快楽に溺れ、過ちを繰り返す生命体

快楽に溺れ、過ちを繰り返す生命体

主な登場人物

主人公 古賀亮輔
母子家庭で育ち、母親千尋の性処理の道具として日夜肌を合わせている。その後は兄の裏切りにより、住む場所を無くしホームレス状態に陥る。
セレブ相手のレンタル会員として身体を売り、バイセクシャルに目覚める。

古賀千尋 亮輔の母だが、育ての母であって実母ではない。
水商売からパトロンの援助で数々の店舗を経営する起業家となる。
亮輔の初体験の相手であり、毎日亮輔とセックスをするのが一番の楽しみ。

古賀達也 亮輔の兄で、千尋の実子。父親に育てられたが、千尋に恨みを持ち、千尋の築き上げた会社を乗っ取る。
独占欲が強く、邪魔な人間はすぐに消し去る非情な人間。

鴨志田紗栄子 亮輔の高校時代の教師で、亮輔の実母。浪費癖があり、借金の肩代わりとして、千尋の目の前で亮輔と近親相姦をする。しかし、ヤミ金に追われソープに沈められてしまう。

沢渡 千尋の経営する会社の右腕的存在。千尋がいなくなった後、達也が社長となり、バックアップするのだが、経営が傾き、必死になって会社を立て直す。亮輔の一番の理解者。

広瀬 奈津美 高級キャバクラ店に勤務する22才。亮輔と惹かれ合うようにワンルームマンションに亮輔と一緒に住むが、彼女にも暗い過去がある。通称ナツ。

物語は亮輔がナツのマンションで何もせず、ただブラブラする日々で、忌まわしい過去を回想するシーンから始まる。

俗物という名の人間

人は俗物、決して聖人君子にはなれない。

醜く、汚く、小賢しく。
それでも人は過ちを繰り返す。

金カネとうわ言のように繰り返し、人を陥れ、蹴落とし、必死になってその地位にしがみつく。

何故、人はこうも残酷で金のためなら天使にも悪魔にもなれるのだろうか?

色と欲にまみれ、神からの天罰を食らう。
だが、次から次へとその繰り返し…

何故、人は欲という物を前にするとこんなにも脆いのか。

誰もが持ちうる暗黒な部分を引き出す為に、色と欲を目の前にしてそれでも聖人君子でいられるのか?

退屈な日々

「ねぇ、起きて。そろそろ行く時間だから」

ナツはオレを揺すって起こそうとした。

「…んだよ、もうそんな時間か」

オレはまだ寝ていたい気分だ。

また下半身が元気な状態だ。

「なぁ、いつものやってよ」

【いつもの】とはフェラチオの事だ。

「そんな時間ないよ。早く起きなさい!」

「わかった、起きるからやってくれよ」

オレはズボンとボクサータイプのパンツを下ろした。

朝勃ちならぬ、夕勃ちだ。

「早く終わらせてよね」

ナツはそう言ってオレの屹立した下半身を義務的に掴み口に含んだ。

「あぁ、そこ、もっと舌使って」

ナツはめんどくさそうに舌を使い、亀頭を舐めた。

どんどんと気分が高まる。

「ねぇまだ?」

早くしてよと言わんばかりにナツが急かす。

「ん、もうちょい。そのまましごいて」

ナツはオレの勃起した一物を上下にしごいた。

「あぁ、出る。…うっ!」

オレはナツの口の中で果てた。

ナツはティッシュでオレの精子をペッと吐き出した。

「じゃあ行ってくるから。テーブルにお金置いてあるからテキトーに何か買って食べてね」

ナツは急ぐように玄関でヒールを履いて部屋を出た。

さて、今日は何しようか。

窓を開けると、夕陽が沈みかけてた。

さっきの女はナツ。本名は奈津美という。オレはいつもナツとよんでいる。

22才、キャバクラに勤務している。

そしてナツのヒモのような生活をしているオレは古賀 亮輔(こがりょうすけ)23才

現在はナツの住むワンルームマンションに居候している。

知り合ったきっかけは、オレのツレが元黒服の店員で、飲み会の時に知り合った。

オレはルート配送の仕事をしていた。
各エリアに設置してある自販機にジュースやコーヒーを補充する仕事だ。

まぁその仕事も僅か3ヶ月で辞めた。

その前は現場でガードマンをしていた。

これもまた、炎天下の中で交通誘導していたのだが、あんなくそ暑い最中、ただボーッと突っ立っているだけで汗がダーッと出て、やってらんねーってな感じで辞めた。

で、その前は引っ越し屋の仕事。これも腰を痛めてすぐに辞めた。

今まで何度職を変えたかわからない。

ナツは飲み会で知り合って、その後、深い関係をもった。

オレとしては単なるセックスだけの相手としか見てなかった。

だけど、ナツはオレの事を惚れ込み、現在はナツの家に転がり込んでいる。
まぁオレもロクに働かないでフラフラしてるもんだから、住んでいたアパートの家賃が滞納し、色々と問題があって住み処を探しているところにナツと知り合い、その数日後、ヤツの部屋に転がり込むようになった。

キャバクラで勤めているだけあって、容姿は悪くない。
指名客も多く、店の売り上げにかなり貢献しているみたいだ。


それに引き換えオレは定職にも就かずこうやって夕方近くまでゴロゴロしているワケだ。

まぁこんな事を繰り返していたら、ナツにも愛想がつきるだろう。

それならそれで結構、また住み処を探せば良いだけの事だけだから。

でもいつまでこんな事をしてればいいのだろうか。

母親の痴態

オレは物心ついた頃から父親という存在はいなかった。

3つ上の兄がいたが、父親が引き取り、オレは母親に引き取られる形で築数十年の経つ2DKのアパートで過ごした。
母親の名前は千尋(ちひろ)
オレを育てる為だろうか、母親は夜スナックで働くようになった。

やがて母親の格好が段々と派手になり、香水の匂いを撒き散らし、朝方男を連れ込んで帰ってくるようになった。

オレは別の部屋で寝ていたが、襖だけで仕切られていた部屋で母親はその男と全裸で抱き合っていた。

男女の喘ぎ声が否が応でも聞こえてくる。

オレは寝たフリをしながら、襖をそっと開け、母親が男に抱かれ、悦んでいる場面を幾度となく目の当たりにした。

母親は毎回別の男を連れ込み、セックスに耽っていた。

随分とふしだらな母親だったが、不思議と嫌悪感を抱く事はなかった。

こんな調子だから、母親は夕方出掛ける前にテーブルに1000円を置いていった。

それはこのお金で夕飯を食べなさいという意味で置いた金である。

オレはコンビニでカップラーメンやおにぎり、菓子パン等で腹を満たしていた。そんな日々を過ごしてきたオレは母親の手作りの料理を食べた記憶が無い。

当時母親は30代前半、女盛りである。

それを考えれば、男とそういう仲になってもおかしくはない。

中には当時小学生だったオレに小遣いをくれたり、飯に連れてってくれる男もいた。

母親はいわゆる和風美人で切れ長の目に少し影のあるような妖しい顔立ちでスタイルも学校の友人の母親に比べればかなり良かった方だと思う。

オレは特に反抗期という時期はなく、すれ違いが多かったためか、ほとんど会話という会話をしたことがない。

こんな調子だから、学校行事に参加した事はほとんどない。

朝方に帰り、男を連れ込み、情事に耽る。

オレが学校に行く頃は男と素っ裸で抱き合って寝ている。

このことについては、母親も仕事の為にやっている事なんだろうと思っていたが、とても他人に言えるようなものではない。

そんな調子で母親は母親、オレはオレ、という互いを干渉しないスタンスで生活していた。

そしてオレが中1の頃、今まで住んでたボロアパートからオートロック付の分譲マンションに引っ越すようになった。

母親はいつしかスナックで雇われママとして店を切り盛りし、その頃パトロンと呼ばれる人物と知り合い、羽振りが良くなった。

そうでなければ、オンボロアパートからオートロックの付いた3LDKのマンションに引っ越せるワケがない。

だが、マンションに引っ越したと同時に母親が帰ってくる日が3日に1度、更にエスカレートして1週間に1度といった感じで帰ってくる機会が少なくなってきた。


母親も中学生になったオレがいるから遠慮して別の所で情事を楽しんでいるに違いない。

母親はフラッと現れ、オレに数万円渡してまたどこかへ消えていく。

この金で月の食費を賄えという事だ。

金額は決まってないが、最低でも、5万は渡してくれる。

オレはなるべく無駄遣いをせず、最低限の食料を買い、質素な食生活をしていた。

米と味噌と漬け物さえあれば十分食っていけると思った。

残った金は、いざという時に必要な事があるだろうと思い、蓄えていた。

それは中学を出たら、1人で暮らすために必要な金だと思い、コツコツと貯めていた。

こんな事を中1から始めていたので、中3になった頃は、金額は数十万にまで貯まった。

そんな母親がオレが中3に進学した頃から頻繁に家に帰るようになった。

パトロンのお陰で店を経営する事が出来、他の男と遊んでいる暇が無かったのだろう。

毎日朝方には帰ってオレが学校に行く頃は部屋で寝ていた。

そんなある日の事だった。
確か夏休みに入る前の事だが、オレは学校から帰り、部屋でテレビを観ていた。

時間は夕方になろうとしていた時だった。
母親はいつもこの時間に風呂に入り、身支度をして、夜の仕事に出掛ける。

母親は商才があるのか、この頃は既に夜の店を3店舗経営するまでに成功した。

だが、毎日家に帰った来ても、家事は一切やらず、店の経営の為、領収書の整理や帳簿に勤しんでいた。

部屋は特に汚れた様子もなく、洗濯は上に設置してある乾燥機があるため、洗ったら脱水をかけて、すぐに乾燥機に入れるので、苦にならない。

となると、問題なのは食事だ。

妖艶な母親の肢体

米と味噌、漬け物は必ずストックしてあるが、育ち盛りの15才の食事にしてはあまりにも質素すぎる。

料理を覚えようとしたが、手間がかかる料理はめんどくさいので、簡単に出来る卵焼きや余ったご飯で出来る炒飯や野菜炒め等を食べて空腹を満たしていた。

肉は給食以外で食べた記憶がない。

母子家庭だが、今さらオフクロの味など求めようとも思わない。

そんな母親が梅雨時に差し掛かった頃、浴室からオレを呼ぶ声がした。

なんだろうと浴室の前まで行ったところ、全裸になっている母親が

「亮輔、たまには一緒にお風呂に入らない?」
と言ってきた。

何をバカな事言ってんだ、オレはもう中3で母親と一緒に風呂に入るなんてヤツはいないだろう、そんな事はマザコンのヤツがすることだ、と思っていた。

しかし、母親はどうしてもオレと風呂に入りたいらしく、仕方なく背中ぐらいは洗ってやるかと思い、短パンとTシャツ姿で中に入った。

「アンタお風呂入るのにそんな格好で入るの?」

湯槽に入っていた母親は立ち上がりオレに裸を見せた。

母親はまだ40手前で、少し大きな胸に年齢の割にはしまったウエスト、そして驚いたのは、股間にあるはずの陰毛が無かった。

コイツはオレの母親だ、母親相手に欲情するなんて絶対におかしい!
そう頭の中では思ったが、母親とはいえ、女の裸をマジマジと見てしまい、うかつにも股間が膨れ上がってしまった。

こうなると、男は女の誘惑には勝てない。

「亮輔も全部脱いでこっちにいらっしゃい」
と母親に脱がされ湯槽に入った。

そして母親は再び湯槽に入り、お互い裸のまま浴槽に向かい合うような形で肩まで湯に浸かっていた。

第3章 妖艶な母親の肢体

母親は妖艶な笑みを浮かべ、右手でオレの下半身に触れてきた。

「しばらく見ないうちに随分と立派になったものね」

母親はオレの手を取り、母親の秘部へ手招いた。

ヌルっとして指がスポッと膣内へ入った。

母親は恍惚の表情を浮かべ、オレを腰を浮かせるように持ち上げた。

勃起した一物が湯槽から飛び出るような格好で恥ずかしかった。

だが、母親の妖艶な笑みと肢体を前に動けない。

母親はその屹立した一物を掴み、口に咥えた。

ソープランドでいうところの潜望鏡というプレイだ。

もの凄い快感が全身を押し寄せた。

「フフっ、凄い立派ね…」

母親はまた口に含み、手でしごいたり、玉に刺激を加えた。

「あぁっ、…出るっ!」

快感が絶頂に達し、オレは母親の口の中に射精した。

「すごいいっぱい出たね…フフっ」

そう言ってオレの精子を飲んだ。

「あなたのこの立派なモノは女を悦ばせる為にあるものなの、わかる?」

何が何だかさっぱりわからない。何故実の母子がこんな事をするのか。
だが射精したばかりのオレは余韻に浸っていた。

「ワタシは貴方の母親だけど、貴方に女を悦ばせるテクニックを教えてあげるわ」

母親は湯槽から上がり、身体を洗い始めた。

「ほら、洗ってあげるからこっちに来なさい」

母親に促されるように湯槽を出て腰かけた。

母親は背中に胸を押し付けるように洗い始めた。

もう何がなんだかわからない。

まだ中3のオレは母親の妖艶な肢体とテクニックで何度も射精した。

母という存在

母親が求めてきても、オレは拒む事はしなかった。
だが、オレから母親を求める事は一切しなかった。

母親からしてみれば、オレは大事な息子であると同時に性の玩具という扱いに過ぎなかった。

そして母親と過ごす時間が多くなり、一切家事をしなかった母親が掃除、洗濯、炊事までやるようになった。今更おふくろの味を求めるつもりは無いが、母親の作る料理はどれも美味かった。

夜の店は他の人に任せ、たまに顔を出す程度になった為、母親は一日中家にいる機会が多くなっていた。

今までは多忙で母親に聞きたい事もあったが、家にいる機会が多くなり、色々と話す機会があったので、オレは前々から聞きたがっていた別れた父親と兄は今、どこで何をしているのかという事、何故別れるときに兄じゃなく、オレを引き取ったのかという事、他にも色々あったが、この2つだけは知りたかった。


母親が言うには、父親と兄は都心から離れた郊外で暮らし、兄は成績優秀で来年は有名大学を受けるという事らしい。

そして、何故オレだけを引き取ったのかという理由は、オレは父親と母親の間に生まれた子供ではないという事を聞かされた。


何だそれは?父親は誰なのか?あまりのショックに問い詰めても中々返事が返ってこなかった。

誰の息子か分からないオレは一体何者なのか?答えをはぐらかす母親に業を煮やしたオレは父親探しに出るといって荷物をまとめてこの家を出ようとした。

だが母親に止められ、ずっとここにいて欲しいと懇願された。じゃあ、父親は一体だれなんだ?

それぐらい知る権利はあるだろうと問い詰めた。
観念した母親は、パトロンと喚ばれた男との間に生まれた子供だと言った。
確かにおかしいとおもうフシはあった。

それはオレだけが左利きだという事だからだ。

母親が右利きで、別れた父親と兄も右利きだという。オレだけが左利きだが、左利きとは隔世遺伝にもなるのだが、どちらの祖父母にも左利きはいない。

そのパトロンはオレが中3に上がって間もなく病に倒れ、この世を去った。
パトロンには身寄りがなく、全財産は母親が受け継ぐ事となり、ほんの少し前までオンボロアパートに住んでいたオレたちが、オートロックのマンションに住むようになったほどの遺産を受け継いだ、と母親は答えた。

そしてオレには今まで不憫な思いをさせて申し訳ない、という意味で何不自由なく買い与えてくれた。

そこまでならよくありがちなパターンだが、母親の性の対象にもなっていたのだから、これはおかしい。

毎朝オレの布団に潜り込み、朝勃ちしているオレの一物を咥えて反応を見て喜んでいる。

オレはまだヤリたい盛りの15才だ。
母親の口と手であっという間にイカされてしまう。

そして何食わぬ顔で互いにテーブルで向き合い朝食を食べる。

オレは思った。今手元にある金は少なくとも50万以上ある。中学を卒業したらここを出ようと。

ここにいたら何もかもがおかしくなってくる、そんな事が頭の中をよぎった。


そんな考えをもっているオレの事は知らず、母は毎月数万円の小遣いを渡してくれる。

二学期に入り、オレもそろそろ進路を決めなければならない時期に差し掛かった。

どうせ三者面談になんか来ないだろうと思っていたが、母親は和服姿で学校に現れた。

母の暴走

母親は涼しげな青を基調とした着物姿に結い上げた髪で三者面談に現れた。

皆母親の和服姿に注目を浴びた。
「おい、お前の母ちゃんかなり美人だな」
そんな事を言うヤツも何人かいた。

そしてオレの番になった。

母親は礼儀正しく先生に深々と頭を下げた。

席に座り、開口一番
「先生、家の息子はどこの学校に行けるのか全く把握しておりません。ただこれはあくまでも私個人の考えですが、この子の学力だと、可もなく、不可もないような学校に行くんじゃないかと思ってます。
それならば、私の子は高校なんかに行かなくてもいいというのが私の考えでございます」

母親は毅然とした口調で、しかも妖艶な目付きで先生の目を見据えてキッパリと言い切った。

突然何を言い出すんだ?オレの進路を勝手に決めつけるな!と。

「ま、まあ、お母様の考えもわかりました。ただ、可もなく、不可もない学校と仰いますが、古賀くんの学力ならば今からでも進学校に入学できる実力は十分にあります」

先生は母親の妖しげな目に戸惑いつつも、義務的に述べた。

「で、古賀くんはどこの高校に行くつもりなのかな?」

オレも母親の様にはっきりとした口調でキッパリと言いきった。

「特に何処の高校と決めてませんが、全寮制の高校ならば、公立私立どちらでも構いません」

「亮輔!全寮制の高校って何なの?あなたはそんな学校に行っても何もあなたの為にならないのよ」

オレはとにかく母親から逃げたかった。
ふと思い付いた全寮制の高校がある事を思いだし、口にした。


「ま、まあまあお母様、ここは古賀くんの言うことも尊重してあげましょう。それに高校に行かないでどうするおつもりですか?」


更に母親は毅然とした態度で先生の目を瞬きもせず、はっきりと言った

「この子は高校に行かず、私の知り合いのところで働かせようかと思ってます」

働く?一体中卒で何処で働かせるつもりだ?


「お母様はこういう事を言ってるが、古賀くんの考えはどうなの?」

正直、どっちでも良かった。中学を卒業したら、あの家から出ようと思っていたからだ。

「オレは全寮制の高校を希望します」

中卒で働くなんて馬鹿馬鹿しい!

「そ、そうか。でもなるべく早めに教えてくれよな」

先生もそう言うしかなかった。

こんなやり取りで三者面談は終了した。

家に着くなり、玄関で母親はオレのズボンとパンツを下ろし、激しく首を前後に動かしフェラを始めた。

「亮輔、あなたが全寮制の高校なんかに行くのは絶対にお止めなさい!
お母さんを一人にしないで、お願い」

懇願するように激しく音を立てて瞬く間に勃起した。

全身が快感に包まれた。

「あっ、出る…」

「いいのよ、全部出しなさい」

母親は更に激しさを増した。

「いくっ…」

オレは母親の口内に勢いよく射精した。

「こんなにいっぱい出して。全寮制の高校に行ったらこんな気持ちいい事は出来ないのよ」

この時、母親が獲物を狙うが如く、妖しく、そして射るような目付きでオレを見た。

こんな事を毎日続けたらおかしくなる。

一刻も早く中学を卒業して家を出よう、そう心に決めた。

早く卒業したい

とにかく中学を卒業したかった。早く家を出たかった。

オレは父親や兄と暮らしてみたいとも思った。
母親は父親がどこに住んでるか知ってるはずだ。
だが、それをオレに言えば、オレは父親に会いに行くと思い、言わなかったのだと思う。

進路なんてどうでもよい、早く母親の下から離れる事しかなかった。

何故親子が肉体関係をもたなければならないのか。

まだオンボロアパートで朝方男を連れ込んで情事に耽っていた頃の方がマシだった。

あの頃は母親と過ごす時間があまりなかった。
当時は母親ともう少し一緒にいる時間が欲しかったが、今は経営している店を他の人に任せ、たまに店に顔を出す程度だ。

幼い頃に願っていた母親と一緒の時間を多く過ごせるようになった。だが、それは母親としてではなく、1人の女として、息子の身体を弄ぶセックスに飢えた熟女に過ぎなかった。

母親は何不自由なく、オレが欲しがる物を買い与えてくれた。

そして小遣いが欲しいと言えばいくらでも渡してくれた。

まだアルバイトが出来ない年代だ。だからオレは母親の夜の相手をする代わりに小遣いを貰っていた。

親子で売春をしているようなもんだ。

そしてオレは進路をハッキリと決めなければならない時期に差し掛かった。

とにかく高校だけは行こう、そう思い、家から20分程離れた公立校に受験することに決めた。全寮制の高校は現実的に難しいので諦めた。
赤の他人と共同生活をするなんて、オレには無理だ。

この学校に決めた理由は、学校の裏にワンルームマンションがあった。
オレは既に100万以上の金が貯まっていた。

これを敷金礼金にして、当面の家賃に企てれば1人で暮らすことができる。
そしてアルバイトをして、金を稼げば何とかなるだろうという考えもあった。

こうすれば母親と縁を切ることが出来る。

オレなりに考えた計画だ。

あと少しの我慢だ。

そう思いベッドに入っていつの間にか寝てしまった。

そしていつものように下半身に違和感がする。

布団をがばっとめくると母親がいつものように朝勃ちして膨張したモノを咥えていた。

「このオチンチンはワタシのモノだからね、フフっ」

そう言ってまた激しく上下に口と手を使い、イカせようとした。

15のオレには刺激が強すぎる。

あっという間に射精してしまった。

「フフっ今日もたくさん出たわね。また夜にしてあげるからね」

母親は口内に出した精子を全て飲んだ。

「これのせいで肌の調子が良いのよね…」

まるで蛇に睨まれた蛙のような心境だ。

貴方はワタシから逃れられない…
そう言いたげな視線だった。

性的倒錯

父親や兄に会いたい。

今はどこで何をしているんだろうか?

いくら母親に聞いても、知らないの一点張りだ。
そのくせ夜になればオレの下半身をまさぐり、腟内に挿れて獣のように快楽をむさぼる。
これが母親のする事なのだろうか。

オレは父親とは血の繋がらない人間だ。

ならば何故、母親はオレを生んだのか。

兄とは3つ違いで当時はまだ3才だ。
子育ても大変な時期に何故父親以外の男と関係を持ったのだろうか。

父親はそれを知って、離婚を切り出したのか。

全くもって意味不明だ。

そしてもうこの世にはいないパトロンとはどんな人物なのか。
そのパトロンがオレの父親。

これは憶測だが、当てはまる部分はいくつかある。

パトロンは左利きだという事。そしてオレも左利きだ。

何故パトロンが左利きだというのが解ったのかというと、ゴルフのスイングが左打ちだったという事だ。

それは母親の部屋のタンスから出てきた数枚の写真を見たからだ。

肩を組んでニッコリと笑っている母親とパトロン。そしてスイングしているパトロン。パトロンは左でスイングしていた。

ゴルフは左利きの人でも右でスイングする事があるが、この左でのスイングは間違いなく左利きだという証拠だ。

他にも一緒にカートに乗っている写真や、ラウンジで肩を並べている写真もあった。

パトロンは見た感じ、50代後半から60代前半といったところか。

この男がオレのホントの父親かどうかは解らない。
だが、この仲睦まじく写っている写真を見ると、とても普通の関係には思えない。

それに、パトロンが病でこの世を去った時、身寄りのないパトロンは母親に遺産を相続したという。
嘘か真かこの時点ではまだ分からなかった。

要は愛人だったという事なのだろう。

とまぁ色々とオレなりに推理してみたが、どれも当たっている感じがするが、当たってもいない。

今までは散々男を取っ替え引っ替えしてきた母親がオレの精通と同時に今までの男を切って、オレを求めてきた。
やってることは近親相姦だ。よく、AV等でそんなシチュエーションがあるが、まさか自分がこんなことになろうとは。

とにかくオレは卒業までの数ヶ月はこの家で我慢するしかない。
卒業したら、荷物をまとめてここを出る。

こんなおかしな関係は卒業までだ。
確かに最初のうちは気持ちよくて射精する快感が忘れられなくて、何度も母親の要求に応えた。時には野外で誰もいない草むらに隠れて母親が木に手をやり、尻を突き出して後ろから挿れて欲しいと懇願された事もあった。

またあるときはオレがベッドで手足を拘束され、蛇のようにオレの身体に舌を這わせるように愛撫された事もある。
また買い物に付き合わされた時は、ビルの隙間に誘いこまれ、ズボンを下ろされ一物が食いちぎられるんじゃないかと思う程、激しく咥え、よだれを垂らしながらジュポジュポと音を立てて口内で舌を使い、手で陰嚢を優しく揉まれあっという間に発射した。

母親は終わると何事も無かったかのようにスタスタと歩き、デパートで服を物色していた。

アブノーマルというか、エキセントリックな人間だという事はわかっていたが、中学生のオレはどうすることも出来ず、ただ母親のされるがままに性処理の道具として扱われていた。


入浴は必ず一緒、朝はオレの布団に潜り込み、朝勃ちした一物を咥え、発射するまで離さない。

第7章 性的倒錯

こんな事、誰にも言えない。
例えどんな事があろうとも言える事ではない。

近親相姦なんてバレたらオレは周囲からどんな目で見られるのだろうか。
母親とセックスしているマザコン野郎と言われると思う。

自立するには十分な蓄えがあるのが今のオレの支えになっている。

イヤな事がある度に、この金を見る。この金で母親から離れる事が出きるんだ、もうあんな母親の性の道具にはならない!

