奴隷ハーレムの作り方#14~黒髪エルフ奴隷のティリア~
俺は、タージェの案内で奴隷部屋を見て回っていた。
想像していた牢屋みたいな所ではなく、最低限の設備が整った現代にある様な収容所と似ていた。
大きい部屋には複数の様々な種族の奴隷が収容されている。
奴隷を見てみると身奇麗にされている様だ。
憔悴している訳でもないからしっかり体調管理などもされているのだろう。
前を歩いていたタージェが振り向き、話し掛けて来た。
「どや? うちの商会は奴隷をしっかり教育してから送り出す。メイドや護衛に使う為に貴族様も良く来るぐらい人気が出てきとるんや」
一般的に貴族は奴隷を悪趣味に使うぐらいにしか購入する者がいないのだが、ここスタロン商会ではまた違った用途を推奨しているらしい。
「すごい……私のいた商会とは全然環境が違います」
横を歩くリーナが感嘆の声を吐いた。
「ホンマはもっと環境良くしてやりたいんやけどな……ここは良くも悪くも商会や。いつか買われていく身に良い思いさせすぎたら、買い手に不満持ってまうかもしれんから良くないねん。リーナちゃんもそれはなんとなく分かるんちゃう?」
そう言われたリーナは少し考えた後、俺を見つめてきた。
「確かにそうですね。環境が悪かったからこそコーヤ様に不満を持たないのかもしれません」
「おい、それどういう意味だよ」
「冗談ですよ」
「質の悪い冗談だな……」
まあ冗談を言えるくらい砕けた関係になってるのは良い事だ。
それを微笑ましく見ていたタージェに、気になっていた事を訊いてみた。
「そういえば、なんでタージェは奴隷の扱いに拘ってるんだ?」
俺はこの世界の住人じゃないから奴隷の価値観が違うのだが、タージェはこの世界の住人だ。
ましてや奴隷商人だ。昔から奴隷の扱いには先入観が入ると思うのだが、違うのだろうか。
「ああ、それは……しょうもない話なんやけどな、昔この商会で親父が会長やってた時に収容されてた奴隷に物凄い綺麗な女がおってん。で、その女に惚れてもうてな。親父に頼んで俺の奴隷にして貰ったんやけど、どう接していいか分からんかった。そんな時、その女が言うたんや。『私の心を掴みたいのであればまず奴隷の存在をもう一度見つめ直し下さい』ってな」
へえ。その奴隷もなかなか言うじゃないか。
「で、俺は考えた。奴隷の扱いが良くなる様になればその女も俺を見直して惚れるんちゃうかってな。それに俺も一商人や。奴隷に教養を持たせて容姿が良くなれば今までよりも高く売れるって魂胆もある」
「なるほどな。確かに理に適っているな」
俺は感心していると、タージェの後ろにいるアンナの表情を見て眼を見開いた。
ポーカーフェイスを貫いていた彼女が、タージェを何とも優しい眼差しで見つめているのだ。
それを見て、俺は確信した。
「もしかして、タージェの惚れた奴隷ってアンナか?」
そう言うと、タージェは驚いた顔をした。
「なんで分かったんや!」
「いや、だって――」
「コーヤ様、他人のプライベートな部分に踏み込むのはいかがなものかと」
俺の言葉を途中で遮ったアンナが、いつの間にか元の無表情に戻り、こちらを見据えていた。
まるでこれ以上言うなと言っているように思える。
「……悪い。野暮な事聞いたな」
アンナが怖いから見なかったことにしよう。
タージェも気付いていないみたいだが、これは心配しなくてもそういう事なんだろう。
「ええって、俺も喋りすぎたわ」
そう言いながら力強い瞳でこちらを見据えて言葉を続ける。
「まあ理由はどうであれ今は奴隷に対しての地位向上、意識改革をしたいと思ってんねん。簡単な事ちゃうけど、やる価値はあると思っとる」
意識改革、か。それができれば、世界が変わるかもな。
「すごい夢だな。俺も出来る事があれば協力する」
「ホンマか! コーヤが協力してくれるとなると心強いわ」
俺としても大賛成だからな。タージェとはうまく付き合っていけそうだ。
「――っと、喋っとったら着いたわ。――ここがティリアの部屋や」
無数にあったドアの中で、一番奥にあったドアの前に俺達は立っていた。
ドアの左右には商会の私兵が門番のように立っている。
おそらくノーブル・シーカーからティリアを守る為の見張りだろう。
それほどまでに危険な奴らなのだという事を、改めて認識した。
「見張りご苦労さん。少し休憩して来てええで」
そう言って人払いをしたタージェは、ドアをノックした。
「ティリア、起きてるか? タージェや、入るで」
タージェの呼びかけに、中に居るティリアが答えた。
「タージェ様ですか? どうぞお入り下さい」
可憐な透き通る声が聞こえると、俺達はタージェを先頭に部屋へと入った。
するとそこには、あの時の黒髪のエルフの少女、ティリアがベッドの淵に座りこちらを見つめていた。
俺と目が合うと、彼女は眼を見開いて驚いた様子で固まった。
「あなたはまさか……黒髪黒目の……コーヤ・カネミ様ですね?」
徐々に喜びに変わっていくティリアの表情に、戸惑いを隠せない。
「ああ、確かに俺がコーヤ・カネミだが……なんで俺の名前を?」
あの時は眼が合っただけで名前を言った覚えは無い。
「それは――あなたが私の救世主だからです」
ちょっと待て。もしかしてこの子、アレな子だったりするのか。
ちらっと顔を横に向けると、リーナは困った表情をしている。
