奴隷ハーレムの作り方#29~世の中金である~
それから数日の間、俺はタージェの商館で久しぶりの休暇を思うままに過ごした。
といっても、名目上療養なのでただただベッドで過ごしただけなのだが。
本当は治癒魔法で身体はなんともないので歩き回りたかったのだが、リーナがそれを許してはくれなかった。
曰く、身体は何ともなくとも精神は別なのだと。
心が疲れていると、身体にも支障が出るものなんだと。
間違ってはいないのだが、なら気分転換させてくれよ、と思ったが口には出さない。
別にそこまで不満があるわけでもないし、何よりリーナもティリアも俺の世話をするのに傍にいてくれるからだ。
つまり、俺の傍には常に美しい少女が居るという事。これ、かなり重要です。
一人は世話焼きで照れ屋さんな金髪碧眼美少女で、しかも巨乳。
もう一人はおっとりほんわかな癒し系お姉さん的な感じの黒髪蒼目のこれまた絶世の美少女。
そして俺にぞっこん。あ、これもかなり重要です。
何が言いたいかというと、ここ数日本当に幸せだったという事である。
もうお外出なくてもいいやーって思ってしまうほどのんびりと過ごしてしまい、引きこもりニートの自堕落な生活になりそうだった。
だってリーナは何から何まで俺の世話を焼いてくれるし、ティリアはティリアで俺をチョコレートよりも甘いだろって思うぐらい甘やかすのだ。
元々意志が弱い俺には何とも耐えがたい誘惑だったのである。
しかし、それはさすがに拙いと感じた。ここは異世界であり、自分を養ってくれる存在は皆無で、働かなければ生きていけない過酷な世界なのだ。
まして奴隷であるリーナとティリアも俺が養わなければならないので、俺は泣く泣く誘惑を振り切ってタージェの商館から外へ出た。
「まさかコーヤ様があそこまで自堕落な人間だとは思いませんでした……」
「おい、お前が言うなよ。世話を焼きすぎると男をダメにするという事を覚えておきなさい」
「それこそ旦那様が言えることじゃない様な気もしますが……私はどんな旦那様も受け止めますよ?」
あーもう、ティリアちゃんマジ天使。
「ティリア、コーヤ様を甘やかすのは程々にしときなさいよ。コーヤ様がダメになる」
「リーナちょっとひどくね? ねえひどいよね?」
「そうですよリーナ、旦那様はいざという時には頼りになるのです」
「それっていつもはダメって言ってるようなものじゃないの……全然フォローになってないからね?」
「……」
上げて落とすというのは思ったよりも心にグサリと突き刺さりました。
そんな会話をしながら向かった先は冒険者ギルド。
先日師匠からの呼び出しがあったのだが、数日の間名目上の療養をしていたので今日尋ねてみようと思ったのである。
そこまで日は経っていないが、久しぶりな気がする。
目まぐるしく動いていたからだろうな。
ギルドの入り口に入ると、受付の所にローリスさんが接客をしていた。
なんだか忙しそうだったので、他の職員の人に応対してもらい、応接間に向かう。
しかし何の用事だろうか。ここに来るまでの道中の事を思い出しながら考えると、やはりハイゴブリン討伐の件だろうな。
俺がハイゴブリンを討ち取ったというのは街中に広がっており、道中街の人々から称賛を受け、やたらと感謝された。
ちやほやされるのも悪くないなと思いながらも、心の片隅では素直に喜べない自分もいた。
ハイゴブリンを討った事で感謝されるのは嬉しい。
だが、ハイゴブリンはコルトで、俺はこの世界に来て初めて知り合った人を殺したようなものだ。
やはり、素直に喜べはしない。
応接間の前で、コンコン、とドアをノックした。
「失礼します」
「入れ」
ドアを開けると、師匠とワミードさんが出迎えてくれた。
「師匠、ワミードさん、お久しぶりです」
「本当に久しぶりだな」
師匠の豪快に笑う姿に頬を緩ませていると、ワミードさんが声を掛けてきた。
「コーヤ君、この度は本当にお疲れ様でした。君のおかげで被害を最小限に食い止める事ができた。街の皆も感謝していることだろう」
優しげな表情で労ってくれるワミードさんに照れくささを覚えながら、頭を掻いて誤魔化す。
「いや、本当に大したことはしてませんよ。皆が戦っている中でいいとこ取りしたようなものですし」
