お腹

最近、お腹が話しかけてくる。
「もう寝るの?寝ちゃうの?ねえねえ…」
私が寝ようと横になるとそうやって起こす。
「あのおねえさんかわいいね」
「今日体調悪そうだね」
電車に乗っていても何をしていてもそうやって話しかけてくる。
最初のうちは私も面白がって話していた。
「寝るよ、また何か食べたいなんて言わないでね」
「おしゃれなひとだね」
「そうなの、だから今日は静かにしていて」
ちょっとしつこいけど便利な話し相手ができたと思っていた。

しかしそれは最初のうちだけ。
そのうち汚いことばかり言うようになった。
「もう寝るの?オナニーしようよ、痴漢がみたいよ」
「あのねえちゃんパンツ見えそう、見えた、ピンクだ」
「みんな死ねばいいのに、死にたい死にたい」
四六時中おしゃべりばかり。何にも出来やしない。
面白がっていた私もさすがに品のないことばかりいうお腹に気分が悪くなった。
そのうち嫌になった。
そのうち無視をはじめた。
「最近相手してくれねーな」
「…」
「あたしはあんただよ。」
「…」
「いつも腹の底でいろんなこと思ってるのに180度違うことばっかり言って」
「…」
「代わりに本音をあたしが喋ってやってんだ。」
「…」
「あんたがあんたを助けたいがために、あたしを作りだしたんだよ」
「…」
「聞いてんのか?本音を腹に溜めこみやがって、黒いもの体内に落として、
口から白ばかり出そうなんてむしが良すぎるんだよ」
「…」

私は返す言葉が無かった。
返事をするかわりに包丁を手に持って。
腹に勢いよく突き刺した。
むかついたので2,3回刺してやった。
そうしてぱっくり開いた傷口。
「ほら、黒くないじゃない」
やっと静かになった。
今宵はよく眠れそうだ。

(20120513)

お腹

お腹

おんなのひとのはなし

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2012-09-14

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