そしてオレは志望していた公立校の受験を受けた。
オレの学力なら問題なく合格できるレベルだ。

受験の帰り、校舎の裏にあるワンルームマンションの前で立ち止まった。

3階建ての白い外壁で、築年数がまだ浅いのだろう。
オレは1階から各部屋を見て回った。

空き部屋があるかどうか確認するためだ。

2階と3階に1部屋づつ空き部屋があった。

家賃はいくらするのだろうか、敷金や礼金はどのくらいかかるのか。

オレは家に帰り、PCを開き物件の詳細を調べた。

殺意を抱いた日

公立校の合格発表の日を迎えた。

オレは当然の事ながら合格した。
オレの選んだ高校は学力的に申し分なく、余程の事がない限り、不合格になるはずが無い。

校舎の裏にあるワンルームマンションに住み、そこから通えばギリギリまで寝ていても十分間に合う。

合格発表の帰り、路地裏を歩いていたオレは自販機の前でたむろしていた二人組のヤンキーに声をかけられた。

「おい、お前今ガン飛ばしただろ?」

二人組の1人がオレに絡んできた。
どうせ金巻き上げるつもりだろ、いかにもそんな感じだ。

オレに絡んできたヤツは頭は金髪で目付きが悪く、時代錯誤のようなヤンキーファッションで背はオレより低かった。

もう1人は坊主頭で、眉を思いっきり細くしてストリート系のファッションだが、太っていてサマにならない。

「ガン飛ばす?誰が?誰に?」

オレはすっとぼけた返事をした。

「あぁ、テメーだよ、オレたちにガン飛ばしたろうがっ!」
ストリート系のデブがさっきまで自販機の前で座っていたが、オレの前まで顔を近づけた。背は若干オレより高めだ。

オレは175㌢で体重は63㌔、ひ弱そうに見えたのだろう。

めんどくせーな、オレはケンカは得意じゃない。
でも、コイツらはケンカが強そうには見えない。

とはいえ、こっち1人で向こうは2人だ。

タイマンなら何とかなるが、2人だと厄介だ。

オレを見て金持ってそうに見えたのだろう。

「何とか言えよ、コラァ!」

時代錯誤のヤンキーがいっぱしに意気がってやがる。

コイツは大したことない。
問題はもう1人のデブだ。
オレより背が高いし、体重もある。

「悪かったよ、いくら出せばいいんだ?」

オレは金で解決しようというフリをした。

「そうだな、あるだけ出せや」

オレは学ランの内ポケットから財布を取り出し、デブにポイッと投げた。

デブが財布を受け取った瞬間、オレは左ストレートをデブの鼻っ柱に叩き込んだ。
そしてひるんだデブの顔面に何発もパンチを入れてボコボコにした。

デブは倒れて抵抗する様子もなかったが、マウントポジションのような形で馬乗りになり、頭を掴みアスファルトに叩きつけた。

デブは顔面血だらけになり、半分失神しているようだ。

オレは追い討ちをかけるようにデブの顔面を蹴り飛ばした。

デブは完全に動けなくなり、失神した。

そしてオレはもう1人のヤンキーの方を向き、胸ぐらを掴んだ。

ヤンキーはデブが全く動かないのを見てビビっている。

オレはヤンキーの喉元を掴み、後ろの自販機に叩きつけた。

そしてヤンキーの顔面めがけてチョーパン(頭突き)をかました。

ヤンキーは鼻血を流し、「ごめんなさい、ごめんなさい…」と蚊の鳴くような声で謝ってきた。

オレはヤンキーの腕を掴み、背負い投げのような形でアスファルトに叩きつけた。

そしてデブに渡した財布と、ヤンキーの後ろのポケットから長財布が見えたので、財布の中身を見た。

万札が二枚に五千円札と千円札が三枚入っていた。

オレはその金を抜き取り、ヤンキーの顔面を蹴り飛ばし、ヤンキーの前歯を折った。

ケンカというケンカをしたことが無かったのだが、母親の件でフラストレーションが溜まり、それが爆発したかのように絡んできた二人組をボコボコにした。

もうどうなってもいい、仮にあいつらが死のうが警察に駆け込もうが関係ない。

むしろそうなってくれればオレは母親から逃れられる。

オレはダッシュで逃げる事はせず、ただ普通に何事もなかったかのように歩いていった。
しばらくすると左手が痛みだした。
デブの顔面を何度も殴ったせいか、自分の手を痛めてしまった。

もしかしたら骨イッちゃってるかも。

とりあえず家に帰り、左拳に湿布をしてバンテージのように包帯をグルグル巻きにした。


つまんねぇ、早く卒業式にならねえか。

もう母親の性欲処理はうんざりだ。

ふと思った。さっきのやつらみたいに母親をボコボコにしてやろうかと。

そう考えてきたら、母親に殺意を抱き始めた。

出きればこの手で母親を殺してやりたい。

…でもそんなことは出来るワケがない。
母親から逃げる為に今までの金を貯めたんだ。
その母親を殺して少年院で何年も過ごすなんてバカバカしい。

それに父親と兄の居場所を聞き出すまでは手をかけることは出来ない。

卒業まで後僅か。蓄えた金額を見ながらもう少しの辛抱だと自分に言い聞かせた。

もうすぐで卒業だ

オレは母親と交わる時は一切の避妊をしていない。

母親はピルを飲んでいる為、腟内で射精するのを懇願する。

どうしてこんな爛れた関係になったんだろう。

何故母親はオレを求めてくるようになったのだろうか。

実の息子とセックスしたがる母親なんて普通じゃない。

異常だ。そして母親のなすがままに腟内に一物を挿れるオレもかなり異常だ。

快楽を求めるのは別に悪いことではない。
しかし相手は母親だ。
今日も家に帰れば、母親が妖艶な笑みを浮かべ、オレの一物をよだれをたらしながら咥えてくるのだろう。

家に帰ると母親はいなかった。

どこかへ出掛けたのだろう。
その隙にオレは母親の寝室に入り、色々と物色した。
父親に関する何かがあると思い、タンスやテレビの棚等を片っ端から調べた。

父親との会話

しかし、どこにも父親に関する手掛かりのようなものはなかった。

そして本棚に目をやり、一冊一冊取り出しては目を通した。

すると、ファッション雑誌の中にメモ用紙が折り畳んであるのを発見した。

そのメモ用紙を広げてみた。
これだ!父親の携帯番号と現住所が記されてあった。

父親はここから少し離れた郊外に住んでいるみたいだ。

どうする?今から会いに行こうか。
急に心臓がバクバクしてきた。
でも、会って何を話せばいいのだろうか?

オレは父親の顔すら知らない。
オレが生まれてすぐに兄を連れて出ていったのだから。

仮に会ったとしても門前払いをくらうかもしれない。

ましてやオレは父親とは血が繋がってない。

散々迷った挙げ句、今は会うのは止めようと思った。
とりあえず父親の番号と住所をスマホに入力し、メールなら送れると思い、
オレはショートメールを父親に送った。

【突然の事で驚かれるでしょうが、亮輔です。是非会いたいのですが、返事を待ってます】

後は父親から返事がくるのを待つだけだ。

やっぱりオレの事は忘れたいのだろうか、無視されたと思った。



そしてようやく待ちに待った卒業式を迎えた。

ようやくこれで自由になれる、オレは周りが泣いている連中を尻目に義務教育から解放される喜びと、母親の下から離れられる喜びでワクワクした。

ちなみに母親は卒業式には出席しなかった。
オレとしては出席しない方が都合が良い。

卒業式が終わり、オレは真っ先に例の高校の裏にあるワンルームマンションの入居の手続きをするため、不動産を訪れた。

だが、オレはまだ15才、保証人が必要だと言われ、入居は出来ないと言われた。

保証人がいるなんてそんなことは知らなかった。

そして一か八かでオレは父親に電話してみた。

果たして電話に出てくれるだろうか。
心臓はバクバクしながら電話に出てくれるのを期待した。

【はい、もしもし】

出た!父親だ!

「あ、あのもしもし、えっとオレ亮輔です。覚えてますか?」

【…】

父親は無言だった。

「あ、あのこの番号、家の母の棚を調べて見つけました。オレどうしてもお父さんやアニキと会ってみたくて、電話しました。
勿論この事は母には知らせてません」

【…そうか。ところで今いくつになった?】

「今日中学を卒業しました。来月から高校生になります」

【そうか、もうそんな年になるのか。早いもんだな、生まれたばかりのお前がもう高校生か…】

「は、はい…あのもし、もし迷惑じゃなかったら、是非会いたいのですが。母には内緒で…」

オレはいつの間にか涙を流していた。

「お願いです、是非会ってください」

【…この事は母さんには内緒にしてくれるな?】

「は、はい、勿論です」

【じゃあ時間を作ろう。いつがいい?】

「あ、あのオレはもう高校入学式まで休みなんで、いつでも大丈夫です」

【そうか。じゃあ明日、仕事が終わったら近くの駅前で待ち合わせしよう】

「あ、ありがとうございます!では明日待ってます」

そう言って電話を切った。

オレは父親と話が出来たということで涙が溢れてきた。

後は今の気持ちを全部父親にぶつけてみよう。

とにかく一歩前進だ。

父の顔

時計は18時より少し前に着き、父親を待った。

よく考えたらオレは父親の顔を知らない。写真すら見たことが無いのだ。
一体どんな人物なのだろうか。
声の感じからして、やや低音でハッキリとした口調の人だ。

何度も改札口を見ては父親らしき人を探した。

この人だろうか、いや、あの黒のスーツを着た人かな。
するとスマホに着信が鳴った。

「は、はいもしもし」

【今、改札口の自販機にいるんだが、どこにいるんだ?】

自販機の前?あ、あの人だ。仕立ての良いグレーのスーツに片手にバッグを持っている。

オレはドキドキしながら自販機の前へ向かった。

「あ、あのはじめまして亮輔です」

やや白髪ながら、スラッとした身なりの良い中年、この人が父親か。

肩幅が広く、身長は180ぐらいの長身でカッコいいというのが第一印象だった。

「まさかこんなに成長していたとはな。どうだ、飯でも食いながらゆっくり話をしよう」

父親は微笑を浮かべながら、駅前にある焼肉屋に行こうと言った。

「腹減ってるだろ?何でも好きな物頼め」

「は、はいありがとうございます」

オレはカルビやタン塩、ハラミを注文し、父親はビールとキムチ、カクテキを注文した。

父親は肉を焼きながらオレの普段の生活を聞いていた。

どうしよう、話すべきか…母親との情事を話したらどんな顔をするのだろうか。

「何だ、何かあったのか?」

父親はオレの表情を見て何かを察したようだ。

「何せあの母親だからな。お前のその思い詰めた顔で何かあったのかは大体想像できる」

よし、言うしかない。オレはこの中学時代に起きた母親との許されぬ近親相姦の事を話した。

父親は驚いたというよりは、呆れた表情を浮かべていた。

「…そうか。で、卒業を機にお前は母さんの下から離れるってワケか」

肉を裏返しに焼きながらオレの話に耳を傾けた。

「今さら一緒に住みたいなんて贅沢な事は言いません。オレは高校の裏にあるワンルームのマンションで1人で暮らしたいんです。でもそれには保証人が必要で。金なら当面の家賃や生活費は何とかなります。お願いです、保証人になってもらえませんか?」

オレは必死で頭を下げた。

「一人暮らしったって何から何まで自分でやらなきゃなんないんだぞ?お前にそれが出きるのか?」

あくまで諭すように父親はオレに聞いた。

「それなら小学生の頃から掃除洗濯、料理も1人でやってきました。母親はいつも朝方に帰って来て、家事は一切やらなかったので、仕方なしに覚えるようになりました」

父親はなんとも言えない、やるせない顔を浮かべた。

「そんな幼い頃から一人でやってきたのか…それなら家に来るか?ちょうど達也、お前の兄なんだが、この春から大学生になって一人暮らしを始めたんだ。オレも今1人でな。だから一緒に住まないか?」

「いや、でも学校に通える場所ならいいんですが…」

「どこの高校に入ったんだ?」

「家の近くにある公立の高校で、歩いても20分ぐらいの距離ですが」

「そうか。まぁ少しは遠くなるが、家に来たらどうだ?ここからそんなに離れてない場所に家がある。高校までは電車に乗って30分もかからない場所だぞ。そっから通った方がいいんじゃないのか?」

オレは考えた。父親に甘えていいのだろうか?やっぱりここは一人暮らしをするべきなのだろうか迷った。


だが冷静に考えてみれば、父親の下にいれば、母親は来ないと思う。
もし一人暮らしをしていれば、いずれは母親に居場所が分かって連れ戻されるだろう。

そうなるとここは父親の世話になるべきだと思った。

「あの、ホントにいいんですか、オレが一緒に住んでも?」

「何バカな事言ってるんだ。オレは父親だぞ。息子と一緒に暮らすのが当たり前だろ」

「でも、実際は…ホントの父親じゃ…」

「亮輔、その話はもうするな。何はともあれオレはお前の父親だ。何の遠慮もいらない。それに他人行儀な口調じゃなく、オヤジとか父さんと呼んでくれ」

オレは救われたように思えた。

まさか父親がそこまでオレの事を思っていてくれたなんて。

「ほら、早く食え、焦げちゃうぞ」

父親はジュージューと煙をたてて焼けたカルビをオレの皿に乗せた。

「お前も色々と苦労したんだな」

その言葉でオレはボロボロと涙を流した。
今まで張り詰めたものがプツンと切れたように、目から溢れ出る涙がオレを浄化してくれるかのように。

これでようやく普通の学校生活が出きると。

そして父親と別れ、オレは家に帰って必要な荷物をまとめた。

父親の住む家に送る必要な物だけをまとめて。

性の呪縛から解放

翌日オレが荷物をまとめていると、母親が部屋へ入ってきた。

赤のスケスケのランジェリー姿で目はトローンとしてワインでも飲んだのか、酒臭い匂いをプンプンさせ、今にもオレに襲いかかりそうな雰囲気だった。


「亮輔、何やってるの?」


母親はオレの肩にもたれかかるように身体を擦り寄せてきた。


「卒業旅行に行く予定なんだよ。1泊して帰ってくるから」


オレは咄嗟にウソをついた。


「旅行ってどこへ行くの?」


一瞬躊躇したが、日光という言葉が浮かんできたので

「日光に行ってくる」

と答えた。


母親はいつものようにオレの股間に手を伸ばした。


「明日の朝に行くんでしょ?なら今夜はまたイイ事しよっ」


母親はオレを立たせ、ベルトを外し、ズボンとパンツを下ろした。


「亮輔のオチンチンはいつ見ても立派ね。お母さん亮輔のオチンチンさえあれば何もいらないゎ」

そう言ってジュルジュルと音を立てて咥えはじめた。


結局いつもと同じパターンだ。

だが、身体は正直であっという間にビンビンに勃起してしまう。


「亮輔の精子ちょうだい」


母親はまた激しく口を前後に動かし、手で陰嚢をソフトタッチで揉んでいる。

オレは母親のなすがままに性の玩具としてこの家にいるようなもんだ。

「亮輔はお母さんがいるから、1人でするのはダメよ。したくなったらいつでも言いなさい」


ストロークが更に加速し、下半身に快感が集中する。


「あ、イクっ…」


母親の口内に大量の精子を吐き出した。


母親は一滴残さず飲み干し、更に絞りとろうと、口を離さない。


「まだまだ出そうね。次はお母さんのここを舐めて」


母親は赤のランジェリー姿で脚を開き、指で花弁を広げて催促した。


オレはそこに舌を這わせた。クリトリスを吸ったり指を挿れたりして母親を満足させていた。


「ねぇ亮輔。たまにはベランダでしない?」

窓を開け、ベランダで腰を突き出しクネクネとしながら挿れて欲しいと懇願した。


どうしても母親の前だと快楽の方が勝る。

オレは後ろから挿入した。

ベランダで声を出しながらよがる母親を見て、この女は異常だ。


ベランダでこんなことをしたら誰かに見られるに決まってる。

見られるのを承知でこんな事をしているのか、だとしたらこの女は単なる露出狂なのだろうか。


オレは恥ずかしくなって途中で萎えてしまった。


「どうしたの、オチンチン小さくなったわね。また大きくしてあげるから」


また妖艶な笑みを浮かべ、咥えはじめた。


「ちょっと、ベランダでするのは恥ずかしくてできないよ」


「大丈夫、恥ずかしいのは最初のうちだから。ほら、もうこんなに大きくなったじゃない」


またベランダの柵に手をついて腰を突き出した。

早く終わらせれば満足するだろう。

そう思い、立ちバックの体勢で激しくピストン運動を繰り返した。

オレは無言のままパンパンと母親の臀部がぶつかり合う音を加速しながら腟内に射精した。


「ほら、見て。亮輔のザーメンこんなに出てきた」


四つん這いになりながら、陰部からオレの精子がポタポタと垂れてるを見てオレはなんともやるせない気持ちになった。


射精した後は、いつも何でこんな事をしてるんだ、実の母親とセックスなんてオレは15にして随分と汚れた人間になってしまったと後悔をする。


そしてひとしきり後悔した後、また下半身が疼き、過ちを繰り返す。


オレは最低の人間だ。でもこんなことは今日で最後なんだ。明日からは父親の家で新たな生活をスタートするんだ。


オレは部屋に入り、ティッシュで亀頭についたザーメンを拭き取った。


母親は満足したのか、浴室で身体を洗い流していた。


その時オレはおもった。
そうだ、今がチャンスだ!オレは母親が浴室に入ってる隙に持てるだけの荷物を抱え家を出た。


もうここへは戻らない。性処理の道具なんかじゃないんだ!


オレはマンションのエントランスを出てすぐに父親に電話した。

時間は21時を回っていた。


「もしもし、亮輔です。あの、明日の朝じゃなく、今からそちらに行ってもいいですか?」


父親は待ってるから来なさいと言い、オレは父親の家へ向かった。


そしてエントランスの方を振り返り、唾を吐きかけた。


くそったれババアめ、テメーとは金輪際会うことはねぇ、1人でオナニーでもしてろ、この淫乱女が!


母親の性の呪縛から逃れた気持ちで足取りは軽く、父親の下へ向かった。

父の世話になる

父親の家に着いたのは22時をまわっていた。
父親の家もオートロック式のマンションで2LDKの明るい白を基本とした部屋だった。
男の一人暮らしのわりには綺麗に片付いており、父親の几帳面さがうかがえる。

「今日からお世話になります。よろしくお願いいたします」

「そんなことより飯は食ったのか?」

言われてみたら今朝から全く食べてなかった。

「もし腹減ったならカレーが残ってるんだ。よかったら食べないか?」

「あ、はい。いただきます」

「亮輔、ここはもうお前の家なんだぞ。もうそんな他人行儀な話し方はよせ」

どこまでも優しく接してくれる父親だ。
願わくばもう少し早く会いたかった。

父親がテーブルにカレーを置いた。

「美味いかどうかはわからんが、とりあえず食ってみろ」

「はい、いただきます」

父親の作ったカレーは辛口でなすやズッキーニ、パプリカ、玉ねぎ、ししとうがはいった夏野菜のカレーだった。

「どうだ、少し辛いけど美味いだろ?」

これはお世辞抜きに美味かった。
朝から何も食べてないせいもあるのだが、それを差し引いても絶品だった。

「あの、その…」

「ん、何だ?言いたい事があったらはっきりいえ」

「あ、学費は自分がバイトして出しますから、後は掃除や洗濯、飯の支度も自分がやりますので、これからよろしくお願いいたします」

父親はテーブルの向かいに座り、バーボンのロックを飲みながらオレの目を見据え
「何バカな事言ってんだ。お前はオレの息子だぞ!学費だのなんだのってはこっちに任せろ。お前はそのためにここに来たんだ、子供が余計な心配するな」

静な笑みを浮かべロックを飲んだ。

「あ、ありがとうございます。それともうひとつなんですが…」

「ん?何だ?」

「今持ってるスマホは母親の名義でもう使うことはないと思います。だから新たに父さん名義でスマホを持ちたいのですが」

このスマホは処分したい。

「うーん、そうか。よしわかった。じゃ休みの日にショップに行って新しいのを買おう」

「ありがとうございます」

オレはあっという間にカレーを平らげた。

「ごちそうさまでした」

「亮輔、今日からは達也の部屋を使ってくれ。お前の兄の部屋だ」

アニキの部屋を使うのか。

その部屋に入ってみた。

ベッドが置いてあり、ギターとサーフィンの板が立て掛けてあり、エスニック風の雑貨物があちらこちらにあった。

本棚にはかなりの数のマンガの単行本でビッシリと埋め尽くされていた。

今日からはここがオレの寝床になるのか。

これなら別に荷物を持っていくひつようも無いな、これ以上荷物を置いたら狭くなってしまう。

とにかく、明日から新しい生活が始まるんだ。

オレはこの心地よいベッドに寝転がり、いつの間にか寝てしまった。

出生の秘密

今まで持っていたスマホは郵送で送り返した。

父親と一緒にショップに行き、新しいスマホを手にいれた。

「ありがとうございます。この連絡先は母には教えるつもりはありません。」

「そうだな、教えたらまた元の生活に戻ってしまうかもしれないからな」

オレにとって父親は救世主のような存在だった。
冗談ではなく、母親の淫らな行為に付き合わされて先が見えずに暗く沈んでいたオレに手を差しのべてくれた恩人だ。

あれから母親は父親に何度も連絡し、亮輔を返してほしいと言ってるらしい。

だが、全てを父親に話したオレの事を引き渡すつもりはなく、お前は母親失格だ、と言っていたのをオレは側にいて聞いていた。

母親も亮輔を引き渡さなかったら裁判を起こす等と言ったらしいが、今までの経緯を言えば母親が不利になることはあきらかだ。


そして高校の入学式を迎えた。入学式には父親が来てくれた。
これがホントの親子なんだ、今までのは親子ごっこをしていたイカれた関係だったのだと。

その夜、オレは父親から本当の出生の秘密を聞かされた。

じ会社に勤務しており、秘書をしていたらしい。

そして父親と社内恋愛という形で結婚した。
翌年には兄の達也が誕生した。

しばらくは子育てに専念していたが、母親は社長の秘書兼愛人としてその付き合いはまだ続いていたらしい。

そして兄か3才の頃、母親はオレを身ごもった。

父親は兄の子育てが忙しいと思って夜の営みを控えていた。
なのに母親は妊娠した。

激怒した父親は誰の子供だと問い詰めた。
母親は口を割らなかったが、その態度で相手が社長だという事が解った。

まだ愛人という関係を精算していない母親とは夫婦としてやっていけないと、兄を引き連れ家を出ていった。

母親は当初、社長には内緒でオレを生んで育てたが、まだ生まれたばかりのオレを預けるところも無く、それまで蓄えた僅な金でオレを育てたが、蓄えが無くなり、夜間の託児所にオレを預け、夜の商売へ身を投じた。

そしてオレのホントの父親である社長は母親の居場所を見つけ出し、影で母親の援助をしていた。

その当時は社長業を退き、会長となっていた。
その会長は妻に先立たれ、子宝に恵まれなかった。となると財産は母親に渡る事になり、しばらくして会長はガンでこの世を去る。

その遺産を受け継いだ母親は商売の才能があったのか、夜の店を何店舗も経営する程の人物になった。

パトロンであり、オレの本当の父親である会長と、それ以前に男を取っ替え引っ替え連れ込んだのは、会長は既に男としての機能が不能な状態で、母親は性欲を満たしてくれる相手を探し、店の客を家に引っ張り混んで情事に耽っていたという事だ。

やがて他の男に飽き、精通を迎えたオレをターゲットにしはじめ、毎晩のようにオレを求めてきたというのが父親の憶測であり、真相でもあった。


「お前も高校生になったからこれだけは伝えておこうと思ってな。この話を聞くのは辛いと思うが、これがお前の生まれてきた経緯なんだ」

父親もこの事を話すのをためらったが、オレが高校生になった事でいずれは話さなければならないという事でオレに伝えたみたいだ。

オレは特に驚く事も無く、あの母親ならばやりかねないと思っていたので、ふーん、という感じで聞いていた。

何はともあれ、今日からはオレも高校生になった。
新しい生活を満喫しようと思った。

父の最後の言葉

父親の家に引っ越して1ヶ月が経過した。
オレの通っている高校は普通科で共学だ。

自分から積極的に話をするのが苦手なオレは教室にいても誰とも話さず、授業が終わるまでぼんやりと窓の外を眺めていた。
オレの席は窓際で、外に目をやると校庭で体育の授業をしている他のクラスの連中がマラソンをしていたり、バスケをしていたりとそんな光景をボーッと見ているうちに授業が終わり、カバンを持ってさっさと帰る日々を送っていた。

