奴隷ハーレムの作り方#16~到着~
コダの街に着いたのは、ルシュタートの街を発った日の夜だった。
オークの襲撃以降は特に脅威な魔物が出てくる事も無く、順調に進んだおかげで早く着いたらしい。
俺達はタージェに連れられるまま、近場の宿で休息する事になった。
「ほな、明日は商談に出向く事になっとるから、コーヤ達は街の観光でも何でも好きな様にしといてくれてええからな。明後日の明朝にはルシュタートに戻る予定やから、帰りも護衛頼むわな」
タージェはそう言ってアンナと共に部屋に入っていった。
何時ぐらいかは分からないが、夜になってから結構な時間が経っているので夜中と言ってもいい時間かもしれない。
「俺達も部屋に入るか」
「そうですね。もう遅いですし、湯浴みをして寝ましょう」
リーナが眠そうに欠伸をしながら言うので、疲れが溜まってるんだろう。
「明日はゆっくり出来るから良かったな」
そういえば、俺がこの世界に来て初めての休息だな。
思えば、毎日休み無しで活動してきて周りの環境が目まぐるしく変わっていくので、この辺りで少し休むのもいい頃合だ。
そんな事を考えながら一番先に湯浴みをしていると、後ろから声を掛けられた。
「旦那様、お背中流させて頂いてもよろしいでしょうか」
「おお、ティリア、いいのか?」
「これも旦那様の疲れを癒す為、当然です」
「それじゃ、お言葉に甘えて頼もうかな」
何とも甲斐甲斐しい事だ。
ティリアのそんな嫁さん的な発言に少しグッと来るものがあり、俺の『結婚したら嫁さんに言われてみたいセリフ』ランキングの上位に食い込みそうな勢いである。
ちなみに1位は『ご飯にする? お風呂にする? それとも……』だ。
最後までは言わせない所が夫の甲斐性だと俺は思う。
どうでもいい事を思い浮かべていると、背中に手ぬぐいの当たる感触がして力を抜く。
優しい力加減に心地良さを覚えて魔物との戦いによって張り詰めていた緊張が解れていくのを感じる。
「旦那様、どうですか?」
ティリアの声が聞こえたので、少しうつらうつらとしていた意識を起こして返事をする。
「ああ、気持ちいいなあ。背中を洗われるってのはいいもんだ」
「喜んで頂けて嬉しいです。良かったら前も洗いましょうか?」
「ああ、それじゃ――って、それはさすがに拙いから自分でやるよ」
前は色々と拙い。何がって聞かれると男なら分かってくれるはずだ。
ティリアは分からないだろうが、とにかくその一線は超えられないのだ。
主に、俺の精神的安寧の意味で。
「よろしいのですか?」
「ああ、背中流してくれてありがとな。後は自分でやるか――ってお前、何て格好してんだ!」
お礼を言うのに後ろを振り返ると、そこには裸体。
一糸纏わぬティリアの美しい裸体が目に入ってしまった。
思わず叫んでしまったので、俺の叫び声に反応してリーナまで来てしまった。
「コーヤ様どうしたんですか――っきゃあ! ティ、ティリア何で服着てないの!」
「なんでって……それは裸の付き合いが大事だと神の声が――」
「イケ神お前かあ! 余計な事をティリアに教えるな!」
聞こえているのだろうが、イケ神の返事は聞こえてこない。
別に嬉しくない訳ではないのだが、俺には刺激が強すぎる。
前の世界でも女性と付き合ったことなど片手で数える程で、恥ずかしながらそういった経験に免疫が無い。
それに付き合った事があると言っても、学生の頃になんとなくそんな感じになったが結局何をするでもなく1ヶ月足らずで終わるというよく分からない付き合い方だった。
とにかくこの場を何とかしなければ、俺が社会的に死んでしまう。
「――リーナ! 早くティリアを連れて行ってくれ!」
こんな時に頼りになるのはリーナだけだ。
ティリアに羞恥心というものが無い以上、そういう事が苦手なリーナならわかってくれるはずだ。
そう思って、リーナの方へ向いたのがいけなかった。
「わ、わかりまし――い、いやああああ!」
「あら、なかなかご立派で」
全く正反対の反応を見せた二人に対して、俺はもうお嫁に行けないななどとくだらない事を思いながら、リーナの高速右ストレートによって地に突っ伏したのだった。
「――魔法について、ですか?」
そう言葉を漏らしたのは、ティリアである。
