茸番

茸番

草片文庫(くさびらぶんこ)

茸短編小説です。PDF縦書きでお読みください。


   


 上州の山間の村に何軒かの家が寄り集まった小さな集落があった。その中でも小さな家の前で、立派な成りをした武士が馬から下りた。
 家は傾き、藁葺きの屋根からぺんぺん草が生えている。武士は倒れそうな家を一瞥すると、開け放たれた入口にすすみ声をかけた。
 「おたのみ申す」
 中からは誰もあらわれない。武士はもう一度声を上げた。
 「おたのみ申す」
 「なんでやんしょか」
 野太い声がいきなり後ろから聞こえ、武士はあわてて振り返った。そこには、手ぬぐいをかぶった百姓姿の男が籠を持って立っていた。籠には茸が詰まっている。
 「あ、あいや、失礼、草(くさ)片(びら)平太どのか」
 「そんですが」
 「拙者、字(じ)右(う)衛門(えもん)と申す、茸をよく知る者を探してこいとの殿の命を受け、いろいろ旅してまいったが、この地に来たところ、隣国にまで良く知られた草片平太殿を庄屋から聞き及び参った次第」
 「はあ、なんでしょか、まあ、汚いとこだがお入りなさるかね」
 平太は土間に入ると籠を下ろした。
 侍も後について入った。
 家の中は外見とは違い、綺麗に整っていた。床の木が綺麗に磨かれて、障子が映っている。平太の几帳面な性格なのであろう。
 「どんぞ、お上がりなすって」
 平太が土間から上がると、隣の部屋から茶色い虎猫が顔をだした。平太は「しっし、客だべ」と猫を追い払った。
 「おじゃまする」
 字右衛門は平太の前であぐらをかいた。
 「なんだべ」
 平太はこのような立派な格好をした侍と話をするのは始めてである。
 「草片平太殿は、茸を飼いならすことができると聞いてまいった、それはどのようなことでござろう」
 「庄屋さまがそんなこん、言いましたか、いや、飼うというか、茸を好きなように育てておりやす」
 「ほお、それは我々の目指すところやも知れぬ、して、どのようにすれば茸を好きなように育てることができるのであろうか」
 「なに、声をかけてやるだよ、かわいいかわいい、といってやりゃあ、可愛い形の茸になるべえ、旨くなれ旨くなれといえば、旨くなる」
 「誰でも出来るわけではなかろう」
 「んだ、庄屋様も隣の八こうもやってみたが上手くいかねえ、なんだか、おらの声が茸にとっちゃあ、聞きやすいんだべ」
 平太は籠の中から茶色の茸を取り出した。
 「こいつぁあ、真っ赤な茸だったに、茶色くなれ茶色くなれ言ってやったら、ほれ、この通り、茶色くなっただ」
 「それはどうしてであるかな」
 「こいつぁあ、紅茸って言って、旨い茸なんだが、真っ赤で誰も食おうとしねえ、それで、茶色くなってもらって、皆に売るんじゃ」
 「ほー、なるほどな、それで毎日声をかけねば赤いままであるのかな」
 「へえ、まず、ちっこいときから、声をかけねばなんねえ、だから、生え始めたちっこい茸が何の茸か知らねえと、上手くいかねえ」
 「それで、草片平太殿は、子どもの茸を見分けられるということか」
 「へえ、そりゃあ、子どものころから子どもの茸と遊んでましたでな」
 「なるほどそれは頼もしい、是非お願いがござる」
 「なんでござんしょ」
 「わが殿は茸がお好きでな、城を茸のよく生える山に建てたのだが、茸を育てる者を連れて参れとの命を下されたので、わしはこの地方にまいったのじゃ、いかがじゃ、やってくれまいか」
 「おらが、その山にすんで、茸を育てればよいのけ」
 「その通りじゃ、住む家と十分な報酬は与える」
 「そりゃあ、嬉しいが、猫を連れてってかまわなきゃ」
 「それはかまわぬ、家族はおられぬのか」
 「へえ、かかあは三年前に逝っちまって、娘は隣の村に嫁に行ったで、猫とおらしかいねえ」
 「そうか、それじゃ、また迎えに参るので、用意をしてくださらぬか」
 「へえ、いつでもでえじょうぶで」
 ということで、そのまま平太は字右衛門についていくこととなった。