…退屈だ。父親には何の不満もない。むしろ血の繋がらないオレに対し、実の父親以上に接してくれている。
不満どころか、感謝の気持ちでいっぱいだ。

だが不思議なもので、あれほど母親の下から離れたかったのに、いざ離れて暮らしてみると、刺激がなく、退屈な日々で苦痛になる事もある。

いや、それまでが刺激がありすぎて今が一番幸せな時なんだ、と自分に言い聞かせても、母親と過ごした性に傾倒した日を懐かしがっているもう一人のオレがいた。

毎日のように、母親の腟内や口内にザーメンをぶちまけて快楽だけを求めていた時を思いだし、授業中や部屋にいる時に勃起してしまい、自慰をして気持ちを落ち着かせようとしても、セックスの味をしめたこの身体が快楽を求めていた。

気がつけば、頭の中は母親との情事に身を委ねた時の事ばかりが頭に浮かび、また母親とセックスをしたいという欲求にかられていた。


やっと手に入れた自由なのに、却って不自由にさえ感じてしまう。

人間とはこんなにも煩悩の塊だらけなんだと改めて痛感した。

オレも母親と同じようにセックスに溺れていく血を受け継いでいるのだろうか。

今オレは禁欲生活をしてるのと同じだ。

いくら我慢をしても、性欲だけは抑えきれない。
1度父親に内緒で母親の家の前まで行った事があるが、その時は父親に対する裏切りの行為だと思い、引き返した事もあった。

その日は部屋でひたすら自慰に耽ってオレの中にある性欲を追い払うかのように何度もザーメンを放出した。

この性欲だけは抑えきれない、でも母親とまた肉体関係を結ぶのは最大のタブーだ。
じゃあどうすればいいのか?
オレは教室にいる女子達を注意深く観察した。だが、どれもガキ臭く、母親のような淫靡で性欲をかきたてる程のヤツはいなかった。

ゲームの話やアニメの話、そしてアイドルの話等をしているヤツらが幼すぎて性の対象にもならなかった。

まだ15才だから、女の身体に興味があるのは健全な証拠だ。だが、相手が母親となると健全どころか、許されぬ行為だ。

教室で教科書を広げても、家で飯を食っても、浮かんでくるのは母親の裸体だった。

父親に相談しようと思ったのだが、相談したところでどうにもならない事だと思い、話す事を控えた。

そして季節は梅雨に差し掛かった頃、父親は海外へ短期間の出張があるとオレに言い、当面の生活費として10万円を渡してくれた。オレは以前の蓄えがあるから必要ないと言ったが、父親はこれでたまには好きな物でも買ってこいと言い、オレのポケットに札を入れた。

「しばらく留守にするが、ちゃんと戸締まりだけはしておくんだぞ」
そう言い残して父親は家を出た。

そしてそれが父親の最後の言葉になるとは全く思いもよらなかった。

金の亡者、種違いの兄

父親が海外へ出張に行って5日が経った頃、授業中に担任の女教師が血相を変えて教室に入り、オレを職員室に来るよう伝えた。

この担任の女教師は鴨志田紗栄子(かもしだ さえこ)いつもロングヘアーを1つに束ね、赤縁のメガネをかけている、地味な女だ。だが、ブラウスがはちきれんばかりの巨乳と括れたウエスト、締まりの良さそうなヒップが男を誘惑するには十分な肉体の持ち主だ。年齢は30代前半で未婚だという事は知っていた。

鴨志田はオレを職員室に連れてきて、父親の赴任先である東南アジアの危険地帯で父親を乗せた車が強盗に遭い、銃を乱射。
父親を含め車に同乗していた3人はほぼ即死状態だっだという事を担任に告げられた。

父親が亡くなった…それも強盗に銃で撃たれて…

一瞬何が起こったのか分からず、オレはただ立ち尽くしていた。
担任はオレにどう話しかけていいのかわからないほど取り乱していた。

そして急に目眩を起こしたのか、オレの腕の中で倒れこむような状態だったので、ハッとしてオレは担任を抱き抱えた。

その時、オレの掌が担任の大きな胸を掴むように抱えた。久々に女体に触れた。

父親の死よりも担任の豊満な身体に欲情してしまった。

他の教師が何かを言ったかは覚えてない。
ただ父親が銃で撃たれて死んで、担任の大きな胸の感触しか記憶にない。

そして父親の遺体を乗せた飛行機が着陸し、空港でオレは父親の遺体と対面した。

弾は何発も打ち込まれ、即死だったらしい。オレは父親の顔を見た。
首から上は打たれてないが、父親は死んだ。しかも寝ているかのような顔だった。

その後、葬儀場へ遺体は運ばれ、この時、初めて兄の達也と対面した。

兄は大学に入学したばかりで、父親に似て長身でチャラい感じの男だった。髪は茶髪で長め、膝の破れたデニムにパーカーを着てフードを被っていた。

おれは兄に会釈し、父親と住む事になったきっかけを話した。

兄もオレという弟の存在は知っていたが、初めて見るオレを見てこう言いはなった。

「お前がオレの弟だという事はわかった。で、オヤジの残した財産だが、それはオレに権利がある。わかるよな?オレとお前は兄弟だが、お前はオヤジとは血の繋がりがない。そういう事だからオヤジの遺産はオレが貰う」

父親の遺体の目の前で何て事を言うんだ、この男は。
父親は海外で殺されたんだぞ!悲しむ前に遺産の話か!
オレは怒りを押し殺して、兄はこう告げた。

「遺産がどうのこうの言う前に、父親が亡くなったんですよ!貴方の父親がこうやって安らかに眠ってるじゃないですか!これを見て何とも思わないのですか!」

兄は父親とソリが合わなかったのだろうか、亡くなったという事の悲しみよりは頭の中は遺産の事で頭がいっぱいなのだろう。
父親の遺体の前でこれ以上言い合いをするつもりはない。
だが、これだけは兄に伝えた。

「オレはハナっから遺産なんて貰うつもりはありません。ただ、1つお願いしたいのは、あのマンションだけは残してもらえないでしょうか?」

オレは兄に頭を下げた。

兄もオレが遺産を貰わないというのなら別に問題ないだろうというような表情をして

「あぁ、わかった。あのマンションは残してやる。ただこれだけは忘れるな。オレとお前は兄弟だが、外でオレに会っても軽々しく話かけるな。それが条件だ。いいな?」

兄はオレを弟として認めないという事か。

オレもこんな金の事しか考えられない男を兄として認めたくない。

「わかりました。その通りにします」

ホントなら1発ぶん殴ってやろうかと思った。

何なんだ、このやるせなさは。オレに救いの手を差しのべた父親はもうこの世にはいない。

オレは母親に父親が亡くなった事を伝えようとかと考えた。
だが、後々面倒なことになるのはゴメンだと思い、連絡はしなかった。


父親の葬儀が終わり、遺骨はオレが預かる形で生まれ故郷の先祖代々が眠る墓に納骨した。

これからは本当に一人で生きていかなければならない。

多少の蓄えはあるが、学費を払い、光熱費や食費等を考えたらバイトをするしかない。幸いマンションは分譲で、ローンは払い終わった為、家賃の心配はない。
だが、それを差し引いても、働いて金を手にするしかない。

オレはアルバイトをしようと求人雑誌を見て、なるべく時給の良いアルバイトを探した。
だが、高校生のアルバイトの時給じゃたかが知れてる。ましてやオレは15才、夜10時以降は働けない。

散々迷い、時給は高くないが、学校の近くのファストフード店でバイトをする事にした。

学校どころではない

母親から逃れる為に自由になりたくて飛び出したが、父親が不慮の死を遂げ、生活苦というがんじがらめの日々にフラストレーションが溜まっていた。

だが、働かなくては食っていけない。

電気代、ガス代、水道代にスマホの料金。おまけに学費に食費等々…

いくらオレがバイトしても金が足りない。
次第にオレは学校を休みがちになり、その分バイトして1円でも多く稼がなければならない。

働いても朝昼晩の三食の飯すら満足に食えない。

いっそ母親の所に戻ろうかとも思った。
だが、戻っても母親の性欲処理の相手をさせられるだけで、結局は元の爛れた生活に振り出しになるだけだ。

そして下校時に担任の鴨志田から呼び止められ、誰もいない教室で鴨志田と机を挟んで向かい合い、授業日数の事を言われた。

「古賀くん、お父さんの事は大変ショックな事は解るわ。でもこれ以上休むと2年に進級できないのよ。だからもう少し学校に来るように出来ないかな…もし何か困ったことがあったら先生相談に乗るから」

オレは鴨志田の話よりも、相変わらずブラウスのボタンがはち切れそうな胸の大きさばかり凝視していた。

父親の家に移ってから女の裸体を見ていなかったせいもあり、下半身が疼いてきた。

鴨志田はそんなオレの目線に気づかず、学校に来るようにとオレに注意を促した。

「確かに父の事はショックでした。でも今はそんなことが原因じゃないんです。オレは今一人で暮らしているんです。だから働かないと食っていけないんです。学校に行ってる場合なんかじゃないんですよ」

鴨志田は腕を組み、うーんと考え込んだただでさて大きな胸が腕を組むことによって余計に大きく寄せてるように見える。

このオッパイを鷲掴みにしてやろうか、そんな不埒な事が頭をよぎった。

「他に身内の方はいないの?確かお兄さんがいたわよね?お兄さんには頼めないのかしら?」

冗談じゃない、父親の遺産しか頭の中にないあんな男の世話になるつもりはないし、向こうだってオレの事を厄介なヤツとしか思っていない。

「兄はまだ大学生で自分の生活でいっぱいいっぱいなんです。頼れるならとっくに頼ってます」

鴨志田は立ち上がり窓の外を眺めた。

「そうだ、奨学金の制度があるからそれに申請したらどう?少なくとも学費の心配はなくなるわ」

この女、栄養が全部乳に行って頭が空っぽなんじゃないか?よくこんなんで高校の教師なんてやってるもんだ。

「ちなみに先生って一人暮らしですか?」

「えっ?」

「いやだから一人暮らしですか?って聞いているんです」

鴨志田はやや困惑した表情を浮かべ、下を向きながらコクッと頷いた。

「ならば分かりますよね?一人暮らしだと色々とお金がかかることを。まず電気代、次にガス代、そして水道代、ケータイの料金も必要になります。おまけに学費に何といっても一番かかるのは食費なんです。そんな金どっかから降ってくるんですか?降ってくるならオレはいつまでもその場所で降ってくるのを待ちますよ。でもそんな事あり得ないでしょ?だから働くしかないないんです。学校を犠牲にしてでも食うために働かなきゃならないんです」

鴨志田は反論できない。

そりゃそうだ、一人暮らしってのはそれだか金がかかるってワケだ。

この巨乳教師にこれ以上何を言ってもムダだ。オレは教室を立ち去ろうとした。

「まって古賀くん。もう少し、もう少し話し合いましょう!必ずしも方法はあるはずだから、ねっ、一緒に考えましょう」

この乳お化けは全く使えない教師だ。

解決法なんてあるワケがない。担任を受け持つ教師が生徒を退学させないために言ったデマカセにしか過ぎない。

オレは踵を返し、鴨志田の前でぶちまけた。

「じゃあ先生。先生がオレの面倒を見てくれますか?オレに援助してくれますか?それが出きるならオレはバイトを辞めて真面目に学校に通いますよ。でも出来ないでしょ?」

鴨志田は何も反論できず無言だった。
結局教師ってのは、所詮そんなもんだ。
聖職だとか言われているが、そこまで出来る先生様がこの世にいるかってんだ。

オレは教室を後にした。そしてバイトではポテトを揚げ、スライスしたトマトや他の具材をバンズの挟み、包装してお客さんに出し、ゴミの分別処理等、色々とやらなきゃならない事がいっぱいある。

今日もクタクタで1日が終わった。
こんな夜に学生服ウロウロしてるのはオレぐらいだ。

目の前に牛丼屋があった。かなり腹がへっていた。だが、ここで食べるより、早く家に帰り、飯の支度をしないと。といっても、米に玉子とお新香しかない。
蓄えがあっても、いざという時に金が無いと困るから、一切手をつけてない。

普通の家庭に生まれてきたら、朝昼晩と三食キチッと食べられただろう。

だが、オレは、こんなに働いてもまともに三食を食えない。

情けなくて涙が出そうとかそんな事はなかった。実際、そんなんで泣いてる暇があったら他の事を考えるしかない。泣いてるうちはまだ余裕があるからだ。

とにかく腹が減って倒れそうだ。ようやくマンションの前まで着いた。
するとエントランスの自動ドアのとこに俯いて女性が立っていた。


怪しいヤツだな。オレは恐る恐る近づいた。

「あ、古賀くん、今帰りなの?良かったら一緒にご飯食べない?」

鴨志田がエントランスでオレの帰りを待っていたみたいだ。

何やら食料をかなり買い込んでるみたいだが…

無理なものは無理

鴨志田はどうやらオレの帰りを待っていたみたいだ。
しかもスーパーで買った惣菜やら野菜やら肉の入ったビニール袋を持っていた。

「古賀くん、いつもこんな遅くまでバイトしてるの?」

しかしでけーオッパイだなホントに。

そんだけ目立ってりゃ痴漢に遭うんじゃないか。またオレは鴨志田の胸をガン見していた。

「先生ってもしかしてこのマンションに住んでるんですか?」

エントランスの自動ドアの横で壁にもたれながら鴨志田が立っていたので、オレはここの住民でカギを忘れて誰かが来るのを待ってオートロックのドアを解除してくれるのだろうかと思っていた。

「まさか、先生はこんな立派なマンションに住めるような生活は出来ないもん」

じゃ、誰か知り合いでもいるのだろうか。

「で、何してるんですか、そんなとこで?」

オレはオートロックのドアを解除した。

「古賀くん、貴方を待ってたのよ」

鴨志田は少しうつむき加減でボソッと呟いた。

「あの、何でオレを待ってるんすか?もしかして放課後の話の続きですか?オレこれから飯の支度して風呂入って寝たいんですけど。何度も言いますけど、今は学校よりもバイトの方が優先なんで。だから話になんないと思いますよ」

オレはバイトで疲れて、家に着いてから飯の支度しなきゃなんない。
飯の支度っていっても、米を研いで玉子を焼いて、後はたくあんぐらいしかないからロクな晩飯じゃないんだが。

「ご飯まだ食べてないでしょ?だからさっきスーパーで色々と買ってきたの。良かったら一緒にご飯でも食べない?先生が作るから」

…何を言ってんだ?もう夜の10時を回ってんだぞ。明日だって学校が終わったらバイトがあるんだ、ただでさえ疲れてんのに、何でこれから一緒に飯を食わなきゃなんないんだ?

「あの、いくら生活に困ってるからってそこまでしてもらおうなんて思ってないすから。オレはホームレスじゃないんで!」

施しを受けて貰う程、オレは落ちぶれちゃいない。
オートロックのドアを解除したのはいいが、このままでは鴨志田まで家に来てしまう。
それに教室で、冗談半分で先生が面倒見てくれますか?なんて言ったが、それを真に受けて食材買ってくるコイツはホントにバカなんじゃないか?誰が食い物まで恵んでくれって言うか!

そんな事恥ずかしくて言えるワケないだろ!

「もういいでしょ、明日はちゃんと学校に行きますから。じゃ、サヨナラ」

オレは鴨志田を追っ払おうとした。だが、鴨志田は帰る気配がない。

「あの、しつこいと警察呼びますよ?ストーカーまがいな事しないでもらえますか?」

オレはこんなとこで担任と押し問答するもりはない。

「わかったわ。でもこれ良かったら持ってっ」

鴨志田はスーパーで買った食材の入ったビニール袋を渡そうとした。

確かにこれがあれば今晩はかなり良い物が食える。
だけどオレは物乞いじゃない。

「ふざけてんのか、アンタ!オレはホームレスじゃねえんだ、いくらビンボーでも食い物を恵んでもらおうなんて思ってねえんだよ、帰れ!」

オレは鴨志田の手を払いのけた。

袋の中の惣菜や肉が袋からこぼれ落ちた。

「古賀くん、お願いだからこれを持ってって!」

しつこい。オレはさっきから鴨志田の大きい胸ばかりを見ていたせいか、下半身が少し膨らんできた。
母親と淫らな行為をして以来、セックスはご無沙汰だ。

「じゃあ先生。その先生の大きなオッパイ触らせてくれたらこれ貰ってやるよ」

オレは意地悪く笑みを浮かべながら鴨志田に詰め寄った。

「な、何を言うの!そんな事できるわけないでしょ!」

鴨志田は少し焦りながら声がうわずっていた。
そして両手で胸を隠すようにして下を向いていた。

「んじゃさっさと帰んな、2度とここに来るなよ、この乳お化けが!」

その瞬間、鴨志田はオレの頬に平手打ちをした。

パァーンと乾いた音がエントランスに響いた。

「痛ってぇな、何すんだよ、わざわざ人ん家の前まで来て暴力かよ、まじで警察呼ぶぞ、おい!」

オレはポケットからスマホを取り出し電話を掛けようとした。

「待って!」

鴨志田はオレの手を掴みその大きな胸に押し当てた。

「…これでいいでしょ?だからお願い、家に入れてくれる?」

オレはまさか鴨志田がそんな事をするとは思ってもいなかったので、呆気にとられた。

そしてオレの手はいつしか鴨志田の胸を揉んでいた。

「ねぇ、古賀くん…もういいでしょ、離して…」

鴨志田は赤面したまま、下を向いている。

だが、いつまでもこんなエントランスて言い合いをしても仕方ない。

しょうがねぇ、約束は約束だ。

オレは鴨志田を家に入れる事にした。

女教師との同居

「だから今のオレの生活を見て分かるでしょ?とにかく働かない事には食っていけないんすよ。何のつもりでここに来たか知らないけど、オレには金が必要なんです。食費だってバカにならない。だからオレは1日1食しか食ってないんすよ」

「えぇ、1食?それはダメよ、ちゃんと食べないと…」
鴨志田の言葉を遮るようにオレは続けた。
「だからそうでも切り詰めないと生活できないの!分かる?一人でやってくにはこうしなきゃ生活できないんだよ!」

また水掛け論じゃねぇか。
この女とは話が合うワケがない。

鴨志田は鍋の蓋を開け、アクを取りながらオレに信じられない事をいい始めた。

「古賀くん、これは先生としてじゃなく、あくまで私個人の意見なんだけど」

またくだらねぇ話か、聞きあきたよ、そんな話は。

「私ここに住んでいいかな?」

…は?オレは一瞬耳を疑った。

住む?この女がここに住むってのか?

何を言ってんだ、この女は?

「でね、もし私がここに住むようになったら食費とか光熱費ぐらいなら出せるし。ほら、ここに住む家賃代わりとして払えばそんなお金かからないし、古賀くんも安心して学校に通えるじゃない?」

コイツ、何考えてんだ?どこの世界に女教師と男子高校生が一緒に住むなんて事思い付くんだ、マンガやドラマの観すぎじゃないのか。

「実はね、先生今住んでるワンルームのマンションなんだけど、更新で結構お金かかるのよ。で、古賀くんはマンションで一人で暮らしてバイトばかりでろくにご飯も食べてないでしょ?だから私がここに住んで食費とか光熱費を賄えば古賀くんの生活も楽になるでしょ?悪い話じゃないと思うんだけど…どうかな?」

この気持ちをどう表現したらよいのやら…

しかし、いくら生徒と教師といえど、男と女が一緒に暮らすんだ、ましてやあの巨乳だからオレは絶対に手を出すに違いない。
この話を額面通りに受けていいものだろうか?

「先生、オレと一緒に住むっていうけど、オレは男だよ。万が一ってことになってもいいの?」

オレは鴨志田のあの大きな胸を見て何もしないワケがない。

母親の次は教師と関係をもつかもしれない。

それでもいいのか念を押すために聞いてみた。

「…古賀くんはそういう事をするような生徒じゃないから。さっきはあんな事したけど、本心は違うんじゃないかなって」


この教師には警戒心というものがないのか。
少し天然なところがあるが、30代前半の女だ、過ちだって犯してしまう事すら十分あるのにそういった貞操観念がないのか。

「オレは何もしないって約束は出来ない。それでも先生がここに住むというなら、オレは別に構わないけど」

カレーを作り終え、更にライスを盛ってカレーをかけながら鴨志田は「じゃあそういう事でよろしくね、古賀くん」
と笑顔でオレの前にカレーを置いた。

そしてオレと女教師との奇妙な生活が始まった。

まさか借金?

鴨志田との同居生活が始まった。

鴨志田は自分の部屋にある荷物のほとんどをオレの家に持ってきた。

部屋は父親が使っていた八畳の部屋に住むことになったのだが、あまりの荷物の多さに、今までガラーンとしていた部屋が窮屈になっていった。

それよりも目を引いたのは、鴨志田の地味な顔に似合わないブランド物のバッグや服、ハイヒール等々。
教師の給料でこんな高い物が買えるのだろうか。

それによく考えても、いくら担任が生徒の生活を心配するからと言って、同居しようなんて普通ではあり得ない。何か引っ掛かる。

だが鴨志田は、帰りに買い物をして、ちゃんと夕飯まで作ってくれる。
食費と光熱費は負担すると言ってくれたが、オレはバイトを辞めるつもりはなかった。

鴨志田が学費は奨学金制度に申請すればいいと言っていたが、あんなもんこっちが働くようになったら返さなきゃならないもんだろ。それじゃローンと一緒だ。
学費と小遣いぐらいは自分で稼ぐ。


それよりもオレと鴨志田が1つ屋根の下で暮らしているという事がオレにとっては重要な事だ。

風呂もトイレも何もかもが一緒に使用する事になる。

例えば洗濯物もオレと鴨志田の下着を一緒に洗って乾燥機にかけ、こっちはオレの下着、こっちは鴨志田の下着と分別しなければならない。
1度鴨志田のブラジャーを見たが、サイズがGと記されていた。

それを見て、オレは鴨志田の大きな胸の感触を思いだし、勃起した。このまま部屋でこのブラジャーにいきり勃ったオレの肉棒を包み、シコシコとオナニーをしようとしたが、バレるのが恥ずかしいのと、鴨志田という女がオレの心に引っ掛かりがあるので辛うじてそれは堪えた。

引っ掛かること、それは全荷物を家に持ってきた時の量の多さと、どれもこれも高そうな物ばかりだった。

学校での鴨志田はいつもブラウスに膝上のスカート、もしくはパンツスタイルだった。
髪は長いが、1つに束ね、赤い縁のメガネをかけている。

目鼻立ちはそれほどハッキリとしておらず、口はやや大きめでとりわけ美人という顔でもなく、派手な感じには見えない。
それでも首から下の豊満な肉付きはエロさを感じ、セクシーな大人の色香を漂わせている。

だが、何でこんなにいっぱいブランド物がいっぱいあるのだろうか。鴨志田は大人の色香はあるが、ブランド物を身につけるような感じの女には見えない。

バッグ1つにしたって一万や二万で買えるような代物ではない。

そこが気になって、オレは鴨志田に手を出そうとは思わなかった。
教師とは言え、鴨志田だって一人の女だ、それなりの物を持っても不思議ではない。

多少引っ掛かるが、迷惑とは思わなかったので、鴨志田との同居生活は順風とまではいかないが、それなりに波風立てずに過ごしてきた。

だがある日、バイトが無かったオレはエントランスにある集合ポストに1通の封書を見つけた。
そこには鴨志田宛の名前が書かれており、裏には【アーバンファイナンス】という差出の社名が記され、督促状と書かれていた。

アーバンファイナンス?何だろう?とりあえずオレはその封書を持っていかずにポストの中に入れたままにして、部屋に入り、PCを開き、アーバンファイナンスと検索した。

するとアーバンファイナンスという会社は消費者金融の会社で、かなりブラックに近いグレーゾーンの利息を取る金貸し業だという事が分かった。

そしてオレは鴨志田の部屋を開けて色々なバックや服、その他鴨志田が部屋に持ってきた物を調べた。

そのほとんどは有名ブランドでかなりグレードの高い物ばかりで、とても一介の教師が簡単に購入できる物ではない。

て、ことは鴨志田がここに来たのは、支払いに追われ、オレがこの父親の残したマンションに目をつけて転がり込んできたのではないだろうか?
ローン会社の支払いも滞っているぐらいだ、家賃も滞納しているに違いない。

あの女教師はとんでもない浪費癖のあるヤツなのだろうか。

とんでもない女を住まわせてしまったのかオレは?

とりあえず鴨志田が帰ってくるまで待つしかない。

いくら借金してるんだ?

