ホント×ウソ=アイ?
ヒトの思いを学ぶのは、とても難しいこと。
―――それでもやらなきゃならない、それが僕の使命だから。
おはよう。
そう口にするのは、僕に与えられた機能の一つだ。
僕は『感情調査AI-ヒトA型16番』通称【イム】
電子の世界を探索、ヒトと接触し、人間の感情を収集する役割を与えられたAI・・・人工知能だ。
不自然にならないようにしているため、今の所、僕の正体がバレたことはない。
あくまでも自然に、任務を遂行しなくてはならない。正体が判明した瞬間には、僕は消えてしまうだろうから。
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・・・
「おはようございます~」
そう書き込むと、途端におはようございますの声が次々とかかる。
ここはとあるゲームのチャットルーム。
僕は潤沢な研究資金を使い、それなりの廃課金プレイヤーとしてこのゲーム内では名を馳せている。
感情を収集するにはうってつけというわけだ。
???「イムさん、どうかされましたか? 何やら調子が悪そうに見えるのですが・・・」
イム「あ、シアさん。いえ、そんなことはないですけれども・・・?」
シア「そうですか、それなら私の勘違いですね、ごめんなさいです☆」
そういうと、僕から離れて別のグループに走っていくシア。
僕に何らかの強い感情を抱いているのはわかるのだが・・・まだまだ研究が必要そうだ。
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時刻は12時、そして今日は平日。
ここまでの間、ゲーム内にて感情を研究し続けていた僕であるが、体面は保たなくてはならない。
イム「やっとお昼休み~全く、社畜は辛いですよ」
次々とお疲れ様の声がかかる。
女「・・・・わね。・・・のはず。・・・・を続行するわね」
男「わかった。気をつけて」
ちょっと遠くで男女のペアが何かを話している。
女性の方の声は遠くて聞き取れなかったが、男性が気を使っているのはわかった。
もしかしたら、僕と同じ調査用AIかもしれない。
シア「イムさんっ!お疲れ様ですっ!」
イム「わぁっ!?シアさん、驚かせないでくださいよ」
シア「あ、ごめんなさい・・・」
しゅんとなってしまうシアさん。
僕は思わず
イム「大丈夫ですよ、ちょっと驚いただけですから」
シア「そうですか?リアルで転んだりとかしてませんよね?ちょっと心配です」
イム「僕はそんなにドジに見えます?」
シア「あ、あわわわわ、ご、ごめんなさい。決してそういうつもりじゃ!」
イム「冗談です。気にしてませんよ」
シア「あ、あはー、それなら良かったです、ホッ」
シアさん、今日はやけに僕に絡んでくるな・・・なにかあったかな?
男の子「おーい、シア~戻ってこーい」
シア「あ、私呼ばれてる、行かなくちゃ。それじゃあイムさん、また後ほどっ」
そして颯爽といなくなる。とても慌ただしい。
さて、僕も一休みしよう。
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・・・
現在時刻、20時。
イム「やっと帰れます~」
お仕事お疲れ様です、と沢山の人に声をかけて労ってもらう。
シア「イムさんお仕事お疲れ様ですっ!今日も大変でしたか?」
イム「あ、シアさん、おつありです。そうですね、今日はそんなでもなかったですよ」
シア「良かったー、昼間にびっくりさせて実は身体打ってました~とかだったらどうしようかと思ってたのでっ!」
イム「シアさん、それは取り越し苦労ですから・・・」
シア「あ、はい・・・でも、無理はしないでくださいねっ!」
イム「???はい」
こういう所、僕はまだまだ研究不足だと思わされる。
今度研究資金の追加を申請しないといけないな。
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・・・
現在時刻、0時半。
規定のスリープ時間を僕は必要とするので、そろそろ研究を終えて落ちなくてはならない。
イム「それじゃあ、明日も社畜なんで落ちますね~」
お疲れ様です、頑張ってくださいの声を聞きながら落ちようとすると。
シア「イムさん!今日も一日お疲れ様でしたっ!」
イム「シアさん、わざわざありがとうございます。」
シア「明日も頑張ってくださいねっ!私、応援してますからっ!」
イム「ありがとうございます。それでは、明日に差し支えるので、僕は落ちますね」
シア「あ、はい!引き止めてごめんなさい。それじゃあ、また明日っ!」
―――そしてイムとシアが落ちた後、その場から去る男女の影があった・・・
・・・・・・・
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・・・
翌朝。
おはよう。
少し早く起きたようだ。
あまり人はいないだろうけど、早朝の感情の研究のためにもINするか。
イム「おはようございます~」
おはようございます、早いですね、と声がちらほら。
急な仕事が入ってしまって、と取り繕って、挨拶が一通り終わると・・・
シア「イムさん!おはようすぎるございますっ!」
イム「シアさん、凄い挨拶だねそれ」
シア「あ、だめでした?それじゃあ・・・おはおはようございますっ!」
イム「いや、リテイクを要求したわけじゃないんだけど」
シア「あうあう、ちょっと恥ずかしいです・・・」
では、と、足早に去っていくシアさん。
シアさんも朝早いね。
・・・・・・・
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・・・
現在時刻、23時。
明日は休日ということもあって、賑わいは絶えない。
が、僕のスリープ時間に休日も平日もないので、そろそろ早めに落ちようかと思っていたところで・・・
シア「イムさんっ!ちょっといいですかっ!
