奴隷ハーレムの作り方#7~木彫りのペンダント~
ウィレスさん達との話が終わった後、ローリスさんに討伐報酬を貰った。
ゴブリン1匹につき、15銅貨。
それが237匹分なので、全部で銀貨35枚と銅貨55枚と結構な金額だ。
思った以上の報酬に目を丸くする。
傍にいたリーナも同様に驚いた様子だが、目はキラキラさせていた。
リーナはお金が好きなのか。お金が嫌いな人間はいないのはどの世界でも共通なんだろう。
俺の視線に気がついたのか、リーナは何でもない振りをしている。
でもリーナさん、あなたの尻尾もの凄いふりふり動いてますぜ。
「これで新しい装備でも買いに行くか」
俺はほぼ初期装備のままだし、リーナは丸腰だ。
「討伐隊の出発日までには整えておいて下さいね。きっとコーヤさんは隊に加わる事になるでしょうから」
そう言ってローリスさんは次の仕事をするのに奥へ引っ込んでいった。
色々と忙しそうだ。
「俺達も行くか」
リーナを引き連れてギルドを出た。
街の市場に出ると、リーナが近くにある露店に視線を向けていた。
視線の先にある露店に近づくと、次第にリーナの耳がピクピク忙しなく反応した。
その余りに素直な獣耳に敬意を表して、露店を覗くことにした。
「いらっしゃい! 色々あるからゆっくり見ていってね!」
露店のおばさんの言葉に甘えて、商品に目を向ける。
そこには数々のアクセサリーが所狭しと並べてあった。
革製のブレスレットや、花を模した髪飾りなど、どちらかというと女性客をメインに取り扱っている。
そんなアクセサリーの中でリーナが手にして眺めていたのは、木彫りで作られた三日月のペンダントだった。
「それ、欲しいのか?」
「い、いえっ! 大丈夫です!」
「本当に?」
「本当に大丈夫ですよ……ちょっと両親の事思い出していただけです」
「……ご両親はその、元気なのか?」
少々踏み入った話なので、少し戸惑う。
「はい、元気にしているはずです。奴隷になってからは会ってませんけど」
「そうか……」
「私が奴隷になったのは、飢えを凌ぐ為だったんです。両親は反対したんですけど、もうそうしないと皆飢えで死にそうになっていて……」
この世界は生きていくのも大変な世界なのか。
「それで泣く泣く自分からってとこか……」
「そんな感じです。このペンダント見てると、小さい頃に両親が木彫りのペンダントをくれたのを思い出しちゃったんです」
少し照れくさいのか、はにかんだ笑顔を見せるリーナを眩しく感じた。
誰かの為に自分を犠牲にできる彼女は、この世界においてどれだけ尊い存在なんだろうか。
俺には、きっとできそうも無い。
「すみません。このペンダント頂きます」
「あいよ! 銅貨50枚ね」
俺はおばさんに銅貨を渡し、ペンダントをリーナの首に着けた。
「コーヤ様、あの」
「――首輪だ。奴隷には首輪が必要だろ? その代わりに肌身離さず着けてろよ?」
ぽかんとした表情でこちらを見つめていたリーナは、何が可笑しいのか急にくすくすと笑い出した。
「急にどうしたんだ?」
「いえ、コーヤ様って意外と照れ屋さんなんだなって思って、ふふ、ありがとうございます。大切にしますねっ!」
「からかうな。もう行くぞ」
「あ、待って下さい」
慌てて追いかけてくるリーナを横目に、昨日買った猪の肉の串焼きを2本を買って片方をリーナに渡した。
一緒に食べながら装備品が売っている店まで歩いていく。
「……コーヤ様って不思議な人ですよね」
「また変態って言いたいのか」
「ち、違いますよ! 奴隷の私に優しく接してくれますし、いろんな物買ってくれたり、奴隷に対しての扱いが異常に優しい気がするんです」
「……俺にとっては、他の人の奴隷に対する扱いの方が異常だと思うけどな」
「異常?」
「だってそうだろう? 自分の身を守る盾にしたり、食事は床で食べさせるなんて同じ人間にすることじゃない」
「えっと……よく分かんないですけど、コーヤ様が奴隷を大切にされるってことだけは分かりました」
分かっている。俺の言った事は現代日本の常識であって、この世界では通用しないという事くらい。
だけど、俺は通用しなくても貫き通したいのだ。
この世界の嫌な部分に染まりたくない。
独り善がりでも何でもいい。
変わらなければならない部分もあるだろうが、変わっちゃいけない部分もあると俺は思っている。
