奴隷ハーレムの作り方#23~帰りの道中~
翌朝、俺達はコダの街を出てルシュタート方面の街道に馬車を進ませていた。
行きと同じく三人でローテーションで護衛を行いながら帰り道を進んでいるのだが、俺は昨日イケ神と話した事をリーナとティリアにも話しておきたいと思ったので、タージェに断りを入れて二人を馬車の中に呼んだ。
馬車の中に三人一緒というのも何だか新鮮だ。
活発そうな獣耳のついた金髪碧眼の美少女と、儚げな黒髪蒼眼のエルフ美少女に一斉に見つめられると、少し居心地が悪い。
「コーヤ様、話って何なんですか?」
「あ、ああ……実は大事な話なんだが――」
リーナが聞いてきたので、俺はリーナとは目を合わせずに言葉を返して、ティリアの耳を変えたらどうかという事と、リーナの魔力の暴走について二人に聞かせた。
「――という訳なんだ。ティリアはどうだ?」
とりあえずティリアに話を振ってみる。
「私は耳が変わってもそれほど拘っていないので大丈夫です。それで過ごしやすくなるのであれば……」
「よし、じゃあ決まりだな。イケ神、頼む」
俺が呼びかけると、ティリアの耳が光輝き出した。
その光が徐々に収まっていくと、ティリアの尖った耳が何の変哲もない人間の耳に変わっていた。
少し寂しい気持ちになったが、仕方が無い。
しかし、こうして見ると今のティリアは人間にしか見えない。
耳が変わるだけで違うもんだな。
「旦那様、これで大丈夫なんでしょうか?」
ティリアが不安そうに聞くので、俺はその不安を取り除くように自信満々に言った。
「大丈夫だよ。どこから見ても人間の女の子にしか見えない」
これでティリアへの迫害は無くなるだろう。問題が全て解決した訳じゃないが、ひとまずはこれでいい。
「そうですか。旦那様、ありがとうございます」
そう言って頭を下げるティリアに、俺は首を横に振った。
「俺は何もしていないよ。感謝するなら神にしてやれ」
そして神に手を組んで感謝の祈りを捧げるティリアから、リーナへ視線を移す。
じっとこちらを見つめるリーナに気付くと、昨日のイケ神の言葉が蘇ってしまって意識してしまう。
駄目だ。リーナの顔をまともに見れない。
ちなみにディオスと戦っている時のリーナの言葉は、リーナ自身は憶えていない。
だから余計に俺一人が身悶えている訳だが――。
「――コーヤ様?」
リーナの呼びかけに気付き、振り返るといつの間にか傍にいたのか、リーナの顔が目の前にあった。
「――うわっ!」
俺は顔を仰け反らせて、リーナから距離をとった。
「そういう反応はさすがに傷付くんですけど……」
「わ、悪いっ! ちょっとビックリしただけだって」
珍しく深く傷付いたといった表情をするリーナを見て、動揺を隠し切れずに言い訳がましく言った。
今日のリーナは、なんというか、こう、女の子って感じがしている。
いや、いつも女の子なのだが、俺が意識しすぎているせいか、格段と可愛く見えてしまう。
思わずゴクッと生唾を飲み込み、リーナを見つめる。
幻覚が見えているのか、リーナの眼が潤んでいる気がした。
――ハッ! いかんいかん、誠実に接せねば。
心を落ち着かせて、気を取り直して俺はリーナに語りかける。
「リーナ、魔力の制御が出来るようにならないと、お前の身体が耐え切れなくなるそうなんだ。だから、街に戻ったら誰かに教えてもらおう」
「そうですね。それにしても私が私じゃないみたいな感覚ってそれが原因だったんですか……」
「ああ、だから無闇に魔力を使わないようにしろ」
あの時みたいに魔力が暴走したらリーナが自我を失う。例え戦闘能力が飛躍しても危険すぎる。
「あ、魔力の制御なら私が教えますよ?」
祈りを捧げていたはずのティリアが話しに入り込んできた。
「ティリアが教えてくれるの?」
「ある程度魔力が多い人は皆制御できるようにならないとリーナと同じようになるのよ。私も魔力制御の仕方は分かっているから教えられるわ」
二人で話が進んでいるようだが、まあいいだろう。
ティリアは頼りになるな。
