奴隷ハーレムの作り方#9~先祖返り~
翌朝、若干寝不足のせいで目の下に隈が出来た顔を洗っていると、リーナが心配気に声をかけてきた。
「昨日眠れなかったんですか? 疲れた顔してますよ」
リーナに欲情してましたなんて言える訳も無く、笑って誤魔化した。
「いや、大丈夫だよ。今日はリーナと一緒に初依頼する訳だから楽しみでなかなか寝付けなくてな。ははは……」
何言ってんだ俺。それにしても寝起きの女の子の無防備な感じは良いものだな。
何と言うか新鮮である。
「そうだったんですか。ふふっ、コーヤ様も可愛いとこあるんですね」
誤魔化したのが思わぬ好感度アップに繋がったらしい。
女心は難しい。
そんな事を思いながら支度をしていると、頭の中に声が響いてきた。
『コーヤ君元気だったかい?』
「――ッ、イケ神か!」
「コーヤ様どうかしました?」
『おっと、今はリーナちゃん、だっけ? その子には気付かれないようにしてて』
「い、いや何でもない」
「? そうですか」
リーナはまた準備に戻って行った。
そして俺達は、心の中で会話する。
で、何か用なのか? リーナには一応お前の事も話しているんだが。
『まあちょっと彼女の事についていい事を教えてあげようと思ってね』
リーナの事か?
『うん。君は実に良い拾い物をしたようだ。――彼女は妖狐の血を受け継いでる』
妖狐? それってそんなに凄いのか?
『いや、血を受け継いでるだけならそれ程珍しい事じゃないんだけど、彼女は少し特殊でね。その血の濃さが異常に高いんだ。所謂先祖返りってやつかな』
先祖返りか……妖狐って強いのか?
『そりゃあ伝説の生き物だからね。力の源である九つの尻尾を持ち、幻術を使い相手を惑わせて葬り去る。この世界では殆ど忘れ去られているけど、まさかコーヤ君が先祖返りを拾ってくるなんて驚いたよ』
俺も吃驚したわ。あれ? じゃあ俺より強いんじゃなかろうか。
『残念ながら彼女はまだその力を存分に発揮できていない。彼女の体にある魔力回路に欠陥があるようで、魔力が放出できないんだよね』
それじゃ宝の持ち腐れだな。イケ神が何とかできないのか?
『出来ない事も無いけど、急に完璧に治してしまうと彼女に体に負担が掛かるから、やるとしても少しづつだね』
そうか。用はそれだけか?
『ここからが本題だよ。そっちにハイゴブリンがいるよね? そのハイゴブリンだけど、どうも自然に発生した魔物じゃないみたいなんだよね』
どういう事だ? ならどうやってあいつは生まれたんだよ。
『僕も全ての事象を見通せる訳じゃないからそれ以上は分からない。だから君を送り込んだんだしね。コーヤ君にはそれを倒すのと、何故そんな歪な生き物が出来たのか調べて欲しい』
そういう事かよ。まあハイゴブリンは最初から近い内に倒しに行く予定だったから構わないけど、調べるっつってもあまり期待すんなよ?
『ふふっ、そっちに関しては当たればラッキーくらいに思っとくよ。――引き受けてくれる代わりに、また力を与えよう。また魔力強化するかい?』
俺じゃなく、リーナの力を解放する事でもいいか?
『いいけど、君は強くならないよ? それでもいいの?』
死なないように何とかするさ。
それに、リーナが強くなれば戦いも有利になる。
『わかった。じゃあ少しだけ解放するね。――終わったよ。これで少しは彼女も力を出せるだろう』
ありがとう、助かったよ。
『それはこっちのセリフさ。まだ何も終わっちゃいないけどね。じゃあゴブリンの件をよろしく頼むよ』
そう言った後、イケ神の声は聞こえなくなった。
それにしてもリーナが先祖返りだなんてな。どんだけ高スペックなんだよ。
「コ、コーヤ様ああああっ! 尻尾が、尻尾があっ!」
リーナがドタバタと騒がしく俺の名前を叫びながら寝室から転がり込んできた。
そんなに慌てているのを見ると、もしかして力が解放されて体に異常が出たのかもしれない。
心配になり、リーナに声を掛けた。
「お、おいリーナ大丈夫か? どこか痛いのか?」
「コーヤ様、違うんですぅ! な、なんか気が付いたら……」
そう言ってリーナは体を捻って、俺に尻尾を見せてきた。
「尻尾が、増えてしまいました! な、何かの病気なんでしょうか?」
体を捻るもんだからリーナの胸がたゆん、と揺れたのを見えたので、そちらを凝視してしまって反応が遅れた。
「あ、ああ……確かに増えてるな。だが病気の心配はないぞ。実はな――」
俺はリーナにさっきの出来事を話し、リーナが先祖返りで、イケ神が力を解放してくれた事も言って聞かせた。