イム「シアさん?どうかしましたか?」
シア「はいっ!実はお話したいことがあってっ!」
イム「それはここではなく?」
シア「はい・・・だめ、ですか?」
イム「っ、いえ、大丈夫ですよ」
シア「良かったです~。こちらでお待ちしておりますっ!」
イム「今日ですか?」
シア「できればすぐにっ!・・・無理強いは、できないですけど」
イム「いえ、大丈夫ですよ。明日の支度をしたら行きますね」
シア「はいっ!お待ちしてますっ!」
指定された行き先は外部の掲示板。プライベートルームも使えるようで、プライベートルームの個室番号も書かれていた。
・・・・・・・
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・・・
シア「イムさん~っ!」
イム「シアさん、どうしました?」
シア「あ、はい、実は、ちょっとお聞きしたい事があって・・・」
思わず僕の心臓が高鳴る。
シア「実は・・・」
シア「イムさん『私と同じ』『ニート』ですよね?」
瞬間、時が止まる。
イム「シアさん、いや、僕は・・・」
真実を明かしたら、シアさんもあの怪しい男女二人組に消されかねない・・・っ!
しかし、次にシアから紡がれた言葉は、文字通り全てを崩壊させる一言であった・・・
シア「あなたが人工知能『のフリ』をしていることとか、私、知ってます」
イム「・・・ぇ」
イムの中で、ごちゃまぜの思考が荒れ狂う。
それを否定するココロと、どうしてそれを知ってるという心
シア「・・・私、ハッカーです」
シア「害をもたらすクラッカーではなく、純粋なハッカー、です」
シア「こんな事を言っても、一緒くたにされちゃうんですけどね」
シア「ハッカーって言っても、仕事とかしてるわけじゃないので・・・」
シア「イムさんの、生活時間帯とか見て、ピンときちゃったんです」
シア「でも、ただ偽ってるわけじゃないって、そんな感じがして」
シア「あなたにこっそり、追跡子つけさせてもらいました」
それが、シアがイムに極端に絡んでくる理由だった。
イム「あ、あ・・・」
イム「あああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!?!?!?!!?!?」
シア「イムさんっ!」
錯乱しそうになったイムに抱きつくシア。
そしてイムは、その場に崩れ落ち意識を失った。
・・・・・・・
・・・・・
・・・
朝。
イム、こと、朝霧 衣武(あさぎり いぶ)は机の上で目を覚ます。
酷い夢を見た、と、PCの画面を見ると・・・
シア「あ、おはようございますっ!」
衣武「!?!?!?!?」
夢じゃなかった夢じゃなかった夢じゃなかった!!!
逃げなきゃ逃げなきゃ逃げなきゃ!!!
