ティアラ職人
ある町にレオという腕の良いティアラ職人が住んでいました。
レオはこの近くにある教会で結婚式を挙げる花嫁の為に、溜息が出るほどの美しいティアラを毎日つくってきました。
レオには、リリという娘がいて、船乗のジョンという恋人がいました。ジョンは船に乗り一旦海に出ると、何カ月も帰ってはきません。リリは彼の無事を祈りながら、たくさんのバラを植え育てる事にしました。
「リリ、バラが育ってきたね。ところでリリはどうしてバラを育てることにしたんだい」
「バラは薫り高く気品ある花です。異国にいってもバラを見れば、ジョンは私を思い出してくれることでしょう。私もこのバラたちがうまく育ってくれれば、彼が無事でいてくれていると信じることができるのです」
レオは思いました。いつの日かこのバラがこの庭いっぱいに咲き誇るとき、リリはジョンとこの町を去ってゆくのだろうと・・・。その日までに、娘のためだけのティアラを心を込めて作り上げ娘の頭上に輝かせてから、彼のもとに送り出したいと考えていました。
やがて春がやって来ました。リリの庭には大輪の色とりどりのバラが見事に咲き誇り高貴な香りがあたり一面にひろがっていました。そこへ、ジョンが帰ってきたのです。
「リリ、待たせたね」
ジョンの笑顔はリリの心を優しく包み、リリは泣いてしまいました。
「とうとうその時がきたな」
ふたりの様子を見ていたレオはそういうと、仕事場の奥に飾られている一つのティアラをみつめました。
挨拶にやってきた二人にレオはティアラを差し出し話しました。
「このティアラは二人のために作ったものだよ。ティアラは不思議な飾りだよ。普通に生きて来た女の子が、ドレスを着て花嫁となり、頭上にティアラをつけることで気品あふれる凛とした女性へと一瞬で大変身する。そして、おまえの頭上を飾るこのティアラの飾りは波と薔薇の飾りだ。波のような人生をバラの花のように舞い踊りながら、強く強く、乗り越えて行け!」
レオからティアラを受け取ったリリは、涙をためながらジョンと共にティアラを抱きしめました。
二人の結婚式の日がやってきました。
丘の教会は、祝福に訪れた町の人でいっぱいになりました。リリは真白なドレスを身にまとい、美しくセットされた髪には、レオが作ったティアラの波とバラの模様が、陽の光を反射してキラキラ輝いていました。ジョンと共に歩くリリの姿はバラのように気品あふれ、その姿は堂々としていました。
結婚式が続くなか、レオは二人をみつめながら、ずっとこの幸せな結婚式が続けば良いのにと思いました。
しかし、この楽しい結婚式の時間が終ればリリはジョンとともに船へと乗り込み、レオのもとを離れ、遠くへと行ってしまうのです。
レオはそっと教会のそばを離れました。賑やかな結婚式のざわめきを遠くに聞きながら
、リリが大切に育てたバラの香りが続く庭を歩きました。リリの小さかった頃を思い出しながら、レオは娘の幸せを祈るのでした。
結婚式が終わり、ふたりはすぐに船で出発することとなりました。ドレスを着替えたリリの頭上からもティアラははずされていましたが、見送りのとき、レオが笑顔のリリを見つめると、またレオのティアラがリリの頭上を飾っていました。
レオを見つめるリリの目には、ティアラの意味と同じ、幸せへの決意とレオへの感謝があふれていました。
ティアラ職人