりませんが、色々教えてください」
月咲がお辞儀をすると、クラスのみんなは拍手を送った。
優(七枝 月咲…か)

淡いときめき

4月ということもあり、今日の最初の授業は遅れていたクラス委員長と委員会決め。
担「よし、クラス委員長と副委員長やってもいいぞって人~…挙手!」
教室内はしんと静まり返り、38人いるクラスとは思えないほどの沈黙が起こった。
でも、そんな沈黙を断ち切ったのは文里だった。
文「はーい、先生先生~」
担「文里がやってくれるか!」
文「ちっげぇよ!推薦っ!委員長は優、副委員長が七枝さん!」
優「は!?ちょっ!文里!」
月「えっ…」
2人は口をぽかんと開け、呆気に取られている。
担「おい、文里 2人とも了承してないぞ」
優「まぁ…文里が言うならやるか…」
優は呆れ半分で了承した。
文「よっ!待ってました~!優ならそう言うと思ったぜ~」
担「七枝はどうだ?」
月「…」
優(俺と文里はこのやり取り慣れてるからいいけど、七枝さんはどうするんだろ…)
月「…や…」
優「え…?」
月「やります!」
担「そうか!ありがとう!」
文「俺のおかげだな!先生」
担「そうだな!文里もありがとう!」
優と月咲は前に出て一言挨拶をし、委員会を決めた。

放課後
優「七枝さん」
月「はい?」
優「プリントの整理、先生が2人でやれって」
月「分かりました」

生徒はみんな帰って、いつもいる文里は今日は珍しく野球部の練習に行った。
2人きりの教室で、プリントの整理をした。
黙々と整理をしていると、ふと月咲が口を開いた。
月「みんな…部活に行ってるんですね」
優「えっ…あぁ、この学校は部活に力入ってるから」
月「えっと…ごめんなさい、お名前何でしたっけ…」
優「俺?俺は駒越 優」
月「駒越くんは部活やらないんですか?」
優「俺はあんまり部活とか…あ、でも趣味で走るのは好きだな」
月「そうですか」
優「七枝さんは部活、何やるの?」
月「月咲でいいですよ、私も優くんって呼んでいいですか?」
優「いいよ、で部活は?」
月「私は歌うのが好きで、合唱部がいいなって」
優「合唱…この学校にはないな、でもいいね合唱」
月「はいっ!」
月咲はとびきりの笑顔を優に向け見せた。
優は不覚にもドキッとした。
優(な…何…その笑顔…)
月「…優くん?」
優「な、なんでもない あ、プリント揃ったね 俺先生に届けて来る!」
そう言って優はプリントを抱えて走り去った。
優(何なんだあの笑顔はー!!不覚にも可愛いなんて思ってしまった…俺には…)
優「俺にはみっちゃんがいるのにっ…!」

教室
優がいなくなった教室には月咲1人。
月見は少しだけ寂しそうな表情で教室の真ん中で佇んだ。
月「優くん…」
そう優の名前を呟いて教室をあとにした。

恋って証

文「なぁなぁ優くんよー」
優「なっなんだよ いきなり'くん'づけして気持ち悪い…」
文「七枝ちゃんとはどうよ!もう付き合っちゃった!?」
優「はぁぁ!?」
文「声でけぇな…冗談だよ、でも惚れただろ」
優「ほ…惚れてなんか…」
優は顔を赤らめてそっぽを向いた。
文「おいおいマジか、図星かよ」
優「っ~!」
文「わかりやすいな、相変わらず」
優「か…可愛いなって…思っただけだよ」
文「ふーん…」
文里はにわかに信じ難いという表情で優を見る。
文「おっ、噂をすれば七枝ちゃんのお出ましだよん」
優「べ、別に好きじゃないってば…」
文「おーい、七枝ちゃん」
優(呼ぶなー!!)
月「は…はい」
文「俺、菊地文里 よろしく!」
月「よ…よろしく…」

酸いも甘いも恋の味

酸いも甘いも恋の味

  • 小説
  • 掌編
  • 青年向け
更新日
登録日
2018-04-29

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  1. 始まり
  2. 淡いときめき
  3. 恋って証