視覚の死角には四角い刺客

 目覚めると、隣に男が寝ていた。咄嗟に昨夜を危惧したが、自分の服を見て杞憂に終わった。胸まで伸びた長い髪を、後ろで雑に纏め上げ、もう一度男に目を移す。
 にわかに起き上がる、四角い顔をしたその者。いや、その物、か。無機物な被り物などではない。顔そのものが無機物である。よく見ると、頭部には小さな目と口が付いている。
 三つの点で出来た悲しそうな表情は、ぼんやりと私を眺めている。朝日を背に鈍く黒光りする箱に、図らずも哀れんでしまった。
 立ち上がり、その場から去ろうとする彼の腕を掴み、私は彼を正面から抱擁した。
 何の気なしに。決して深い意味など無い。
 背中に回した両の腕で、思った以上に聢りとした彼の体躯を包む。恐る恐る伸びてきた彼の腕は、丁度私を真似た。
 不意に彼の頭部が横回転し、「哀」が「怒」を経て「喜」へと変化した。先程の表情は裏側へ回ったらしい。
 物ではなく者だった彼の、その笑顔を目にした私は、彼を真似て思わず「喜」になった。

視覚の死角には四角い刺客

視覚の死角には四角い刺客

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2018-04-03

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