鴨志田は夕方過ぎに帰って来た。近所のスーパーで買いものをしていたみたいだ。

「遅くなってゴメンね、今からご飯作るから待ってて」

鴨志田はバタバタしながらスーパーで買ってきた食料を冷蔵庫に入れたり、野菜を取り出して夕飯の支度をしようとしていた。

オレはリビングでテレビを観ていた。
そして一言
「先生、ちょっと話があるんだけどいいかな?」
オレはそのアーバンファイナンスという消費者金融の事を聞こうとした。

「なぁに、どうしたの急に?」

鴨志田は夕飯の支度を止め、リビングでオレの向かいに座った。

「先生、オレに何か隠し事してない?」

オレはいつもは鴨志田の大きな胸ばかりを見ていたが、今日は鴨志田の目を見て話を切りだそうとした。

「えっ、隠し事?何々、先生古賀くんに隠し事なんて無いわよ、一体どうしたの?」

鴨志田は何の事だか解らずにキョトンとした顔をしていた。

「アーバンファイナンスって何?」

その瞬間、鴨志田の顔が一瞬強張った。

「え、何それ?それが先生と何の関係があるの?」

明らかに動揺していた。

「先生、借金してるでしょ、オレ調べたんだよ、アーバンファイナンスってとこを」

鴨志田はとぼけようとしたが、オレは続けた。

「先生さぁ、何で部屋にあんな高いブランド物ばっかあるの?教師ってそんなにいい給料貰ってるの?」

別に問い詰めるとかじゃなく、何故あんな高級品ばかりを集め、ここに転がり込んだ本当の理由を知りたかっただけだ。
しかし鴨志田は黙って何も話そうとはしない。

「先生、正直に言って欲しいんだよ、ホントはかなり借金してるんでしょ?今まで住んでた部屋だって家賃を払えなくなってここに来たんじゃないの?」

すると鴨志田はオレをキッと睨むような目付きで反論した。

「教師ってのはね、スゴいストレスが溜まるのよ!あなたみたいな生徒がいるとそれだけでワタシの査定にも影響するのよ!ワタシだって先生やってるけど、ホントはもうこんな仕事したくないのよ、わかる?わからないでしょ、あなたには!」

「んじゃどうやって借金返すの?ストレス溜まれば何してもいいのかよ、でオレのとこに転がり込んだのかよ!どうすんだよ、その借金を!家にまで来て取り立てに来たらどうするつもりなんだよ、なぁ、言ってみろよ、おいっ!」

反論すると鴨志田はへたりこむような感じでワーワーと泣き出した。

「ワタシだってこんなになるなんて思ってなかったのよ~っ!うゎ~ん、ごめんなさい…」

何てこった、つい数ヶ月前までは知らない者同士がこの家で生活するようになって、おまけに借金抱えてるなんて。オレはまだ15だぞ!そんなに知らなくていい世の中の事をこの年で知ることになるのかよ!

母親といい、この女教師といい、何でこうも大人の醜い場面を見なきゃならないんだ。

いっそこの女を追い出すか。ほっといたら借金取りがここに来る可能性だってある。
しかもコイツの給料は借金を返すだけで、そのうち食費も光熱費もこっちが払う事になるだろう。
結局オレは1人なんだ、1人で生活をしなきゃならないんだ。

何なんだオレの人生って。

鴨志田はまだワンワンと泣いている。

泣いて借金がどうにかなると思ってんのか、何でこんな乳だけデカい女が教師なんてやってるんだろ…
ホント、バカバカしい!

「で、借金っていくらあんの?」

聞いたところで、オレにはどうにもならない。でも一応聞いておこう。

「…」

「いくらあるの、先生!もう払えないんでしょ?いつまでこんな事するつもりなんだよ?こっちは何の関係もないんだぞ、なのに何で借金した人と一緒に住まなきゃなんないんだよ?しかもアンタ先生だろ!そんなヤツが偉そうに教壇に立つんじゃねぇ!」

「…ごめんなさい、うぅ…」

どっちが先生でどっちが生徒か解らなくなってきた。

「とにかく飯食おう。オレ腹へったよ」

これ以上鴨志田を責めてもしょうがない、だが鴨志田は泣いてばかりで動かない。

ったく、オレが結局飯を作るのか。
鴨志田が買ってきた材料でオレは野菜炒めとワカメの味噌汁を作った。

「先生、いいから食べよう。オレ作ったから早く食べようよ」

座り込んでうなだれてる鴨志田の前にご飯を置いた。

鴨志田は食べる気配はない。
いつまでそんな事してるつもりなんだか。

「先生さぁ、借金あるのはわかったよ。でもだからといって先生を追い出すなんてことはしないから安心して飯食おうぜ」

「…うん、ごめんなさい、今まで隠して…」

そう言って鴨志田は少しずつご飯を食べた。

でもどうしようか…いくら借金があるのか解んないけど、何か解決法を探さないと。

母親に頼もう

オレたちは無言のまま晩御飯を食べた。
食器を片付け、またソファーに寝転んでテレビを観ていた。

鴨志田は部屋に入り、部屋着に着替えて乾燥機の中にあった洗濯物を畳んでいた。

お互い沈黙が続いたままだった。

オレはテレビを消して風呂に入ることにした。

オレも鴨志田も借金の事で頭がいっぱいいっぱいだった。
別に鴨志田には何の義理も恩もない。
休みがちだったオレの事を心配して訪ねてきたつもりがいつしか同居までするようになった。

はっきり言えば居候に過ぎない。
だが、鴨志田が来てくれたお陰でオレは食う事に困らなくなった。
これは鴨志田のお陰だ。
となると、やっぱり義理や恩はあるってことになるのだろうか。

それに今鴨志田に出ていって欲しいかと言われれば、まだここに残って欲しい。
色々と身の回りをしてもらえるし、助かるからだ。
それともう1つ、オレは鴨志田の身体を狙っていた。

自惚れてるワケじゃないが、オレは母親から女の身体の愛撫のしかた、性感帯などを教えてもらったようなもんだからだ。
ただどうやってセックスにもちこめばいいのか。

いや、今はまず借金の事だ。それを解決しなきゃならない。

結局オレもゲスな考えしか思ってなかったって事だ。

オレは湯槽に浸かってあれこれ考えた。
あ、そう言えばよくCMで過払い金の事を
やってた法律事務所があったな。

そこに相談出来ないものだろうか。
そうすれば払うどころか、過払い金が返ってくるかも、そう思ってきた。

オレは風呂から上がり、鴨志田に過払い金の事を聞いてみた。

「先生、ほら今よくCMで過払い金がどうのとか言ってるじゃん?あれってどうなんだろ?」

オレはタオルで頭を拭きながら鴨志田に聞いてみた。

「無理よ、あの会社はそういうのには応じない、ヤミ金のようなローン会社なの、だからそんなものには全く応じないのよ」

「いや、でも今こうやってCMもやってるし、法律相談事務所に聞いてみないと…」

「…ありがとう古賀くん。ワタシここを出ることにするわ」

「は?いいよ、そんな事しなくて。先生がいた方が生活が楽なんだし、先生がいてくれた方が色々と助かるワケだし」

オレはここに残るよう、引き留めた。

「古賀くん、今のワタシには450万の借金があるの。毎月7万近く払ってそれでも利息ばかりで元金が減らないの。何であんなバカな事したんだろ…」

とんでもねぇ金額だな。毎月7万払い続けなきゃならないのかよ。

て、ことは450万プラス利息をポンと払えない限りは一生ローン地獄かよ。

どうするべきか。
…また母親に頼むか…
あんな思いはしたくないけど、オレが我慢すればいいとこじゃないか。

オレは母親に金を借りることにした。
母親はそれに応じてくれるだろうが、性欲処理の道具として扱われる日々に戻るのか…

再び母親と交わる

またこの家に来てしまった…

もう2度と戻るつもりはないと思っていたのだが、致し方ない。
オートロックの部屋の番号を押した。
しばらくして
「はぁーい」という声がした。

「あの、オレだけど」

「…えっ、亮輔?帰って来たの?」

母親はオートロックのドアを解除した。

そして部屋の前でチャイムを押した。

ガチャっとドアを開けた母親の姿はエロチックな黒のシースルーのランジェリーを身につけただけの格好だった。

「さぁ、亮輔早く来て、お母さんの事が忘れられないんでしょう」

母親は玄関でひざまづき、ズボンのチャックを下ろし、いつものようにオレの肉棒を咥え始めた、
飢えた獣のように咥え、食いちぎられるのではないかという程の激しいフェラだった。

しばらくご無沙汰だったオレはあっという間に最高潮にいきり勃ち、すぐに快感が全身を貫くかのように身体中の力が抜けていく。
快感のあまり、膝がガクガクしてきた。

「出して、口の中にいっぱい出して!」

そう言われたと同時に激しく射精した。
ものすごい勢いで口内に大量の精子を吐き出したためか、母親はウッ、と一瞬むせた。
口から精子がこほれ落ち、手ですくうようにして1滴も残らず飲み干した。

「亮輔のオチンチンの味は久しぶりで美味しかったゎ、やっぱりあなたはここにいるのが一番なのよ、もうあの人にあなたを渡すつもりはないわ」

母親はドローンとした目付きでオレを部屋に招き入れた。
そうか、父親が亡くなった事を伝えてなかったんだ。

「もうオヤジは死んだよ」

「…えっ、うそっ、何で、ねぇどうして?」

母親はかなり驚いた表情をした。和風で切れ長の目をまん丸くするほどの衝撃だったみたいだ。

オレは父親が出張先の東南アジアで強盗に襲われ命を落とした事、そして葬儀で初めて兄と対面したことを話した。

母親はソファーでタバコ煙をフゥーっと吹くように吐き出しながらオレの話を聞いていた。

「そう、達也に会ったの…フフっどう、初めてあったお兄ちゃんは?」

ソファーにふんぞり返り、片側の乳房を露にしながら兄の印象を聞いてきた。

「あんなのはアニキじゃねえ、オヤジが死んだってのに、真っ先の遺産の話をしてきやがった。オレは最初っから金なんてアテにしてねえ、それよりもオヤジが死んで何でああやって金を話を切り出すんだ。オレはそれ以来ヤツとは会ってねぇよ」

母親はたばこの火をギュッと灰皿で消しながらフフンの鼻で笑っていた。

「で、今はあの女と一緒に住んでるんでしょ?何て言ったっけ、鴨志田だっけ?」

…!何で知ってるんだ?

「あの人が亡くなった事もとっくに知ってるのよ、こっちは」

「じゃ、何でああやってびっくりした顔したんだよ!おまけに葬儀にも顔を出さないで!」

「ちょっとからかってみたつもりなの、フフフッ、こっちは何でもお見通しなの、わかる?」

妖しげな母親の目がオレを射るように見つめた。

「あの女はかなりの借金をしてるみたいね。で、亮輔はその金を借りにここへ来たんでしょ、そうでしょ?」

何で知ってるんだ?オレは少し怖くなってきた。

「あんなもの人を使って調べればすぐに解ることだゎ。亮輔、アタシにお金を借りにきたんでしょ?何であんな女を住まわせるような事したの?まさかあんな大きなオッパイだけが取り柄の女とヤリたいだけでしょ?」

…図星だ。

「で、いくら必要なの?」

「んーと、450万とか言ってた気がするけど、利息もあるからそれだけじゃないかも」
母親は高笑いしながらまたタバコに火を点けた。

「たかだか教師の分際で何に使ったか知れないけど、よくもまぁそんなに借金したわね。まぁいいわ、但し条件があるわ」

やっぱり、オレはここに残れって事だろう。

「次来るときはお金を用意してあげるから、その女の先生と一緒にここに来なさい」

ん?一緒に?どういう事だ。

でも金を用意してくれるのなら鴨志田も一緒に来てくれればいいワケだから大した条件じゃないのだが。
少し引っかかるがまぁいいだろう。

「わかったよ、次は先生をここに連れてくればいいんだろ」

すると母親はまたオレの股間をまさぐり始めた。

「それと、ね?後はまたお母さんと楽しい事しよっ」
そのままソファーに倒れこみ、母親の濡れた秘部を舌と指で愛撫し、またしつこくオレの肉棒を咥えだした。

「ねぇ亮輔…早く挿れて」
オレは母親の言うがままに従い少し黒ずんだビラビラを広げ、そのまま挿入した。

母親は腟内でキュッと締め付けるので、短時間でオレは腟内に射精した。

秘部からザーメンが、ドロリと流れ出てきた。

「いつヤッても亮輔のは量が多いわね…」

オレはその光景を見て、少し恥ずかしくなり、さっさと服を着て部屋を出た。

近親相姦…タブーばかりをしているオレと母親は、この先ロクな人生を歩まないだろうと感じた。

先生が母親?

オレは夕方過ぎに家に帰り、借金返済の為、母親に協力してもらう事を鴨志田に告げた。

「古賀くん…ありがたい話だけどそれは申し訳ないわ。だってあなたのお母さんには全く関係の無い事だし…」

鴨志田は借金をチャラに出来るから喜んでくれるかと思ったら、意外にも不安そうな顔をしていた。

「先生、もうこれしか返す方法はないんだよ、だから一緒にオフクロの所へ行こう」

少し間を置いて、鴨志田は頷いた。

そして休日にオレは鴨志田を連れて母親の下へ向かった。

心なしか鴨志田の表情が暗い。それは借金を肩代わりしてくれるという申し訳無さからくるものだとオレは思っていた。

そしてマンションの前に着き、いつものようにオートロックのエントランスで部屋番号を押して呼び出した。

【はい】

「オレだけど、連れてきたよ」

【…わかったわ】

オートロックのドアを解除し、母親のいる部屋の前まで来た。チャイムを押すと、いつもは下着姿の母親が珍しく服を着てオレと鴨志田を中へ招き入れた。

だが、次の日瞬間、母親は物凄い形相で鴨志田に思いっきりビンタをかました。

パシーンという音をして鴨志田の眼鏡が吹っ飛んだ。

「何てことするんだ、いきなり!」

オレは床に落ちていた鴨志田の眼鏡を拾った。

「よくもノコノコとここへ来たもんね。それに借金までして」

がよく飲み込めなかった。

「も、申し訳ありません、もう2度と来るつもりはなかったのですが…」

2度と?母親と鴨志田は以前会ったことがあるのか?

「どういう事だ、オフクロ!先生と前に会ったことがあるのか?」

そして母親はいつものようにソファーにふんぞり反り、タバコに火を点けた。

「亮輔、何でこの女をここに連れてきてって言ったかわかる?」

「千尋さん、お願いです!借金の事は自分で何とかします、だからもうそれ以上は…」

しかし母親は話を止めなかった。

「鴨志田紗栄子、いや広瀬紗栄子さん、その節はウチの主人が色々と世話になったわね。いや、世話をしたのはこっちだったかしら」

一体何の話をしてるんだ。オレにはさっぱり解らない。しかも鴨志田は以前他の名字だったとは。

「亮輔、初めて話すことだけど…」

「お願いです!それだけは言わないで下さい!」

鴨志田が血相を変えて土下座した。

一体この二人にどんな過去があるというんだ?

「オレには何が何だかさっぱりわからねえ、これは一体何なんだ!先生、何でオフクロに土下座してんだよ!」

「フフっオフクロ?そのオフクロさんが土下座してるのよ」

…何だって!母親は今ふんぞり反って偉そうにタバコを吸ってるじゃないか。

鴨志田は土下座をして今にも泣き出しそうな顔をしている。

「先生…まさか先生はオレの…?」

「そう言うこと、亮輔、あなたのホントの母親はこの女よ!」

一瞬目の前が真っ暗になった。
何で鴨志田がオレの母親なんだ?

オレは父親が生前、母親が勤務先の社長との間に出来た子供がオレだと聞かされたんだぞ。

「この女の正体は広瀬紗栄子、そしてあの人との間に出来た子供が亮輔、あなたなのよ」

何が何だかサッパリわからない、頭の中で整理がつかない。

「オレの親はアンタじゃないのか!」

「どうして?アタシはあなたの育ての親よ。まさか実の息子と近親相姦なんてできっこないでしょ?ねぇ、紗栄子さん」

「…」

鴨志田は無言のままだった。

「どういう事だ、オレは誰の子供なんだよ!」

「だからさっきからその女の子供だって言ってるでしょ」

母親は鴨志田を見下ろしながら煙を吐いた。もくもくと白い煙が蛍光灯に暗雲が立ち込めるように漂っていた。

「亮輔、あなたはね、この女とあの人との間に生まれた子なの」

あの人って、父親か?嘘だろ?だってオレは父親から母親は社長の秘書兼愛人だって聞かされたのに…

「お父さんがどう言ったかは知らないけど、この女との間に生まれたのが亮輔なの、わかった?」

わかった?と言われてハイ、そうですかと納得出来るワケがない。

オレとしては順を追って話をして欲しい。

今のままじゃ頭の中がこんがらがって理解できるはずがない。

母親は鴨志田と父親との関係から話を始めた。

当時、兄の達也の子育てに専念していた母親に隠れて父親は当時、大学生で夜はキャバクラで働いていた鴨志田と深い関係をもった。
そして鴨志田が妊娠したと判った時、父親は堕ろすように言われたが、鴨志田は産むといい、母親を交えて3人で話し合った。

結果、父親と母親は離婚、兄は父親が引き取り、鴨志田は慰謝料を貰い、オレを生んだ。
しかし、大学生だった鴨志田は子供を育てる事は出来ずに、母親の下を訪れ、育てて欲しいと願った。母親としては、何で血の繋がりもないオレを育てなきゃならないんだと激怒したが、
常務で鴨志田という男と社長が母親を説得し、援助を受けるという形でオレを育てた。
そしてその鴨志田という常務はオレを生んだ広瀬紗栄子を養子縁組という名目で愛人をするという関係になり、広瀬から鴨志田に姓を変えた。

その常務も程なくして亡くなり、養子縁組をしていた鴨志田はその財産を受け取り、ホスト通いやブランド物を買い、あっという間に散財し、浪費癖が抜けないまま現在に至るというわけだ。

そして母親は社長を退き会長になった男の遺産を受け継いだと聞かされたが、それは真っ赤なウソで、兄の達也を父親に取られ、女手一つでオレを養うために、夜の仕事をして、時には身体を売って生活をしてきた。

幼い頃、母親が取っ替え引っ替え男を連れ込んできたのは、身体を売って金を稼いだという事らしい。そしてパトロンを見つけ、オンボロアパートから立派なマンションに引っ越すようになり、夜の店の資金まで出してもらえるようになった。

これが真の出生の秘密だったという事だが、オレの頭の中は出生の事が二転三転してパニックに陥っていた。

ウソだろ?オレの本当の両親は誰なんだ?
もう、何が何だかワケが分からなくなってきた。

だが、鴨志田の表情と母親の見下ろす憎しみに満ちた顔を見ると、とてもウソをついているようには見えなかった。

そしてオレはそんなことも知らずに高校に入学し、鴨志田が担任になり、程なくして父親が出張先で強盗に遭い、射殺された。

それを聞いた鴨志田はショックで倒れた。オレはその時、鴨志田を介抱したからだ。

鴨志田はまさか自分が生んだ息子の担任になるなんて思ってもいなかったのだろう。

おまけに父親が亡くなり、オレはバイトをしないと生活出来なくなり、学校を休みがちになり、それを見かねた鴨志田が一緒に暮らそうと提案した。

ここでようやくオレは、鴨志田が何故オレに近づいたのか理解が出来た。

本当の近親相姦

オレは今、人間のドロドロした醜い部分を嫌という程、見せつけられている。
業の深い連中のどす黒い関係を知らされただ呆然と立ち尽くしていた。

話を終えた母親は脇にあったバッグからかなりの札束をドンとテーブルに置いた。

「紗栄子さん、貴女このお金が必要なんでしょ?これを持っていきなさい」

目の前にはかなりの金額であろう札束が山積みに置かれていた。

鴨志田はその札束を見て先程まで顔をくしゃくしゃにして涙を流していたが、急に顔つきが変わった。

「このお金をあげるからそうね、今ここで亮輔とセックスしてちょうだい。それがこの条件よ」

何バカな事言ってんだ!仮にも鴨志田はオレの担任だし、実の母親と分かった。その二人がここでセックスをしろだと?

「おい、ふざけるのもいい加減にしろ!先生、帰ろう、こんな話を真に受けたオレがバカだった」

オレは鴨志田の腕を掴み、帰ろうとした。
だが、テーブルにある大金を目の当たりにした鴨志田は帰ろうとはしなかった。

「これがホントの近親相姦、フフっ間近で見てみたいわぁ」

妖しく笑みを浮かべ、母親は脚を組んで鴨志田の顔を見つめた。

「おい、テメー、ナメてんのか!こんなにバカにされてハイそうですかってやるワケねえだろ!先生、もういいから帰ろう、帰って他の方法を考えよう」

オレは鴨志田を立たせようとしたが、金に目が眩んだせいか、全く動かなかった。

「本当に、本当にくれるんですね、この金を?」

喉から手がでるかのように札束を凝視し、鴨志田は母親に念を押した。

「だからここでホントの近親相姦ってのを見てみたいの。それでこの大金が手に入るんだから安いもんでしょ」

その言葉を聞き、意を決したかのように鴨志田は立ち上がり、オレの目の前で服を脱ぎ始めた。

大きなバストがこぼれおちそうな勢いでブラジャーを外した。
そしてスカートを脱ぎ、全てを脱ぎ捨て全裸になった。

その豊満な身体は、多少の弛みもあるが、メリハリのある身体で、しかもパイパンだった。

「先生、止めよう、これは絶対におかしい!騙されんなよ、こんな女に!」

いくら叫んでも鴨志田の耳には届いてない。鴨志田を支配していたのはその大金だった。

鴨志田の顔つきがトローンとなり、オレに抱きつき唇を重ねてきた。
口内で舌を絡ませ、唾液と唾液が入り交じる。

そして鴨志田はしゃがみ、オレのズボンとパンツを一気に下ろそうとした。

オレはかなり抵抗したが、金の魔力はそれ以上の力でオレは下半身が露になった。

鴨志田は玉をナメ、吸い、口に含んだ。
そしてオレの肉棒を激しく咥えた。
母親とは少しやり方が違うフェラだが、一気にビンビンになってしまった。

すると鴨志田はその大きな胸に肉棒を挟んだ。唾液を垂らし、滑りをよくするため、挟んで左右の大きな胸を擦り合わせた。
そのパイズリに思わず声をあげてしまった。

「あぁ、いい、うっ…」

パイズリは加速して今にも発射しそうなぐらいの快感だ。

「どうしたの亮輔、いつもみたいに攻めてあげないと。このままじゃイッちゃうわよ」

にやけながらこの様子を母親が見ている。
そんなヤツの目の前でなんでこんなことをしなければならないんだ!

が、しかし身体は正直だ。鴨志田の奉仕でイク寸前まで快感が押し寄せてくる。

こうなったらやるしかないのか。
オレも意を決し、体勢を変えて、大きなバストを舐めた。巨乳によくある乳輪の大きいバストを揉んでは吸い、揉んでは吸い、と繰り返し、無毛の秘部を広げ、大陰唇をズズーッと音を立てて吸った。
鴨志田もかなり感じたらしく、はげしく喘いでいた。
そして秘部に中指を入れ、奥でクチュクチュと音をした。指を入れながらクリトリスを強く吸うとビクッとなり、あとは指で激しく中をかき混ぜるように愛撫すると、ものすごい勢いで潮を吹いた。
AV女優並みの激しい潮吹きだった。

あとはオレの肉棒を挿入するのみ。
オレは後ろからバストを鷲掴みにしながらバックから射れた。

そして激しくパンパンと音を立てながら腰を動かした。

バックの後は騎乗位、対面座位、正常位で気がつけばお互い汗だくになるほど激しく腰をうごかし、絶叫した。

そろそろイキそうになってきた。

「亮輔、中で出すのよ」

っ!そんなことしたら大変になるだろ!