 字右衛門の仕える殿は篠葉伍頼という頭もよく、腕の立つ侍であった。じきじきに江戸に仕えるものではなく、とある大名家の家来である。昔からその地方の長として、小さいながらもしっかりとした山城を築き、その地を治めていた。村民からは評判がよく、その大名は篠葉をそのまま家来として取立て、その地を篠葉の自由にさせていたのである。その地方とは今で言う群馬と新潟の境辺りの村落が点々としている場所である。
 城のある山は篠葉山と呼ばれていた。木に覆われているが、適度に光が入り、気持のよい山である。
 やってきた平太は大きな山の上にある山城の大きさと広さにはおったまげた。
 字右衛門は山の中腹にある茅葺屋根の小屋に平太を連れて行った。小屋の脇には泉が湧き出している。木に囲まれいかにも茸が生えそうなところである。そこにはもう一つ立派な家があった。脇には馬屋もある。
 「ここがおらの家かねえ」
 「そうじゃ」字右衛門はうなずいた。
 藁葺き屋根の家の前で平太は猫をおろした。猫は家の中に一度入ると、すぐに出てきて恐る恐る泉の辺に遊びに行った。
 「こちらのお家はどなたさんので」
 馬屋付の家を平太が指差した。
 「殿がたまに狩にいらっしゃり、休むところとして使われている。この家の養生も頼みたい」
 「へえ、お安い御用で、あっしは若い頃鳶もやっておりやした」
 「それは都合がよい」
 「時には茸がりにみえることもある」
 「まだ、どこに何が生えているかわかんねえけど、それまでにはみときやす」
 「それはたのむ、朝には城の賄いの女が茸を受け取りに来て、次の日に用意しておく茸を指図する、それに見合う茸を探しておいてくれ、殿の御膳には必ず茸をつけなければならぬ」
 「生でねえといけねえんでしょうか、冬はなかなか難しいで、干した茸をたくさん作っておくのではだめですけ」
 「もちろんそれでよい、それと、この山の茸だけではなく、この辺りの山すべての茸をみて欲しいものだが、いかがかな」
 「へえ、歩き回らせていただきます、村の茸採りを連れて、茸のとり方を教えてやりやしょう」
 「村のものが採ってきた茸で、良いと思うのは買ってくれ、賄いの女に言って入用な金をもらえばよい」
 「へえ、ありがとうございます」
 「そなたの米など必要なものは城の厨にくれば支給するので、村に買出しに行く必要はない。
 「へえ、それもありがとうございます」
 「年に何度かほど、村の男たちに頼んで、この山の養生をしてもらっておる、もし気が付いたことがあったら、その者たちに言って、より茸が生えやすくしてくれ」
 「はい」
 こうして草片平太は篠葉山の茸番になったのである。着いたその日から平太は山の中を歩き、数日後には大体の地形を頭に入れた。
 平太は日が顔を出すころにはもう山の中をひと歩きして、家に戻ると朝飯の用意をする。朝飯を食べる頃に、賄いの女が城の余ったものなどを差し入れてくれ。おかげで、昼と夜の食事は前より数段に豪華になった。
 賄いの女は年のころ十六、七、赤ら顔の恰幅のよい娘であった。しかし、よく動き、気立てはよく、平太の猫にも餌を持ってきてくれた。名前をイワと言って、村の水飲み百姓の三番目の娘であった。からだが丈夫で、よく働くという評判を聞きつけた城の賄所が雇ったのである。
 イワは平太のことを爺ちゃんと呼ぶようになった。
 「爺ちゃん、明日は、山女を焼くで、それに美味しい茸をつけてえんだが、なにか用意してくれや」
 というようなことで、料理に見合った茸を平太が探して用意しておく。平太も山に慣れ、子どもの茸に声をかけ、味のよい茸も採れるようになってきた。
 そうこうすると、字右衛門がやってきて、殿が喜ばれているという話をした。
 「殿様はどのような茸がお好きでございやしょうか」
 「味がよければよいのであるが、最近は茸の形などに話が及ぶこともある、面白い形で、旨いものがあれば採っておいてくれ」
 そう言い終えて帰った後、すぐに平太は軒に干しておいた茸の中から網傘茸をはずしておいた。朝早く水に入れ戻しておいた網笠茸をイワにもたせ、すまし汁に入れて殿に出すように言った。
 それから、殿は何度も網笠茸を所望されるようになり、炒めたものや焼いたものなど、料理の仕方も工夫した。

