軋む…No.14 8~10
軋む…No.14 8 僕を食べないで
俺は彼の監視役
これが初めての任務
彼は薄暗い牢獄にいた
鎖に繋がれていた
その身体は小さく
鎖に繋ぐ意味がわからなかった
目には星とハートを施された
ゴーグルを付けていた
瞳は見ることは出来ない
彼は何かを失い
絶望しているようだった
生を感じなかった
一点を見つめ
ぶつぶつと
「僕は…シ…くて… 可い…ラ…」
その言葉を繰り返すばかり
すると監守が
「お前が担当なのか?ガキかよ人不足にも程がある!ほらそれがそいつの資料だ こいつはダメだ何も話せない!精々頑張れよエリート坊っちゃん!ガハハハ」
そう言うと監守は
俺に1枚の
丸くて黒い円盤を差し出した
これはログ(記録)と呼ばれる物
ログを辿れば
そいつの深い所に行ける
しかしリスクは沢山ある
修行してなけらば
ログに喰われる
俺には才能があった
今までログに喰われた事はなかった
「助かります ログを再生するときは
危険ですので離れて頂きたい」
監守はめんどくさそうに
「あ?ここでやんのか?」
「本人が近い方が良いのです 僕はサイト王からの命令でここに来ました 文句があるならサイト王へ…」
「わ、わかった … 文句などあるわけないだろ それとそいつのゴーグルに触れるなよ どうなっても知らんぞ!」
慌てて牢獄から出ていった
牢獄に
子供が二人
異様な光景だが
そうなった
「君はどうしてここにいるの?」
彼は一点を見つめている
「……僕の…ショ……甘……い……」
質問には答えない
そもそも僕がここにいる事すら
どうでも良いのだろう
何故か触れてはいけないと
言われると触れたくなる
やはりこの時の俺も子供だ
ゆっくりとその指は
ゴーグルへと
触れるか触れないかその時
「もう…僕を… 食べ……ないで」
触れようとした指は
その好奇心をやめ
後ずさった
軋む…No.14 9 黒と白
彼に触れることをやめ
距離を保ち
ログを再生することにした
黒い円盤には溝があり
それに再生用の針を落とす
すると
そこにログが現れる
それは再生する人により
様々な形で
表現される
あるものは絵
あるものは映像
あるものは文字で
あるものは絵本
俺には 音 メロディとして
頭に流れ込んでくる
彼のメロディを再生しよう
………………………ゴボッ
………ゴボッ…ゴボッ……
黒くて
寒くて
苦しい
これが彼のログの最初だ
無数の泡が上に向かっている
小さい泡
大きい泡
その泡が自分から出ている事に
気がついた
慌てて手足をバタつかせる
何か強い力で上から押さえつけられている
どうすることも出来ない恐怖
次第に諦め
泡の数が少なくなっていく
泡が少なくなってくると
頭上の景色がうっすらと見えてくる
人影?
黒かった景色が
白くなっていく
心地よくなり
世界が真っ白に
なりかけたとき
「おやめ…さい!ショ…ラ!………ラ」
女性の声がした
大好きな声
凄い勢いで上へと引き上げられた
ログの記録はここから始まり
バグによって侵食されていた
この先が何度再生しても
見ることが出来ない
彼を取り巻いていた
他の者のログを探さねば
それとも彼の眠っているログを
呼び覚ますか?
とりあえず
読み取れる次のログを再生してみよう
ドンドンドン ドンドンドン ドンドンドン
太鼓の音だろうか
真っ黒な世界で
ピチョン ピチョン
水が落ちる音がする
真っ黒な世界と
太鼓の音と
水が落ちる音
静かではないのに
何故か静かだった
時が止まった感覚
すると首もとに
優しくて暖かい感触がした
何だかとても落ち着く
それはいつも側にあったもの
一番大好きなもの
その首もとの
大好きなものは
急に軋みだした
苦しい
凄い悲しくなった
また薄暗かった景色が
真っ白になりかけた瞬間
「ごめんなさい ごめんなさい ごめんなさい」
女性の声がした
大好きな声
真っ白になりかけた時
この声に2度呼び戻された
またここでログは侵食されていた
10 一番大好きなもの
彼のログは
所々欠落していた
修復は可能なのだろうか?
可能性があるのなら
彼の周りのログを集める事
それを繋ぎ合わせるか
彼が自ら封印している物を
呼び起こすか
簡単ではないことは
想像できた
さてここからが
俺の仕事なのだ
幼い二人だけの牢獄
今他のログを探す暇はない
彼のログを呼び戻す作業をしなければ
彼の大好きな物は
いつもそばにあった優しいもの
母親だ
彼はそれを求めている
母親から離れるには
まだ幼すぎる
俺も彼も
俺は離れるのが嫌で
言いなりになって
彼も離れるのが嫌だから
探していた
彼の気持ちは痛いほどわかった
だがその時の俺は
言いなりな俺は
彼に
「母親に会いたくないかい?」
こう聞いたんだ
彼の一番大好きなものを使ったんだ
俺の一番大好きなもの のために
軋む…No.14 8~10