オレは母親の言葉で萎えた。

「紗栄子さん、貴女中に出してほしいの?」

「ちょうだい…中にだして…」

こうなりゃもうどうなってもいい!
正常位でガンガン攻めて、「あぁ、イクッ」と同時に腟内で勢いよく射精した。

しばらくはぁはぁと息も絶え絶えですぐに離れようとしなかった。

そして肉棒を抜くと秘部から大量のザーメンが流れ出てきた。


「よくやったわ亮輔。アタシも少し濡れちゃった。このお金は持っていきなさい。なんせ本当の近親相姦が見られるとは思ってもいなかったからね、あっはははは!」

母親の高笑いがこだまする。

オレが今まで母親としていたのは近親相姦じゃなく、鴨志田としたのがホントの近親相姦という事になった。

「紗栄子さん、またお金に困ったらいらしてね」

母親は下卑た笑みを浮かべ、オレと鴨志田は金を受け取って帰った。

とんでもない事をしでかしたようで、後悔の念が押し寄せてきた。


ホントの近親相姦をしてしまったのだから。

人を狂わす金の魔力

母親から大金を受け取った鴨志田は、その金で借金の返済をした。それでも十分に金は残っていた。

オレは鴨志田と相変わらず一緒に暮らしているが、あの件以来、あまり会話をすることが少なくなっていた。

ホントの母親は鴨志田、にわかに信じがたい。

だが、誰が母親で誰が父親だなんてどうでもよくなってきた。

鴨志田は残りの金を手にし、また浪費癖がまた始まった。
今まで黒髪のロングヘアを一つに束ねたスタイルは茶髪になり、巻き髪のようにカールして、眼鏡からコンタクトに変え、服装も派手になっていった。

外見はとても教師には見えず、夜の街にいそうな水商売風のスタイル、もしくは身体のラインを強調している保険の外交員みたいな格好になっていた。
そして身につけているのは高級ブランド品という、単なる成金のような女になっていった。

金の魔力はこうまでも人を変えてしまうものなのか。

そして今まで家事をやってきたが、それすらもやらなくなり、帰りが遅くなる日も多くなった。

今まで通り食費と光熱費は払っていたが、この調子じゃまた破綻してしまうのは目に見えていた。

そしてオレの読み通り、ポストには消費者金融からの督促状が何通も送られるようになった。

一度坂道を転がると後は落ちていくしかない。
鴨志田はその典型的なタイプだった。
教師の仕事は続けていたが、あまりの変貌ぶりに校内でも有名になり、毎日ブランド物を身につけ授業を行うのだが、以前に比べてヤル気が失せ、時には自習と黒板に書いて、当の本人は教壇で本を読み耽っている事も何度かあった。
そんな授業態度だから、学年主任や教頭、校長にも何度か注意を受けたが、本人は聞く耳すらもたず、教師なんていつ辞めてもいい等と言い出す始末だ。
コイツの頭の中にはもはや金の事しかない。

金が無くなればまた母親の所へ行き、目の前でオレとセックスをするのを見せつければまた金をくれると思っているのだろう。

案の定、休日になるとオレを引き連れ、母親の所へ行き、目の前で服を脱ぎだし、オレはまたズボンとパンツを下ろされ、激しく咥え、玉やアナルにまで舌を這わせた。

オレは何故断らないのかと言われると、セックスの虜になり、母親の目の前だろうがお構いなしに、鴨志田の濡れた花弁を吸い、舐めつくし、クリトリスを刺激して潮を吹かせた。

そしていきり勃った肉棒を鴨志田の腟内に挿し込み、バックや騎乗位、正常位や対面座位等あらゆる体位でハメまくり、何度もイカせた。

そして最後は必ず中で射精する。
射精しても、オレの肉棒は衰える事なく、何度もピストン運動を繰り返す。

パンパンと打ち付けながら口の中に舌を入れ、唾液を絡ませ、大きな胸を鷲掴みにし、時にはその乳輪を吸ったり、軽く歯を立てたりしてオレも快楽に身を委ねた。

事が終わると母親は鴨志田に金を渡す。そんなに近親相姦をするのを見て楽しいのだろうか。

だが、こんな事を何度も続ければ母親も見飽きてきたらしく、鴨志田が満足するような金額よりも低い額しか渡さないようになった。

「千尋さん、なんでこれっぽっちなの?私はもう少し必要なのよ!次はどうすればもっとお金をくれるの?」

鴨志田はソファーで寝そべってオレたちのセックスを見ていた母親に激しく詰め寄った。

「何でって。もう見飽きたのよ、あなたたちの獣のようなセックスは」

冷たい視線で時おりあくびをしながら母親は退屈そうにオレたちのセックスを眺めていた。

「じゃあ、どうすればいいの?どうすればもっと出してくれるの?」

金の亡者と化した鴨志田は、金の為なら何でもするという感じで母親の要求を聞いていた。

「もうこれ以上は出せないわね。紗栄子さん、もしこれ以上必要だとしたら、その大きな胸を使って男たちを喜ばせたらどうかしら?アッハハハハハ!」

母親は鴨志田の胸を掴み、揉みしだくようにして耳元で囁いた。

「先生を辞めてソープにでも行く?いいとこ紹介するわよ…」

鴨志田はカッとなって母親の手を払った。

「あなたバカにしてるの!何でワタシがソープなんかに!」

どうやら母親は鴨志田をソープに沈めるみたいだ。

「あら、いいのそんな事言って?もうあなたはそれ以外じゃないと返済出来ない額なんじゃないかしら」

母親は鴨志田を見下ろすように立ち上がり、別の部屋からバックを取り出し、そこからポンと100万の札束を一つ放り投げた。

「いい、もうあなたにはこれぐらいの価値しかないの。これ以上欲しけりゃ、色んな男のチンポをしゃぶりなさい!フフっ…アーッハッハッハッハッハ!」

母親の高笑いが部屋中に響いた。

鴨志田は全裸のままその札束をクシャっと握るように掴み、服を着て部屋を出た。

オレは先程のセックスで汗だくになりながらも全裸でその様子を見ているだけだった。

「亮輔、もうあの女とは手を切りなさい。やっぱりあなたの母親はこのワタシ…そうあなたを育てたワタシこそがあなたの母親なの」

母親はオレを抱き寄せ、片方の乳房を出し
「ほら、赤ちゃんみたいにオッパイ吸って…」
と顔に押し当てた。

この時、オレは思った。性欲処理として散々利用されながらそれに逆らわなかったのは、オレの性欲が強すぎたからなのだと。
だからいつも言いなりに裸になり、肉棒を咥えられ、この快感に浸っていたいからだと。

そしてこんな事を続ければいずれ何かのトラブルに巻き込まれるはずだと。

オレは母親の乳房を吸いながら、コイツらから逃げようと思った。

独り立ち

あの日以来、鴨志田は家に帰って来なかった。
多分、借金取りに追われ、行方をくらましてるのか、金策に奔走してるのか分からないが、あの様子じゃ誰も金を貸す人なんていないだろう。

学校にも来ておらず、無断欠勤を続けているようだ。
学校側としては、これ以上鴨志田の事を庇う事は出来ず、解雇という形で退職扱いになった。

オレは学校に通っているものの、いまだにクラスに馴染めず、孤立していた。

孤立することには慣れていた。
幼い頃からいつも1人だったオレにはむしろこの方が都合が良かった。

セックスの虜になっていたオレは何のために高校に行ってるのか分からなくなってきた。

そしてまた生活が厳しくなり、バイトだけでは食っていけないオレは母親の下を訪ねた。

「あのマンションを誰かに売ってしまおうかと思うんだけど、名義がオヤジのままなのかどうか、その事で相談にきたんだけど、売っ払っていいのかどうか」

オレはもうあのマンションは必要ないと判断したからだ。
あれは父親が所有しているマンションだが、父親がもうこの世にいない今、売っ払い、オレは一人で何処かで暮らそうかと考えていた。

まだ15のオレはそんな事もよくわからないので、とりあえず母親に聞いてみようと思い、ここへ来た。

「亮輔、あのマンション売ってあなたはどうするつもり?」

しようと考えていた。

「亮輔、あなた、ワタシの仕事の後を継がない?」

母親は夜の商売人でパトロンから得た資金で店を経営するようになり、元々商才もあるせいか、今では都内に何店舗もの店をもつ経営者として成功している。
店といっても、キャバクラというよりはクラブの店舗で、かなり高級な店と言われて、女性達の容姿や接客態度もかなり優秀だと評判だ。

「オレはまだ15だぞ、夜の仕事なんて出来るわけないだろ。とにかく今はバイトだけでは学費も払えないし、食費だってバカにならない。学校に行っても相変わらずつまんねえ毎日でそんな事してるより、働いて独立したいだけだ」

オレは母親に肚の中に思っている事をぶちまけた。

「わかったわ。あのマンションが売れるようにしてあげるわ。でもあなたはこの先どこに住むつもり?」

「そんな事までは考えてない。ただもうあのマンションはオレには必要ない。先生もあれ以来帰ってこないし、いっそ売っ払ってくれた方がいいよ」

結局鴨志田は逃げた。ならばそんな所は無くしてしまおうと思っただけだ。

「そう、あの女はもう帰ってないの…亮輔、あなたしばらくここにいたらどうかしら?」

それはもっとイヤだ。だがイヤと言わずに上手く、やんわりと断る理由を考えていた。

「オレがオフクロの仕事を継ぐとなったら後3年は必要になるし、18になったら継ぐからそれまでは独立したいんだ、いいだろ、オフクロ?」

母親はいつになく、切れ長の冷たい目付きではなく、慈母のような優しい目でオレを見つめた。

「わかった。そこまで言うならワタシは何も言わない。ただ連絡先だけは教えてね」

「うん、わかった。」

「あのマンションいつ売れるかわからないけど、当面のお金は大丈夫なの?」

ホントはいくらか出して欲しかった。
だが、援助を受けたらまた振り出しに戻る。

「多少なら蓄えがあるから何とかなる。あのマンションの事はオフクロに任せるよ。オレはとにかく学校に退学届けを出してどこか住み込みのある仕事でも探してそこで働いてみるつもりだ」

これでオレは母親の下から離れられると思った。

「亮輔、何か困ったことがあったら遠慮なくお母さんに相談しなさい。何度も言うようだけど、あなたの母親はこのワタシなんだから」

母親はまたオレを抱き寄せた。

でも今はこんなことしてる場合じゃない。

オレは母親の腕を振りほどき
「仕事先が見つかったら連絡するから」とだけ伝えて部屋を出た。

これからが忙しくなりそうだ。

オレは父親のマンションに戻り、退学届けを書いた。翌日学校にその退学届けを学年主任に渡した。
学年主任はそう簡単に辞めるな、中卒で雇ってくれる会社なんてそうそう無いぞ、と言った。
オレは今の状況を事細かに話し、学校に行ってる余裕すらない状況を話した。

それならばせめて定時制か通信制に編入したらどうか?と学年主任は説得したが、生活が第一だからという事で退学届けは受理された。

僅か数ヶ月の高校生活だったが、オレには何の感慨もなかった。むしろ足枷が無くなったかのように少しだけ晴れやかな気分になった。

後は仕事を探すのみ。高校中退のオレに働けるとこなんてあるのだろうか。

【型枠大工募集、15才から35才まで見習い可、住居完備】

PCの求人募集サイトで検索して、見つけた。
よし、ここだ!大工って金槌で釘打ったり鉋(かんな)で材木を削る仕事だろ、何とかなる!と軽い気持ちで考えていた。

オレはすぐに履歴書を書いて、この募集してるところに電話した。

【はい、こちら灘工務店です。】

「あの、募集のホームページを見たのですが。まだ募集してますか?」

【あぁ、募集?ちょっと待って】

ぶっきらぼうなヤツだなぁ。

しばらくすると担当者らしき者が電話に出た

【はい、もしもしお電話変わりました、担当の坂本です。】

さっきとはうってかわってハキハキした声だ。

「あ、あのまだ募集してるのかなって電話したんですが、大丈夫でしょうか?」

【ええ、大丈夫ですよ。ところで年齢はいくつかな?】

「じゅ、15です」

【15才?これは随分と若いねー。学校には行かなかったの?】

「いや、色々ありまして中退しました。でも今独立したくて色々と探したらここがみつかったので電話かけてみました」

【うーん、確かに15から募集してるけどウチの仕事はキツいよ?大丈夫かな?】

「はい、とにかく1日でも早く仕事したいんです」

【あ、そう。それじゃね、明日の10時に履歴書持ってきてくれるかな?】

「はい、わかりました。明日の10時ですね?よろしくお願いします」

よし、まずは独立第一歩はここだ。

採用されたら即荷物を持っていけるように荷造りをしないと。

こうしてオレの独り立ちがスタートした。

初仕事

オレは翌日、工務店へ面接に行った。
事務所にはいかにも親方という恰幅のいい中年の人がオレの履歴書を見ながらしばし考え込んでいた。

「働きたいってのはわかった。だけどウチは楽な仕事じゃねえぞ。力仕事も必要になるし、現場仕事だから朝は早い。それでも大丈夫か?」

オレはとにかく働いて金を稼いで独立したいだけだ。

だからこの際、仕事がキツいだの何だの言ってる場合ではない。

「はい、大丈夫です。とにかく一日でも早く独り立ちしたいので」

その親方らしき人はオレの目をじっとみながらコイツは使えそうなのかどうか観察しているみたいだ。

「よし、じゃ来れるとしたらいつから来れるんだ?」

「はい、今住んでる所から出来れば寮に移りたいんです。その荷物を移し終えたらその日からでもお願いします」

「大体どのくらいかかりそうなんだ?」

「はい、1日あれば十分に間に合います」

オレが持っていく荷物なんて服とPCぐらいだ。
「よし、じゃ明日その荷物持ってこい。部屋はその時に案内するからな」

「はい、わかりました」

「お前、給料の話しはしないけど、いくらもらいたいとかそういうのはないのか?」

「いえ、働いて住む所があれば十分です」

まだ働いてもいないのに、いくら欲しい等とは言えない。

「そうか、とりあえず見習いだから1日8000円、そっから寮の住まいとか食費引いて7000円ぐらいかな。頑張ればもっと稼げるから1日でも早く仕事覚えるようにしろよ」

この金額はこういう業界では妥当なのだろうか。


「はい、ありがとうございます」

おれはこの工務店に働くことが決まった。

その日のうちに荷物をまとめ、母親には勤務先の場所を教えた。

まぁこっちから連絡をするつもりはない。

そして寮に荷物を移した。部屋は寮というから、食堂があって各部屋に仕切られているというイメージをしていたが、一部屋四畳半のボロイアパートだった。

備え付けのテレビと冷蔵庫、押し入れには布団があるだけの質素な部屋だった。

とにかくこれが独立の第一歩だ。
どんな仕事をするんだろうか。

まぁどんな仕事でもやるしかない。
オレはその日、疲れて早めに寝た。

翌朝ドンドンと荒々しくドアを叩く音で目が覚めた。一体何だろうと思ってドアを開けると、頭にハチマキを巻いて髭をたくわえた体格の良い男が立っていた。

「おい、いつまで寝てんだ!はやく支度しろ!」

時計を見るとまだ6時前だった。

ヤバい、寝坊した!
オレは半分眠い目をこすりながら、支給された作業着に着替えた。

アパートの目の前には白いワゴン車が停まっていた。

後部のスライドドアを開けると、むさ苦しい男たちが数人座っていた。

「あ、あの初めまして古賀です。よろしくお願いいたします」

オレは挨拶したが、皆オレの顔をジロッと見るだけで何も言わない。

しかも、タバコの煙が充満した車内はオレにとってはかなり辛かった。

現場は都内近郊の場所のビルを建てており、既に6階まで出来上がっている。

オレは職長と呼ばれたひげ面の中年のオヤジに
「ここは大手のゼネコンだから入るときに安全教育といって、簡単な講習をしなきゃなんねーんだ。しかもお前は15才で、この現場は18才以上じゃなきゃダメと言われている。だから記入欄に必ず18才と書いとけよ」

そう言われ、オレは他のメンバーとは別に詰所と言われている作業員の休憩所で、現場監督に書類を渡され、名前や住所、血液型等を記入した。年齢はもちろん18と書いた。
そして簡単な説明を受け、他のメンバーと一緒に仕事をした。
だが、右も左もわからないオレは何をすればいいのかわからず、職長のオヤジに
「まず何をすればいいのですか?」
と聞いた。

すると、コンパネという、コンクリートパネルの略なんだが、その合板がコンクリートの型枠用の板として使われている。

それを運び、上まで持っていかなきゃならない。

板といえども、大きくそれなりに重いので力仕事が初めてのオレにはかなりの重労働だった。

「よし、そのコンパネをそこへ置いとけ」

オレはただひたすら汗だくになりながらコンパネを上に持っていく作業を繰り返した。
見習いだから雑用から始まるのはわかるが、人使いの荒い連中に途中で「墨ツボ持ってこい」と言われ、何が墨ツボなのかわからずにウロウロしていると
「バカヤロー、墨ツボも知らねえのか、目の前にあるだろ!」と怒鳴られた。

墨ツボとは、 壺の部分には墨を含んだ綿が入っている。糸車に巻き取られている糸をぴんと張り、糸の先についたピンを材木に刺す。 つまりそのラインにそってコンパネを鉄筋を組んだところに張り付け、コンクリートを流し込むらしい。

オレは大工の道具といったらハンマーと釘とカンナぐらいしかしらない。

てっきり釘を打ったり、かんなで材木を削るものだとばかり思っていた。
想像していた仕事と丸っきり違う作業で、おまけに、あれ持ってこい、これ持ってこい、等と色んな連中に指図され、息つく暇も無い。

しかも名前じゃなく、「おい!」とか「よお!」だとか呼ばれるから最初は誰の事を言ってるのか解らなかった。

全てがわからないまま、ただ言いなりに雑用に専念した。
そして休憩に入り、詰所でジュースやコーヒーを飲みながらモクモクとタバコの煙が充満している中でオレはただボーッと突っ立っていた。

どこもかしこも禁煙が当たり前のこの時代に、ダボダボのニッカポッカを履いて薄汚れた男だらけの連中がくわえタバコで何やら話をしている。
しかも話の内容は、ギャンブルか女の話しがほとんどだ。

オレはまだ誰とも口を聞いてないので、隅っこでスマホをいじっていた。

そしてあっという間に休憩時間が終わり、オレはまたコンパネを運ぶ作業をした。

今までこんなに汗をかいたことはないんじゃないかというぐらいに汗だくになりながらひたすらコンパネを運んだ。

オレはこの仕事をやっていけるのだろうか?
ほとんどの連中は30代で、オレと年齢の近いヤツはいなかった。
おまけにこっちが最初に自己紹介したのにもかかわらず、誰が誰なんだかサッパリわからない。仕事も分からなきゃ人の名前すらも知らなかったのだ。

何なんだコイツら、せめてオレは○○だ、ヨロシクな、ぐらいの事を言ってくれるのかと思ったのだが、それすらも教えてくれない。

どうせガキなんだし、みたいな感じで思われているのだろう。

オレの考えが甘かったせいもあったが、もう少し歓迎してくれるのかと期待したのだが、オレの存在すら気にかけてないようだ。

結局午前中は人の名前も道具の一つも覚える事が出来ずに昼飯の時間になった。

昼は現場に出入りする仕出し弁当を食べた。
オレはかなりヘロヘロになっていたせいか、あっという間に弁当を平らげた。
昼飯を食い終わると、昼寝するヤツや、花札をして賭け事をしているヤツなど、それぞれが食後の過ごし方をしていた。

オレはその中に入っていけず、また一人でスマホをいじっていた。

こんな調子で午後の仕事をやっていけるのだろうか。

昼の休憩時間が終わり、オレはまた午前中と同じように雑用に追われていた。
おい、釘持ってこいだの、バール持ってこいだの、相変わらず名前で呼ばれない。

こんな連中なのかコイツらは。

結局、誰もオレの名前は呼ばず、この人は何ていう名前なのかという事すら知らずにその日の作業は終了した。

オレは汚れた作業着をバタバタと叩き、手を洗ってワゴン車に乗り込んだ。

向こうから話しかけてくれないのならこっちから話しかければいいかとも思ったが、車内では相変わらずタバコの煙と車に揺られ寝ているヤツらで帰りの渋滞に巻き込まれながらも、ようやく到着した。
時間は19時を回っていた。

寮の近くにある事務所に食堂があってオレはそこで晩飯を食べた。

ようやく1日が終わった。

寮に着いたが、何もする気力もなく、作業着のままオレは寝てしまった。

1日目は風呂に入る気力さえもなく、そのまま寝てしまい、またドアをドンドンと叩く音で起こされた。
時計は朝の5時50分、はぁーい、と返事をしてドアを開けると、昨日と同じヤツが立っていた。

「おい、いつまで寝てんだよ!こうやってこっちが毎日起こしに行かないと起きれないのかよ!」
また朝っぱらから怒鳴られた。そもそもコイツ何て名前だ?こっちは自己紹介したんだから名前ぐらい教えてくれてもいいだろ。

僅か数ヶ月だった高校生活でも、教室でオレはあまり同級生と会話をしなかったが、挨拶をすれば必ず返事をしてくれた。

なのにこの連中は大人のクセにこっちが挨拶してもろくに返事をしない。
オレは後部座席に座り、出発するのを待っていた。
すると痩せ型の神経質そうに眉間にシワをよせたオヤジが
「おい、ここはオレが座るんだよ!お前はここへ座れ!」
と最後部座席に押し入られた。

誰がどこに座ろうが関係ないじゃないか、オレはまだ2日目だが、ここじゃ長く勤まらないと思った。

そして車は高速を乗ってものすごい勢いでビュンビュンと他の車を追い抜いていく。

運転が乱暴で寝たくても、こんなんじゃ寝れない。
そして8時少し前に現場に着いた。

各業者の連中とともにラジオ体操をして朝礼を行う。

で、安全確認よし!と点呼をして、朝礼が終わり、ようやく仕事がスタートする。

今日は何をすればいいのだろうか?
わからずに、他の人の作業を見ていると
「おい、早くコンパネ持ってこい!何ボサーっとしてんだ!」とまた怒鳴られ、昨日と同じく上と下を行ったり来たりの繰り返しだ。
そして合間にはこれ持ってこい、あれ持ってこい、ちょっとこれ手伝え等と、何人ものヤツらが1度に言ってくるから何から手をつければいいのやら全くわからない。

で、ちょっとでも突っ立っているとまた怒鳴られ、雑用の繰り返しだ。
おまけにまだ名前で呼ばれていない。

段々と腹が立ってきた。オレは古賀という名前だ!テメーらこそ名を名乗れ、挨拶もろくに出来ない大人のヤツらに人間以下の扱いを受けているのが我慢出来なかった。

ふて腐れながらも、また昨日の繰り返しの作業で早くも汗だくだ。おまけに昨日は風呂にも入ってないから余計に汗臭い。

腕と足がパンパンになり、何とか気力でコンパネを抱え上の階へ上っていく。

「おい、早くしろよ、若ぇくせに体力がねえヤツだな、こんなもんとっとと運べよ!」

もうダメだ、オレはソイツが釘を打ち付けてる背後に立ち、怒りをぶちまけた。

「こっちは自己紹介までしてるんすよ、それなのに名前も教えてくれない!挨拶しても挨拶しない、それがアンタらのやり方なのかっ!」
オレはケンカになってもいいと思い、ソイツに文句を言った。

するとそのひげ面のオヤジは立ち上がり
「あぁ、テメー新入りのクセに仕事もしねーで生意気な事言ってんじゃねぇぞ、こらぁ!」
とオレに掴みかかろうとした。

オレは何度も言うようにケンカは得意じゃない。だが、このオヤジは人を何だと思ってるんだ、オレにはちゃんとした名前があるんだ、挨拶もまともに出来ない中年オヤジが何ほざいてんだ、とばかりにオレはそのオヤジ目掛けてコンパネを投げつけた。

そのオヤジは避けたが、オレはそいつのヘルメットを掴み、鉄筋で格子状に組み立てられた壁に叩きつけた。

オヤジは一瞬怯み、さらに1発殴ってやろうとした時に、現場監督と職長が間に入って止めようとした。

「お前、なにやってんだ!」

「あぁ、テメーらこそ、新入りだからってバカにしてんのか、なぁおいっ!」

オレは職長にも食ってかかった。

現場監督が「止めろ!これ以上ケンカするとこの現場から出てってもらうぞ!」
と言われ、オレはヘルメットを叩きつけ、
「挨拶すらろくに出来ねえオヤジなんかの言うことなんて聞けるかっ、辞めてやらぁこんなとこ!」
と言って作業着のまま現場を出ていった。

オレはもうこんなとこにいたくない、こっちは右も左もわからん新入りだ。
だけどもう少し接し方というものを考えないのか、ヤツらは。

確かにカッとなったオレも悪い。

だけど、あの連中から仕事を教わろうだなんて気持ちはない。

あまりにも人をバカにしている。


オレは作業着のまま電車に乗り、寮に着き、私服に着替え、荷物をまとめて事務所へ行き、部屋のカギを机に叩きつけた。

「ふざけてんじゃねーぞ、オレは奴隷か、人間以下なのか、なぁ?あんな大人の連中なんかと一緒に仕事が出来るかっ!」
と親方に文句を言って事務所を出た。

独立しようと思って探した仕事だが、たった2日で辞めてしまった。
だが、後悔はしてない。後悔してるというならば、こんな仕事を選んだ事が後悔した。

オレはインターネットカフェで一晩過ごし、PCの求人サイトでまた新たな仕事を探した。

荷物を処分

求人サイトをくまなく調べてみたが、高校中退のオレが出来る仕事は肉体労働しかないみたいだ。
高校中退なんて言うが、最終学歴は中卒だ。

ダメだ、全く仕事が見つからない。
オレは焦った。
帰る所がないからだ。
母親の所へ帰ろうと思えば帰れるが、たった数日で戻ってくるなんてみっともなくて出来ない。
それに母親の所にはもう戻りたくない。

何かいい仕事はないだろうか。どれもこれも18才以上からだ。
もうすぐで16才になるが、それでもまだ2年以上経たないとちゃんとしたところへは就職出来ない。

またファストフード店でバイトしようか。
でも住むところがない。
寮が完備してあるところじゃないと、住むところが無く、野宿になってしまう。

それか父親のマンションがまだ売られてないのであれば、しばらくはあそこに住んで通うことにしようか。

オレは手持ちの金がいくらあるか財布の中を見た。現金で二万八千円ある。

通帳にはいくらか使ったが、まだ80万程は残っている。

そうだ、高校に入学しようとしたときに目をつけていた学校の裏にあるワンルームマンションに引っ越そう。
保証人は誰がいいか?母親?それは無理だ。鴨志田?今どこで何やってるのかさえわからない。
となると頼めるのは兄しかいない。

だが兄には父親の葬儀の時に、これ以上オレとお前は会うことがないとまで言われたのだ。

だれか保証人になってくれる人はいないものか。

鴨志田が一番の適役だが、今どこで何をしているのかさえ不明だ。

あれ以来、どこへ行ったのだろうか。

くそっ、何でこうもオレには人脈がないんだ。

あぁ、いい臭いのするラーメンだ。

ん?そうだ、ラーメン屋になるのはどうだろうか。

…いや無理だな。また途中で先輩の理不尽なイヤがらせがあるだろから無理ってもんだ。

仕事が楽で、寮があって…無理だな。

これなら良いんだが、現実は甘くない。
そうだ、あのマンションはまだ売りにだしてないはずだ。

オレは母親に電話した。

「もしもし、亮輔だけど」

【あら、もう仕事は見つかったの?】

流石に2日で辞めたなんてカッコ悪くて言えない。

「あのマンションは売りにだしてないよね?」

オレは話をはぐらかした。

【そうね、今色々と手続きとかあるから】

「いや、あのマンションにはまだ荷物がいっぱい残ってるし、色々と整理したいから、売りにだすのはもう少し待ってもらえないだろうか?」

オレの読みが当たればあのマンションにはまだ鴨志田の荷物がいっぱいあるはずだ。

【いいけど、どのくらい必要かしら】

少し考えた。一週間じゃ短すぎる。

1ヶ月…最低でも1ヶ月は必要だ。

「とりあえず1ヶ月ぐらい待ってもらえないかな?あれこれと処分したり荷造りとかしなきゃなんないから」

【ふーん、まぁいいわ。それより亮輔、たまには帰ってきてね。お母さん、いやアタシは亮輔のオチンチンが欲しいの、ね、たまには帰ってきてね】

この女、頭の中はオレのモノしか興味ないのか…

まぁいい、とりあえず話を合わしておこう。

「そうだね、それに一人で飯作ったり何だかんだと面倒だからたまには飯食いに行くよ」

【ところで、あの女はどうしたのかしら?亮輔知らない?】

知るワケがない。あの日以来マンションに戻ってきてないのだから。

「こっちが知りたいぐらいだよ。先生の荷物だってあることだし」

【フフっ亮輔、アナタはあの女とアタシ、どっちがお母さんだと思う?】

そんな話しはどうでもいい!要は生みの親が鴨志田なら、育ての親はこの女だろ!

