奴隷ハーレムの作り方#25~夕日に燃える街~

俺達は元来た道を戻り、街道に出てからルシュタート方面の道を辿っていた。
 そこまで時間は経っていないので、この調子ならタージェの商隊にも追いつけそうだ。
 後ろを振り返ると、リーナが少し疲れた表情をしている。

「なあリーナ、疲れてないか?」

「まあ、全く疲れてない訳ではないですけど、大丈夫ですよ」

「そうか? キツイなら言えよ? おぶってやるから」

 ただリーナが辛そうにしているからそう言っただけであって、決して下心はない。下心はないのだ。
 大事な事なので二回言った。
 リーナがじっと俺の顔を見つめた後、顔を背けた。

「……どうしても辛かったら、その時はお願いします」

「え? あ、ああ、任せとけ」

 リーナの事だからてっきり全力で拒否してくるものだと思っていたから、少し声がどもってしまった。
 その後無言が続いたからか、リーナとの間に少し気まずいというか、初々しいというか、そんな何とも言えない雰囲気が出てしまっている。
 俺はそのむず痒い空気を払拭する為に話を切り替えた。

「……それにしても、あのゴブリンの群れは何で東の森から離れたこんな所の村を襲ったんだろうな」

 ハイゴブリンはあの村には居なかったし、ゴブリンの群れ自体もそこまで数が多かった訳じゃない。
 ゴブリンが勝手に動いたんじゃないだろうし、おそらくハイゴブリンの命令なのは間違いないだろう。
 しかし、動機がよく分からない。
 何の理由も無く、わざわざ離れた村を襲うだろうか。

「私にもよく分かりません……だけど、獣人の村を守れて良かったです」

「……そうだな」

 リーナの言葉に、考える事を止める。
 何にしろ、村の人々を守れた事には変わらないんだ。
 幸い死傷者は出なかったし、リーナの同族を守れた事は喜ばしい事だ。
 仕事を放り出して駆けつけた甲斐があったってもんだ。
 タージェには申し訳ない事をしたから、また今度借りを返さないといけないな。

「――あ、商隊が見えてきましたよ!」

 リーナの声に反応して街道の先を目を凝らして見てみると、確かに馬車が走っているのが見えた。

「おーい!」

 俺が叫ぶと、馬車が止まってタージェが顔を出した。

「コーヤ、無事やったか!」

「悪いな、迷惑かけた」

 俺はタージェの傍まで駆け寄って頭を下げた。
 いくら緊急を要する事だったとはいえ、仕事を途中放棄した事には変わらない。
 タージェ達が無事だったからいいが、もし凶悪な魔物と遭遇して全滅していたら俺のせいだ。

「ええって、放っとけへんかったんやろ? コーヤのそういう所嫌いちゃうで。まあ頻繁にやられたら困るけどな」

「タージェ……この借りはちゃんと返すよ。困った事があったらいつでも言ってくれ」

「おお、嬉しい事言ってくれるやん! お言葉に甘えてその時は頼むわ」

 タージェは本当にいい奴だ。
 この世界に来てこいつと出会えたのは、俺にとって喜ばしい事だと思う。

「そういえば、街まではもう少しか?」

「そやなあ、この辺りまで来たら言うてる間に街も見えてくると思うで」

「そうか。じゃあ護衛に戻るよ」

「後少しの間、しっかり頼むで」

 タージェと会話を終えて俺達が乗っている馬車へと向かう。
 すると、いきなり馬車の死角から何かが抱きついてきた。

「旦那様! ご無事で何よりですぅ!」

 ティリアである。
 俺はティリアを引き剥がして、リーナの様子を伺った。
 大体リーナの怒りの沸点は分かってきたのだ。
 俺が他の女の子に邪な感情を抱くと、リーナの感情の抑えが利かなくなるので注意しとかなければならない。
 どうやら今のはセーフだったみたいだ。
 ふう、と息を吐くと、俺は再びティリアに意識を向ける。