「――要するに俺にとってのリーナは愛でる為の守るべき大切な存在だって事だ」
「……よくそんな恥ずかしい事言えますね」
呆れた表情でこっちを見るな。
「ほら、着いたぞ」
俺はヨーロッパ調の洋館に足を踏み入れて、中にある装備品を見て回る。
前に来た時も思ったが、ここには冒険に必要な武器や防具の品揃えが豊富で、ルシュタートの街で一番の店なんじゃないかと思う。
武器が置いてあるコーナーで物色をしながら、後ろに着いて来ているリーナに訊いてみた。
「そういやリーナは得意な武器はあるのか?」
「そうですね……色々使った事はあるんですけど、私もコーヤ様と同じ片手剣が一番扱いやすいです」
まあそれが妥当だろうな。リーナが大剣や斧を振り回す所はちょっと想像できないからな。
そう思いながら店内の武器コーナーを見て回っていると、少し離れた目立たない位置に置かれている、気になる武器を見つけた。
「これは……」
「コーヤ様、その武器は何ですか? 私見た事無いです」
俺がいくつかある内の一つに手をかけて、鞘から抜いてみた。
すらりと抜かれた刀身は普通の剣よりも薄く、斬る、という動作をより特化させた形をしている。
そっくりそのままという訳にはいかないが、日本にあった物に酷似した物を手に持っていると、横から声をかけられた。
「お前さん、良い目をしとるな。それは遥か東方にある島国から取り寄せた刀という武器だぜ」
やっぱり刀だったか。というかこの世界にも日本みたいな国があるんだな。
「ああ、これに似た武器を目にした事があるんだ」
声をかけてきた店員を見ると、そこには背は低いが屈強な体と浅黒い肌を持ったドワーフのおっさんが興味深そうにこちらを見ていた。
「その刀を取り寄せたまでは良かったんだが、どうもこの街では刀の良さが分かる客が来なくてな……全く売れんから半ば諦めてたんだ。興味があるなら存分に見てくれ」
俺は手にした刀を鞘に戻し、リーナに渡した。
「リーナ、それ抜いてみろ」
「あ、はい。わかりました」
俺に言われるがまま鞘から刀を抜いたリーナは、物珍しげに刀身を見つめながら、柄の握り具合を確かめていた。
「コーヤ様、この刀すごく手に馴染みます」
やはりキツネ少女に刀の組み合わせは抜群だな。
「そうか。リーナはそれにするか?」
「できれば使ってみたいです。でも、高くないですかね?」
「嬢ちゃんもわかってくれるか! 全く売れねえから値段なら少し割り引いてやるよ。そうだな、銀貨15枚の所を10枚でどうだ?」
そのぐらいなら買えるな。
「分かった。じゃあ一振り貰うよ」
そうしてリーナの武器も決まり、俺はミスリル製の長剣を購入した。
防具はドワーフのおっさんに薦めてもらった革の上にミスリルを重ね合わせた物を俺とリーナの二着購入した。
着込んで見ると、最初に着ていた革の鎧よりは重いが、普通の鎧より格段に軽いのだろう。
これで受ける威力が軽減されるといいのだが。
「コーヤ、といったな。これからもうちの店、ゴードン商店を贔屓にしてくれよ。俺が店主のゴードンだ。装備品のチェックなんかもやってるからいつでも来い。嬢ちゃんもな」
ドワーフのおっさんがどうやら俺たちを気に入ったらしい。
いや、正確にはリーナを気に入ったという方が正しいだろう。
「ああ、また来るよ」
「ありがとうございました」
そう言って俺達は店を出た。
「ゴードンさん、リーナに普通に接してたな」
「今は身奇麗にさせて貰っているので見た目じゃ奴隷だと分かんないからだと思いますよ」
「じゃあ奴隷だって分かったら態度も変わるのかな」
「全ての人が奴隷の扱いが酷い訳じゃないですよ。特に人族以外の種族は奴隷に落ちる人が多いので、同情みたいなものもあるんじゃないかと思います」
「そうだったのか。リーナの前の主人みたいな扱いが普通なのかと思ってたよ」
「前の主人は、人族の中でも奴隷に対して排他的な人でしたから……もちろんそういう人も少なくないと思いますけど」
奴隷に対しての考え方は種族なんかも関係しているのか。
今思うと、俺はこの世界の事を何も知らない。これから生きていくには、色々聞いておいた方がいいな。
「とりあえず、日が暮れてきたから帰ろう」
宿に戻ったらリーナに俺の事情を話し、この世界の事を詳しく聞いてみよう。
奴隷ハーレムの作り方#7~木彫りのペンダント~