竜と神と人間と#4

 現在時刻午後7時。待ち合わせのホテル屋上。てか、何で俺が上で見張ってなきゃいけないんだよ。美味しいところ全部持って行きやがって。西園寺(あいつ)とメイドだけホテルで待ち伏せなんだよ。俺も混ぜろ。入ったのを報告したら行ってやるからな。
そもそも、蜘蛛のように忍び寄るってコンセプトなのに堂々と出現場所に隠れるってなんだよ。
(新入りは雑用からだよ。社会の基本だよ)
うるさい。何様だよ。
(神を超える者だ―)
テレパシーが途絶えた。多分あのメイドに蹴り飛ばされたんだろう…。
(ご名答だよ。それよりも来たよ。南東の方だよ)
言われた通り見るとそこにはとても真面目な仮面を被ってる悪魔がいた。…まぁ人だけど…。標的ターゲットの名前は晴海(はるみ)秀彦(ひでひこ)。コイツは晴海女学院の理事長の息子らしい。全く、権利を振りかざすようなクズはこの世界にはいらない。消去(デリート)だ。
 一応指定された部屋にはカメラを飛ばしてるから様子は確認できるな…。
部屋には依頼人の藤宮夏海しかいないように見えるが、箪笥(たんす)の陰にはメイド。扉の後に透過魔法インビジブルを使って隠れてる。隠れてるがカメラにはガッツリ映ってる。悪い顔してるなー。人の為に動いてる感じがしないな…。あ、もうホテルに入ったぞ。
(了解。しばらく監視しててねー)
武器はいらないな。面倒だし寝てようか。という冗談は置いておくとして俺は何をしようかな。帰るか。報酬はあの石川とかいう女を利用すれば何とか貰えそうだな。
(帰るなー。こっちはこっちで終わらせておくから面白そうな人達のリストを送ったよー)
面白そうな人達ってなんだよ…。闇金?風俗?ヤクザ等のその他諸々を一斉に取り締まり?何で、こんなことをするんだ?
(人口が100年以上前から変わらない理由って何だと思う?)
知らないし興味無い。
(答えは簡単。僕が殺してるから。社会のゴミばっか増えて真面目に生きてる人間が減っていくのはおかしい世界だからね)
サラッとすごいこと言ったな。まぁ、異論は無いしいいんだけどな。
(殺し方には条件があるよ。所持金は全部回収してね。店にいたら売り上げ金も回収してね)
金がどんだけ大事なんだよ。人の命より金か?
(悪い人の命よりお金です。善良な一般市民は手厚く守りますよ。あ、善良なふりををしている悪い人は懲らしめるよ)
良い奴なのか悪い奴なのかよく分からないな。
まぁ、昔なら社会のゴミでもできた仕事だが、今は魔族達(デーモン)の仕事だ。というか、人間は慎ましやかに生きてもらわないと困るんだよ。犯罪まがいのことをしてお金を稼ぐことが許されるのは免罪対象の人間以外の種族の生き物だ。つまり、西園寺がやっていることは法的にはセーフだ。まぁ、そんなことはどうだっていい。今はその社会のゴミを掃除しなければならない。
 そんなことを話したいわけではない。こいつらを殺処分しに行くか。
(長いよ!早く行ってよ!こっちは仕留め終わったよ…。全く…)
早い。テレパシーで会話してるから何も音が聞こえなかった…。
というより仕留め終わったって熊かよ…。
(清掃活動は次回だね)
勝手に持ち越すな。そもそも次回ってなんだ。さっさと行くぞ。

死体の回収に向かったら見るも無残にバラバラにされて頭だけが綺麗に残ってた。
頭だけを何に使うんだ?
西園寺早く答えろ。
「テレパシーだけで会話するのやめない?」
「ご主人様。標的(ターゲット)の討伐に成功したので掃除が終わったら先に帰ります」
「コイツは手伝わないのか?」
「ミミは処理班だからね。さ、僕達は残業だね」
残業代出ないなら行かない。
「…。所持金は全部回収していいんだよ」
「西園寺。何やってる。まずは一番近いところから行くぞ」
「ノヴァから聞いた以上に守銭奴(しゅせんど)だな…」
細かいことはいい。
 
