此岸から愛をこめて

赤色の花に、思いのすべてを託した物語。

「なぁ、彼岸花の花言葉って何か知ってるか?」

 病院のベッドに横になりながら、白いカーテンが揺れている窓の外を見るキミ。話しかけている私の方なんて見向きもしないで。

「彼岸花って…あのお彼岸の? 知らないけど暗い意味ばかりじゃないの?」

「……さぁな、自分で調べれば?」

「ちょ、人に聞いといてなによそれ!」


 いきなり変なことを聞いてきた事にも驚いていたし、あまり花が好きなんて言うイメージが今まで皆無だった彼からの話題だったので余計疑問に思った。それでも、こんな場所のせいで普段明るい彼も暗い心情になっているのだと思い込んだ。
目の前に居る彼の存在に安堵して、私は何も考えていなかった。


「…ホントに笑っちゃうよね。」


 彼が眠っているであろう墓石の前で呟く。


 あの日から数日後に彼は死んだ。彼の母親から連絡がきて、私が病院に駆け付けた時にはすべてが終わっていた。葬式も通夜も終わり、彼との思い出を必死に探っていた時にふと頭をよぎったあの日の会話。彼がなぜ「彼岸花」を持ち出してきたのが謎で、私はネットを駆使して彼岸花について調べあげた。…文明って素晴らしい。
 「想うのはあなた一人」。調べて分かった彼岸花の花言葉に、柄にもなく私はパソコンの前で一人涙を流したのだった。


「なんで、病室で告白なんてしたのよ…死んじゃったら、私からの返事が聞けないじゃん。」


 墓石の前でしゃがみこむ。どうせキミには聞こえてないだろうけど、私の気持ちは伝えておくからね。


「流石に、お墓に彼岸花を飾ったら怒られるかなぁ?」



―――想うのは、あなた一人―――

此岸から愛をこめて

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此岸から愛をこめて

「なぁ、彼岸花の花言葉って知ってるか?」 あの時、彼は何を言いたかったのかなんて今になっては分からない。 それでも私は彼を想って今日も生きる。 ―――――――『愛してる』は、もう言えないけれど。

  • 小説
  • 掌編
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2012-09-14

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