No.13物語 7~9
7 二本の足で立つもの
何とか危機は脱出した
ふにおちないが
助かった
少しは警戒を覚えたのだろうか?
きっと彼は
またやってしまうだろう
キーキーキーキー
頭上から聞いたことのない音がする
頭上には木々が
生い茂っている
彼は目を凝らし音がした方を見上げる
ガサガサガサ
葉が揺れ音を出す
何かに囲まれた
沢山の気配が彼の頭上にある
キーキーキーキー!
ギャーギャーギャー!
バサバサバサバサ
太陽の光が木の間から差し込み
上の気配の正体の邪魔をする
ボコ!
何かが頭に当たる
下を見ると
大きくて硬い木の種だった
これが飛んできて彼の頭に
当たったのだ
クラクラしている彼へ
また種が飛んできた
ボコ…
ボコボコボコ…
キーキーキーキー!!!
これは投げつけられている
これは頭上の気配が自分に投げているのだと
彼は理解した
頭に何発か当たり
意識がもうろうとしている
頭から温かい液体が垂れてきた
自分の頭から出ている
片膝をついた時
気配達は
その距離を一気に詰めてきた
キーキーキーキー!!!
すぐ近くで気配がする
目に温かい液体が流れ込み
視界を
さえぎりはじめた
何とか
目を意識を
しかし彼は両膝をついてしまった
気配はもう目の前にあった
さえぎられかけた
視界の前には
二本の足で立つ
何か達がいた
彼はもうろうとする
意識で手を広げた
自分と同じ形
二本の足で歩くもの
鳥達や虫達が
一人ではなかったように
仲間だと
8食べたい 食べられない
二本足で立つ者達は
彼を囲んでいた
彼は顔を上げた
仲間だと思っていた者達は
仲間ではなかった
二本足で立ってはいるが
自分のそれとは違っていた
身体も毛むくじゃらだった
その者達は
彼の匂いを代わる代わる嗅いできた
クンクンクン…
嗅いだあとほとんどの
毛むくじゃらは
首をかしげていた
そして目の前で
口論のような事をしたり
暴れたりしていた
どうやら彼を食べたいのだが
食べれなさそうで
イライラしているのだろう
彼は体から紫色の煙を出していたのだ
とても食べれそうではない
毛むくじゃら達も食べれないのならば
無駄な殺生はしない
それで解放するかどうかを
悩んでいたのだろう
すると首をかしげながら
小さな毛むくじゃらの子供が彼に近づいた
そして彼の体の匂いを嗅ぎ
「ウキキキキキッ!!」
笑ったような声で叫んだ
すると周りから
「ウキキキキキ!!」
「ウキッキッ!!」
大勢の毛むくじゃら達も
笑ったような声を出した
するとリーダーのような
毛むくじゃらが
牙で縄を切った
ドスン!
その場で彼は下に落ちた
リーダーはまだ牙を見せている
顎を突き出し
森の方を指した
向こうへ行けということらしい
それは彼もなんとなくわかった
毛むくじゃら達から食べられそうになり
毛むくじゃら達から食べられず
毛むくじゃら達の子供から助けられ
毛むくじゃら達から森へと追い出された
どうせなら食べてくれれば良かったのに
彼はまた1人になった
9 漂わせて
この世界の
食物連鎖にも加われず
また一人ぼっちになってしまった
同じような姿には未だ出逢えないでいた
彼は身体から
煙を出す事がある
紫色の毒々しい煙を
考え事をすると
紫色は出た
彼が歩いた後には
その煙がその道筋を
少しの時間漂わせる
毒々しい煙も
この世界の空気になり
やがて薄れ消える
彼は自分が歩いた道筋を
振り返る
確かに自分はそこにあった
ただ 時間がたった自分は
消えていた
何事もなかったように
ふと
恐怖心が襲った
消えたい自分と
消えたくない自分が
突然突風が吹いた
紫の煙は少しの時間すら
そこに漂わせてすらもらえず
あっさりと消えてなくなった
その時
消えたくない
煙に意識があるとすれば
きっとそんな乱暴に乱され消え行く事を
望むはずなどない
自分が発する煙に
何かを学んだ彼は
新たに
紫の毒々しい煙を出しながら
歩きだした
No.13物語 7~9