「誰って、ついこの前まで先生が母親だと思ってなかったし、今さら母親だと言われてもピンとこない」

オレは少し苛立ちながら、早く電話を切りたいと思っていた。

【じゃあアタシが亮輔の母親ね。アナタはいつでもこのお母さんに甘えに来てもいいのよ。もしなんなら、今からお母さんのオッパイでも吸いにくる?フフっ】

インターネットカフェの個室とはいえ、隣の部屋の音なんか丸聞こえだ。

「わ、わかった、とにかくちょっとやらなきゃならない事があるから切るよ、またそっちに行くから、じゃあね」

オレは少し慌てながら電話を切った。

一旦、父親のマンションに戻ろう。

オレは深夜にインターネットカフェを出て、ここからそれほど遠くない父親のマンションまで歩いていった。

ネットオークションで売り捌く

こうから勝手に話を持ち込んでオレが受け入れたのが間違いだと思っている。
そして金欲しさに母親の目の前で何度も何度も実の親子がセックスをするなんてバカげている。

金の為ならなんだってやるのか。

今頃鴨志田は何をしているのかは解らない。
ここへ戻ってこれないという事は、鴨志田の身に何かあったのだろう。
教師という職まで捨ててどこで何をしているのか。

もしかしたら悪徳な金貸しに捕まり、危険な目に遭っているのかも知れない。

だが、連絡が取れない以上、どうすることも出来ない。
どうせこのマンションは売っ払ってしまうんだ。

だったらこんなブランド物は荷物になるだけだ。

オレが考えたのは、どうせ職もまともに見つからない、だったらこのブランド物をオークションにかけて売ってその金でしばらくは何もしないで暮らしていけるぐらいにはなるはず。

オレはまずネットオークションのサイトを開き、バッグを売りに出した。

ブランドの事はよくわからないが、それでも欲しがる人が多く、結構な金額になった。
続けて靴や服、アクセサリー類を立て続けにオークションにかけた。

部屋の中にあるブランド物を全て処分するには1ヶ月ぐらいの期間が必要だとオレの中で計算した。

その読みは当たり、3週間が経過した頃にはほとんどの品を売りにだした。

だが、オレもオークションなんて初めてやるから、ブランド物の値段がいくらするのかよく分からないが、400万程の金額を手にする事が出来た。

これはしばらくオレが居場所を転々とする為の費用と食費に充てるつもりだ。

一体元値はいくらしたんだろうか?
それほどまでに高価な品だったのだろう。
お陰で部屋中にいっぱいあった品は無くなり、父親がいた頃の広々とした洋室に戻っていた。

これでもうこのマンションは売りに出しても大丈夫だろう。
オレは母親に連絡し、約束通りマンションを出るから売りに出してもいいと連絡した。

【亮輔、あの女の持ってたブランド物はどう処分したの?】

「どうって、まぁ色々とやって…」

オレは口ごもった。どうやってごまかそうかと。

【売りに出したんでしょ?あなたのやることは全てお見通しよ、フフっ】

知っていたのか。

まぁ別に隠しておく事もない、処分するっていっても粗大ゴミに出すワケにはいかないから。

【それとね、あの女の居場所がわかったわ】

っ!鴨志田の事か?

「先生はどこにいるんだ?」

【先生?あんな女、もう教師じゃないでしょ?あなたのお母さん、いやお母さんはアタシね。あなたを産んだあの女はソープで働いているみたいよ】

ソープ?ソープってソープランドか?

「はぁ、何で?先生辞めてそんなとこで働いてんのか?」

鴨志田がソープで働いている…
僅かな期間とはいえ、一緒に住んで快楽を求めた間柄だ、鴨志田は何でそこまで堕ちたのか。
やっぱり金の為か…

【どうやらあの女、ヤミ金にまで手を出してたみたいね。この前、あなたと一緒に来てセックス見せてもらった時に渡した金でビジネスホテルを転々としていたけど、見つかってソープに沈められたゎ。顔はそれほど良くないけど、あの大きな胸で今頃は男を悦ばせているんじゃない?】

「…」

仕方ない、こうなったのも元はと言えば鴨志田の浪費癖が原因なんだ。

堕ちるとこまで堕ちたワケという事だ。

「とにかくオレはこれで部屋の荷物は全て片付いた。後は任せるよ。その売った金を受けとるなり何なり勝手にやっといてくれればいい」

オレはほんのつい最近まで制服を着て学校に通っていた身だ。
それなのに、イヤと言うほど大人の醜い世界をみせつけられた。

我ながらよく病まずに平気でいられるもんだ。

いや、病んでる間もない。オレはこれから一人で何とかやっていかないといけない。

【それより今からこっちに来ない?お母さんあなたのオチンチンで突かれまくりたくてさっきからあなたの声を聞いて、もうこんなに濡れてるの】

受話器で花弁を広げクチュクチュと指を入れている音を聞かせた。
このヤリマン女が!とも思ったが、オレも快楽主義者なのだろう、返事をして母親のいるマンションへ向かった。

寸止めプレイ

母親のいるマンションに着いた。
もう母親とは数えきれない程、交わった。
なのに、オレは母親の色香に誘われる如く、母親を求めに行く。

あらかじめ部屋のカギを持たされたオレはドアを開けた。
すると母親はSMの女王様の様なボンテージスタイルで待っていた。
黒のエナメルが光沢を放っているかのように妖しく美しく感じ、鴨志田程ではないが、大きく形の良い両方の乳房が露になっているスタイルに、早くもオレは勃起してしまった。

「さぁ、亮輔、服を脱いでこの椅子に座ってちょうだい」

リビングには一風変わった赤い椅子があった。
前に来たときはこんな椅子は無かった。

背もたれがあり、座る部分が二股に別れていた。
そして椅子の脚の所には拘束するために鎖で繋がれており、オレは全裸のままその椅子に座り、手足を拘束された。

「さぁて、今日も亮輔の美味しいザーメンをいただくからいっぱい出すのよ」

いつもの様に肉棒を咥え始めた。
そして肛門に妙な刺激を受けた。

「うっ…」

この椅子はアナルを責める為に座る部分が二股になって、ソープランドでいうところのスケベ椅子みたいな作りになっていた。

「フフっ、どう?お尻の穴も気持ちいいでしょ?」

オレは前立腺を指で刺激され、味わった事のない快感に酔いしれていた。

母親はオレの股の下に入り込むように顔を上に向け、アナルに舌を這わせた。

「あ、あぁ…いぃ」

恥ずかしながら思わず声がでてしまう。

そして玉や裏筋を時にはソフトにそして激しく責め立てる。
オレはあっという間に、快感が上り詰め、イキそうになった。

「あぁ、イク、出そうだ」

すると母親は口を離し、玉を揉みながら耳元で吐息を吐きながら囁いた。

「今日はまだイッちゃだめ…ガマンしてガマンして、それでいっぱい出すのよ…ガマンした分、最高の気持ちよさでいっぱいザーメン出しなさい」

蛇の生殺し状態だ。

それからまた母親ははげしくジュルジュルと音を立ててフェラをしながら指でアナルに刺激を与える。

するとまたイキそうになる。

上目遣いで咥えながら出そうになるのを見計らってまた口を離す。

そしてまた咥え、乳首を指で刺激され、今までこんなに硬く勃起したことはないんじゃないかと思う程にビンビンに勃っていた。

母親はまた椅子の下に入り、下でアナルを刺激し、手で肉棒をしごいた。

今度こそイキそうだっ!

するとまた手を休める。

もう頭がおかしくなりそうだ…

何度繰り返されたのだろう。

何も考えられない、寸止めを何度もされ、オレの身体は全身が性感帯の様に敏感になっていた。

どのくらい時間が経ったのかわからない。30分か、一時間かもう何が何だかわからなくなり、オレは絶叫していた。

「あぁ、変になりそう!頭が真っ白だぁ~っ!」

それでも母親は責めたり休んだりの繰り返しで、オレは物凄い脱力感に陥った。

「亮輔、イキたい?」

肉棒をしごきながら母親が上目遣いで妖しい笑みを浮かべる。

「い、イキたいっ!お願いだっ、イカせて!」

「ならばお母さん大好きと言って…そしたらご褒美あげる」

この淫靡な雰囲気に耐えきれずオレは

「お母さん大好き!大好きだよっ!」と叫んでいた。

母親にコントロールされながら大好きだと言わされてしまった。

そして母親はオレに口づけをして肉棒をしごき、乳首を舐め、徐々に下に行くように舐めていった。

それから裏筋をチロチロを舐められ、亀頭を吸われ、一気に激しく咥え、ジュポジュポと音を立て、よだれを流し、同時にしごいてきた。

「あぁ、出る、出るっ!出ちゃうよっ!」

母親は激しく咥えながらコクンと頷き、口内で舌を動かし、さごく速さを増し、ビクンと身体が動いた。

身体中が物凄い快感を突き抜けてオレは口の中におびただしいザーメンをぶちまけた。

ビクンビクンと動く度に何度もザーメンを吐き出し、口いっぱいに発射した。

母親はあまりのザーメンの量の多さにむせてブハッと口からザーメンをこぼした。

オレは身体全体の力が抜けてまるで魂まで吸い取られたかのように動く気力すらなかった。

「亮輔、凄く良かったでしょ?この気持ちよさを味わったらもうあなたはアタシとしかできない身体になったのよ…」

残りのザーメンを喉を鳴らしながらゴックンと飲み干して母親はオレを抱き寄せた。

もうオレには発射する精力がない。

一生分のザーメンを放出したかのような突き抜ける快感の余韻に浸っていた。

振り出しに戻る

しばらく放心状態が続き、その後オレは深い眠りについた。
目が覚めた時、既に真夜中になっていた。

横には先程のボンテージファッションに身を包んだ母親が添い寝をして、オレの頭を撫でている。

「亮輔、1人で暮らすなんて言わないでここにいてちょうだい。ここにいればさっきみたいな気持ちいい事いっぱいしてあげるから…」

オレは何故かその言葉に安らぎを求め、母親の乳房を揉み、赤ん坊のように吸い付いた。

「いい子ね。お母さんと一緒に暮らしましょう。あなたはアタシの1番の宝物なの」

乳房を吸われながら母親はギュッとオレを抱きしめた。

ここで暮らそうか…しばらく何もしなくていいし、生活の事も何の心配もない。

母親の言うとおり、オレは母親じゃなければあんな気持ちいい事は他の女では味わえないだろう。

だが、どうしても独り立ちしたい。
でもあの気持ちよさはまた味わいたい。

こんなことで葛藤してるのはオレぐらいだろう。

散々迷ったが、快感の方が勝り、オレはしばらく母親の所でやっかいになることにした。

鴨志田の品をオークションで売った金は全てオレの金として自由に使いなさいと言われた。

父親が残したくれたマンションの買い手が見つかり、近いうちに入居する予定らしい。

ここから逃げたしたくていつも足掻いていた中学時代、オレは母親の魔の手から逃れる為に父親のもとを訪ねたが、結局振り出しに戻った。

でも今思えば、ここが1番居心地が良い。

お釈迦様の手のひらで動き回っていた孫悟空みたいなものだ。

母親は普段は専業主婦と変わらず家事をやり、ご飯の支度もしてくれる。

だが、生まれついての性なのか、無性にオレを求めてくることが何度もあった。
中学の頃は汚らわしくて、罪悪感さえ感じたが、今では母親兼セフレという奇妙な関係で仲良く暮らしている。

友達が欲しい…

どこでどう歯車が狂ったのか分からないのだが、生まれた時からこんな非現実的な毎日を送る事になっていたのだろうか?

母親は夜の商売の人間から成り上がり、今では実業家になり、それなりの地位を築き、多忙な毎日を過ごしているが、必ず夜には帰って来て、オレに夕飯を作ってくれる。

身体の関係はあるものの、誰が何と言おうとオレの母親であることには違いない。
もしかしたらオレはマザコンなのかも。

もし仮に母親に新しい恋人が出来たら、オレは嫉妬するだろう。
そして別れろと母親に言うであろう。

それまでは母親の性欲処理の道具みたいな感じに思っていたのだが、今では母親以外と身体を交わるなんて事は出来ない。

兼ね備えた母親の虜になってしまい、今では母親無しの生活なんてあり得ない程、狂おしく愛していた。

だが、その一方で、オレは退屈をもて余していた。
だからオレは友達が欲しかった。

学校を辞め、ニートになったオレに友達など作れるはずがない。

このジレンマに悩まされ、夜になると母親にこの葛藤をぶつけるかのような激しいセックスマシーンと化した。

知らず知らずにオレは母親に調教されていたのだ。

でもそれはあくまでも夜の出来事で、昼間のオレは1人で退屈する毎日を過ごしている。

誰でもいい、どんなヤツでもいい、年齢も問わない、何でも話が出来る友人が欲しい。

金はあっても、人との繋がりが一切無いオレにとって、この金は何の為にあるのだろうか、何の為に使うのだろうか。

虚しい、こんなにも1人でいることの淋しさを今まで感じた事がない。

金はある、性欲の処理も満たされている。
でも、気心の知れた友人がいないのはこの世で1番悲しい事なのではないかと。

学校を辞めてから、会話をした人物は母親しかいない。

母親は何もしなくていいから、家にいればいいと言うが、オレだって外に出て、人並みに遊んでみたい。

どうしたら友人が作れるのだろうか。
とにかく外に出て、友人になれそうな相手を探すか。
でもきっかけが無い。

どうすりゃきっかけが作れるのだろうか?
まさか外に出て、すれ違う人々に「友達になってください」なんて声をかける事など出来ない。
仮にそんな事をしても、相手は気味悪がって逃げていくに違いない。

そうなるのやっぱりSNSに頼るしかないのか。
オレは片っ端からSNSと呼ばれるようなサイトに登録した。

中には出会い系サイトみたいな胡散臭いのもあった。

オレは友人が欲しい、色々な話が出来る仲間が欲しいと掲示板に書き込んだ。

すぐにヒットしてその内容を見ると、ほとんどが女で、援助を求めているような書き込みだった。

今のオレには女なんていらない、女は母親だけで十分だ、オレが欲しいのは男同士で話が出来る相手だけだ。

焦っていたオレは、飯や酒を奢るから話し相手になってくれる男性を探しています、と書き込んでみた。

すると何通かのメールがきて、内容を見ると、ゲイのヤツらが勘違いして送ってきた。

あの書き方だと、ゲイだと思われるのか、オレはどう書き込んだらいいか、どう書いたら仲間が作れるのか。

色々と考えてみたが、これといった案が浮かばない。

仕方がないので、今の状況を素直に書き込んでみた。

【僕は15才で、恥ずかしながら高校を中退し、現在はニートです。こんな生活のせいか、僕には友人と呼べる人がいません。もし可能ならば、僕と友人になってくれる人を募集しています。年齢や職業、学生の方でも構いません。こんな事を書くとゲイじゃないかと思われるかも知れませんが、至ってノーマルです。ただ話し合える男性の方を探しています。出来れば会って食事などしながらお互いの事を語り合いたいです。勿論、その時は僕がご馳走するので、少しでも興味がある方がいたらメールください、待ってます】
と書き込んだ。

どうせ会うんなら、どっかで飯でも食いながら話せばいいと思っていた。
金はあるからこっちが払えばいいことだし、その為に会ってくれるならいくらだって高級な店でも構わない。
飯を餌に釣ろうだなんてこれっぽっちもない。

ただ仲間が欲しいだけだ。

後は誰かがこの書き込みを見て、メールが来るのを待てばいい。

オレはメールがこないかとPCの前でずっと待っていた。

兄を見過ごすワケにはいかない

結局いくら待っても返事は来なかった。
やっぱりダメなのか…

こんな部屋でいつまでも悶々としてるより外に出た方がいいかも。
気分転換に外へ出た。

久しぶりの外出だ。
こうして見ると、今まで見ていた街の風景が少し新鮮に感じる。
だが、頭の中ではどうやって友人を作ろうか、そんな事ばかりだった。

それによく考えてみたら、オレには趣味と呼べるものはない。
何か趣味を見つけなければ。
そうすればそれがきっかけで仲良くなれるだろう。
でもどんな趣味にしようか?
もうすぐで16になるからバイクの免許を取ろうか。
バイクならば絶対に好きなヤツがいるに違いない。

でもオレ自身がそれほど単車に興味がないし。
ならばアニメとかマンガか。
そうか、それならば共通の相手が見つかるはずだ。
そんな事を頭に思い浮かべながら、夕方の繁華街をブラブラと歩いた。

ふと、繁華街の横にある狭い道に入った。
確かここは風俗街みたく、色々な風俗店が軒並みに並んでいた。
風俗か…金出してまでセックスなんてしたかないな。

その細い道を歩いていたら、横にあったソープランドから1人の客が店を出ていたところだった。
入り口にはソープ嬢が客を見送っていた。

あれ?鴨志田じゃないか!大きな胸をパックリと開いたドレスのようなのを着ていた。
教師だったころに比べれば随分と派手な雰囲気に変わっていたが鴨志田に違いない。

「…あっ」
鴨志田はオレと目が合い、思わず声を上げた。

「先生…」

まさかホントにソープ嬢になっていたとは…

すると店から出た客がオレらの声を聞いて振り返った。

「あっ!お前っ!」

腰パンの後ろのポケットに長財布を入れ、プリントされていたシャツを着て少しロン毛でシルバーアクセサリーを身に付けていた客は兄だった。

オレは足早に通り過ぎようとした。

「おい、待てよ。何シカトしてんだよ」

兄はオレの腕を掴み、立ち去ろうとしたオレを引き留めた。

「外で会っても声かけるなって言ったのはそっちだろうが」

忘れもしない、父親の葬儀の際、財産の事で独り占めにしようとしていた兄はオレに「今後一切オレに会っても話し掛けるな」
と言い放ったの事を。

鴨志田はオレと兄のやりとりを店の入り口で見ていた。

よりによってこの二人に出くわすなんて思いもよらなかった。

「いいからちょっと待てよ、お前に話があんだよ」

相変わらず虫酸が走るようなチャラい格好したヤツだ。

「何の話だ、オレはアンタとは赤の他人じゃないのか」

腕を振りほどこうとしたが、兄は離さない。

「ここじゃなんだからちょっと店でも入って話をしようぜ」

ニヤけたその顔は何か企んでいそうな感じだ。

仕方なしにオレは兄と一緒に近くにあるコーヒーショップに入った。

「お前金持ってるか?」

唐突に兄がカウンターでオレに聞いてきた。

「オレさっきの店で金使い果たしたからここの金払ってくれよ」

どこまで図々しいヤツなんだ。
オレはコイツに1番安いブレンドのコーヒーの代金を払った。

そしてほとんど客のいない喫煙席に座り、ポケットからタバコを取り出し火を点けながらプハーっと煙を吐き出した。

オレはタバコなんて吸わないからこんな席から早く立ち去りたい。

兄はトントンとタバコの灰を灰皿に落としながら鴨志田の事を聞いてきた。

「お前、あの女と知り合いか?」

「別に、人違いだろう」

「何か隠してねえか?」

「何もねえよ」

コーヒーをぐいっと飲みながら兄は今度は父親のマンションの事を聞いてきた。

「お前、オヤジのマンション売っ払ったらしいじゃねえか。その金どこにあるんだよ」

コイツ、父親の保険金やら遺族年金等いっぱい貰っておきながらまだ金が必要なのか。

「お前、その売った金はどこにある?」

「知らねえよ、後の事はオフクロに頼んだよ」

「お前、何勝手に売ってんだよ?あのマンションの持ち主はオヤジが亡くなった時、オレの所有になってんだよ。どこに隠した、金は?」

「そんなもんオフクロに聞け。それよか散々オヤジの残した金まだあるだろ。それで十分じゃないか」

「そうはいかねえ。あの財産は全部ギャンブルや女に使ってもう無ぇんだよ。だからお前が責任をとって売った金額さっさとよこせ」

兄は父親からかなりの額の財産をうけとったはずだ。生命保険や企業年金、その他会社から受け取った父親の為の補償金らしきものを全て使い果たしたという。

どうやったらそんな短期間で莫大な金を散財したのだ。

オレはまだ世の中の事をよく知らない15のガキだ。なのにギャンブルや女遊びだけでそんなにも使い果たしてしまうのだろうか。

兄は態度を急に変え、オレに訴えかけるように懇願した。

「…いや悪かった。ついムキになってしまった。あの時は悪かった」

先程までの傲慢な態度からうって変わったかのようなしおらしい表情になり、オレに頭を下げてきた。

「あの時は目の前の金の事ばかり考えていた。だけどしばらく経つと、オヤジの事が後からジワジワと頭の中で浮かんできてな…オレはオヤジとはよくケンカして、あんなくそオヤジさっさと死ねばいい、なんて思って、高校を卒業して大学に入学したと同時にあの家を出たんだ。オレはオヤジから一切の援助を受けずにひとり暮らしをした。だけどな、まさかホントにオヤジが死ぬなんて…」

兄は父親が異国の地で銃弾に倒れた事がショックだったらしい。
そして葬儀で初めて弟であるオレの姿を見て、動揺していたらしい。

兄は兄で、バイトをしながらギリギリの生活をして、学費も捻出していたという。

弟のオレが急に現れて、兄は父親の遺産をオレが受け継ぐものだと思い、ついカッとなってオレに冷たくあたったのだ、だからあの時の事を許して欲しいと懇願した。

「気持ちはわからないでもないが、だからといってそんな事であっという間に金を使い果たすなんておかしいだろ?それとこれは別問題だ!」

少し兄に同情したが、どうせ思いもよらない大金を手にして遊び呆けていたに違いない。所詮は泡銭だ。

兄は沈んだ表現でポツリポツリと語り始めた。

「お前にはわかんないだろうな。何せほんの少しの間しか一緒に暮らしてないだろうからな。だけどオレはまだ小さい頃にオフクロと別れてオヤジに連れられ、それから18になるまで一緒に暮らしてきたんだ。
何度ケンカしたか覚えてないが、オレにとっては子供の頃、オヤジが慣れない手つきで飯を作ってくれたりしてなぁ…後からこんな事もあった、あんな事もあったなんて考えていたら少し自暴自棄になっていたせいか、もうどうにでもなれ、とばかりに金を湯水のように使い果たしてしまった。
分かるか?金じゃないんだよ、どうやったらあの事を忘れられるか、アテもなくフラフラとさまよっているうちに少しでも気を紛らわしたかっただけなんだ。そして気がついたらこんな有り様だ…」

