雪とベール

1、長い春

幼なじみの亜美と圭は恋人同士。
二人は付き合い始めてから、10年もの歳月を過ごしてきた。
この先、女性としての人生を考えると、亜美もそろそろ将来の事が心配になって来る。
もちろん亜美だって、人並に結婚式だって挙げたいのだ。白いウエディングドレスを身にまとい、長い裾を引き ながら、バージンロードを歩いてみたいのだ。今日の誕生日は、きっかけとも言えるこの日!何かしなくてはと 
亜美は焦り始めていた。

いつものように二人は、仕事帰りに駅で待ち合わせた。圭は残業だったのか、少し遅れてやってきた。
「お待たせ! 遅くなっちゃったよ。」
「もう!待ったよ、圭。何か私にいうことはないの?」
「亜美、わかってるよ。誕生日おめでとう!」
「わあ、覚えていてくれて良かった。圭ったら遅れて来るし、忘れられているのかと思っちゃったよ。」
 二人は歩き出した。
「亜美、今日は付き合ってもらいたいところがあるんだ。」
「えっ?どこか行くの?」
「いいから、いいから、ついて来て。」
 そういうと、圭は亜美の手をとった。


2、こんな誕生日初めて!


「ねえどこ行くのよ。」
あたりはすっかり暗くなり、カラフルなライトがちらほらつきはじめた。コンビニ横の駐輪場を右に曲がると、赤いレンガの小さなカフェがあった。
「着いたよ。」
「えっ、何?どこ?」
「さあ、お姫様どうぞ」

圭がドアを開けると、古びた小さな鐘がカランとなり、一人の女性店員が笑顔で言った。
「お待ちしていました!さあ、こちらへ。」
中にはいると赤いレンガの壁におしゃれな絵画や花、キノコ型のランプが柔らかくあたりを照らしていた。
フロアは小さな薔薇柄のカーペットが敷かれ、少し歩くと奥にもうひとつ扉があった。
「さあ亜美、お誕生日おめでとう!」

圭が扉を開けると、たくさんの懐かしい顔が笑顔を向けていた。テーブルにはケーキやご馳走が沢山並び
ステキな音楽が流れ、花が沢山飾られていた。
「本当におめでとう!」
みんなからお祝いの言葉を声をかけられ、何が何だかわからない亜美は、ただポカンとするばかり!
「亜美、ごめんよ驚かせて。」

「ううん、私の誕生日だから、みんなを呼んでくれていたんでしょ。びっくりしちゃった!みんなありがとう!」
圭がサプライズで誕生パーティを企画してくれたんだ・・・!亜美は混乱した頭をどうにか、落ち着かせた。
そうと決まれば楽しまないと!と思ったとたん、亜美は笑顔をくしゃくしゃにしながら、圭に抱きついた。
「圭、嬉しいよ!サプライズでみんなを呼んでくれて、こんな誕生日はじめてだよ!」
「喜んでくれて嬉しいよ。でも、実はこれだけじゃないんだよ。さっきは待ち合わせの時間に遅れてごめん。これを取りに行っていたんだ。」

そう言うと、圭はポケットから小さな箱を取り出し、中を開いて見せた。
「長く待たせてごめん。亜美、僕と・・・結婚してくれるかい。」
亜美は突然の出来事に、思考が停止してしまった。

思えば、圭とは幼稚園から高校まで学校も同じだった。
付き合いはじめたのは、高校卒業のときからで、余りにも長いこと同じ成長の時をおなじくしたので、おたがいに意識をしていた。高校3年の進路相談でお互いがはじめて違う進路を進もうとしている事を知って、離れ離れになってしまうことに急に不安になった亜美から、告白をしたのだ。
圭も同じ気持ちだった。
それからふたりは、いつも一緒だった。大学に行く時も朝待ちあわせて、どこかの店で必ずモーニングをいっしょに食べ、昨日の出来事を話し、ある時はおたがいの大学に迎えにいき、そのうち互いの家へも行き来をした。
笑ったり、泣いたり、励ましたりして、無くてはならない大切な存在になっていたのだった。

亜美は、圭の言葉を聞きながら、一瞬の間に今までのことが頭の中を駆け巡った
「さあ、亜美左手を出してみてよ。」
みんなから声をかけられ、亜美はハッと我に帰り圭を見つめた。
「まだまだ、サプライズはこれからだよ。これはまだお預けだよ。」
「ごめん、そうだったよね。じゃあ、亜美ちゃん、こちらの部屋に来て。」ひとりの友人が亜美に声をかけた。

「えっ!何、まだ何かあるの?」
友人の方を見ると、部屋の一角に可愛らしい小さな小部屋が用意されていた。
亜美はその部屋に入るように促され、そっと中に入った。そこにはキラキラした飾りがついた真っ白のウェディングドレスが掛けてあった。その横には可愛らしいお花の髪飾りとブーケも。そして、ひとつの包みが置いてあった。それはリボンで飾られた真っ白な箱だった。

亜美はそっとリボンを解いてみた。
中から出てきたのは、柔らかく上質なチュールでできた長いベールだった。
「わぁ、ありがとう。嬉しいよ!」亜美はそっとやわらかなベールを胸に抱きしめた。
「亜美、幸せになってね。このベールは私たちからのプレゼントだよ。このベールをつけて結婚すると、幸せが向こうからやって来てくれるんだって。圭くんと幸せになってね。」

3、光の中へ

亜美は真っ白なウエディングドレスに身を包み、髪にはプレゼントの長く美しいベールがつけられた。柔らかなそれは亜美を優しく飾り、まるで幸せを纏っているかのように見えた。
「なんて綺麗なの。亜美ちゃん素敵よ。」
「みんなありがとう!でもこの姿でお食事するの気がひけるわ。汚したりしないかしら。」
みんなはクスクスと笑い始めた。

「亜美ちゃん、今から行く所があるのよ。さあ、お支度が整ったから、ご案内するわね。」
そう言うと、亜美を椅子から立ち上がらせ、反対側の小さな扉を開けた。
「ここから、少し進むとね、圭が待っているから、ここから一人で歩いて進んでみてね。」
「私一人で行くの?圭がこの先で待っているのね。わかったわ。行ってくるね。」
扉の向こうは、薄暗い石畳みの廊下がしばらく続いていた。まっすぐ歩くと段々と光が増し始めた。

また小さな扉が開いた。まぶしい光が扉の中から亜美を照らした。  
誰かが手を取ってくれた。圭だった。
「亜美、さっきの答えを教えてくれよ。」
「もちろん、イエスよ。ありがとう。」
そう言った途端、どこからか音楽が聞こえ、目の前の今度は大きな扉が開かれた。

光の向こうにバージンロードがまっすぐ伸びていた。
「さあ、行こう!これが最後のサプライズだよ。」
「あぁ圭、ありがとう。こんな幸せ初めてよ。」
二人は光の中を、歩み始めた。いつの間にか友だちたちが両側の椅子に腰掛け、笑顔で手を叩いてくれていた。
「みんなありがとう。こんな幸せ、初めてだよ。」
歩き進むと、神父様が二人を招き、挙式が始まった。

雪とベール

雪とベール

  • 小説
  • 掌編
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  • 青春
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2018-04-12

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