アンナは相も変わらずポーカーフェイスだし、タージェは面白そうといった表情で成り行きを見守っているようだ。
溜め息を吐きそうになるのをなんとか喉の奥に押し留め、ティリアに近づき話し始める。
「ティリア、悪いが俺は君の救世主じゃない。あの時君が助けを求めていたから気になってここに来ただけなんだ」
そういうと不思議そうな顔でこちらを見つめるティリア。
そんな純真な眼で見つめられると何故か後ろめたい気持ちになってくる。
いや、何も悪い事はしてないぞ、うん。
意味も無くどぎまぎしていると、ティリアが笑みを浮かべて言った。
「あの時の言葉、伝わっていたんですね。やはり神の声に間違いは無かったのです」
「……神の声?」
「はい! あの時コーヤ様を見た瞬間、神の声が聞こえたのです。『そこにいる黒髪の男が近い内に汝を助けに来るだろう』と!」
やっぱりお前の仕業かイケ神。しかし今回に関してはグッジョブ。
それにしてもイケ神はなぜそんな事をしたのか疑問に思っていると、タージェが言った。
「黒髪のエルフは昔から神の声を聞く事ができるって話や。まあ、そのせいで迫害を受けているってのもあるんやけど……」
「どういう事だ?」
話を聞いてみると、どうやら昔にあった事なのだが、当時の黒髪のエルフが神託を悪用した為に大きな争いが各地で起こったらしい。
大勢の人が死に、その後は黒髪のエルフの神託は信ずるに値しないというのが人々の間で広まり、結果忌み嫌われるようになったのだと。
「まああくまで昔の事やからホンマかどうかなんて分からんけどな。やけど今ティリアが忌み嫌われているのは紛れの無い事実や」
その辺りの事も踏まえてティリアを守らなければならないな。
「あの――コーヤ様は私を助けてくれるのですか?」
「ああ、俺の力は微々たるものだろうけど、ティリアを守りたいと思っている」
そう言うと、ティリアの目尻に涙が浮かび上がるのを見て俺は焦った声を出した。
「お、おい、どうしたんだよ」
「すみません。つい、嬉しくて……こんな私を助けると言って下さる人が居るのだと思うと、涙が出てきてしまいました」
まだ涙を浮かべながらも、微笑むティリアはとてつもなく綺麗だった。
だが、ティリアには確認しなければならない。
「ティリア、君の意思を確認したい。俺達と行動するか、西へ逃げるか、だ。俺達と一緒なら俺も全力で守ろう。だが、危険に晒す事だってあるかもしれない。――どうする?」
「私の心は決まっています。是非あなたの傍に居させて頂きたいと思っております――旦那様、不束者ですがよろしくお願い致します」
ベッドの上で三つ指を着き、ご丁寧に言ってもらえるのはいいのだが、それどこで覚えたんだ。
それよりも、気になる事が一点ある。
「ああ、よろしく。それより、その旦那様って呼ばれるのはちょっとな……」
「私は旦那様の伴侶となるのです。旦那様とお呼びするのは当然の事だと思いますが」
「――は、伴侶ぉ?」
ティリアの言葉にいち早く反応したのは、俺ではなく何故かリーナだった。
よって、今の素っ頓狂な声もリーナだという事だ。
「ティ、ティリアさん、だったよね?」
「ええ、失礼ですがあなたは?」
「私はリーナ。コーヤ様の奴隷兼パートナーをやってるの」
「――パートナー?」
「ええ、私の役目はコーヤ様の背中を守る事なの」
そう自信満々に言い切ったリーナに対して、ティリアが整った眉を顰める。
「そうなのですか。では、パートナーのリーナさん。この度旦那様の伴侶となるティリアでございます。以後お見知り置きを」
なんか勝手に伴侶にされちゃってるのだが、どうしよう。
「それはティリアさんが勝手に言ってる事でしょう! コーヤ様は了承してないんですから、は、伴侶なんて駄目ですよ!」
全く以て正論を吐き出すリーナだが、ティリアは引かない。
「これも神託のお導きなのです。リーナさんがどう言おうと関係ありません」
なんだかティリアがイケ神のせいでアブない子になっている気がするのだが、大丈夫なのだろうか。
「な、何をアブない事言ってるんですか! そんなのパートナーの私が認めません!」
「いくらパートナーの方と言えども旦那様の伴侶の選別をする権利はどこにもないはずです!」
「な、ならコーヤ様に答えて貰いましょう! それではっきりするでしょう!」
「そうですね。確認するまでも無い事ですが、仕方ありません」
そう言って急に二人揃って俺に話を振ってきた。
「ま、まあ伴侶云々はやっぱり会ったばかりだから保留って事にしよう。だから二人とも仲良く、な? 俺達これから仲間になるんだから」
答えに困ったのだが、無難な言葉を選んでこの場を収める事に集中した。
「コーヤ様がそう言うなら……」
「仕方ありませんね……」
二人ともどこか不満気であったが、大人しくなった。
「呼び方に関してはもう自由に呼んで良いから。――これからよろしくな、ティリア」
「はい、旦那様!」
ニッコリと満面の笑顔で言うティリアは可愛かった。
俺、こんな可愛い子に求婚されているのか。
ちょっと暴走気味な思考をしているが、嬉しい事には変わりない。
「……私は認めませんから」
不貞腐れる様に呟くリーナを横目に、心の中で女って怖いなって思いました。
奴隷ハーレムの作り方#14~黒髪エルフ奴隷のティリア~