奴隷ハーレムの作り方#8~この世界の事について~
俺たちが宿に戻ってきた時にはもう辺りは暗くなっていた。
「リーナ。大切な話があるんだ。」
食事を取った後、部屋に戻った俺はリーナにそう告げた。
「何ですか? ――私を捨てるとかいう話じゃないですよね?」
「実はな――」
「い、嫌ですよ! 商会には戻りたくありません! 私が中古だからですか? それなら心配ありませんよ! 私、まだ経験無いですからああっ!」
何を勘違いしているのか、リーナは勝手に話を進めていった。
てかまだ未経験だったのか。それは良い事を聞いた。
「落ち着け、落ち着けって。心配しなくてもそんな事する訳ないだろ? そうじゃなくて俺に関しての話しだよ」
「あ……そ、そうだったんですか」
動揺して自分の発言を思い出したのか、急激に顔が赤くなっていた。
「あの、コーヤ様はそういう事を……奴隷とお望みなんですか?」
「へ? あ、いや、望んでない訳じゃないが、そういう事は愛し合う者同士がする行為だと思うから、リーナをどうこうしようなんて思ってない」
変な事を訊いてくるもんだから、思わず動揺してしまった。
何言わせんだこいつは。あ、待って、ほっとした表情見せないで。
そんなに嫌だったのかと悲しくなるだろ。
「ゴホン、ま、まあそれはいいとして、そんなに奴隷商会って戻りたくない場所なのか?」
「はい、私のいた所は奴隷の管理が酷くて……食事は一日一食で、労働にこき使われてました。時には暴力も振るわれてましたし……もちろん全ての商会がそうじゃないでしょうけど、多かれ少なかれ必ずそういった仕打ちはあるんじゃないでしょうか」
不意に、東門で見かけた黒髪のエルフの少女を思い出した。
あの子は今どうしているんだろうか。
最後に呟いた彼女の助けを求めるサインに、どうしようも無く心を揺さぶられる。
本当は今すぐ商会を探し回りたいが、金が無い。
明日からは午前中に討伐依頼をこなして、午後はウィレスさんの訓練にちょくちょく顔を出すつもりだったが、もう少し頑張らないと金が貯まらない。
「どちらにしろリーナを手放すつもりは無いから安心しろ」
「なら良いんですけど。あ、そういえばコーヤ様の大事な話って何だったんですか?」
それが本題だった。エルフの少女の事はまた後で考えよう。
「ああ、そうだった。実は俺さ――この世界の人間じゃないんだ」
「……コーヤ様って本当にアブない人だったんですね」
「待て待て、人を勝手に貶すな。順を追って説明するから」
俺はリーナに、イケ神の手違いで違う世界で死んでしまい、その代わりに力を与えて貰い、記憶を持ったままこの世界に来た事を告げた。
「――そういう訳だから、俺はこの世界の事を何も知らない。リーナには色々教えてもらいたくてこの事を話したんだけど、他の人には黙ってて欲しい」
「それは分かりましたけど、何か信じられません……でも、だからこそコーヤ様の常識外れな行動にも説明できますね」
「え? 俺そんなに常識外れだった?」
全然見当もつかないんだが。
「そりゃそうですよ。私が盾にされて気を失ったのを見て、ルドマスを戦闘中に殴ったんでしょう? 私の為にっていうのは分かりますけど、明らかにやりすぎです。ゴブリンに殺されたのは油断したルドマスの自業自得って思いたいですけど、コーヤ様にも責任の一端はあると思います」
冷静に考えてみれば、確かにあの行動は起こすべきじゃなかった。
いや、今まで考える事を拒否していただけで、薄々分かっていたんだ。
ルドマスは俺が殺したようなものだという事を。
脳裏にルドマスの首が刎ね飛ぶシーンがフラッシュバックしたのを感じると、急激に吐き気が込み上げて来て、急いでトイレに駆け込む。
「え、ちょ、コーヤ様大丈夫ですか!」
胃の中にある物を吐き出してしまった。
少しスッキリした俺は口を水で濯いでから部屋に戻った。
「すまん、あの時の事を思い出してしまって……情けないな」
「コーヤ様……」
「もう大丈夫。やってしまった事はもう取り消せないけど、これからを変える事は出来る」
そうだ。俺はこの世界に上手く馴染んでいかなきゃならない。
そうしないと、また間違った行動を取ってしまうかもしれない。
その時迷惑がかかるのはリーナだ。
俺がしっかりしないと守るべき者も守れなくなる。
「あの、私も頑張りますから、コーヤ様も頑張りましょう!」
「リーナ、ありがとう」
奴隷に慰められる主人なんて、この世界で俺だけだろうな。
「よし、じゃあこの世界について何か教えてくれ」
「あ、そうですね。そもそもここはどこの国か知ってます?」
「ルシュタートの街、しか知らん」
「ここはレグラム王国領内の王都レグラムから東に位置する街で、更にあの東の森の先にはイブリース帝国があります。ルシュタートの街が壁に囲まれているの分かりますか?」
「ああ、防衛機能がしっかりあって街の中は安全だよな」
そう易々と飛び越えられないような高い壁に囲まれていたのを思い浮かべる。
「そうです。魔物の防衛は勿論理由の一つですが、一番の理由は帝国からの侵略に備える為でもあります」
魔物よりも同族を警戒するってのも何とも滑稽な話だな。
「その帝国ってのはどんな国なんだ?」
「……帝国は人族至上主義の国です。他種族に排他的で、人族以外の種族はとても生きていける環境じゃないですね」
「なんか正に帝国って感じだな……」
「そうですね。帝国はアルドラント大陸の3分の1を占めてますから大陸内では一番広い領土持っているんですよ。だからこの街もしっかり防衛できるような造りになっているんです」
成る程な。この世界の事は少し分かった。
「攻めて来たりはしないのか?」
「小競り合い程度なら過去に何度かはあったらしいですが、最近はどうなのかは分からないです、すみません」
「いや、助かったよ。また気になった事があれば訊いていいか?」
「もちろんいいですよ。私で答えられる事でしたらお話しします」
「悪いな。後、明日は依頼こなしてからウィレスさんの所に顔出すつもりだから忙しくなるぞ」
「わかりました」
それにしても帝国か。頭の片隅に置いておこう。
リーナが湯浴みの準備をしてくれたので、先に体を清める。
背中を流してくれるかもしれないと少し期待したが、何事も無く済んだ。
リーナ、君は全然わかってないよ……。
心の中で嘆いていると、入れ替わりに浴室に入って行くリーナが、顔だけこっちへ出して俺にこう告げた。
「あの、覗かないで下さいね……?」
恥ずかしそうに頬を染めるリーナに、俺は言葉を返せずに結局寝るまで悶々と過ごす羽目になるのであった。
奴隷ハーレムの作り方#8~この世界の事について~