奴隷ハーレムの作り方#24~謎の少女ナユ~
俺は駆け寄って崩れ落ちそうになる少女を抱き止め、治癒魔法をかける。
「おい! 大丈夫か? 何があったんだ!」
「――え? お兄さん、誰?」
大きな目を開けてこちらを見る少女に、俺は出来るだけ恐がられない様に答える。
「お兄さんは冒険者だ。たまたまここを護衛の任務で通りかかったんだ。何かあったのか?」
少女は俺の問い掛けに眼を見開き、涙を溢れ出しながら俺に縋る様に叫んだ。
「大変なのっ! 村が……村がゴブリンの群れに襲われちゃったの! お兄さんお願いっ! 村を助けて下さい……」
最後は消え入るように答える少女を、俺は安心させるように頭を撫でた。
「ゴブリンが……よし、案内してくれ。君の名前は?」
「あたし……ナユ。お兄さんは?」
「コーヤ。コーヤ・カネミだ。よろしくな、ナユ」
「コーヤ、お兄ちゃん。ありがとう……」
安堵した表情を浮かべるナユは涙交じりの声を吐き出す。
「お礼は後だ。村はどっちだ?」
俺の問いにナユが指差す方向は、案の定東の方向だった。
この辺りはルシュタートの南に位置しているのだが、ゴブリンの群れが移動してきたのか?
そんな疑問を覚えながらも今は思考を切り替える事にした。
村へと救援に向かう前に、タージェ達に声を掛ける。
「皆、村が襲われているらしい! 今から俺が助けに行くから、すまないが先にルシュタートに向かってくれ!」
俺の叫びに、タージェが慌てた様子で走ってくるのが見えた。
「待て待て! 一人で行く気か? どんだけ命知らずやねん……せめて奴隷の二人を連れて行きや」
そう言われて自分が無謀な行動に移ろうとしていることに気が付いた。
「ああ……悪い、焦っていたよ。だが、俺の単独行動で皆を危険に晒す訳にはいかないしな……よし、ティリアは護衛の為にタージェ達と先にルシュタートに向かってくれ。リーナは俺と一緒に村へ向かうぞ」
「旦那様、お任せ下さい。タージェ様達は私がお守り致します」
「コーヤ様のお人好しには慣れましたけど、これは見過ごせませんね」
いつの間にかリーナとティリアも傍に来ていたらしく、リーナは獣人の少女を見たせいかやる気が漲っていた。
それはいい事なのだが、前みたいに暴走しないかだけが心配だ。
「リーナ、お前は魔法禁止だぞ」
念の為に、彼女に釘を刺しておくのも忘れない。
「分かってますよ! さ、ナユちゃんだよね? 村に案内してくれるかな?」
「う、うん! お兄ちゃん、お姉ちゃん、ありがとう!」
ナユの沈んでいた表情がみるみる間に明るくなっていく。
それと同時に頭からピョコンと出ているダックスフンドの様な垂れ下がった耳が、かすかにパタパタと動いているのが見えた。
尻尾は元気良く動いていて、イヌ耳は和むなあ……なんて微笑ましく思った。
いや、萌えている場合ではなかった。
「ナユ、礼は終わってからにしろ。行くぞ!」
俺はナユの身体を抱き上げて、東に広がる森に入っていった。
後ろからリーナが追ってきているのが見えた。
「コ、コーヤお兄ちゃん速あいっ!」
嬉しそうなナユの笑顔を見て、俺は得意気に笑った。
ナユは可愛い。これからもっと女性らしさが出てきて、美人になっていく事だろう。
「そうだろう、そうだろう! しっかり道案内頼むぞ!」
「うん! あ、そこ左に曲がって!」
「任せろっ!」
「コーヤ様、は、速すぎです!」
後ろからリーナの切羽詰った声が聞こえてきた。
全力を出して走っているからな。
ナユを抱き上げながらでも速度は大して落ちていない。
「リーナ! 後から自分のペースで来い!」
無理して付いてきて着いてからゴブリンと満足に戦えなかったら本末転倒だ。
すると、やはり無理していたのかリーナの走る速度が落ちた。
「コーヤ様、ごめんなさい! 後で追いつきますから!」
「分かった!」
俺は更に速度を上げて、森の中を疾走していく。
