僕らの僕らによる僕らのための青春
部活で創ったやつです。短いですが、どうぞ軽い気持ちで読んでくださいm(_ _)m
「突然だがお前ら、ここはひとつ、『青春』とは何かについて考えてみようじゃあないか」
本当に突然、隣に座っていた春仁(はるひと)は言った。
ここは僕たち三人以外誰もいなくなった放課後の教室。部活が休みになった僕たちはまっすぐ家に帰る気も起こらず、コンビニで買ってきた菓子パンなんぞを食いながらだらだらと時間を潰していた。
「何言ってんだお前。冗談は顔だけにしろ」
すかさず鋭いツッコミを入れたのは正輝(まさき)である。春仁には目もくれず、菓子パンをうまそうにむしゃむしゃと食っている。
「貴様! 何をさらっと失礼なツッコミ入れてんだ! 俺は真剣だぞ!」
春仁は立ち上がり、菓子パンのカスを口の周りにはり付けながらまるで演説でもするかのように言った。
「いいか、俺らは今年から受験生だ。それぞれがそれぞれに抱く夢に向けて必死になる年。その代わりのように部活もあと残りわずかだし、今までのように自由に遊びにも行けなくなる。そんな時に『青春』について考えるのはとてつもなく意味があることではないか諸君!」
確かに、春仁の言うことにもうなずけた。
今年の春、僕たちはもう高校三年生。ということはつまり、部活引退も迫っているということだ。学校の行事もほとんど参加できなくなる。みんなが目の色変えて勉強しだして、こうしてダベる時間もなくなっていって、来年の今頃はもう、
卒業。
正輝も同じことを考えていたのだろう、珍しく何もツッコミを入れず、黙って春仁の言葉を聞いていた。かといって、『青春』について考えることに何も疑問を抱かなかったわけではなかったのだが、何分暇だったので僕たちは春仁の突然の思いつきに乗ってやることにした。
「では、俺から意見を述べよう。俺が考える『青春』とはだな……」
「「『青春』とは?」」
「やっぱり彼女とのイチャイチ
「はいじゃあ次俺ね」
「うおおおおおい! なんで今遮った!? 俺の貴重な意見だろうが!」
「いや、なんか下らなそうだったから」
「下らなくねえ! いいか、『彼女(仮にいたとして)とのイチャイチャライフを勝手に想像して一日を過ごすこと』これは世の中の青春時代を謳歌する男子が必ず通る道だろうが! つまり、これこそまさに『青春』の代名詞!」
春仁は立ち上がり、一人で勝手に盛り上がっていた。
彼女がいるとかいないとか、そういう話は春仁の専売特許である。興味がないと言えば嘘になるのだが、僕も正輝もそういう話にはあまりついていかない。ホントはどう対応すればいいのか分からないだけなのだが、それを言ったら春仁にバカにされそうなので黙っている。
しかし、今日はするりと言葉が出てしまった。
「え……でもすでに彼女がいる奴とかはしないだろ」
僕の言葉で春仁はピタリと(というかビキッと音を立てて)動きを止め、そのまま地面に崩折れた。
「うわああ! 清太(せいた)! それを今……今言うんじゃねーー!」
「あ、ごめん。」
春仁が落ち込みモードになってしまった。こういう時はほっとくのが一番だ。
そう思い、正輝に話題を振ることにする。
「えと、正輝の意見は?」
正輝は4つめの菓子パンをほおばりつつ、僕の方をちらりと見た。
「飯、だな」
「は?」
「だから、飯だよ飯。中学からそうだが、常に腹が減ってる。俺の青春飯のイメージしかねえわ」
確かに、正輝はいつも何かを食べているイメージがある。急に伸びだした身長、がっちりした体格……思春期の成長期に合わせるように、男子高校生の食欲は(特に、体育会系は)増していくのだ。
僕はというと、同じスポーツ部でありながら、身長も体格も食べる量もまるで増えた気がしない。だから、正輝のことは少し羨ましかった。
「清太、お前はどうなんだ」
今度は正輝が話題を振ってきた。春仁は相変わらず床に突っ伏している。
僕は窓の外を見た。遠くでテニス部の掛け声が聞こえる。そういえば大会が近いのだとキャプテンが言っていたっけ。
「僕が思うにさ、『青春』って、「自由」とイコールだと思うんだ」
ポツリと、ごく自然に言葉が出てきた。
本当にそうだと思う。
授業中に居眠りしてしまったり、休み時間にバカ騒ぎしたり、誰かを好きになったり嫌いになったり、学校の行事に参加したり、部活で汗を流したり、春仁と女子の話をしたり、正輝の男らしい身体に羨望を抱いたり。
何をしても、何を思っても、その全てが『青春』という使い古された言葉の一部になる。大人になれば、そんなこと絶対にない。
それなら
「『青春』が青春である限りは、僕らは自由なわけであって」
残りあと一年。
「清太? どうした」
急に黙り込んだ僕を不思議に思ったんだろう。いつのまにか春仁が僕の横に座っていて、顔を覗き込んできた。
「別に、なんでもないよ。ただ……」
「ただ?」
「受験生も、良いもんだなって思って」
「……」
「?」
「う、うわあああ! 清太が、清太がおかしくなった―! 受験生が良いもんだと!? 貴様舐めてんのかーーーー!」
春仁が椅子を振り上げる。身の危険を感じた僕(と正輝)は残りの菓子パンを口の中に詰め込み、カバンをひっつかんで教室を飛び出した。後ろから鬼のような形相で春仁が追いかけてくる。
「待たんかあああああ! ちょっと成績が良いからって馬鹿にしやがってええええ!」
ギャーギャー叫びながら廊下を駆け下りる。先生の怒鳴り声が聞こえたような気もしたが、きっと空耳だろう。
あと、一年。僕らが『青春』を卒業する日まで、それまでどうか、精一杯の自由でいられますように。
僕らの僕らによる僕らのための青春