さて、俺はこういう汚いビル街が嫌いだ。空気が汚い。魔族達(デーモン)が経営してるところならこういうことはない。もちろん理由は明白だ。合法でやっているかどうかの違いだ。人間がやるのは今は違法だ。違法だからバレないようにしている訳だ。
「だがしかし、警察は何もできない。魔法管理委員会も管轄外で使い物にならない。だから、僕が学校と密かに連携して取り締まってるの」
「リストには関係ない人もいるけどそれは何でだ?」
「それはこっちに連れてきたよ」
ポータルタブレットを弄ると人が幾人か出てきた。全員の目玉が無かった。
「左から詐欺師、詐欺師、漁師、密売人、詐欺師。あとこの肉はホステスの舌」
…………。
「…。詐欺師多くね?」
「そこ!?いや、別に間違ってないけどね。この詐欺師達は巧妙な手段で貴重な善良な市民が狂ったの。だからこうやって裁きを与えたんだけど」
「これ生きてるのか?」
「死んでるよ。それはいいよ適当に処分しておくから。御門は他の所に行って取り締まってね。終わったらここに集合だよ」
そういうと西園寺はビルから消えた。
 何で面倒なことをしなくてはいけないのか。それは簡単だ。人がいるからだ。しかし、人は減ることはない。この矛盾を無くすことはできないが…。
集合場所のすぐ下の階にテレポートしてきたら
「はぁ…。このどうしようもないイライラはどうすればいいのやら…」
「お前…。何者だ?公安か?お前らこいつを殺せ!」
すぐに周りの黒い服を着た男に囲まれた。
「殺せじゃねぇんだよ!イライラさせるな!」
思わず怒鳴ってしまったが、イラつく。こういう人間のせいで魔法使いが困っているんだ。引き篭もっている時にワイドショーでよくやっていた。一部の人間のせいで善良な市民が困るんだなぁ…。そんな奴は死ねばいいのに…。
「殺すか…」
人ってホントに痛いと無言なんだな。それにしてもいい血しぶきだ。
一気に20人の首を切るのは大変だな。腕も痛いし返り血をすごい浴びるから嫌いだ。金も回収したし帰るか。
「流石、竜だけあるね。人くらいならあっさり殺せちゃうんだね」
「世界最古の武器である隕鉄を使った剣メテオストライクだ」
「それってオーパーツじゃないの?勝手に使ったら怒られ―」
模造品(レプリカ)だからいいんだよ。てか、オーパーツの大半が御門研究所が見つけた物だから私有物と同じだ。いちいち(うるさ)いぞ」
俺の話を無視して死体をポータルタブレット使って回収していた。
「まぁいいや。その死体を回収するのを手伝ってよ」
「お前はその薄気味悪い物をどうするんだ?」
「僕の家は生物学を専門としてるんだ。君のところは機械工学と考古学だろ?生物学でもヒトはまだ分からないことが多いからこうやって回収してるんだよ」
回収するか、解体するかどっちかにしろ。
「じゃあ、解体するからそこに転がってる頭を取ってよ」
「ほらよ」
頭を蹴り飛ばして渡した。
「大事な商品に傷をつけないでよ」
「何が商品だ。魔法省に届け出を出してからやれ」
皮膚(ひふ)と髪の毛を取り外して骸骨だけにしたいんだよ」
さっきの頭といいもしかして…
「…。お前さ、うちの研究所に水晶で出来た骸骨を送ったことあるか?」
「どの骸骨?沢山送ってるから分からないよ」
やはりこいつが犯人か…。
S級レベルでレアな水晶骸骨(クリスタルスカル)が届いて最高に興奮したが、翌日に箱で届いたのですっかり興奮も冷めてしまった。人の手で作れるとかおかしいだろ…。
「そんなことは今はどうだっていいんだよ。御門君が落ち込もうが僕には関係ないんだよ。さ、帰るよ」
すごい雑に終わらせやがって…。
俺たちはテレポートを使ってそのまま各々の家に帰った。

竜と神と人間と#4

竜と神と人間と#4

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 青年向け
更新日
登録日
2018-04-22

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