奴隷ハーレムの作り方#26~ルシュタート防衛線前編~

ルシュタートの南門の前まで行くと、人々の叫びや剣戟の音がはっきりと聞こえてくる。
 城壁の上にいる兵士に声をかけてみた。

「おーい! 街の中で何か起こっているのか?」

 俺の声に振り向いた兵士が何やら焦った感じで街の東の方向を気にしている。 

「ゴブリンが街の中に入ってきやがったんだ! どうやったか分からないが東門が破られて進入を許したらしい!」

「何だって!? おい、今すぐ門を開けてくれ! 加勢する!」

「恩に着る! 今冒険者の数が足りてないらしく、街にいる兵士だけで苦戦している所なんだ……くそっ、騎士団も王都への帰還の命で街にいないこのタイミングで……」

 兵士の言葉に俺は顔を顰める。
 いくら何でもタイミングが悪すぎる。
 騎士団とやらがどれだけ居たのかは知らないがそれも居ないし、討伐隊も街を出ているよりによってこんな時にゴブリンが街を襲ってくるなんてどうなってるんだ。
 というか破られたのは東門だったと言っていたが、コルトさんは何をやっているんだよ。
 警備隊長の癖して簡単に突破されてどうすんだ。
 ギリッと歯を噛み締めていると、東門が開いた。

「二人とも、行くぞ!」
「「はい!」」

 二人の返事を背中で聞いて俺は走り出した。
 東門の方向へと走っていると、逃げる様に走っている街の人々とすれ違う。
 やはり東門の近辺で激しい戦闘が行われているみたいだ。
 段々とゴブリンの姿も見受けられるが、それは兵士達が相手をしているのでおそらく大丈夫だろう。
 集団戦を制する為に一番効果的な手段は、群れのボスを叩けばいい。
ゴブリン達にとって、その存在はハイゴブリンだ。
 つまりハイゴブリンさえ倒してしまえば、知能の低いゴブリンなど人間の相手ではない。
 元々ゴブリンに統率力は無いんだ。
 率いる者が居なければ恐れるほどの相手じゃない。
 だが、今の現状は芳しく無い。
 タイミングが悪いという理由もあるが、一番の理由はハイゴブリンの存在だろう。
 あいつが統率しているおかげで、苦戦を強いられている。
 獣人の村のゴブリンと明らかに動きが違う事から間違いないだろう。

「――リーナ、ティリア! 俺達はハイゴブリンを倒すぞ。そうすればこの襲撃は防げるはずだ」

「旦那様に着いて行きます!」
「前の主人の弔い合戦ってとこですね!」

 後ろを振り向くと、二人が頷きながらすれ違いざまにゴブリンを倒している。
 俺もゴブリンを斬り伏せながら足を動かす。
 遠めに東門が見える場所まで来ると、防衛線らしき所にゴブリンの群れと激戦を繰り広げている部隊がいる。
 その中に見知った顔が見えた。

「ワミードさん!」

 俺が呼び掛けると、いつも柔和な表情が険しくなっているワミードさんがこちらに気付いて振り向いた。

「コーヤ君! 帰って来たのか!」

「ええ、これは一体……」

「分からない。ゴブリンに城門を開けられるほどの力は無い筈なのだが……いや、今はゴブリンを退ける事を考えないとね」

 確かに、その疑問を考えている場合じゃない。
 それは後で考えればいい。

「そうですね。討伐隊はまだ帰って来ていないんですか?」

「ああ、討伐隊はまだ帰って来ていない。討伐隊を冒険者ギルドの実力者ばかりで構成したもんだからこっちの防衛に手が足りてない状況だよ――迂闊だった。まさかゴブリンが街を狙ってくるとは予測していなかったよ……討伐隊が帰って来るまで持ち応えられればいいのだが……」

 ワミードさんが悔しさを隠しきれない様子で言った。
 俺はそれを見て、ゴブリンとの抗戦を眺める。
 見た感じ、こちらが押され気味の様に思える。

「ワミードさん、ハイゴブリンを倒してしまえばゴブリンの統率は崩れる筈です! 討伐隊の帰りを待っていても犠牲者が増えるだけだ――だから、俺がハイゴブリンを倒します」

「本当なら僕がその役目を果たすべきなんだろうけど……僕はここにいる皆を率いて防衛線を維持しなければならない。ちょっと悔しいけど、コーヤ君に任せるよ」

 ワミードさんが微笑を浮かべて言った。
 そして、魔力回復薬を飲んだワミードさんはゴブリン達に向かって手を翳す。
 するとゴブリンの群れの辺りに吹雪が吹き荒れ始めた。
 段々とゴブリンの肉体が鈍り始め、足場が凍り付いていく。
 中には完全に凍り付いて塵の様に砕けていくゴブリンまでいた。

