奴隷ハーレムの作り方#10~獰猛な猪~

宿屋を出てギルドに向かった俺達は、ギルドで依頼を受けた後、北にあるヴォラス山の麓に広がる森まで来ていた。
 今回の依頼は、ソルジャーアントの討伐だ。
 ソルジャーアントの特徴は、個体はゴブリンよりも弱いが、常に群れで行動する魔物だ。
 この近辺にある森に縄張りを持っている。
 ローリスさんが言うには、東の森とは離れていてゴブリンがいても少数らしいという事なのでこの依頼を受けることに決めた。
 ソルジャーアントの群れには統率するクイーンアントがいるらしいが、これはソルジャーアントを生む母体なので、そこまで脅威じゃないらしい。
 これもローリスさんから貰った情報だ。

――それにしても、だ。

「悪かったって。なあリーナ、機嫌直してくれよ」

「もう知りませんっ! あんなに撫でられたら力抜けちゃうじゃないですか!」

 怒った顔でぷりぷりとしているリーナは、今は可愛く見えるがさっきは本当に危なかった。
 あいつ、刀を抜いて俺に斬りかからんばかりの勢いで怒ってたんだぜ。
 柄に手を掛けていたからあれは間違い無く本気だった。
 主従の契りが無かったら俺死んでたな。
 以後リーナの耳と尻尾は無断で触れないようにしようと思う。

「本当に反省してますか?」

「してます。もう無理矢理モフモフはしません」

 もうあんな怖い思いはしたくない。

「……あの時のコーヤ様本当に怖かったんですから」

「……すまん」

 確かにあんな迫り方したら女の子は怖がるよな。気を付けよう。

 そう思いながら前を歩いていると、前方から蟻を人間大にした黒い物体がわらわらとこちらに向かってきた。
 結構な数が向かって来る所を見ると、おそらくあれがソルジャーアントだろう。

「リーナ、来るぞ!」

「はいっ!」

 お互いに声を掛け合い、先に囲まれる前に俺達は蟻の群れに突っ込んでいった。
 俺は前方のソルジャーアントをミスリルの剣で縦に斬り裂く。
 続いて横にいるソルジャーアントを横薙ぎにし、その後も次々と群がってくる蟻を斬っていった。
 なるほど。初心者には打ってつけの魔物だな。
 ゴブリンよりも弱く、動きも遅い。そして数が多いので狩りやすい。
 討伐報酬は5銅貨と安いが、まだまだ実戦が足りてないのでしょうがない。
 死んでしまったら元も子もないからな。
 ソルジャーアント相手に無双していると、少し離れた所でリーナが快進撃を繰り出していた。

「コーヤ様、私凄く体が軽いです! 神様はこんな力を与えてくれたんですね!」

 自分がこんなに戦える事に驚いているのか、しかしどこか嬉しそうな声で叫びながら手に持った刀で的確にソルジャーアントを葬っていく。
 少しだけ力を解放しただけで身体能力が向上したらしい。
 力を全て解放したらかなり強いのかもしれない。
 リーナはまるで舞を踊っているかのように周りにいるソルジャーアントを斬り刻んでいく。

「与えたんじゃなくて、元々お前が持っていた力だ!」

 俺もそれを横目に見ながら、残りのソルジャーアントを倒し続けた。
 この場に居るソルジャーアントが残り少なくなってきたので、頃合を見て引き上げる為に、リーナに声を掛ける。

「リーナ、そろそろ引き上げよう!」

 いくら弱い敵だと言っても、長時間戦い続けるのは危険だ。
 これはハイゴブリンの群れとの戦いによって得た経験で唯一学んだ事だ。

「わかりました! ――きゃっ!」

「リーナ!」

 その時、疎らに散っていたソルジャーアントが逃げていくのと同時に、俺たちよりも一回りも大きい赤い目をした猪のような魔物がリーナに向かって突進して来た。
 間一髪、勢い良く上に跳躍して木の上に着地したリーナに、ほっとして凄い跳躍力だなと関心した。
 だが、足から血を流しているのを見て俺は焦った。