「んー、嫌に謙虚だな。もっと調子に乗ってるもんだと思ってたんだが」
「ひどいっすよ師匠……」
俺ってそんなに調子に乗りそうに見えるのか。
ちらっとリーナに目を向けるとあからさまに目を逸らされた。
ティリアはニコニコしているだけでよく分からん。
「――ところで俺に何か用があったんじゃないんですか?」
本題に入ると、二人しておお、そういえばと思い出したかのような顔をした。
「実はコルト・バイソンの事についてなんだが――」
コルト・バイソンがハイゴブリンだった、という事はこの街の領主、ギルド長と副ギルド長など要職に着いている者しか知らない事実らしい。当事者である俺達を除けば、ではあるが。
あまりに現実味のない話だから知られても信じられないだろうとは思うが、一応無闇に話さないようにと言い含められた。
「分かりました。この事は他言無用、という事で……」
「ああ、よろしく頼むわ」
話はこれで終わりのようだ。ならば帰るか、と足をドアの方へと向けるが、途中で足を止めて俺は二人に頼み事をする事にした。
「あの、実は――――」
「コーヤ様、これからどうしましょうか?」
「言うな、何も言うな……」
ギルドを出て、さあ街にでも繰り出して両手に花状態でウハウハしてやろうかと思っていた矢先、知りたくもない事実と対面する事になった。
そう、金だ。
「まさか三人が三日程生活するほどしか残金が残ってないとは……」
「護衛任務は報酬がティリアだったのでお金は貰ってませんしねー」
「あ、あの……なんだかごめんなさい」
「いや、ティリアは悪くないんだ。悪いのは残金の確認をせずに自堕落な生活をしていた俺なんだ……」
「全く以って正論ですね」
「リーナてめえ乳揉むぞ」
「なっ……セ、セクハラですよ!」
うむ、顔を赤くして胸を手で隠す仕草、百点満点である。
とはいえ、金が無いのは死活問題である。
ギルドの入り口でどんよりと暗い気持ちになりながら佇んでいると、後ろからワミードさんが追いかけてきた。
「コーヤ君、渡すの忘れていたよ。ハイ、これハイゴブリン討伐の報酬だよ」
ジャラジャラと音を立てる袋を手渡され目を丸くしていると、ワミードさんが微笑みながら説明してくれた。
「今回の報酬はちょっと特殊なんだ。元々の報酬が銀貨50枚だったんだけど、コーヤ君は単独で討伐したから10倍の金貨5枚、そしてハイゴブリンの正体をバラさないように口止め料として金貨1枚と銀貨50枚入ってるから」
俺はワミードさんが落として上げるアゲ神として祭ろうと本気で思ってしまった。
イケ神よりもよっぽど神々しいと思う俺は、かなり現金な人間だなと思いました。
俺はワミードさんに日本伝統の所謂土下座をしたのは言うまでもないことだろう。
日本円にして650万円。もう金銭感覚おかしくなりそう。
いや、待て。俺、既に金銭感覚おかしくなってるのではないだろうか。
だって最初110万円あったんだぞ? それが一月もしない間になくなるか、普通。
なんだか怖くなってきたので、手に持った報酬の大金をリーナに渡した。
「え、ちょ、コーヤ様!?」
困惑した様子のリーナに向かって、俺は最大限に格好をつけて言った。
「リーナ、俺の世話を良く焼いてくれているその手腕を見込んでお前に財産管理を任せる! 良い妻になる前の花嫁修業だと思い倹約に励むが良い!」
ちょっと強引過ぎたかなと思いリーナを見てみると、頬を赤く染めている。
――え、何で?
「良い妻……花嫁修業……」
「おーい、リーナ戻って来ーい」
リーナの顔の前で手を振ってやると、ハッと気付いたように尻尾と耳をパタパタさせ始めた。
なにこれかわいい。リーナちゃんマジ天使。
「わ、分かりましたっ! 私、頑張りますねっ!」
「ん? お、おお、頼んだぞ」
なんかよく分からんが、張り切ってくれているならそれは良い事だ。
尻尾と耳を嬉しそうに動かしているリーナは何かに浸っているようだからそっとしておいてやるか。
「うふふ、旦那様ったら、罪な男ですね」
横でティリアが俺の腕に引っ付いてニコニコしながらボソッと呟いた。
「ん? 何の話だ?」
「いいえ、何でもありません。お気になさらず」
「そっか」
何はともあれ、大金が手に入ったのでしばらくの生活は安泰である。
奴隷ハーレムの作り方#29~世の中金である~