兄はオヤジの忌まわしい出来事を忘れたいがために1人でいるのがイヤで金を使い、憂さ晴らしをしていたのだという。

まてしや殺されたなんて、そのショックは計り知れない。オレがもし母親が殺されたら同じようにショックを受けて自暴自棄になるだろう。

そう考えると兄が不憫に思えてきた。

「ところで」

兄が思い詰めたかのような顔してオレに何かを話そうとしていた。

「さっきのあの女、ソープ嬢なんだが、知り合いなのか?確か先生とか言ってたけど」

言うべきか、迷った。

「あの女に相手にしてもらったけど、頭の中でオヤジの事が離れられなくてな。結局最後まで出来ないで、終わってしまったよ…」

ハハハッと弱々しい笑いをして兄は天を仰いだ。

「なぁ、オフクロは元気か?」

兄は三才の頃に父親に引き取られて以来、会ってないという。

兄からしてみれば、母親は唯一の肉親だ。

「会ってみてえなぁ。まだ物心つく前に離れてしまったからな…」

「もし会いたいのならオレがオフクロに言ってみようか?」

オレは兄がこんなにまで弱ってしまっているのを見過ごすワケにはいかなかった。

「そんな事出来るのか?」

兄の表情が急に変わった。

「うん、だってオフクロが生んだ子供はアニキじゃないか?オフクロだって会ってみたいと思ってるはずだよ」

「そうか…じゃあ、悪いがオフクロに会わせてもらえないだろうか?」

兄はオレに頭を下げた。少なくともこの店に入って何度もオレに頭を下げていた。
それだけ兄が孤独なのだろう、オレも友達がいない今、兄の気持ちはよくわかる。

「近いうちに会えるようにしておくよ」

何だか兄と打ち解けたような気がしてオレは少し嬉しかった。

「悪いな…で、さっきの話だけど、あの女は一体何者なんだ?」

ここまで腹を割って話たんだから、隠す必要もないだろうと思い、鴨志田の事を兄に話した。

「高校の教師だったのか…悲しいもんだな、金に惑わされてソープ嬢になるなんて」

確かに兄の言うとおりだ。

さすがに鴨志田が実の母親だという事は言えなかったが、それまでの経緯を兄に話した。

「そうか、オフクロがあの女の借金を肩代わりしたのか…」

「…うん」

「ふざけたヤローだな、金の無心ばかりして、挙げ句にはソープ嬢に堕ちたのか。お前の担任でこんな事言うのは申し訳ないけど、自業自得だな」

そうかもしれない。

鴨志田はヤミ金に追われ、身柄を拘束され、ついにはソープ嬢にまで堕ちた。

「なぁ、亮輔、オレあの女に一言文句をいってやりたい、いやもしかしたらぶん殴ってやりたいぐらいだ!」

兄が怒りに満ちた顔でオレに顔を向けた。

「殴ったらさすがにマズイよ。でも文句言うって言っても、また店に行かないと会うことは出来ないんじゃないかな?」

そうでもしない限り、兄は鴨志田に会うことは出来ないだろう。

「そうなんだよな…でももうオレ金無いしな。ただこのままじゃ気がすまないんだよ」

オレは少し迷ったが、手持ちの金は50万以上あった。

どうせ持ってても何も使わない金だ。

オレも鴨志田に会って話をしてみたいが、15才じゃソープになんて行けやしない。

オレは兄に当面の生活費代わりの足しにしてくれと、その金を渡した。

「いいのか、亮輔?オレこんなに金貰っても返すアテがないんだぞ?」

「いいよ、別に返してもらおうだなんて思ってないし。後はこの金で生活費の足しにしてすればいいじゃん?」

オレは笑みを浮かべ、兄に金を渡した。

「亮輔、すまない、ホントにありがとう!」

何度も頭を下げ、兄は金を受け取った。

そしてオレら兄弟はコーヒーショップを出て連絡先を交換してから別れた。

「お前も何かあったら遠慮なく連絡してくれ」

兄は手を振って、繁華街の細い路地の先にある駅に向かっていった。

これでいいんだよな…オレなんかがあんな大金持っても仕方ないんだ。

何か良い事をしたようなちょっと嬉しい気持ちでオレはまた繁華街を少しうろついてから家路に着いた。

母親からの援助

兄と別れ、その晩はいつもの如く、母親と全裸になり交わった。だが、いつもなら性欲にまかせ、母親の秘壺にいきり勃った肉棒をガンガン突くのだが、兄の事が気になり、集中できない。

母親を正常位で突きまくっていた時、気弱な顔を見せた兄の事が頭から離れなくなり、急に萎えてしまった。

「えっ、どうしたの?まさか中折れ?これじゃ中年のオヤジじゃないの…」

母親はしらけきったのか、全裸のままソファーに寝そべり、タバコに火を点けた、

白い煙がゆらゆらと舞い上がり、まるで揺れ動いているオレの感情みたいな煙だ。

「亮輔、どうしたの今日は?何かあったの?それとも他所で他の女と…?」

母親はベッドに寝そべっていたオレに対し、ジッとオレの顔を見つめていた。

「どうやら他所でヤッてきた感じじゃないわね。何か悩み事でもあるのかな?」

途端に母親は柔和な顔つきになり、オレに寄り添い、張りのある乳房をオレの顔に押し付けるように抱き寄せ、頭を撫でた。

【母親に会わせてもらえないだろうか?】

兄のこの言葉が頭から離れない。

兄は母親の実の息子だ。10数年も会っていないが、我が子の事を忘れた時などないだろう。オレは母親に兄と会った事を伝えた。

「夕方、ちょっとブラブラ外に出たんだけど、その時にアニキと偶然会ったんだよ」

母親は少し驚いた様子で
「アニキ?まさか達也の事?あの子と会ったの?」

オレはさっきから兄の事で胸の中のモヤモヤをかき消すかのように、兄と会い、会話の内容を話した。

「そう、あの子お父さんが亡くなったショックがまだ離れられないのね…」

「確かアニキが小さい時に離ればなれになったって言うけど、それからアニキとは1度も会ってないの?」

オレは母親がアニキの事を聞かされた事は1度もなかった。

そんな素振りさえ見せず、兄という存在すらいないかのように母親はオレに接してくれた。

「何度も会ったことはあるわ。だってアタシの実の息子よ。あ、亮輔だって実の息子よ、アタシにとっては」

更に母親はオレをきつく抱き締めた。

「でもアニキはオフクロと会ったことは無いと言ってたよ」

「ううん、あの子にはわからないように影で何度か見かけた事があるの。ホントは達也と亮輔が一緒に暮らさなきゃならないはずだったのにね…ゴメンね亮輔」

「いや、もうそんな事はどうでもいいよ。オレだってアニキに会ったのはまだ2回しかなかったけど、よっぽどオヤジの事がショックみたいで、何もヤル気が起きないらしいんだ。で、アニキに頼まれたのは、オフクロに会いたい、会って話がしたいってかなり落ち込んでいたよ。
だからアニキと会ってやってくれないかな?」

母親はオレの髪をかき上げ、おでこにキスをした。

「そうね、亮輔にそこまで頼まれたら会うしかないものね。いいわ、今度達也をここに連れてきて」

「ホントに?」

「ええ、もちろんよ。だって亮輔のお兄ちゃんだもんね」

何だかようやく胸のつかえが取れた気がして、乳房に顔を埋めていたオレはまたムクムクと勃起し、母親の太ももに押し付けるかのように大きくなった。

「あ、やっと大きくなった。亮輔は達也の事が心配で集中出来なかったのね。あなたはホントに達也の事が心配だったのね…」

母親はオレの両足の間に入り、オレの顔を見つめながら咥えた。
ホッとしたのと、快感が押し寄せ、あっという間に口内へ発射してしまった。

「んふふ、急に元気になったと思ったらもうイッちゃうなんて…なんかいつもより量が多いわね」

口に出された精子を飲み込み、また咥えだし、一滴残らず吸い出そうと亀頭の先端を舌ですくうように舐めていた。

「…あ、くすぐったいよ」

射精したばかりの亀頭は敏感になって、気持ちいいというよりは、くすぐったい。

でも不思議に思うのは、精子って味するのか?母親はいつもオレの精子を飲んでいるが、どんな味なんだろうか。

「ねえ」

「…ん、なぁに?」

「精子って美味しいの?」

1度聞いてみたかった。

「んー、そうねぇ、味がしなかったり、苦かったりして決して美味しいもんじゃないかなぁ」

母親はまたオレに添い寝してきて、口の周りについた精子を指で拭うように舐めた。

「今日の亮輔の味はちょっと苦いかな」

「何で飲むの?普通そんなの飲まないでしょ?」

また身体を寄せ合い、母親は慈母のような優しい顔でオレ目を見つめ、囁くように話した。

「それはね、お母さんが亮輔の事を愛してるからなの…亮輔の事が大好きで大好きだから飲めるの…ンフフッ、可愛いわね亮輔は」

思えば中学の頃は毎朝母親のフェラで起こされた。布団に潜り込んで、朝勃ちしていたオレの肉棒を咥えて口内に発射するのが日課のようになっていた。

毎朝射精して学校に通っていたのはオレぐらいなもんだろう。

オレは母親の言うとおり、いつもより精子の量が多かったせいか、そのまま抱き合うような形で眠りについた。

翌日、オレは兄に連絡し、母親と会える日取りを決めた。

兄はいつでも構わないと言ったが、母親のスケジュールもあってか、3日後に来るように伝えた。

そして当日、兄は家にやって来た。
玄関のドアを開けると、いつものチャラい格好ではなく、ネクタイをしていないものの、上下のスーツ姿で現れた。

玄関口で憔悴しきっていた兄だったが、リビングに上がり母親の顔を見て、気恥ずかしそうな顔を浮かべていた。

何せ久しぶりの再会だ、母親はニコッと笑い、兄と抱き合った。

「随分と立派になったわね。お母さんはあなたの事をずっと気にかけてたのよ」

「…は、はい」

「お父さんの事で色々と大変だろうけど、これからはいつでもここに来てね。あなたはアタシの息子なんだから」

「…わかりました。」

兄はかしこまった様子で頭を下げた。

「それじゃ今日は兄弟初めて一緒にご飯を食べる記念の日だからいっぱいご馳走つくったの。達也、遠慮しないでいっぱい食べなさい」

キッチンにはこれでもか、というばかりの料理を母親が作り、3人で食べた。

母親は終始笑顔で、兄は少し照れながらテーブルにあった料理を次々と平らげた。

これでいいんだ。ようやく兄にも笑顔が戻った。
オレはそれだけで満足だった。

「達也、生活はどうしてるの?」

母親も兄の生活の事は気にかけていた。

「とりあえず、まだ大学生だけど、学費を稼がないとならないし、ギリギリだけど何とか生活はしています…」

「だったら学費の事はお母さんに任せて。本来ならあなたはここに住むべきなんだけど…ちょっと色々とあってね。だから亮輔と二人で暮らしてるの。一緒に住めなくてゴメンね…だからあなたには住む場所も学費も何もかもがお母さんが援助するから、いくらでも言ってちょうだい」

そう言うと母親は、兄に通帳と印鑑、キャッシュカードを渡した。

「お父さんのマンションを売ったお金なんだけど、これはあなたが持ってなさい。住む所も近いうちに探してあげるから。もう何も心配しなくていいのよ」

兄はそれを受け取り、深々と頭を下げた。

「ありがとう、お母さん…」

「そうよ、アタシはあなたのお母さんなんだから、困った事があったらいつでもいらっしゃい」

「…はい、わかりました。ではまた来ます。亮輔、ありがとうな」

兄はそう言って玄関で靴を履き、一礼してドアを開けた。

…ん?気のせいか、今一瞬ニヤっとし、口元をゆがませたような?

多分、母親からの援助を受けて、嬉しかったんだろう。
少なくとも、オレはそう思っていた。

歯車が狂い始める

母親はその後、兄が住む場所を手配し、学費等の援助をしていた。
母親としては、実の息子と幼い頃に別れ、今まで会わなかった事への罪滅ぼしのような形で兄を経済的に楽にしてあげたが、兄にしてみれば、今さら母親面して援助してもらってるが、母親の事などどうでもよく、ただ単に金づるという考えしかなかったようだ。

ただ、それを知るのはまだ先の事だった。

オレはオレで、兄がこうして母親と再会を果たしたわけだし、母親の仕事の後を継ぐのはオレじゃなく、血の繋がった兄が継ぐべきだと考えていた。
オレは仕事を継ぎたくないってワケではないが、兄がいずれ仕事を継いだ際、サポートする役割でいいと思ってた。

だからオレは母親に
「オフクロの仕事を継ぐのはオレじゃなくアニキに継がせた方がいいんじゃないか?オレはその下でアニキを助けるような形でいいから」
と母親に話した。

「亮輔はお母さんの仕事の後を継いで社長になりたくないの?」

「別に社長だとかそんな事はまだ早いし、オレよりアニキが継ぐべきだろう」

今のオレにそんな欲はない、ただ仲間が欲しいだけだ。

友達のいない生活なんてあまりにも空しすぎる。

母親はオレに寄り添い、頭を撫で抱き寄せた。

「それでいいの?達也がお母さんの仕事を後を継いでもいいの?」

「構わないよ。だって実の息子じゃん。オレが継いだら変だろ、やっぱり」

「…そう、わかったわ。じゃあ達也が後を継いであなたは達也をサポートするような役目をしてもらおうかしら」

「…うん、それでいいよ」

「あぁ、何てお兄ちゃん思いなの亮輔は。だからお母さんはあなたの事を愛してるのよ」

オレの股間に手を伸ばし、ズボンの上から撫でてきた。
そしてチャックを下ろし、少し大きくなった肉棒をパクリと咥えた。

「お母さん、あなたのオチンチンをしゃぶってる時が一番の幸せなの」

上目遣いで喉奥まで肉棒を飲み込み、ジュルジュルと音を立て、舌で亀頭を刺激しながら手はオレの乳首を刺激するよう指で撫でたりつまんだりしてきた。

あっという間に肉棒は最高潮に固くなり、母親は全裸になってオレに上に乗っかり肉棒を花弁の中にゆっくりと射れ、激しく腰を動かした。

「あぁ、亮輔、いいわぁ、もっと下から突いて!」

母親はアンアン言いながらオレに覆い被さった。
そしてオレは状態を起こし、向かい合いながらピストンした。

母親はオレの背に手を回し、快感に打ち震えていた。

更に体位を変え、正常位で突きまくり、オレも快感がマックスに達し、膣内に激しく精子を放出した。

「はぁ、亮輔…今日はいつもより少し早くイッたわね。そんなに気持ちよかったのかしら、フフっ」

母親はハァハァと息を切らせながら再びオレを抱き寄せた。

…何か違う。いつもより快感が得られない。
このセックスに慣れて、もっと刺激を求めているのか、それとも少し飽きがきたのか。

こうしてオレと母親が肌を合わせている頃、兄は鴨志田のいるソープランドに足繁く通い、毎回鴨志田を指名した。

兄は鴨志田を指名するが、ソーププレイはほとんどせずに話だけをするのみで帰ってしまう。

兄は鴨志田を利用して母親の会社を乗っ取ろうと画策していたのだ。
そのために毎回鴨志田を指名し、何度も話を持ちかけた。

初めは全く聞き入れなかった鴨志田だが、ヤミ金からの借金返済の為にソープに沈められた事や、母親に援助を求め、満足の得られる額じゃないために返済に滞り、身柄を拘束されたのは母親のせいだと言わんばかりの怒りをぶちまけるようになり、兄と鴨志田の利害関係が一致し、手を組むようになった。

兄は兄で母親の会社を乗っ取り、根こそぎ財産を奪おうとし、鴨志田は鴨志田で、兄が会社を乗っ取った際に、何割かの報酬を貰い、借金を返済して晴れて自由の身になるという考えがあった。

そんな事を知らずにオレたちはベッドで裸で抱き合い、夜を過ごした。

兄の策略

世の中には、罪を犯す者と、犯される者がいて、誰もが前者にも後者にも成りうる。

兄はその後も何度か家を訪ね、母親も交えて3人で仲良く飯を食ったりして親睦を深めた。
そしてオレも兄の住んでいる家を訪ね、色んな話をした。

兄の住んでいる家は、新築のワンルームマンションで、その土地や建物の持ち主は母親だという事を後から聞かされた。

母親はキャバクラやクラブ経営で得た利益で土地を購入し、マンションを建てたみたいだ。

オレは相変わらず、退屈な昼間をもて余していた。
SNSで何度も話し合える仲間を探したが、中々相手が見つからず、唯一の話し相手が兄だった。

最初に会った頃の兄とは違い、よく笑い、よく喋る気心の知れた存在になっていった。
そんな兄にオレは相談事もしていた。


友達が一人もいなく、どうやったら友達が出来るのかという悩みを打ち明けたりしていた。

「そう焦るな、仲間ってのは自然と出来るようになるんだ。お前にもきっといい友人が見つかるって」

兄は笑い飛ばしながらオレを時には励ましたり、諭すような口調で色々とオレの愚痴を聞いてくれた。
オレの中で兄は頼りがいがあり、優しくてオレの心を開けるような存在になっていった。

オレと違い、社交的な兄は色々な場所へと誘ってくれた。
普段の高校生が放課後に過ごすような遊びもして、オレの心に光を灯してくれる良き兄だった。

ある日、家でテレビを観ている時に兄から連絡がきた。
どうやらオレに会わせたい人物がいるので、今から来ないか?と言われ、オレは兄の家へと向かった。

そしてドアを開けると、満面の笑みを浮かべた兄がオレを招き入れた。

部屋には兄と同じように少しチャラい格好をしてるが、中々のイケメンがソファーに座っていた。

「紹介するよ、オレの大学の仲間で小島。そしてこいつが弟の亮輔だ、ヨロシクな」

その小島という男がペコッと頭を下げ
「小島です、ヨロシク」と爽やかに挨拶した。

オレは「はじめまして、弟の亮輔です。兄がいつもお世話になってます」と言い、頭を下げた。

「亮輔、この小島は色々と遊びを知ってるヤツだ。お前の事を話したら、是非会ってみたいというから連絡したんだよ」

「亮輔くん、良かったら仲良くならないか?オレでよければ色々と遊びに連れてってあげるよ」

そんな事を言う人物は今まで誰一人としていなかった。

オレはようやく仲間が出来るかもしれない、そんな気分で心が踊っていた。

「じゃあ、早速だけど出掛けようぜ」

兄が外出の支度をし、3人で外に出た。
小島という人は兄と同じようによく話し、よく笑う明るい感じのタイプだった。

「じゃあ今からボーリング行かねえか?お前も家にばかりいるから身体が鈍ってくるだろ?ボーリングやってカラオケやって飯でも食いに行こうぜー」


兄はオレと小島の間に入り、肩を組むようにして歩いた。

「亮輔くんボーリングのスコアはどのくらい?」

小島が気さくに話しかけてきた。

「えーっと、あんまやったことないんで、100いくかどうかです…」

「そうか、じゃあ今日はボーリングでストライクの取り方を教えるから行こう」

「あ、はい」

いいなぁ、アニキはこんな友人がいて。

そんなオレの心を見透かすかのように兄はオレの肩に手を置き

「小島、ボーリングスゲー上手いんだぜ。お前も教えてもらえよ、絶対上手くなれるよ」

少しテンションが高めの兄はオレと小島の橋渡し的な役をしているのだろう、いつしか歩きながらオレは小島にも打ち解け、仲良くアミューズメントセンターへと着いた。

ボーリングが上手いというだけあって、小島はストライクを連発する。

オレはガーターや、精々7,8本ピンを倒すぐらいだった。

「亮輔くん、投げるんじゃなく転がすようにして、立ち位置は真ん中よりちょい右か左で投げてみてごらん」


第37章兄の策略

言われた通り少し右寄りに立ち、転がすように投げた。

バコーン!という音を立ててボールは全てのピンを倒した。

「やったじゃん!ストライクだよ、こんな感じで投げりゃいいんだよ」

「亮輔、小島いいヤツだろ?たまには二人で会ったりしたらいいんじゃないか」

イエーイとばかりにハイタッチしながら兄はオレに言ってきた。

楽しいな、オレはこういう事をする機会が無かった。

小島が教えてくれたせいか、スコアは初めて100を越えた。

その後、カラオケで歌いまくり、小島と別れた。別れ際に連絡先を交換し、また遊ぼうと言った。

帰り道、兄はオレに「アイツどうだった?」
と聞いてきたので、オレは

「うん、スゴく好い人だったよ。また一緒に遊びたいよ」

オレは嬉しくなり、小島が仲間になってくれる、年齢は向こうが上だが、気さくに話しかけてくれるので、オレは初めて友達を得た気がした。


兄はその後、時間がある時は、オレを誘い、小島と3人でボーリングやらカラオケ、飯に誘ったりしてくれた。

そんな嬉しそう様子を見て母親も満足そうにしていた。

そして母親は兄を自分の会社の後継ぎとして、仕事に連れて行ったりして、顔を覚えさせようとしていた。

母親に付いて、関係者にこの子が将来、後を継ぐのでよろしくお願いします、と挨拶をして回っていた。

母親は大学卒業後には、右腕となり、様々な事を学ばせ、次期社長として活躍してもらうには、今のうちにある程度、顔を知っておく必要があるとの事で、学業の傍ら、母親の側で色々な事を吸収してもらおうというビジョンを描いていた。

オレはオレで、母親が兄と一緒にいる時間が多くなったせいか、セックスの回数は減ったが、今は小島という友人を得て楽しく過ごしている。

以前なら、母親とのセックスの虜になっていたオレは、兄に嫉妬していたかもしれないが、セックスなんかいつでも出来る、それよりも小島と一緒に出かけ、遊び回る方が楽しい。

年上で、兄と同じ社交的な性格の小島は、オレをクラブや居酒屋等につれて、大学の仲間を紹介してくれたりして、徐々に人と接する機会が増えてきた。

居酒屋とかクラブといっても、オレは未成年なので、アルコールは一切口にしない。

ただ、小島が連れてくる仲間の弟的な存在として可愛がってもらった。

こんなにも楽しい時間が過ごせるなんて、人生で初めてだ。

オレは毎日が楽しくなり、夜な夜な繁華街へと繰り出すようになった。

母親も色々と神経を使っているせいか、帰ってきてもセックスはほとんどせずに寝てしまう日が多くなった。

次第にオレは夜遊びを頻繁するようになり、母親とはすれ違いな日々を送るようになった。

この頃、兄は学業と母親と一緒にいる時間の合間に、鴨志田と店で密会し、会社を乗っ取ろうとしている計画を練る為、段取りを進めている最中だった。

邪悪な野心

達也の視点

ーーーーーーーーーーーー

「ねぇ、ホントに大丈夫なんでしょうね?もし失敗したらどうするつもり?」

ここは鴨志田のいるソープの個室。

達也は週に2,3回、多いときで4回店に訪れ、鴨志田を指名する。

鴨志田の源氏名は皐月(さつき)、年齢は28と詐称している。

ここは比較的、年齢層が20代半ばから30代前半のソープ嬢が在籍しており、比較的値段は相場よりやや高めの高級志向のソープランドだ。

皐月こと鴨志田は、始めのうちは不慣れで、色々な男の肉棒を咥えるのに抵抗があった。

しかし、ヤミ金に追われ、身柄を拘束された挙げ句にこの店に沈められたのだ。
鴨志田が生きていくには、ソープ嬢という選択肢しか無かった。

逃げ出す事も出来ない。次第に慣れてきたのか、観念したのか、どんな男の肉棒も受け入れるようになった。
そこへ達也が現れるようになったのは偶然の出来事だった。

そして帰りに出口で達也を見送る際に、亮輔と達也が話し込んでるのを目撃した。
全てが偶然による産物だった。

その頃、達也は父親の残した財産を、ギャンブルやキャバクラ、風俗等でほとんどを使いきり、借りていたアパートの家賃はおろか、学費すら満足に払えない状態だった。

金が無ければ何とかして金を作らないと。
しかし、いきなり父親の財産を手にした達也にとって、今さら働いて金を稼ぐなんて事は微塵もなく、ギャンブルで一儲けしようと思ったものの、あぶく銭のように懐に入った金はそんな甘い考えで金が増えるはずもなく、目減りしていく日々だった。

どうせならパーっと全部使って、無くなったら無くなったで、その時考えればいいという刹那的な考えで入ったソープに鴨志田がいた。
少し金額は高いが、鴨志田の大きな胸と、慣れてきたソーププレイに骨抜きにされ、達也は鴨志田の虜になった。

残りの金額は後僅か。
それでも達也は鴨志田の豊満な肉体が忘れられなかった。
また指名をしたいが、とてもソープなんて行ける金じゃなかった。
その帰りに、亮輔とバッタリ会った。
達也は初めて亮輔と会った時に、お前のホントの父親はあの男じゃない、だからお前に財産分与をする必要もない、と追い払った。

弟の存在は知っていたが、まさか自分が大学に入る時、入れ違いで亮輔が父親と一緒に過ごすなんて思ってもみなかった。

弟は母親の下で暮らしているという事しか知らなかったからである。

その時、達也は全財産を貰う代わりに、亮輔があのマンションに住むという条件を飲んだが、いざとなればあのマンションに住み、亮輔を追い出し、売っ払ってしまおうと計画していたが、亮輔は既に母親に頼み、マンションを売りに出していた。
それを知らずに達也はマンションに戻ろうとしたが、既に買い手が見つかり、他の住民が部屋に住んでいた。

(あのヤロー、何勝手な真似してんだ、ふざけやがって!)