 そんなある日、いつも元気なイワが何かしおれている。
 「どうしたい、おイワ、元気がどこかいっちまったか」
 「うん、爺ちゃん、あたい黒岩って言われた、色黒いから」
 「どいつじゃ、そんなひどいことを言うのは」
 「お姫様」
 「いくつなんじゃ」
 「五つ」
 「なんじゃ、そんな子供に言われたって気にするこたあないべ」
 「それから、仲間もみんな私のこと、クロイワって言うの、色が白くなりたい」
 平太ははたとその時気が付いた。
 「よし、爺ちゃんにまかせておけ、色を白くしてやるべ」
 「ウン、でも、白粉塗るのじゃだめ、ほんとに白くなりたい」
 「今度、顔に塗ると黒い色が溶けちまう茸を探しておいてやる、でも他の人に言うでないよ」
 「ウン」
 平太は山の中で草陰に頭を出していた子どもの茸を見つけると声をかけた。「色白になる茸になれ、色白になる茸になれ」
 その茸が大きくなると採ってイワに渡した。
 「朝起きたらな、この茸をな、すりつぶして、顔に塗り、洗うんじゃ、それを七日間やると、顔だけじゃなくて体みんなが白くなる」
 「うん」
 茸をもらって帰ったイワは次の朝早く井戸端に行き、すり潰した茸を顔に塗って、井戸水で洗った。顔から黒っぽい水がたらたらと流れた。その夜、寝る前にからだを水でこすったら、手ぬぐいが黒くなってきた。しかし、水に映る自分の顔を見てもいつものように赤黒い顔であった。
 七日目、残っていた茸をすり潰して顔に塗って洗った。水面に映っている自分の顔を見ても変わりがない、爺ちゃんはああ言ってたが、自分には利かなかったのだろうと、あきらめの気持になった、
 夜になり、その日は風呂に入ってよい日であったので、周りの女御衆と一緒に、湯殿に行った。
 湯をかぶり湯に浸かった。
 「イワちゃん、あの茸のおじいさんの採る茸は美味しいね」
 一番年の近いフキが声をかけてきた。
 「ウン、いい爺ちゃんだ、茸のことをよく知っとるよ」
 イワは豊満なからだを湯からおこした。
 それをみた賄所の頭であるマツがびっくりした。
 「イワ、どうしたんじゃ、真っ白になっちまったじゃないか」
 イワが驚いて自分の少し突き出たお腹を見ると、ピンク色のきれいな肌になっている。手や足を見ても同じである。
 「あれ、ほんとだ」
 フキも驚いてイワのふっくらした尻に手をあてた。
 「つるつるしてる、どうしたの」
 イワは本当に茸が効いたのだと分かった。だけど爺ちゃんは内緒にしておけと言っていた。
 「どうしたのかしら」
 「もう、黒岩って呼べないねえ」
 いつもからかう連中も驚いている。
 「桃色の豚になっちまった」
 中で一番口の悪いオサキがまた軽口をたたいた。イワの次に黒かったのがオサキである。
 マツが「そんなことを言っちゃだめだよ、色が白くなっただけでもいいじゃないか、イワきっと何か秘訣があるのだろう、よく朝早く顔を洗っていたね、それが効いたんじゃないかね」
 とオサキをいさめた。オサキは五つか六つイワよりも年上で、要領もよくからだも引き締まっていてなかなかの整った顔をしていたのだが、色が少し黒かった。オサキもイワと同じように水呑み百姓の娘であった。
 イワは「うん、そうかもしれねえ」と相槌を打った。きっとオサキも朝一生懸命顔を洗うに違いないと思った。
 次の朝、イワは平太に言った。
 「爺ちゃん、おかげで、色が白くなった、ありがとう、だけんど、色の黒い人がかわいそう」
 「なあ、イワ、色が黒かろうが白かろうが、本当はそんなことはどうでもいいんだべ、大事なのは、からだが丈夫で、他の誰かをいじめねえのがいいんだ」
 「うん、桃色豚って言われたけど、もういいの」
 「そうだ、ちょっくら太っていたほうが可愛いしのう、子ども産むにはそのほうがええんじゃ」
 「うん、だけど、あたしだけ白くなったのは申し訳ないと思うんよ、あたしをいじめるおサキさんも色が黒いけど、白くしてあげたい、じいちゃんに茸もらったこと言ってねえけど」
 「そうか、もしイワが欲しいというなら、また茸作ってやるべ」
 「それじゃ、おサキさんの分も欲しい」
 「いいよ、あの茸はこれから育てて、三日もあれば大きくなるだろう、それをもっていけや」
 「ありがとう」
 それから山に入った平太は、子供の茸に「色白になる茸になれ」と声をかけ、茸を育てた。三日後にイワに持たせたのである。
 
