ムウミン

崩壊者

 あなたは気が狂った事ありますか。、

 果てのない砂漠で飢えた人間がみる幻覚、そして報われることのない喉の渇き。暗黒が支配する闇の中にいる一人の男がいた。

 アラビア語で「信仰を守る」という意味のムウミン。イスラムには九九の美名が存在する。その一つがムウミンである。

 ムウミンは、砂漠の遊牧民だった。朝にはラクダの世話をして、夜には星空の下で眠り、次の日は、、、毎日の繰り返し。そう、毎日の繰り返しなのだ。時には、ラクダが出産したり、夜空を眺めていると流れ星が落ちる、といった自分には何も関係のない事件が起きたりする。私は退屈していた。退屈になると人間は邪な考えが浮かぶものだ。退屈は集団催眠のように、人々を襲う。そして、退屈な日々が人を本当の暗黒に落とす。その標的はムウミンだった。標的という言葉には語弊があるかもしれない。そうだ、ムウミンがそれを望んだのだった。

 ムウミンは、歩いた。どこに…。果てしない道、変わる事のない風景。砂漠の中にあるオアシスを巡るのか。ムウミンはなぜ歩き出したのか。本人もそれは知らなかった。ただ、退屈から逃れたくて歩いた。自分を鼓舞する空想に浸りながら、ひたすらに歩いた。ここはどこだろう。周りは砂の山。なぜなら、ここは砂漠だから。そう砂漠なのだ。昆虫も動物もいない。草も生えていない。無機質な世界。
 人間の自我は強靭であればあるほど、物事の本質を鋭く壊す力も増す。しかし、その自我には誰しも限界がある。壊れたら二度と元には戻らない。諸刃の剣、それが強靭な自我。そのような強靭な自我で世界を切り開いてきた偉人は多い。偉人達は諸刃の剣の扱い方に手慣れていたのだろうか。しかし、自ら命を落とした偉人もいる。例外はあるみたいだ。
 
 時間の流れは残酷にムウミンを襲う。ムウミンは飢えてしまっていた。自分の髪の毛を食べるほどに。もう空想している暇ではなかった。飢え渇き、死を悟るほどに心が暗黒に落ちてきた。こうなると人間は弱い、強靭な自我でもって死を覚悟する。そういった偉人もいた。しかし、ムウミンは死を覚悟できなかった。そう、生に執着していたのである。

 人間は生に執着してはダメだ。死をつねに身近にあるものとして生きなければならない。ムウミンは空想ゆえに旅に出て、空想ゆえに死ぬ。空想がムウミンを虜にしていた。ムウミンは死の寸前で悟った。現実をありのまま受け入れて生きようと。その時ムウミンは目を閉じ、うつ伏せで砂をかじりながら願った。
 「私のいのちはここで終わっても、私のいのちは始まったばかりだ」

 ムウミンは、信仰を守り、その名の通り死んでいった。

ムウミン

ムウミン

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2018-04-23

Copyrighted
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