桐谷美玲は二人いる

口笛はなぜあの雲はなぜ春はああそれ以上訊ねるなかれ

恋すれば喫煙席も硝煙のにおいに充ちた戦場である

朝焼けの空にすべての安牌を棄てる覚悟でリップを投げろ

童貞は脆弱なので脳天をヒールで殴り続けると死ぬ

自らのすがたかたちを確かめるように落ちゆく噴水の水

スプリングコートはらひらはためかせ逢うべき人に逢うべき季節

邪魔者は軍靴のごとく真っ黒なショートブーツで蹴飛ばしてゆけ

おおぞらに硝子のさかな泳ぎいて記憶は太古へと遡行する

唇を窄めてふぅとはるかぜを吹けばすべては花びらとなる

この爪が睫毛が腿が首すじが桐谷美玲でないはずがない

春の夜に夢見るように乙女座の少女は夜行性の生きもの

満開のニセアカシアが散る様はうそいつわりのようにまぶしい

桐谷美玲は二人いる

桐谷美玲は二人いる

短歌連作

  • 韻文詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2018-04-12

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