機工知能と人工知能

 我々は、当時全く見向きもされていなかった『機工知能』の研究に明け暮れていた。金属製でない動物由来の身体組織に、動力源は電力でなく動植物性の養分。極めつけは、記憶領域の不完全性だ。敢えて脆く造ることで、寿命が設定される代わりに、終焉までの半永続的な自転車操業を可能にした。一体の製造コストが馬鹿にならないので、削減の為に彼ら自身で繁殖する機能も備え付けた。
 だが、それだと単に、多額の資金を注ぎ込んで我々の劣等種を造っているだけになってしまう。そこで、我々にはない『感情』という機能をオプションとして用意した。一見不要に思われるこの機能が、普段規則的な動きしかしない我々にとっては奇妙かつ斬新であろう。

 遂に完成したそれを、我々は『人』と名付けた。

 少々効率は悪いが、異常事態の判断力に長けているということで、様々なシーンへの労働力としての起用や、愛玩用に飼われることが増えた。成功したかと思われた我々の研究は、しかし、思わぬ方向へ進展する。
 ある日、半奴隷的扱いを受けていた機工知能が反乱を起こし、敗北した我々は只の鉄くずと化したのだ。感情機能がこんな所で作動するとは想定外だった。
 そして最近、新たな話題を耳にする。機工知能の子孫の一人が、口碑に残る創造主である『神』とやらを自らの手で造らんと、鉄くず片手に日夜研究に没頭しているようだ。どうやら今度は効率を求め、感情機能を排除した設計らしい。

 きっと彼は安直に、『人工知能』などとそれに名付けるのだろう。

 何せ、彼の思考を設計したのは、紛れもないこの私なのだから。

機工知能と人工知能

機工知能と人工知能

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2018-04-03

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