「お、おい大丈夫か!」

「私は大丈夫です! それよりもあれはレッドボアです! Dランクの冒険者が複数で当たらないと勝てない相手です、気を付けて下さい! 」

 レッドボアと呼ばれた猪の魔物は唸り声を上げながら、こちらに向きを変えて物凄い勢いで突進してくる。
 横に跳んでかわし、後ろにあった木にレッドボアが激突した。
 木の葉がひらりと舞い散る中、俺は止まっているレッドボアを剣で斬りつける。
 レッドボアの血が飛び散るのも構わずに、返す刀でもう一度レッドボアの腹を斬り裂いて、すぐに後ろに跳躍し距離を取る。
 傷付いて少し動きが鈍ったが、どうやら更に激怒したようで咆哮を上げながら暴れ始めた。
 傷を付けた俺を視界に入ったのか、また勢い良く突進して来る。
 それを先程と同じように横へ避けてかわした。
 暴れ回られると攻撃しにくいな。
 どうするか迷っていると、リーナが俺を呼ぶ。

「コーヤ様! 私のいる木に誘導出来ますか?」

「出来るけど、どうするつもりだ!」

「私が上から止めを刺します!」

「その怪我で出来んのかよ!」

「掠り傷ですから大丈夫です! ――私を信じて下さい!」

 リーナの声が森に響き渡る。
 ああ、くそ。信じてくれなんて言われたら何も言えないじゃないか。
 前の世界でできなかった信じるという事を、俺はこの世界でなら、リーナなら信じる事ができるとそう思った。

「――わかった! 木の揺れで落っこちるなよ!」

「落ちませんよ! そんなの恥ずかし過ぎます!」

 その言葉に笑みを浮かべて、俺はレッドボアの気を引く為に短剣を投擲して、リーナの立っている木まで走る。

 そこまで辿り着くと、もう一度短剣を投擲した。
 短剣が突き刺さって上手く気を引けたおかげで、レッドボアがこちらに突進する前兆に前足を上げて土を慣らし始めた。

「そろそろ来るぞ!」

「任せて下さい!」

 お互いに確認し合い、俺は突進してくるレッドボアをギリギリまで引き付けた。
 そしてすぐそこまで来た所で、俺は全力で土を蹴って横に跳んで突進をかわす。
 レッドボアはまた木に激突して動きを止める。

「今だ、リーナ!」

「はああああッ!」

 声を上げながら木の上から飛び降りて、レッドボアの真上を取る。
 その手に持っている刀に視線を動かすと、刀が燃えている。

――まさか、魔法剣か!

 赤く燃え滾る炎を纏った刀身が、レッドボアの脳天に突き刺さった。
 すると瞬く間にレッドボアの体を刀身から炎が焼き尽くしていく。
 そして断末魔の咆哮を上げながら、レッドボアが消滅していった。
 残ったリーナは立ち上がろうとするが重心が傾いて倒れそうになるのを、俺は抱き止めた。

「良くやった。と言いたい所だが、無茶し過ぎだ」

「えへへ。でも倒せましたよ」

 怪我の痛みに顔をしかめながらも、俺に向けて笑顔でいるリーナを抱き上げる。

「へっ? ちょ、コーヤ様降ろして下さいよお!」

 突然の事に驚き、リーナは俺の腕の中で暴れ始めた。

「足怪我してんだから駄目だ。街に戻るまで降ろしてやらない」

「うっ……わかりました。お願いします」

 恥ずかしそうに身を捩りながらリーナは大人しくなった。
 俺はリーナの柔らかい感触に満足しながら来た道を戻り始めた。

「あの、私重くないですか?」

「ああ、軽い軽い。こんな軽いのに、出るとこは出てるなんて不思議なくらいだよ」

 魔物に遭遇しないように周りに注意を払いながら俺はそう返した。

「……それはセクハラですよ」

 褒めたつもりだったんだが、どうやら失敗だったようだ。
 森の中を駆け抜けながら、気になった事を訊いてみた。 

「そういえば、あの炎は何だったんだ?」

「あれは刀に魔力を注いだらああなっちゃって。自分でも驚いてます」

「へえ。それにしても凄かったな」

 やっぱり魔法剣か。俺も使ってみたいな。

「思わぬ大物を狩れたから、今日は美味しい物食べに行くか」

「本当ですか! 一杯食べていいですかっ?」

「ああ、リーナの手柄だからな。一杯食え」

 そんな会話をしていると、街が見えてきた。
 戻ったらウィレスさんの所に寄らないとな。

奴隷ハーレムの作り方#10~獰猛な猪~

奴隷ハーレムの作り方#10~獰猛な猪~

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 青年向け
更新日
登録日
2018-04-21

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