 「おサキさん」イワはサキに声をかけた。
 「なんだい」
 「実はね、色が白くなったのは、平太爺ちゃんが、白くなる茸をくれたからなの、この茸をすりつぶして、毎朝顔に塗ると、七日後には白くなるの」
 サキの目が丸くなった。驚いているのである。
 「イワはそれで顔を洗ったから白くなったのかい」
 「はい、それで、爺ちゃんに、だまってろって言われてたけどおサキさんにもくれるようにいったら茸を採ってきてくれたの」
 「え」
 サキは茸を受け取るとうつむいたまま仕事にもどっていった。七日後にイワたちが湯に入ったときである。サキはイワの目の前で風呂から立ち上がった。黒かったサキの顔は透きとおるように薄桃色になり、ぴんと張った小さくも大きくもない乳房ははちきれそうに上を向いていた。顔はやはり桃色に上気し、黒い目がますます大きく見えた。
 「おサキさん、きれい」
 イワが言った。周りのみんなも目を見張った。
 「おまえさんも白くなったんだねえ、みごとだね」
 マツが不思議そうな顔をしてサキを見た。
 「イワと同じように白くなった、顔を洗ったのかい」
 サキは頷くとからだを湯に沈め、イワに向かって小さな声で「ありがとう」と言って、後ろを向くと泣いていた。
 イワは嬉しかった。
 その後、サキとイワのからだの白くなったことが城の奥に伝わり、二人が奥方様に呼び出された。
 奥方様はイワとサキの色の白さと肌のきめ細やかさに驚き、どうしたのかと尋ねた。
 「私も白くなれぬのであろうか」
 イワはただ縮こまっていたのであるが、そこは年長のサキである、イワが平太から白くなる茸をもらってきたことを話した。それは殿に伝わり、字右衛門に草片平太を城に呼ぶように言いつけたである。
 
