奴隷ハーレムの作り方#21~コダの宿にて~
宿に戻った俺達は、部屋に入る前にタージェに声をかけられた。
「明日ここを発つつもりやったけど、もう少し滞在してもいいんやで?」
怪我をしているので気を遣ってくれているのだろう。
だが、治癒魔法があるのでその心配は要らない。
「いや、大丈夫だ。俺は治癒魔法を使えるから心配ない」
「そりゃ初耳やわ! コーヤは多才やなあ」
「器用貧乏とも言うけどな」
自嘲気味に笑い、俺は答えた。
「明日は予定通り朝にここを発とう。早めにコダから離れたいのもあるしな」
「まあそやな。いつまた連中が狙ってくるかも分からんし……」
「そういう事だ。じゃあおやすみ」
そう言って俺は部屋に戻る。
抱いていたリーナをベッドに寝かせて、治癒魔法をかけ始める。
魔力回復薬を飲みながら、リーナの治療を続ける。
リーナの治療が終わると、次は自分の怪我を治癒魔法で治療していく。
自分の治療が終わり漸く一息つくと、ずっと黙っていたティリアが口を開いた。
「旦那様……私と一緒にいると、やはりご迷惑ですよね……?」
沈んだ表情でそう言うティリアに、俺は首を横に振った。
「迷惑なんかじゃない。俺はティリアと主従の契りを結んだ時に、連中からティリアを守ると決めていたんだ。迷惑と思っていたら元からティリアを俺の奴隷にはしてないさ」
「旦那様……」
「まあ偉そうな事言って無様に負けたんだけどな……」
「――っ、そんな事ありません! 私を身を挺して守って下さるお姿、目に焼きついて離れませんでした――旦那様は私にとっては、とても、とてもご立派に見えます!」
そう目尻に涙を浮かべ顔を赤くして力説してくれるティリアに、俺は嬉しく思いながら微笑んだ。
「ありがとう。ティリアのおかげで元気が出たよ」
「よかった……旦那様のそんな辛いお顔は見たくありませんから――」
そう言って俺の頭を自分の胸に抱き寄せた。
ティリアの程よく成長した二つの柔らかいものが顔に当たって俺は動揺した。
「お、おいティリア――」
「旦那様……聞こえますか? 私の鼓動が……」
そう言われて俺はティリアの胸に耳を澄ませると、少しリズムの速い鼓動が聞こえてくる。
「ああ、聞こえる……」
「そうです。私は生きています――旦那様が必死になって守って頂いた命がここにあるんです。それを忘れないで下さい……」
ティリアの優しい声に、涙腺が緩むのを感じた。
溢れ出てくるそれを、俺はティリアの胸に顔をうずめる事で誤魔化そうとした。
ティリアの優しい香りに包まれて安心感を覚える。
俺の頭を包んでいたティリアの両手にぎゅっと力を込められたのを感じて、俺はティリアに身を委ねた。
「ッ――すまん……もう少しだけこうさせてくれ」
「はい、旦那様……」
もし今のティリアを第三者として見ていたら、きっと彼女を聖女と崇めるに違いないと俺は確信めいた事を思いながら、今だけはティリアの優しさに甘えさせてもらう事にした。
しばらくそうしていると、俺は落ち着きを取り戻してきた。
「落ち着きましたか?」
「ああ、ありがとう――あの、そろそろ離してもらえるとありがたいんだが……」
さすがに冷静になってみると、この態勢はちょっと不味い。
意識してしまうと余計にティリアの胸の感触がリアルに伝わってきて、嬉しさ半分恥ずかしさ半分、といった所だ。
「あっ……も、申し訳ございません! わ、私の胸などでは嬉しくないですよね……」
「い、いや、嬉しくない訳じゃないぞ! ただ、そのだな……」
むしろご褒美だ、とは言えずに口をもごもごさせていると、ティリアがくすっ、と笑みを漏らした。
「殿方はもっと野獣なのかと思っていましたが……旦那様は違うのですね」
いや、状況が違っていれば野獣と化していたかもしれない。
ティリアはいろいろと無防備だから心配になる。
「ティリア……男にそんな無防備に接していたら駄目だぞ」
そう俺が言うと、ティリアはきょとんとした表情をした後に、少し頬を染めながら上目遣いに俺を見ながらとんでもない発言をした。
「そんな、無防備だなんて……他の殿方にはこんな事しません」
「へ? ……そ、それって――」
「他の殿方には、近寄るだけで気味悪がられていましたから」