翌朝、起きて昼食を取っていた時にふとこの世界の魔法について気になり、俺がティリアに聞いた事が発端だった。
「うん。俺もリーナも魔法に関しては使えるんだが素人も同然なんだよ。だから魔法ってどういうものなのか教えて欲しいと思ってな」
「そうなんですね。私が知ってる事はそこまで詳しいものでもないのですが……魔法というのは基本的には火、水、風、土の四属性に分かれています。他には治癒魔法等の特殊な魔法も存在するのですが、これ
に関しては使える人が少なくてあまり詳しくは知られていないですね」
と言う事は、俺の治癒魔法もかなり貴重な力なんだな。
前もリーナに同じような事を言われたが、治癒魔法を覚えておいて良かった。
「ティリアが使っていた氷柱のような魔法も水属性なんだよな? 魔法の種類や形って決まっているのか?」
「そうですね、魔法は術者の濃密なイメージとそれを発動できるだけの魔力があって初めて具現化するんです。イメージが固まっていなければ不発に終わりますし、魔力が足りていないとイメージした物より威力が弱まります。なので、術者によって魔法の形も色々なんです」
つまり、この世界の魔法はイメージとそれに見合う魔力量さえあれば天災レベルの魔法も使えるって事か。
なんか超能力みたいな感じだな。
「じゃあ、私も練習すれば魔法使えるかな?」
リーナが物凄く期待に満ちた眼でティリアを見つめていた。
「それはもちろん。リーナも魔力量に見合うだけの魔法なら使えるはずです」
優しい眼差しでリーナを見ながら、ティリアはそう言った。
「この任務が終わったら魔法の特訓もしていくか」
俺の言葉にリーナが嬉しそうに頷き、尻尾がふさふさと揺れた。可愛い。
「ティリアに教えて貰いましょうよ!」
「私で良ければいつでも付き合いますよ」
そう笑顔で話す二人を見て、俺は首を傾げた。
「お前らいつの間に仲良くなったんだ?」
「女の子同士は色々とあるんですよ、ね?」
「そうですね。旦那様には内緒です」
よく分からないが、二人の関係が良い方向に向かっているようで何よりだ。
手に持っていたパンを口に入れてスープを飲み干して、朝食を平らげる。
「さて、今日はせっかくの休日だから街にでも繰り出すか」
俺がそう言うと、二人とも眼を輝かせて詰め寄ってきた。
「美味しい物食べに行きたいです!」
リーナ、今朝食を食べている所なんだが。と思ったが、口に出すと機嫌損なわせるので心の中に留めておく。
「ぶらぶらしながら美味い店探すか」
「あの……私は服が欲しいのですが」
少し控えめに言うティリアを見て、俺はハッと気付いた。
「ああ、そういえば身の回りの物のティリアの分が無いもんな。今日買い揃えに行こう」
「よろしいのですか?」
「遠慮するな。これから必要な物なんだから当然だ」
しかし装備に関してはルシュタートのゴードン商店で買いたいので、とりあえず俺のお下がりの革の鎧を付けさせよう。
「ティリアは得意な武器とかってあるのか?」
「基本的には魔法主体ですが、弓が得意ですね」
弓、か。そうなると、ティリアは遠距離特化型だな。
後衛に居てくれるとバランスがとれるな。
「ルシュタートに戻ったら装備も揃えような」
少しパーティーっぽくなってきたと嬉しく思いながら、食後のコーヒーを味わう。
「だ、旦那様! 私、感激しています!」
そう言って俺に抱きついてくるティリアを見て、ピシっと石のように固まるリーナ。
俺はそれを見逃さなかった。
決して見逃さなかったのだが、それを止める事はできない訳で。
つまり、だ。
「ティ……ティリア! くっつきすぎ! コーヤ様から離れなさい! コーヤ様も何をデレデレしちゃってくれやがってるんですかあっ!」
「ちょっ、リーナ言葉遣いが丁寧なのか汚いのかよく分からんぞ!」
「そうですよ、リーナ。それに旦那様にくっつかないなんて一言も言ってないですからね」
何の話かは分からないが、リーナのこめかみに青筋が浮かんだのが見えた。
「へ……屁理屈を捏ねるなああああっ!」
目を吊り上げて顔を赤くしたリーナの怒鳴り声が部屋中に響き渡った。
その後、リーナの機嫌が治まるまで何故か俺まで怒られた。何でだよ。
奴隷ハーレムの作り方#16~到着~