時には木の枝の上に乗り、まるで忍者の様な気分になりながらひたすら駆ける。
「コーヤお兄ちゃん、もうすぐ村に着くよ!」
ナユの声が聞こえ、目を凝らして前を見据えると、確かに村のような木造の建物がいくつか見えてきた。
「よし、ナユは離れてろよ!」
「うん、わかった!」
俺は村の近くで足を止めて、ナユにそう言って村へ向かう。
早速ゴブリン達がこちらへ向かってきた。
俺は剣を鞘から抜き放ち、ゴブリンを次々と斬り伏せていく。
「ハァッ!」
「ギャッ……」
次々を消滅していくゴブリン達は、次第にその数を減らしていった。
周りを見渡してみると、村に住んでいるであろう獣人達がゴブリンに応戦している。
「誰かは知らんが、助かった! おい、皆! 助っ人が来てくれたからもう大丈夫だあ! もうちょっと踏ん張れ!」
「「「おう!」」」
獣人の男達の気合いの声が辺りに響き渡る。
この調子なら大丈夫そうだな。
近くのゴブリンを斬り伏せながらそう思った。
「コーヤ様! やっと追いついた……」
息を切らせながらリーナがやってきた。
「どうやらそこまで被害は出ていないみたいだ。リーナ、残りのゴブリンを片付けるぞ」
「はい!」
息を整えたリーナは、早速刀を鞘から抜き放ってゴブリンの群れに突っ込んでいった。
魔力を使えなくても、リーナの身のこなしは軽い。ゴブリン相手に苦戦する事も無いだろう。
「おお……これはまた可愛い嬢ちゃん連れてるな、兄ちゃん」
獣人の男が俺に話しかけてきた。
「ああ、俺の自慢の奴隷だ」
「あの嬢ちゃん奴隷なのか? 傍目にはそうは見えないが……」
「だろうな」
「にしても、まるで女神の様だな……」
やはり同族からなら相当可愛く見えるのか。
俺にしてみれば耳や尻尾がついているだけで人間とそう変わらない気がするのだが、この世界では人種が違うだけで美醜の基準も少し違うのだろう。
しかし、ここに来てリーナの姿に獣人の男共がちらちらと見惚れているので、面白くない。
「あいつは俺の物だ。誰にも渡さんからな」
周囲の男に釘を刺して、残りのゴブリンを片付けていく。
「コーヤ様! こっちは終わりました」
「俺もこれで、最後、だっ!」
最後の1匹を斬り伏せて、息を吐き出す。
「兄ちゃん達、助かったよ! しかし、こんな辺鄙な所に何でわざわざ救援に来てくれたんだ?」
「ああ、それはこの村のナユっていう女の子が案内してくれてな」
俺の言葉に、男達は一様に首を傾げた。
「……ナユ? そんな子はこの村にはいないぞ。人違いじゃないのか?」
「え? でも確かにナユっていう女の子が助けを求めてきたぞ? 本当にいないのか?」
俺はナユと別れた村の近くを探し回ったが、ナユの姿は見当たらなかった。
「なんだったんでしょうね、ナユちゃん……」
リーナも困惑を隠せない様子で、耳が垂れ下がっていた。
まあ、何にしても村が襲われていたのを知らせてくれた事には変わらない。
謎を残して姿を消したが、悪い子ではなさそうだ。
俺はそう結論を出し、思考を切り替える。
「リーナ、早くタージェ達を追いかけよう。魔物に襲われたらティリアだけじゃキツイだろうしな」
「そうですね。早く街にも戻りたいですし」
俺達は再び元来た道を戻ることにした。
村を出る時、村人総出で見送られたが、特に男が多かった。
しかも殆どがリーナに熱い目線を送っていた。
リーナは少し困った様に笑いながら、手を振っている。
対して俺は、男共にガンを付けまくっていた。
やっぱリーナはモテるんだなあ。
そんな事を思いながら、横を走るリーナに視線を向ける。
すると、リーナと眼が合った。
「コーヤ様、どうしたんですか?」
「――いや、何でもない」
「? 変なコーヤ様ですね」
リーナはリーナのままだ。
それは変わらない。俺の知ってるリーナなら、それでいい。
俺は何となくモヤモヤした気持ちを自己解決する事にした。
奴隷ハーレムの作り方#24~謎の少女ナユ~