 字右衛門は平太を引き連れてきた。平太は殿と奥方様の前に座らされた。
 縮こまっている平太に殿様が声を掛けた。
 「草片平太、楽にせい、いつも旨い茸じゃ、礼をいう、それに肌がきれいになる茸を育てたということだが、それはまことか」
 平太がなかなか頭を上げないので、字右衛門が平太を起した。
 「殿にお答えを」
 「へええ、カワリジコウという茸でございます」
 「おお、わしも知っておる、色変わりというやつじゃな」
 篠葉の殿も茸については詳しい。
 「はい、その通りでございます、その子どもの茸をとらえ、白くする茸に育てたのでございます」
 「ほう、字右衛門からその方に不思議な力があるとは聞いておる。その茸を使うと誰でも色が白くなるのか」
 「へい、信じればみななれますだ」
 「どうじゃ、我々一族の女子にそれを作ってくれぬか」
 殿は二人の娘と奥方のために茸を作るように言った。
 「はは、お作りいたします」
 平太がうなずくと、殿は「わしもそなたの茸を育てるところを見てみたいものだ、明日朝早く、そちらにまいるがいいな」と言った。
 「へえ」
 ということで、次の日、平太の家のところに、殿が何人かの供の者をつれてやってきた。平太がここに来てもうすぐ一年になる。初めて殿が平太の住んでいる隣の家にやってきたのである。
 「久しぶりじゃ」
 殿は馬を下りると、休み所に入った。
 殿は平太の住む家の軒にたくさんの茸が干されているのに気が付いた。
 「ずい分たくさんの茸があるが、みな同じものか」
 「いえ、いろいろなものがごぜえます。お殿様の好きな網傘茸もこのように干してありますので、いつでも使えます」
 「それは便利じゃの、それでは茸を育てるところを見せてくれ」
 「へえ、どうぞこちらで、遠くではございません」
 平太は山の上に行く道を指差した。
  道の脇には様々な茸が顔をだしていた。
  殿と数人の家来、字右衛門もいたが、道を登りはじめた。
 「どうじゃ、わしが選んだ山は茸がよく生えるじゃろう」
 「へえ、さすが殿様で、おらがすんでいたところには、このようにいろいろな茸が生える山はありませんでした」
 「そうであろう、探すのに時がかかった」
  ちょっと登ったところで、平太は草の中に声をかけた。
 「美味しくなれよ、美味しくなれよ」
  道の反対側にも同じように声をかけた。
 「甘い茸になれよ、甘い茸になれよ」
  このように平太は小さな茸に声をかけながら山を登っていった。中腹に来たところで、林の中を横に歩き始めた。そこここに茸が生えていて、平太は様々な掛け声をなげかける。
  下草が薄れている広場に出た。平太は色白になる茸になれ、色白になる茸になれと声をかけた。殿が目を凝らすと、小さな茸が頭をもたげて、あちらこちらにでていた。みな同じように見える。
 平太はそれらに向かって、よく通る声で「色白になる茸になれ、色白になる薬になれ」声をかけた。といってもその場でなにがおきるわけではない。
 平太は小さな草の間に顔をだしている茸を指差した。
 「これがカワリジコウの子供でごぜえます」
 「そうか、これにそのほうが声をかけると、白くなる薬になるのじゃな」
 「へえ」
 「なぜ、そちの声が茸に伝わるのか分からぬが、たいしたものじゃ」
 家来衆は何がなんだか分からない顔をしていたが、殿は頷きながらみなに言った。
 「そちらには分からぬであろう、雷は茸を育てる。あれは雷の声を茸がききわけているのだ。雷は光、音をだし、茸は光の栄養を吸収し、雷から大きくなるように命令を受けるのだ、この草片平太にはそれに相当する声があるようなのだ、茸が平太の言うことなら聞くのだぞ、大したものだ、平太、いつかこの茸たちを歩くようにしてくれ」
 なかなか難しい命令ではあるが、平太は楽しそうに頷いた。
 「やってみますだ」
 「ウム、面白い、たのむぞ」
 それから、肌を白くさせる茸を大きく育て城に献上した。それを塗った姫たちや奥方様は色が白くなり、城で働く女子衆もみな、その茸の恩恵をこうむり色の白いきれいな女性になっていった。
 イワもサキも殿のおそばに召し上げられた。殿には何人も子どもが生れ、姫たちは平太の茸のお陰でみな色白の美人に育った。
 篠葉の殿の姫はみな器量よしという評判が立ち、いろいろな国の力のある者たちと姻戚関係になり、篠葉の地は栄えていった。さらに殿は肌を白くする茸を村の娘たちにも与えるように平太に命じた。村の隅々までその茸は配られ、娘たちは色が透きとおるように白くきれいになった。遠方からも娘をもらいたいという話がまいこんでいた。こうして色白の美人をうむ地方として篠葉は栄えていったのである。
 
 時はたち、篠葉の殿も字右衛門も年老いて死に、子どもの代、孫の代になった。しかし、草片平太は元気に茸の番をしていた。虎猫も一緒に元気であった。
 草片平太の周りに、茸たちが集まってきた。平太は猫と茸を従えて、篠葉山で茸を育てていた。平太は篠葉の殿と約束した歩く茸を育てることに成功していたのである。
 それになぜか誰も気付かずにいたことがある。平太の年である。それは平太が採れた茸を家の前においておくと、受け取りに来る係りの者が持っていき、衣食住に必要なものを置いていくという、日常の行いがあたりまえになり、城の者は平太に会うことなくことが足りていたからである。平太はもし年を数えると百三十歳ほどになるのであろう。
 イワもサキもとうに亡くなっている。
 草片平太は不老不死になる茸を育てることに成功していたのである。飼猫と共に、平太は今でもどこかで生きているのである。歩く茸に囲まれて。
 
「茸童子」所収 2020年自費出版予定 一粒書房

茸番

茸番

茸好きの城主に召し抱えられた、茸採りの名人が茸の山を任せられる。新しい茸が生まれる。

  • 小説
  • 短編
  • ファンタジー
  • 時代・歴史
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2018-04-27

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