エンドレス、ロール

 おわらない、映画のエンドロールを、永遠に観ているような感覚で、きみの、つくる、やさしい味のおうどんを、ちゅるちゅるとたべつづける、この時間の、実は、尊いことに気づくのは、きっと、きみを失ったときだと思うの。くりかえす、春。
 たいせつなひとには、いつまでも、たいせつなひとでいてほしいから。
 オムレツのたまごが、ふわふわだったときの幸福感、わすれないよ。
 きれいなあのひとの瞳が、宝石だったならと想うと、そのうつくしさに眩んだ悪いやつが現れるかもしれないから、宝石でなくてよかったって、ときどき、ひとりで安心してる。カフェオレを飲むための、マグカップを買った日に割ってしまったときの、あの絶望的な、感情を切り裂いて、高層ビルから捨ててしまいたい。
 イルカを見ました。
 あれは、十日前の夜のことで、やさしい味のおうどんをつくる、きみが、アルバイト先のたこ焼き屋さんで、お客さんにもらった、夜の水族館のチケットを、ぼく(そのときは、わたし、だったかもしれない)にも一枚、くれて、いっしょに行こう、と言ってくれたので、もらった日の夜に、きみのアルバイトがおわったその足で、水族館に行った。ライトアップされた、イルカショーのステージは、イルカのあげる水飛沫とあいまって、幻想的で、きみはとなりで、静かに泣いていた。
「すてきなショーだったね」
と、素直に言葉にできるきみが、ぼくは(わたしは)好きだった。
 ぼくたち(わたしたち)の街では、春を迎えると一度は、ピンク色の椿の花が空から降ってきます。道路が、家の屋根が、学校の屋上が、ピンク色の椿の花で埋め尽くされた日に、好きなひとに好きだと告げると、かならず恋人になれる、みたいなうわさが流れたけれど、結局はどうなのだろう。きみで、試してみたいような気もするけれど、なんだか実験のようで、いやなような気もする。おわっても、またやってくる、春。咲いては散り、また咲いては散る、桜の花。
 イルカショーのおねえさんが、イルカがジャンプするとき一瞬、真顔になるのを、見た。
 ハンバーガーショップで、サイドメニューの注文に延々悩んでいる客に、舌打ちとか、こころのなかでしちゃうよね。と言っていた、ともだちのことを思い出した。

エンドレス、ロール

エンドレス、ロール

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2018-03-24

CC BY-NC-ND
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