「――そういう事ね」
まあ、そうだよな。ティリアは迫害を受けていたんだから。
何を勘違いしていたのだ俺は。
「明日も早いんだ。先に湯浴みをして来ていいぞ」
「ありがとうございます。では、先に頂きますね」
そう言ってティリアは浴室に向かった。
俺はそれを見届けると、再びリーナの様子を見る。
安静に眠っている様子に、ふぅ、と溜め息を吐く。
それにしても、あの時のリーナは何だったんだろうか。
まるで何かに取り憑かれている様にも見えた。
俺には危害を加えてこなかったし問題は無い事も無いのだが、リーナの身体に負担が掛かっていないかが心配だ。
その時、リーナが身じろぎをしてうっすらと眼を開いた。
「う、ん……コ、ーヤ様――?」
「気が付いたか、リーナ」
こちらを寝ぼけた様子で見ていたリーナは、段々と意識が覚醒してきたのか、その綺麗な碧眼をうるうると潤ませてがばっと俺に抱き着いてきた。
「コーヤ様っ!」
「ど、どうしたんだ急に――」
「無事で、良かった……」
安堵した声を吐くリーナに、俺は苦笑いを浮かべた。
「――すまん、手も足も出なかった。格好つけといてあれじゃ、言い訳も思い付かないな」
「コーヤ様はバカですっ! どうしてあの時一人で戦おうとしたんですか! 何で私を一緒に居させてくれなかったんですか! 何で私に……」
「あの時はああするしかなかったんだよ。下手したらリーナまで連れ去られたかもしれないんだ――そんな事俺には耐えられない」
そう言うと、リーナは俺の胸に顔を押し付けて抱き締める力を強くした。
「もう二度とあんな自分を犠牲にする様な事をしないで下さい……そういう役目は私が受け持ちますから」
「バカな事を言うな。リーナにそんな危険な事させるかよ」
「コーヤ様は優しいのかバカなのか分かりません……」
リーナにこんな事を言わせるのも、俺に力が無いからだ。
これから〈高潔なる探求者(ノーブル・シーカー)〉の連中に狙われる事になるだろうし、二人を守れる力が欲しい。
俺は心からそう願った。
「それにしても、リーナが一番先に駆けつけてきてくれたおかげで助かったよ。ありがとうな」
俺がそう言うと、リーナはうずめていた顔を上げてきょとんとした表情をした。
「そういえば、私あの時の事あまり憶えていないんです」
「そうなのか? 確かにリーナの様子はおかしかったけど……」
「おぼろげには記憶にあるんですけど、コーヤ様に旋風が当たりそうになる所を見た瞬間に、気持ちが膨れ上がってその後はさっぱり……」
先祖返りが何か関係しているのだろうか。
リーナの力を解放した事で何かの影響が出ているのかもしれない。
「その辺りの事はイケ神に聞いてみなきゃ分からないな」
「そうですね――って、はわわわわっ!」
リーナが何かに気付いたように動揺した声を出した。
リーナの顔をボッと赤く染まり、目線が忙しなく動いている。
「ん? どうした――うおっ!」
対する俺もリーナの整った可愛い顔が至近距離にある事に気付いて、リーナから距離を取る。
「あっ……」
身体を離した時、リーナが寂しそうな声を出した気がした。
何となく気まずい空気が流れていると、湯浴みを終えたティリアが浴室から出て来る音が聞こえた。
「旦那様、お先に頂きました――リーナ、目が覚めたのですね」
「ああ、おかえり――え?」
「コーヤ様見ちゃ駄目ええええっ!」
ティリアの声に振り向いた俺だったが、すぐさまリーナの手によって目隠しされたので視界は暗闇となった。
「ティリアッ! 服を着なさいって何度言わせるの! 男の人に裸見せちゃ駄目なの! それがコーヤ様なら尚更なんだから!」
「あら、ごめんなさい。旦那様になら見せても問題ないかと思ったのだけど……」
「問題大アリよ!」
そんなやり取りが交わされているが、俺の視界は暗闇のままだった。
だが、振り向いた時に一瞬見えたティリアの湯上りの赤く染まった扇情的なスタイルの良い裸体は、暗闇になった事で更に強烈に俺の脳裏に焼きついた事は一生忘れない。
そして、背中に押し付けられたリーナの柔らかい二つの感触の事も、俺は墓まで持って行く事になるだろうと思った。
奴隷ハーレムの作り方#21~コダの宿にて~