短歌集『花恋つばめ』
花恋し桜恋しと待ちきれず
海を渡りし我恋燕
来てみれば恋し桜木見当たらず
途方にくれし春雨の中
あれを見な せっかち燕の哀れさよ
雀は囁き鴉はアホウと鳴き続け
淡雪の寒の戻りに震えつつ
ただひたすらにその時を待ち
時過ぎて水ぬるみゆく春の陽に
鴨は北の空へと旅立ち
柔らかき雨のあがりし朧夜に
春風過ぎぬ枝そよ揺らして
あくる朝甘き香りに目覚めれば
蕾緩みてそよと開きぬ
せっかちね 花は笑いてひととせの
甘き逢瀬の夢や再び
早や四月 花恋月の短さよ
涙の雨に散る別れの日
葉隠れに打ち沈みては月半ば
着きし伴侶に家を問われて
君ともに暮らす場所をば失わじと
先に着きてはそれ守れり
花散りて恋し面影我が胸に
いざ妻ともに日々を暮らさん
短歌集『花恋つばめ』