空がきれいな青色になるとき彼女はさみしそうなかおをする。
真っ青の空、新緑のに合う真っ青な空。
雲が溢れてもこもこと綿菓子のような空。
恋人がいた。
そこには彼女の恋人が立っていた。
真っ青な服装で。さみしそうな顔をする。
二人が並ぶとなんだか絵になって私は笑った。
二人も笑った。
二人は楽しそうに見えた。
けれども真っ青だった。
セルリアンブルー。コバルトブルー。
真っ青だった。
世界はどんどん真っ青になって、真っ青な空の下。
新緑の木々に包まれて、手をつなぐ二人。
真っ青だった。
真っ青になった。
白の雲が良くお似合いよ。
私は彼らとばいばいした。
快く手を振ってくれた。
ま、た、ね。
口をぱくぱく動かして彼女は言う。
うなずいて私は私の用事へと向かう。
サーモンピンクのヒールがコツコツと響いて耳触り。
ざわり。
耳元で音がする。血液の流れる音。
ローズレッドの私の血。
鮮やかな血。
どきり。
心臓が動いているよ、働いているよと主張する。
さわり。
後ろから青い風。爽やかな青い風。
風に遊ばれて髪の毛がふわり。
シャンプーの香りとともに私の髪の毛がふわり。
青い風。青い風、青い風。

急に心の中淋しさがたちこめて、真っ青な空模様を曇らせる。
淋しくなって哀しくなって、なんだかわからないうちに涙があふれてくる。
この真っ青で新緑で真っ白で奇跡のように美しい世界で生きてるんだ。
灰色を内に秘めながら、真っ青を外に放つ。
心配されぬように。淋しさという仮面をつけて。
あの真っ青な二人は、真っ青ではなかったんだ。
セルリアンじゃなかったんだ、コバルトじゃなかったんだ。
踵を返して、風を創って、いままで歩いて来た方へ向かう。
ぱさり。
灰色な風が身体を纏う。
ごくり。
喉が鳴る。
雨の香りが遠くから近くから鼻の奥を刺激する。
心の中、脳味噌の中、灰色が増殖する。灰色が加速する。
ぽとり。
雨がアスファルトに水玉を描いていく。
かつかつかつ。
サーモンピンクのハイヒールは今はもう雨と土で薄汚れてしまう。
駆け抜ける足が風を生む。
さっさっさ髪のシャンプーの香りが風に流れて分散する。
早く行かなければ、二人に追いつかなければ。
気持ちだけが早まってゆく。
かつかつかつかつ。
あ、ほら目の前には彼女の恋人の後ろ姿。
(やっとついた)私は安心して、歩みを緩める。
彼女のすがたがない。
そう、
彼女は消えてしまった。流れてしまった。
灰色と、群青の水になって。
彼が雨の中泣いている。
「世界と向き合おうと目をあけるたび、絶望に打ちひしがれた。」
彼は落胆して道に倒れ込む。
アスファルトからは雨のにおいが立ち込めて。

二人の人間が小さく転げ溶けゆくのを見ていた。

さらさらと、雨にぶたれ。

静かな静かな時間だった。

真っ青な灰色

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2012-09-14

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