街に帰ったら、俺も師匠に特訓をつけてもらおう。
リーナは魔力制御の練習だな。ティリアはそれを教えるから三人とも忙しくなりそうだ。
勿論ギルドの依頼を受けながらしないと食べていけないからそれも並行にこなしていこう。
戻ったらやる事も山積みだな。
時間は有限だ。今やれる事は全部やっておかないと後悔するかもしれない。
そんな思いを胸に、俺は二人に声を掛ける。
「じゃあ、そういう事で話は済んだから二人は少し休んでおけ」
そう言って、俺は外に出た。
外の新鮮な空気を吸って、吐く。
ああ、緊張した。何を意識しているんだ俺は。
そんな事を思いながら、先頭の馬車に乗っているタージェの所まで行く。
「タージェ、今空いてるか?」
「おお、どした? 何かあったんか?」
そう返事をして顔を覗かせたタージェに、一枚の羊皮紙を手渡した。
これは昨日の夜に書いた物だ。
この世界の文字なんて書けるのか疑問だったが、問題無く書けてしまった。
不思議なものだ。
「なんや、俺にラブレターか? ――これはっ!」
「タージェに持っておいて欲しい。もし俺の身に何かあった時の為に残しておこうと思ってな」
「これ――遺書か」
「ああ、一応俺が死んだ場合は俺の財産は奴隷達に分配、そして奴隷の解放、と思ったんだけど解放って
できるのか?」
そこは分からなかったので、聞いておく。
「奴隷の解放というのは奴隷紋を消してしまえばお終いや。やけどそれは奴隷商会の専属魔術師でないとできひんねん。法律で決まっててな、勝手に消してまうと犯罪になるから気を付けや」
「そうだったのか。じゃあ頼んでいいか?」
「任せとけ。料金は銀貨10枚やで。これは余程の物好きしか使わんサービスなんやけどな」
苦笑いしながら言うタージェに対して、俺も苦笑いで返す。
「今回の事でいつ死んでもおかしくないと感じたからな。俺のせいで奴隷達に不憫な思いさせたくないんだよ。俺が死んだらその後は好きなように生きて欲しいと思ったからそう書いたんだ……」
そう言って二人分の銀貨20枚を渡すと、タージェは目を潤ませて俺の手ごとガシッと掴んできた。
「コーヤ、お前はホンマにええ主人や! 二人もコーヤが主人で良かったと思ってるはずやで! やから……死ぬなよ? なんか不吉でしゃあないわ……」
「おいなんか嫌なフラグが立ってしまうからやめろ」
タージェがそんな事を言い出すから、死亡フラグなるものが立ってしまったのかと不安になってしまった。
ともかく、あくまで保険だ。死んだ後まで面倒は見切れないからな。
二人がせめて路頭に迷わないようにと思って書いただけなのに、どうしてフラグっぽくなるんだろう。
そこに関してはまあ些細な事だ。
「――とにかくもし俺の身に何かあったときは奴隷達をよろしく頼む……無論死ぬつもりは毛頭無いがな」
「コーヤの信頼を裏切ることができるかいな。ちゃんと面倒みたるから安心しい」
その言葉に、俺は安堵した表情で笑みを浮かべた。
「ああ、恩に着るよ」
タージェの場所から離れて、護衛の仕事に戻る。
街道の横には森が広がっているのだが、シンと静まり返った辺りに馬車の進む音だけが響き渡る。
それにしても様子がおかしい。
おそらくコダとルシュタートの中間辺りまで進んでいるはずなのだが、魔物の姿が見当たらないのだ。
疑問が浮かび上がると、もう一つ気が付いた事がある。
風に乗って、焦げ臭い空気が流れている。
「おい! なんか焦げ臭くないか?」
俺は近くに居る私兵団の隊員に尋ねた。
「確かに焦げ臭いな――おい! ここら辺に何かあったか?」
「そういえばこの辺りには獣人の村があったはずだが――」
私兵団の話に耳を傾けながら辺りを見渡していると、ふと視界に何かが映った。
目を凝らして見ると、獣人の少女がこちらに歩いて来るのが見えた。
見た目が10歳から13歳ぐらいの少女で、何やら服がボロボロになっている。
おぼつかない足取りでよたよたと歩いていると、ピタッと足が止まり、少女は力を失ったかのように崩れ落ちた。
奴隷ハーレムの作り方#23~帰りの道中~