「ティリア、護衛を一人で任せて悪かったな。ご苦労さん」

「いえ、旦那様の頼みとあれば、それをしっかりこなすのが伴侶の務めですから」

「あ、うん、そうか……」

 ティリアの中でそれは決定事項らしい。
 ともかく、俺に信頼を寄せてくれているのは嬉しかった。

「ティリアは少し馬車の中で休んでいろ」

「ありがとうございます。では、すみませんが休ませてもらいます」

 そう言ってティリアが馬車の中へと入っていった。
 そして、俺はもう一人の奴隷が護衛の任務に戻ろうとしているのを腕を掴んで止めた。

「リーナ、お前も休め。護衛は俺がやるから」

「で、でも――」

「お前が疲れてるのは分かってるんだよ――それに俺が付き合わせたんだ。今ぐらい格好つけさせろ」

 俺が我が侭を突き通したおかげで二人を酷使したんだ。
 せめてその後の護衛ぐらい俺が責任を持ってやり遂げないと主人として示しがつかないと思う訳だ。
 まあ結局何が言いたいのかというと、リーナに休息をとってもらいたいだけなんだが。

「――分かりました。少し休みますね……コーヤ様、無理はしないでくださいね?」

「それはこっちのセリフだ、バーカ」

 そう言ってリーナにデコピンを食らわせてやった。

「いたっ! もうっ、何するんですかあ!」

「自分が疲れてるくせに、人の事を気にするからだよ」

 さぞかし痛そうにおでこを擦りながら涙目で見上げてくるリーナを見て、無性に抱きしめたくなる衝動に駆られる。
 いじらしくて可愛いが、無自覚でやられるとたまったもんじゃないな。
 衝動を何とか抑えて、リーナの頭を撫でるだけに留めた。

「早く馬車に入って休んでこい」

「はあい……」

 デコピンを根に持っているのか、リーナはジト目で俺を見ながら馬車に入っていった。
 全く、可愛いのか可愛くないのかよく分からん奴だな。
 俺は馬車の御者台に乗って前方を眺めながら考える。
 結局村を助ける為に俺が離れたから商隊は警戒しながら進む事になり、日が暮れてきている。
 予定ではもう街に着いてもよさそうだったのだが、結構な遅れが出ている事に気が付いた。

 そういえば、今日は討伐隊が出発しているはずなのだがハイゴブリンは討伐出来たのだろうか。
 師匠が討伐隊を率いると言っていたので万が一にも負けるなんて事は無いだろう。
 もしかしたら、討伐隊はまだハイゴブリンを討伐できていないのかもしれない。
 いずれにしろ街に戻れば分かる事なのだが、どうも違和感が拭えない。
 イケ神がゴブリンが妙な動きをしていると言っていた事、今回の獣人の村への襲撃。
 これだけを繋げれば辻褄は合うのだが、変な違和感だけが残る。

「あーっ、わかんね」

 頭をがしがしと掻いて前方をボーっと見ていると、夕日に紛れてルシュタートの城壁が見えてきた。

「あっ、街が見えてきました」

 ティリアがひょっこり窓から顔を覗かせる。
 夕日に照らされた黒髪が艶やかに光る。

「やっと護衛任務も終わりだなあ――ティリア、リーナは?」

「ふふっ、リーナは気持ち良さそうに寝ています。起こしましょうか?」

「いや、疲れているだろうから寝かせておいてやろう」

 俺がそう言うと、ティリアが微笑みながら頷いた。
 再び前を向いて街を眺めていると、何か様子がおかしいことに気が付いた。

「おい――あれ、燃えてないか?」

 夕日で赤く染まっていて分かりにくかったが、徐々に近づいていくにつれて街の様子が鮮明に映し出されていく。
 街が燃えている。煙が上っているので、間違いないだろう。
 微かに人の叫び声や、剣戟の音が聞こえてくる。

「な、なんやあれ! 一体どうなってんねん!?」

 いつの間にかタージェが傍にまで来ていた。

「分からない……ただ、街の中で何かと戦っているのは間違いないだろうな」

「何か次から次へと問題が起こるなあ……」

 俺は頭を抱えて呟くタージェの肩に手を置いて言う。

「……とにかく、今は街の状況を把握しないとな。タージェ、お前の商隊は南門の前で待機しておいてくれ」

「お前はどうするんや?」

「勿論、様子を見に行くに決まってんだろ。悪いが、今度はティリアも連れて行くぞ」

「分かった。気を付けてな……危ないと思ったら南門まで来いや」

 俺は頷いて、ティリアにリーナを起こすように言った。

奴隷ハーレムの作り方#25~夕日に燃える街~

奴隷ハーレムの作り方#25~夕日に燃える街~

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 青年向け
更新日
登録日
2018-04-21

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