デート・ア・ライブ 十香バースデー
先日デート・ア・ライブ第18巻が発売され、この作品の二次創作に掛ける思いが変化した気がします。十香という女の子を、精いっぱい描きました。
”あの時”から......
四月十日。世間にとっては何か特別な意味がある日ではない。いつも通り、街では多くの人々が行き交い、通りを多くの車が通る――そんな日常が繰り広げられている。
しかし、とある場所のとある人物にとっては、その日は物凄く大切な意味を持つのであった。
昼下がりの五河家では、ある一大イベントに向けて準備が進められている。何を隠そう、十香が初めて士道と出会い――そして、“十香”という名前を付けてもらった日である。
そんな士道が精霊と向き合うきっかけとなった大切な日をお祝いするべく、彼は朝から夕方の記念パーティーに向けた料理を作っていたのだ。
普段は料理が苦手な琴里も、この時ばかりは士道とともにキッチンで手伝っていた。琴里の考えが、果たして兄を思う妹としてなのか、それとも、初めて保護した精霊である事への感慨深さからなのか……どちらかは分からない。
途中にお昼休憩をはさみつつ、士道と琴里は料理をてきぱきと完成させていき、午後五時を過ぎたあたりで全ての料理が完成した。
「お疲れさん、琴里。休んでて大丈夫だぞ」
「うん。そうさせてもらうねー……」
琴里は疲労が蓄積しているようで、あくびを噛み殺しながら自室へ引き上げていく。
その間にテーブルのセッティング、料理の配置を済ませ、パーティー用に飾った内装などの確認をしておく。
その時インターホンが鳴らされ、玄関の開く音がした。入ってきたのは十香をのぞく、すべての精霊であった。その中に狂三の姿は無かった。
『やっはー士道くん』
「こんにちは士道さん」
「挨拶。お待たせしました士道」
「かか。待っていたか我が眷属よ!」
「翻訳。早く士道に会いたかったと言っています」
「そんな事言ってないし。士道も真に受けるな!」
「あはは……」
士道が苦笑する間にも、好き好きに挨拶をしながら精霊たちが集合する。
そして、あっという間にリビングは精霊たちで賑やかな空間と化した。その様子を眺めて士道は満足げに頷いて、精霊たちに呼びかける。
「今日は、皆集まってくれてありがとうな。料理とかのセッティングはこっちでやっておいたから、そこで一つ頼みがあるんだ」
「何ですかぁ、だーりん?」
美九がそう問うと、士道は内容を話し始めた。
一時間後。予定ではそろそろ十香が帰宅する頃である。休憩から戻ってきた琴里も参戦し、一同は玄関が見える位置で待機しており、手にはクラッカーが握られている。
さて、ここまで言えば、この後何をするかはお分かりであろう。
噂をすれば何とやら、“ガチャッ!”という鍵の開く音がして十香が帰って来た。息を潜めている精霊たちがアイコンタクトを送り合う。
「む……みんないないのか。それに電気も点いておらぬではないか」
そう言って十香が照明のスイッチを入れた瞬間――――
「「「「「「「誕生日おめでとう、十香さん/十香/十香どの!!」」」」」」」
クラッカーの炸裂と共に、一斉に祝福のコールを掛けられ十香は訳が分からないといった表情で精霊全員を見た後、士道に顔を向けた。
士道は優しく微笑むと十香に歩み寄り、そして優しくその頭を撫でる。その時何だか不穏なオーラを感じなくもない士道だったが、ひとまず無視する事にした。
士道が頭を撫でてくれた事により、十香は落ち着きを取り戻すと同時に、ようやく状況を理解したのか、その目から大粒の涙を流す。
「あー。少年が女の子を泣かせた」
二亜の気楽なヤジに周りの精霊も反応する。
「追及。士道はどうしようもない女たらしです……ちょっと妬けてしまいます」
「夕弦さん⁉ あなた、キャラが違いませんか!」
「応答、そして憤怒。本当にぷんすかです」
そう言ってそっぽを向く夕弦。それを見ておろおろしている士道を見て、その場が笑いに包まれる。
ごほんと咳ばらいをすると、士道は改めて十香に向けて言った。
「――誕生日おめでとう、十香」
「……うん。ありがとうだ、シドー」
十香は目元に溜まった涙を拭うと、あの時のような最上級の笑顔を見せたのだった。
それは一同が料理に舌鼓を打った後の事だった。料理を食べ終わりお開きムードが漂い始めた頃、士道が切り出した。
「ちょっと皆、良いかな。俺から十香に手紙を書いたから読ませてくれ」
十香がケーキを頬張ったまま、目を見開きながら士道を見つめる。
ポケットから便箋を取り出すと、静かな口調で読み始めた。
「十香へ。
俺は手紙で誰かに気持ちを伝える事に慣れていないから、お前に上手く伝わるか分からないけど聞いてくれ。
十香と出会った四月十日からもう一年なんだな。
お前には色々な場面で助けられたり励ましてもらった。本当に十香には感謝の気持ちでいっぱいだ。十香は俺にとってかけがえのない人だ。
恥ずかしいから、後は何となく察してくれると嬉しい。
士道より」
士道が手紙を読み終えると、五河家のリビングは拍手と歓声に包まれた。二亜や美九、折紙などは感涙にむせび泣いていたが。
そんな中、十香は士道の元に歩み寄ると、ぎゅっと士道を抱きしめた。
「……どうしてシドーはいつもそうなのだ。どうして、いつもそうやって私の心を奪っていくのだ。そんな事を言われては、私がシドーに抱えている気持ちが溢れてきてしまうではないか……」
士道の胸元に顔をうずめながら、十香はそう言った。
士道からは彼女の表情は見て取れなかったが、恐らく感動のあまり表情が崩れている事は想像に難くなかった。
そんな彼女を愛おしく感じて頭を撫でる士道を見て、琴里が真っ先に声を上げた。
「あー! おにーちゃん、何をやっているのだー‼」
そう言って猛然と士道の元に駆け寄っていこうとする琴里を、美九が優しく止める。
「あらあら。いつもはクールな琴里さんも、この時ばかりは年相応な女の子に変わるんですねぇ」
「だって、おにーちゃんが……」
そう言うと、美九は唇に人差し指をあてて、ぱちんとウィンクを決めて見せた。
「今はだーりんと十香さんの好きなようにさせてあげましょ?」
何となく場の空気を察した精霊たちがリビングを後にする。
――誰もいなくなったリビング。残されたのは士道と十香だ。
しばらく抱きしめ合っていたが、段々と気恥ずかしさが込み上げてきて、どちらからともなく離れる。
先に切り出したのは士道だった。
「……ちょっと場所を変えようか」
「うむ、私は構わぬが」
士道は琴里に断りを入れて、転送装置でもって十香を連れ立ってフラクシナスにやって来た。
士道が十香の手を引いて向かったのは、フラクシナスで一番の絶景を誇る休憩室。
ここからは、上空一万メートルという高さを生かした光景を目にする事ができ、今は闇に溶け込む天宮市の様子を一望する事が出来る。
市街地ではビル群の明かりが煌々と灯され、午後十時でありながら住宅街では未だに照明が点いている家庭が見受けられる。
そんな明暗が対照的な夜景を眺めていると、十香が士道の肩に頭を預けて呟いた。
「――これからもよろしくだ、シドー」
「……ああ。こちらこそ、十香」
月明かりが一層強くなる頃、二人の影がそっと身を寄せた。
『デート・ア・ライブ 十香バースデー』END
デート・ア・ライブ 十香バースデー
いかがでしたでしょうか。またどこかでお会いできるのを楽しみにしております。