「今だ! 動きの鈍ったゴブリンを仕留めていけ!」

 ワミードさんの声がきっかけに冒険者達がゴブリンを仕留めていく。

「さすがワミードさんだ!」

「〈氷塵のワミード〉の異名は伊達じゃないな!」

「ゴブリン共! 覚悟しやがれええええ!」

 冒険者達が口々に叫びながら士気を取り戻してゴブリンを押し始めた。
 ワミードさんの魔法凄すぎだろ。あんなのくらったらひとたまりも無い。
 この人が副ギルド長である所以が少し分かった気がする。

「ここは大丈夫だからコーヤ君はハイゴブリンの殲滅を頼むよ」

 ワミードさんの言葉に頷いて、俺はゴブリンの群れの後方に回り込む為に路地に入っていった。
 路地にも少数だがゴブリンが向かってきている。
 やはりしっかり統率がされているようだ。
 俺は走りながらゴブリンを斬り伏せていく。
 倒し損ねたゴブリン達は後ろに着いてきている二人が対処してくれているので、俺は振り向かずにひたすら路地を駆け抜けた。

 路地を抜けると、先程の防衛線よりもゴブリンの数が少ない通りに出た。
 どうやらゴブリンの群れの後ろに出てきたようだ。
 こちらに気付いて襲ってくるゴブリンを斬り伏せて、周りを見渡す。
 東門に続く大通りで、遠めに無残に開かれた東門が見える。
ゴブリンはあそこから入って街を蹂躙している。
 地面に横たわるピクリとも動かない兵士や、夥しく散った血が惨状を物語っている。
 兵士だけじゃない。襲撃に巻き込まれた何の力もない人々の亡骸も少なくなかった。
 魔物を屠る事には躊躇はしていなかったが、同じ人間の死体を見るのはやはり慣れない。
 込み上げてくる吐き気をこらえ、それらから目を逸らした。

――今はゴブリン共からこの街を守る事に集中しなければ。

 気持ちを切り替えると、リーナとティリアが追いついてきた。
 二人も目の前の惨状に顔を顰めたが、俺ほど動揺はしていないみたいだ。
 これも平和な日本で生きていた俺の感覚とは違うのだろう。
 ゴブリンの群れに目を向けると、その中に一際大きい図体のゴブリンがいた。
 間違いない。緑色のゴブリンとは違う、青い皮膚を持ったハイゴブリン。
 あいつを倒せば、将を失ったゴブリンは倒すに容易い。

「二人とも、危なくなったら逃げろ」

 リーナとティリアは少し眉を顰めながらも、俺の言う事にしぶしぶ頷いた。

「――よし、行くぞ! 援護頼む!」

 そう言って駆け出す俺に続いて、リーナが横に並んで着いて来た。

「二人とも、横に避けてください!」

 後ろからティリアの声が飛んできた。
 俺とリーナが左右に別れると、その真ん中にティリアのお得意の氷柱が次々とゴブリンに突き刺さっていくのが見えた。
 突然の後ろからの攻撃にたじろいだ所にリーナが斬り込む。
 その後に俺も続いて行くが、ゴブリンの数が多くなかなか前に進まない。
 止まってしまえば囲まれて危険に陥る。だから歩みを止める訳にはいかない。

 幸いリーナが先頭を切って奮戦してくれており、後ろではティリアが魔法と落ちていたのを拾ったのか弓で矢を放ちながらサポートしてくれていた。
 さすがはエルフ、というのだろうか。弓の扱いが素人目で見ても上手い。
ティリアの放った矢が次々とゴブリンの眉間に吸い込まれていくのを、俺は剣を振り回しながら横目で見た。
 なんというか、リーナにしろティリアにしろ、俺より強いのじゃないだろうか。
 主人の威厳がまるで無いことに、少し気持ちが萎んだ。
 そんな悔しさや情けなさを八つ当たりとばかりにゴブリンにぶつけるように斬り伏せていく。
 しかしまあ、頼もしい限りだ。
 二人に関心していると、前を走っていたリーナが声を上げた。

「コーヤ様! もう少しでハイゴブリンの所に着きます!」

 その声に俺はリーナの更に前方を凝視する。
 さっきまで小さく見えたハイゴブリンが大きく見えた。
 まだまだ先かと思っていたが、どうやら案外近くまで来ていたらしい。
 剣を握る手に力を込めて、ハイゴブリンを睨み付ける。
 するとその視線、いや殺気を感じたのか、ハイゴブリンがこちらを向いた。
 俺と目が合った瞬間、ハイゴブリンの表情が怒りに染まり、こちらに向かってきた。
 そのスピードは予想以上に速く、俺の脳内が危険信号を発した。

「――ッ! リーナ、避けろ!」

 思わずリーナの肩を掴んで、後ろに引き寄せる。瞬間、リーナのいた位置に曲刀が振り下ろされる。
 曲刀を振り下ろした張本人のハイゴブリンが、こちらを睨みつけていた。

「……ニンゲン、殺す」

奴隷ハーレムの作り方#26~ルシュタート防衛線前編~

奴隷ハーレムの作り方#26~ルシュタート防衛線前編~

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 青年向け
更新日
登録日
2018-04-21

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