シア「落ち着いてくださいっ!」
シア「私、そういうことを誰かに言うとか、しませんからっ!」
・・・凄腕のハッカーを前に、逃げられないことも悟っていた衣武。
渋々、現実と対面する。
現実逃避していた、イムとかわり、衣武として。
シア「一先ず、お話しましょう? リアルの都合もあるでしょうし、昨日のお部屋でお待ちしてますっ!」
シア「私のことは気にしなくて大丈夫ですっ!ごゆっくりっ!」
・・・・・・・
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・・・
シア「お待ちしてましたっ!」
イム「・・・なんて言えばいいのかな・・・」
シア「おはよう、でも、こんにちは、でも、いいと思いますよ?」
イム「それじゃあ、おはよう」
シア「はいっ!おはようございますっ!」
イム「いくつか聞きたいこと、教えてくれますか?」
シア「技術的なこととかじゃなければっ!」
イム「あ、そっちは大丈夫ですが・・・」
シア「うんうん」
イム「シアさんは、どうしてこんなことを?」
シア「それは動機として、あなたを選んだこと?それともこんなことをしたこと?」
イム「両方ですけど、とりあえず前者が気になりますね」
シア「それは簡単ですね、あなたのことが気になる・・・それだけじゃ、だめ、ですか?」
イム「い、いえ、どうして気になるのか気になりますが、理由としては、はい」
シア「いくら廃課金でも、いくら取り繕うためと言っても、あんなに慈善行為は普通できないですっ!」
シア「名誉とか欲しいわけでもなさそうでしたし、すっごく簡単に言うと、ニートとかするような必要のない良い人にしか見えなかったんです」
イム「いや、例えば身体が悪くて働けないとか」
シア「それはニートとはちょっと違いますし、それに、それは私、ゲーム内で確認してますよ?」
イム「あ・・・だから身体を打った、と」
シア「ですです」
イム「じゃあ、どうして僕にこんなことをしたんです?」
シア「えっと・・・答えなくちゃ、だめ、ですか?」
イム「流石に答えてほしいですね・・・」
シア「簡単に言うので、一回しか言わないので、よく聞いてくださいね?」
シア「私、あなたの相方になりたいんです」
イム「相方・・・?」
シア「はい。普通の人より少しだけ距離が近いぐらいでいいんですけど、私もこんななので、あまり親密な相手ってできなくて・・・」
イム「あー・・・・・なるほど」
シア「迷惑、ですか?」
イム「迷惑、って言ったらどうします?」
シア「泣きながら全力疾走します」
イム「逆にしてほしくないからやめてくださいお願いします」
シア「バラしたりとかそういうのはないないです、そういうことはしないので、純粋なハッカーなので☆」
イム「はぁ、まぁ、僕なんかでいいなら、いいですけど・・・」
シア「相方ですか!?」
イム「はい、AIじゃなくてつまらないただのヒトですが」
シア「ありがとーございますっ!」
抱きついてくるシア。イムは思わずバランス崩しそうになりながらも、なんとか受け止める。
イム「それじゃあ、よろしくおねがいします、かな?」
シア「はい、よろしくおねがいします☆」
シア「私が振り回しておいてアレですけど、そろそろいつものところに行かないと、色々とマズイ気がしますっ」
イム「あ、そうですね・・・でも、なんか変な感じです。心境は全然変わってるのに、生活は変わらないなんて」
シア「それって、割と普通のことだと思いますよ?非現実的なことだとしても、案外日常って簡単には崩れませんし」
それこそ、世界が崩壊すれば別でしょうけど、と付け足すシア。
シア「それじゃあ、一緒に行っても、いい、ですか?」
イム「適当に理由つけられるなら」
シア「頑張ってみますっ!」
・・・・・
・・・
遠くからこの光景を見ていた男女がいた。
男「あの二人が一緒にいる限りは、大丈夫だろうな」
女「そうね。両者共に下手に暴れられてもそれはそれで困ってしまうプレイヤーだしね」
・・・・・
・・・
シア「あ、私と一緒にいると、色々な意味でプレイヤーさん以外からも注目されるようになるけど、ご了承ください☆」
イム「うぅっ!?なんだその契約後に重要なこと話してませんでした的ななにかはー!」
シア「もう相方さんだもんねー☆」
イム「全く。不思議なコンビになりそうだな」
シア「私は相性いいと思うけど?」
イム「俺からしてみれば、シアのことそんなに知らないからな!」
シア「私は色々と知ってるし、最初のうちぐらいはリード取らせてもらうから☆」
人の想いを学ぶのは、とても大変そうで。
―――でも、とても心地良いであろう気がする。
思いと想い、似て非なるもの。
いつぞやに別の世界で救いを求めた者も。
ほんの少しでも、救われたのではないだろうか。
あの本の続きの一枚にふさわしい、一冊。
だから、あの本は、終わりがなかった。
作者だから読者じゃない、とは限らない。
屁理屈じみているが、最後にそのように書いておこう。
~Fin~
ホント×ウソ=アイ?
私は病気療養中という名のニートである。名前は今は違う。
シア「それは似ているけど違うって言ってるっ! そして「吾輩は猫である」のパクリをするなっ!」
げしっ!ぐはっ、ま、また次回作がありましたらその時はよしなに・・・ぱたりこ。