桐谷美玲は二人いる
口笛はなぜあの雲はなぜ春はああそれ以上訊ねるなかれ
恋すれば喫煙席も硝煙のにおいに充ちた戦場である
朝焼けの空にすべての安牌を棄てる覚悟でリップを投げろ
童貞は脆弱なので脳天をヒールで殴り続けると死ぬ
自らのすがたかたちを確かめるように落ちゆく噴水の水
スプリングコートはらひらはためかせ逢うべき人に逢うべき季節
邪魔者は軍靴のごとく真っ黒なショートブーツで蹴飛ばしてゆけ
おおぞらに硝子のさかな泳ぎいて記憶は太古へと遡行する
唇を窄めてふぅとはるかぜを吹けばすべては花びらとなる
この爪が睫毛が腿が首すじが桐谷美玲でないはずがない
春の夜に夢見るように乙女座の少女は夜行性の生きもの
満開のニセアカシアが散る様はうそいつわりのようにまぶしい
桐谷美玲は二人いる