「わ、私って先祖返りだったんですね。だから尻尾が2本になったんですか」
そう。リーナの尻尾が2本に増えていたのだ。
モフモフしたくて堪らない。
ゴクリと喉を鳴らし、俺は意を決して訊いてみた。
「な、なあ、尻尾……触ってみてもいいか?」
「へ? し、尻尾ですか? あの、それはちょっと……」
もじもじとしながら顔を赤くするリーナに、もう少し強く出てみる。
「そこを何とか頼むよっ! 気になって今日も眠れなかったら体壊してしまいそうなんだよ……」
割と本気で言っている。何しろまだ耳も触っていないのだ。
「だ、駄目です! その、尻尾や耳はですね、す、好きな人にしか触らせちゃいけないって母から教わっていて……」
何とも素敵な習慣だが、それでも俺は諦めきれない。
「――リーナは俺の事が嫌いか?」
悲しそうな表情で言ってみる。
「そ、そんな訳ないじゃないですか!」
必死に否定してくれるリーナを見てにやけそうになるのだが、もう少しだけ表情に出るのを我慢する。
「なら触っても大丈夫だよな?」
「いや、それとこれとは話が違いますよ」
強情な奴め。ちくしょう、尻尾が触りたいだけなのに。
「――そんなに触りたかったら命令すればいいのに……」
ぼそっと呟いたリーナの言葉に、俺は疑問を抱いた。
「え、命令したら触らせてくれるのか?」
そういえば、この世界の奴隷ってどうやって拘束されているんだろうか。
拘束力が無ければきっとリーナもルドマスの盾にはならなかったはずなのだ。
そう疑問を浮かべた俺を見て、何でそんな事を訊くのか分からないといった表情をしているリーナは、ハッと何かに気付いた様子でこちらを見た。
「あ、コーヤ様は知らなかったんでしたね。奴隷の体には奴隷紋というものが刻まれていて、主人の魔力に反応して主従の契りが成されるんです。そうすると命令には逆らえなくなり、主人の命に関わるような危害は加えられなくなるんですよ。私の場合はルドマスが死んだ事によって主従の契りが解かれて、コーヤ様の治癒魔法の魔力に反応して主従の契りが成されてしまったんです。言い忘れていてごめんなさい」
そうだったのか。だからリーナは俺に着いて来てくれていたんだな。
「いや、謝らなくていいよ。こっちこそ治療の為とはいえ、寝ている間に主従関係を作ってしまって悪かったな」
謝る俺に対して、ぶんぶんと首を横に振った。
「いえ、助けて頂いたのでこれは当然の事ですよ」
本当に結果オーライみたいな形だが、リーナを助けられて良かった。
「ちなみに、奴隷紋というのはどこに刻まれているか見せてくれないか?」
見た感じ腕や首などに刻まれている様子は見受けられないが、どんな形をしているのか興味が湧いたので訊いてみた。
「あ、ああ、奴隷紋はですね、出来るだけ心臓に近い部分に刻印されてまして、つまり、その、む、胸の下の部分に刻まれてるんです……」
今何と言ったのだこの子は。胸の下、だと?
――そ、それはつまり、下乳にある、という事か!
衝撃を受けた俺は、物凄く恥ずかしそうにしているリーナに、催促をした。
「さあ、早く奴隷紋とやらを見せてくれよ」
「ほ、本当に見せなきゃ駄目ですか?」
「ああ、一度見ておかないと奴隷の区別が付かないだろう」
そもそも胸の下にあるので、服を着ているのにどうやって見分けるんだよって自分に突っ込んだが、そんな事は些細な事だ。
「わ、わかりました。少しだけですよ?」
今俺の目の前には、少しづつ着ている服を胸がポロリと出るか出ないかのギリギリの位置まで捲り上げている金髪の獣人美少女がいる。
その姿は神秘的で、あどけなさが残る可憐な容姿をしたリーナがやるにはどこか危うい淫靡な雰囲気が出ていた。
何かイケナイ事をしている気がしたが、肝心の奴隷紋がある部分を近づいて見てみる。
リーナの体に刻まれている奴隷紋は、マンガに出てくる魔方陣のようなものだった。
円の中に知らない文字や記号が描かれている。
じっと見ていると、リーナの体から甘い香りがしてくる。
「コ、コーヤ様……も、もういいですか?」
「え? あ、ああ、もういいぞ、うん。」
恥ずかしくてもう限界といった感じで服を下ろすリーナに、俺は更なる追い討ちをかける。
「よし、じゃあ次は尻尾を触らせてくれ」
「えっ? ちょ、何言ってるんですか! ま、待って下さい。――い、いやああああっ!」
それからリーナの尻尾を思う存分モフモフした俺は、とてつもない充実感を得る代わりに、頬を赤く腫らして宿屋を出る事となった。
奴隷ハーレムの作り方#9~先祖返り~