頼みの綱が無くなり、もうどうにでもなれ、とばかりに僅かな金を握りしめ、鴨志田を指名した。

その帰りに亮輔とバッタリ会い、その後は亮輔と共に、ソープの近くにあるコーヒーショップに入り、亮輔に当面の食費代として一万か二万ぐらい借りるつもりでいた。
だが、カウンターで会計をしている時の亮輔の財布をチラッと見た時に、かなりの札が入ってるのを見逃さなかった。

達也は一芝居しようと、亮輔に対し、あの時はすまなかった、と謝罪し、父親が亡くなったショックで自暴自棄になり、財産を使い果たしたと、ウソをついた。

まだ子供な亮輔は達也を不憫に思い、また亮輔も金はあるが、話をしてくれる相手がいないという事から、これからはオレをホントのアニキだと思って、今までの事は水に流そうと情に訴えかけ、最終的には亮輔の財布にあった50万程の金額をうけとった。

これに味をしめた達也は、頻繁に亮輔に会う事になり、良き兄を演じ、亮輔の悩みをイヤな顔ひとつせずに黙って聞いて、ときには励ましてくれたりして、亮輔にとっては、かけがえのない、偉大なる兄を敬愛し、何でも話せる間柄にまでなった。

達也にしては好都合で、亮輔から母親の事を色々と聞き出し、現在は実業家として地位も名誉も手に入れた人物になっていたことまで聞き出した。

(あのくそオフクロ、葬式にもろくに顔にも出さなかったテメーのどこが母親だ!)

達也は母親を恨んでいた。

表向きは母親や亮輔にいい顔をしているが、内心はあの二人を追い出し、自分が会社の実権を握るという野心に燃えていた。

亮輔から鴨志田の話も聞き出した。
さすがに亮輔は鴨志田の実の子という事は話さなかったが、ただの生徒と教師だった二人が何故、一緒に生活するのだろうか。

不審に思った達也は、母親に上手く聞き出そうとしていた。

「あの、オレと亮輔って兄弟だけど、あまり似てないっていうか。オレが以前、オヤジに聞いたのは、お母さんが他の人との間に出来た子供が亮輔だと言われたんだけど。
オレ、どうしてもそれが信憑性に欠けてるような気がして…
ホントのところはどうなのかな?」

「…お父さんがそんな事言ったの?」

母親は少し表情を曇らせ、話そうかどうしようか迷った。

だが、いずれは解ることだろう。
母親は達也に、これは口外しないという約束で、亮輔の出生の秘密を話した。

「実はね、亮輔はアタシの子供じゃないの…」

「…えっ?」

「貴方は知らないと思うんだけど、亮輔の高校の担任だった教師が大学生の頃にお父さんと関係を持って…最初はあの女に堕ろすように言ったわ。でもあの女、お父さんと同時に当時の常務だった鴨志田という人の養子縁組を結んだんだけど、要はその常務の金狙いだったのよ。
しかも、お父さんとの間に亮輔を生んで…
アタシは本来、亮輔を引き取るつもりはなく、達也、あなたを引き取るつもりだったの。
でも、その鴨志田って常務は社長とただならぬ関係らしく、アタシは結婚する前に社長の秘書をして…まぁ秘書兼愛人だったんだけどね。

そして常務と養子になったあの女は勝手に亮輔を生んだの!
本来ならあの女が亮輔を育てるつもりだったのよ!
それなのに…常務が社長を通じて、アタシに亮輔を引き取るように言われたの。
最初は断ったわよ、勿論。なんで他所の女の子供を引き取らなきゃならないんだって。

そしたら社長、常務にはどうやら過去に色々な事で汚れ役をやってもらった事があって、常務には頭が上がらなかったみたい。
詳しい事は解らないけどね。

で、アタシは既に離婚するつもりでいたんだけど、社長に頼まれ、どうしても引き取って欲しい、それなりの援助はするからって事で亮輔を引き取る事になったけど、援助をしてくれたのは最初のうちだけだったわ。

でも、おかげで水商売やってたアタシに援助してくれる人が現れてお陰で店を持つようになったんだからね。

いいんだか、悪いんだか、よく解らない人生ね、ホントに」

成る程、亮輔はあのソープ嬢の息子だったのか。

野心に満ち溢れた達也はまず手始めに鴨志田に近づき、協力を得るように、何度も店に足を運んだのだ。

説得

母親から援助を受けた達也は、再び鴨志田のいる店に入り、彼女を指名した。

個室で待機していると、鴨志田が入ってきた。

達也はソファーでふんぞり返り、ニヤっとした。

鴨志田はバツが悪そうな表情を浮かべたが、すぐに仕事の顔に戻り
「ご指名ありがとうございます。皐月です。よろしくお願いします」
と言って義務的な口調で達也に三つ指ついて挨拶した。

「今日はヤリに来たんじゃないよ。少し話をしようと思ってね」

達也は亮輔や母親から鴨志田の事を色々聞き出す事が出来た。

「話とはなんでしょうか?」

あくまでも冷静に鴨志田は対応した。

彼女は達也と亮輔が店の前で何かを話していたのを目撃していた。

何か言い合ってるようにも見えたが、こんな場所をかつての教え子であり、実の子である亮輔に見られた後ろめたさにすぐに踵を返し、店内に入った。

(あの二人、知り合いだったの?)


何の話をするのか大体の予想はついている。

亮輔が自分の事を話したに違いないと思っていたからだ。

「聞いたよ亮輔から」

(やっぱり…)

しかし鴨志田は、あくまでも冷静を装い、義務的に達也の前に膝まづいて、ベルトを外そうとした。

「いや、今日はいいよ。ちょっといい話をもってきたんだ」

達也は鴨志田の手を払い、彼女を目を見て話を切り出した。

「オレに協力してくれないかな?」

「…何の協力でしょうか?」

怪訝そうな顔をして鴨志田は達也の顔を見上げた。

「そんなとこに座ってないで、ここに座ればいいじゃん」

達也は自分の隣に座るように促した。

「言いたい事は解ってるわ、聞いたんでしょ、彼からアタシの事を」

義務的な態度から一変して、バッグからメンソールのタバコを取り出し、足を組ながら白い煙を吐いた。

「実はね、オレ、亮輔の兄なんだ」

一瞬鴨志田の顔色が変わった。

「えっ…古賀くんの?」

「あぁ、まぁ正式には腹違いの兄弟ってとこだ。アンタにはこの意味解るよな?」

達也は鴨志田の肩に手を回した。

「だったらどうだって言うのよ!これ以上こんな話するなら店の人呼ぶわよ!」

鴨志田はキッと睨み付けるような顔で達也から離れた。

「まぁ、待てよ。それを知ってのうえでアンタに話をもってきたんだ。店のヤツラを呼ぶなら呼んでもいい、ただオレの話を最後まで聞いてから呼んでもいいじゃないか」

達也は余裕たっぷりの態度で鴨志田に話を続けた。

「アンタ、ウチの母親に恨みがあるだろ?どうだ、オレと組んでオフクロの会社乗っ取らないか?」

何を言ってるんだ、この男は?というような顔を浮かべ、バカバカしいとばかりにタバコの火を消した。

「何を言い出すかと思ったら…こんな女捕まえて会社乗っ取る?呆れて何も話すことはないわ。何もしないんだったら、帰ってくれないかな?それにアナタ年いくつ?こんな坊やの戯言に付き合ってる年じゃないのよ、アタシは」

所詮はガキの浅知恵、鴨志田は相手にしなかった。

「オレは今年から大学に通って今は19だ。確かにアンタから見たらオレはガキだろう。だかな、オレはどうしてもアンタと手を組みたいんだよ」

見下すかのように話す達也の態度に鴨志田は嫌悪感を露にした。

「もう結構、店の人呼ぶから帰ってくれる?」

鴨志田は壁際にあるフロントに通じる電話に手をかけた。

「しょうがねぇな。じゃ帰るとするわ」

達也は立ち上がり、部屋を出ようとした。

「せっかくアンタが知りたがってた情報を持ってきたんだが、これじゃ話す事は出来ないな」

達也はドアノブに手をかけた。

「ちょっと待って!何なの、知りたがってた情報って?」

鴨志田は電話をとるのを止め、達也の情報とやらを聞く為に、引き留めた。

達也はニヤニヤしながらまたソファーに座り、ポケットからタバコを取り出した。

鴨志田はライターで火を点けようとしたが、達也は自分で持っていたライターで火を点けた。

「オレは今から全部アンタに肚の中を話そうと思っている。信じる信じないはアンタの勝手だ。とにかく今思ってる事は、あの母親から会社をブン取る。そしてアンタはその右腕として働いてもらいたい」

「随分と野心のある話ね。でも今のアタシがここから抜け出せるとでも思ってるの?やっぱり聞いて損したわ」

鴨志田はこの世間知らずの19の大学生の話に付き合う必要もない、これ以上は時間のムダだと思った。

「じゃあ、1つ聞くが、アンタなんで雲隠れしてた時にヤミ金のヤツラに見つかったか解るか?」

えっ、どういう事?鴨志田は達也を問い詰めた。

「アナタ、何か隠してるわね…一体何を隠してるの!」

「はっきり言おう、アンタの居場所をヤミ金にチクッたのはあのオフクロだ」

…鴨志田は言葉を失った。

「ちょっと、それどういう事?あの女が何でそこまで知ってるのよ?証拠はあるの?」

信憑性のある話だが、まだ腑に落ちない様子だ。

「考えてもみなよ。あのオフクロ、元々は水商売上がりの女だぞ。それがどうやってのしあがってきたか。この先は言わなくても解るよな?」

「…バックに誰かいるって事?」

「じゃなきゃ、ただのホステスがどうやって今じゃ何店舗も経営する実業家になってると思ってんだよ?後ろ楯が無きゃそこまで大きくならないだろうが」

鴨志田は千尋に借金を肩代わりする為に、目の前で亮輔と何度もセックスをした。
が、それに見飽きた千尋は、鴨志田の要求する額よりも低い金額しか貰えなかった。

その為に鴨志田はヤミ金から逃げるように、ホテルを転々とした。だが最終的には捕まり、膨れ上がった利息を含め、数百万の借金返済のためにソープに沈められた。

脳裏に千尋が見下したような冷ややか眼が頭をかすめ、沸々と怒りが込み上げてきた。

「で、こっからが本題だ。オレもあの母親は憎い。お互い憎い者同士手を組まないか?」

達也に聞かされ、鴨志田の内心は穏やかじゃない。

だが、どうやって乗っ取るというのだ。

自分はこの世界から逃げる事など出来ない。
とても返済できない額を背負わされ、このままソープ嬢として生きていくしかない。

「確かに…あの女は憎いわ!でもね、どうやって乗っ取るというの?それにアタシは一生この世界から足を洗う事ができないの!常に監視されながらソープ嬢として生きていくしかないのよ!それをどう協力しろと言うの?」

達也は待ってましたと言わんばかりの顔をして鴨志田に問い掛けた。

「アンタ、その借金って今いくら残ってるんだ?」

「もう分からないわよ!利息がどんどん膨れてこの店に売られたんだから!」

「じゃあ、こうしよう。アンタの借金が今いくら残ってるのか確認して欲しい」

「そんな事聞いてどうすんのよ!」

確かにいくら残っているのかは鴨志田自身も解らない。
だが、この世界から抜け出せるものなら抜け出したい。

「もし、オレがアンタの借金全額肩代わりしたらオレに協力してくれないか?」

「はっ、バカバカしい!未成年の大学生がそんなお金あるわけないでしょ!」

達也は鴨志田の両肩をガシッと掴んでじっと眼を見つめた。

「オレは今、母親の下で会社の後継ぎとして色々と仕事のノウハウを吸収している最中だ。オレが大学卒業と同時に、本格的にオフクロの右腕になるよう、今から各方面の関係者に顔を知ってもらってるところだ。それとな、アンタが亮輔と住んでいたマンションはオフクロが売っ払った。おまけに部屋にあったアンタのブランド品は亮輔が全てネットオークションで全部売り払った。これはウソじゃない、全部ホントの事だ!」

真剣な眼差しで鴨志田を見つめ、達也は説得した。

鴨志田は部屋に残っていたブランド品が全て亮輔によって売られていた事も知り、愕然とした。

すると達也は急に思い出したかのように周囲をキョロキョロし始めた。

「…この部屋って、盗聴器とか隠しカメラ設置されてないよな?」

「…そんな事は聞いたことないわ、それより今の話ホントなの?」

ウソであって欲しい、鴨志田は微かな希望で達也に問いただしたが、無惨にもその思いはかき消された。

「全部ホントの事だ。アンタのブランド品を売り払ったのは亮輔だが、それを吹き込んだのはあのオフクロだ。アンタは何もかもあの女によって全てを失ったんだ。だからこの話はアンタがいないと成り立たないんだ、頼む、力を貸してくれ」

達也は頭を下げた。鴨志田に話した半分は彼の作り話だ。
しかし、鴨志田には十分効果的な話だ。

「…で、アタシは…何をすればいいの?」

鴨志田は達也が救世主になってくれるのなら、という思いで達也の話を聞いた。

「まず始めにアンタを晴れて自由の身にする。だからいくら借金が残ってるのか確認するんだ」

「いくらって、アナタそんなお金どこから出せるのよ?」

「あのオヤジが住んでたマンションをオフクロが売って、最初は亮輔に渡そうとした。だが、オレはその間に亮輔の前では良き兄を演じて、オフクロも今じゃオレの事をすっかり信用しきってる。で、オレは今、オフクロの援助を受けながら大学に通ってる。勿論、あのマンションを売った金もオレが貰うようになった。だからまずはアンタがこの世界から足を洗わなければ計画はパーだ。次に来るまでに借金の額を把握して欲しい」

達也は鴨志田を説得した。

人を騙したり、陥れたりするのは生まれもっての才能なのか、それとも今まで培ってきた経験なのか。

鴨志田は達也をすっかり信用しきった。
まずは鴨志田を懐柔する事に成功した。
後は彼女の借金を肩代わりし、自由にさせてから、入念に打ち合わせをしよう、達也は目的の為なら手段は選ばない。

「さて、そろそろ時間だな。次は多分2日後にはこれそうだ。それまでにいくら借金あるのか聞き出して欲しい」

そう告げて、達也は部屋を出た。

(よし、とりあえず第一作戦は成功しつつある)

達也は内に秘めた思いを隠し、店を後にした。

積年の恨み

達也は2日後にまた店を訪れた。

勿論、鴨志田を指名した。

そして部屋で待機し、間もなく鴨志田が現れた。

ブルーのラメ入りドレスに胸元が開いたトレードマークの巨乳を強調したスタイルだ。

「どう、いくらなのか解った?」

達也はソファーから立ち上がり、鴨志田の手を引いてソファーに座らせた。
鴨志田は少しうなだれながら頭を抱え、ため息をついた。

「それがね、店長に聞いてもいくらなんだか分からないっていうのよ。何か上手くはぐらかされたような感じ」

「マジかよ?いくらなのか知らねえなんてあり得ねえだろ」

達也も深々とソファーに座り、腕を組んで考えた。


「ねぇ、やっぱり無理があるよ、この話。仕方ないけどここで頑張るしかないゎ…」

力なく鴨志田はため息を繰り返す。

「そうはいかねえ、アンタだってここを出て自由になりてぇだろ?金なら心配するな。だが、問題はいくら借金が残ってるのかだ」

ヤミ金の連中は鴨志田をソープに沈めて、その金額を店側が払っている。

多分、ヤミ金のヤツラは手を引いているだろう。
いや、もしかしたら逃げないように鴨志田を監視している可能性もある。

よし、とばかりに達也は切り出した。

「これで話をつけよう」

人差し指を一本立てた。

「えっ、一本て…」

「1000万だ。いくらアンタが借金したからって、そこまでの額にはなってないはずだ。次に用意してくるから、アンタはその金を叩きつけてここを抜けるんだ」

「そりゃお金出せば納得してくれるけど…このままタダで済むってワケは保証できないでしょ。アタシ1人じゃ、上手く話を丸め込まれそうで…」

もうすぐ自由は目の前だ。だが、鴨志田は一抹の不安を感じた。

「この店のバックはヤクザだよな?」

達也は前方にある浴槽やマットを見て穏やかな口調で話しかけた。

「アタシも深くは知らないけど、多分そうでしょうね」

鴨志田は自由になれる喜びよりも、不安な気持ちの方が強かった。

「ならば人をたてよう、そしてアンタとその人物の二人で金を出せば問題ないだろう」

「まさかヤクザを使うの?」

目には目をっていう事なのか、鴨志田が余計に不安な表情を浮かべた。

「ホントはそうしたいんだが、ヤツラに借りは作りたくない。こうなったら弁護士をたてよう」

「弁護士?弁護士がこんな危ない話の案件に乗るとでも?」

鴨志田は達也の手を握り、本当なの?と言わんばかりの顔をしている。

「弁護士といっても色んな弁護士がいる。世の中には金さえ出せば何だってやってくれるヤツラがいるんだ」

達也はバッグから新品のスマホを取り出した。

「今度からこのスマホに連絡する。これ以上、ここでの会話は危険だ」

達也は鴨志田にスマホを渡した。

「用心にこしたことはない。この作戦は必ず成功させるんだ。失敗は絶対に許せない」

達也は鴨志田の目をジッと見つめ、今まで見たことがないような眼光で彼女に話した。

鴨志田もこの真剣な眼差しに、本気なんだと思い、スマホを受け取った。

「これから弁護士を探しに行く。何かあったらこれで連絡する。会話が出来なきゃ、メールやLINEでも構わない。それまで少しの間だけ辛抱してくれ」

「少しって、どのくらい?」

「少なくとも1週間は待って欲しい」

覚悟を決めた達也の顔は以前のようなチャラいイメージは無く、キリッとした精悍な表情で鴨志田を説得した。

「1つ聞いてもいい?」

鴨志田が達也の膝に手を置いて聞いてきた。

「なんだ?」

「何でそこまで自分の母親を憎むの?仮にもアナタはあの女の実の息子でしょ?一体何が原因なの?」

達也は一呼吸置いてから話を切り出した。

「考えてもみなよ。何であの女がオレを引き取らないで亮輔を引き取ったのか。
本来ならオレを引き取るべきだろう。
まぁ、アンタ達の思惑があってそうならざるを得なかったんだろうが、その間あの女は1度たりともオレの前に姿を現さなかった。そりゃ亮輔を育てて忙しいのも解る。でもな、テメーが腹を痛めて生んだ息子に会ってみたいとは思うだろ、普通は?
だが、あの女はそんなことすらしなかった。
オレの事を影から何度も見て、目の前に現れたかったなんて言ってるが、ホントかどうか解りゃしねえ。

おまけにオヤジが死んだ時、葬儀にも顔を出してこねえ!
そりゃ確かにオレはオヤジとはソリが合わなくて、高校卒業と同時に家を出た。
でもそのオヤジが海外でしかも銃で打たれて殺されたんだぞ。

あの女が来ねえ代わりに亮輔が来たが、アイツがオレの弟だったなんてその時初めて知った。

オレはオヤジが亡くなったのと、今まで見たことねぇ弟が現れて頭がパニックになった。

しかも、あの女、オヤジが死んだって伝えたら、一言、そう、亡くなったの。
それだけだ、まるで他人事みたいな言い方しやがって!
で、今さらノコノコ出で来て母親だ?ふざけんじゃねぇってんだ。

で、挙げ句には今までの罪滅ぼしとして金をくれた。ただそれだけだ。金はいくらあっても問題はねぇ、だが、今までの事を金でキレイさっぱり水に流そうってのはオレには納得がいかねえ!
だからオレはあの女に復讐するためにアンタと手を組もうと思ったんだ」

達也は時折語気を強めて捲し立てるかのように鴨志田に母親への恨みを語った。

「そう、そんな事があったの。アナタもその若さでかなり大変な思いしたのね」

鴨志田はガバッと達也を抱き寄せた。

「解ったわ。アタシもあの女には少しお返ししたいと思ってたの。何せこの有り様だからね。教師からソープ嬢に堕ちたなんて、これ以上の屈辱はないわ」

ここで完全にお互いの利害関係が一致した。

「オレはとにかく弁護士を探す。中には法律スレスレの危ない事も引き受ける弁護士だっているんだ」

「うん、解ったわ。じゃあなるべく早く連絡ちょうだい」

「もちろんだ、とにかくアンタをここから出さないと計画は始まらない。オレは逐一連絡を入れる。アンタは返事が返せる時に返してくれ」

達也も鴨志田も覚悟を決めた顔つきでしばし見つめ合い、達也は時計を見て、そろそろ終了の時間だとばかりに部屋を出た。

達也は何としてでも弁護士を見つけ、早々に鴨志田をここから出すことだけを考え、奔走した。

水面下での行動

達也が真っ先に向かったのは興信所だった。
本来ならネットで調べる事も出来るが、信憑性に欠ける。

達也が探して見つけた興信所は、繁華街の裏通りに面した古いビルの一室だ。

この界隈はいかにも危険な雰囲気が漂っていた。
だが達也にとってはむしろ好都合だった。

案の定、室内に入ると、とてもカタギには見えない中年のオヤジに気の弱そうな若者、そして恰幅のよい初老の3人が色々な調査をしていた。

達也は単刀直入に、どんな仕事でも構わない、多少の汚れ役を引き受ける弁護士を探して欲しいと伝えた。

金に糸目はつけない、だから早めに見つけて欲しいと言った。

期間は4,5日以内に見つける事、それが達也の出した条件だ。

そして達也は何食わぬ顔をして、母親と同行し、仕事のノウハウと関係者への挨拶回りをこなした。

亮輔と違い、社交的な達也は関係者筋からすぐに顔を覚えられ、中々の好青年ぶりを発揮した。

そして頭の中で、母親の行動パターンを何度も見て把握するようにした。
帰りの道のルートや些細な事までチェックした。

達也はまず、亮輔と母親を分断させる行動に出た。

この二人は一緒にいる時間が多い。
それは部屋で激しく互いの身体を貪り合っているから、必然的に一緒にいる時間が多くなる。

達也はこの二人が肉体関係を持っている事は知らないが、とにかく一緒にいる時間をなるべく少なくさせようとして、大学の友人である小島を使って、亮輔を頻繁に連れ出すように伝えた。

勿論、小島にもいくらかの謝礼を渡して。

亮輔はそんな達也の企みを知るはずもなく、小島に誘われればホイホイと出掛けた。

亮輔は話し合える仲間が欲しかった為、母親と夜はセックス三昧に耽っていた日々から次第に小島と一緒にいる時間の方が多くなった。

母親は達也が亮輔を不憫に思い、友達を紹介してくれ、徐々にイキイキとした顔に変化していくにつれ、しばらくは遊びを容認してくれるようになった。

「アナタが友達を紹介してくれたお陰で亮輔は前と比べて随分と明るくなったわ。達也、ありがとうね」

裏では会社を乗っ取るという計画も知らずに母親は達也に全幅の信頼をおくようになっていった。

「母さん、アイツはまだ15で夜遊びなんかしちゃいけない年齢だけど、オレの友人は亮輔に変な遊びを教えるような事はしてない。
今のアイツには友達と一緒に何かをしているのが1番楽しい時期なんだ。
だから少しぐらいの事は目をつぶってもらえないだろうか?遊ぶといっても、ボーリングやカラオケしたり、車に乗せてもらってドライブしたりするぐらいだが、アイツはまだ未成年だから、そういう変な事はしないって約束で亮輔と会わせたんだ。
だから亮輔の楽しみを奪わないで欲しいんだ。なぁに、そのうちまた家にいる時間の方が多くなる、今のうちに遊ばせておいた方が今後の社会勉強にもなるじゃないか」

達也は爽やかな笑みを浮かべ、母親と共に、外回りをして、いくつかの経営している店舗の状況や売り上げ、そして更に店舗を増やす為に、繁華街をリサーチして母親の右腕として、頼もしく様々な経営手段を吸収していった。

「この調子なら大学卒業する前に店を達也に任せようかしら?でも、もう少し経ってからね。それから徐々に経営学を学んで卒業と同時に正式に会社の社員として、いえアタシの秘書として即戦力として期待してるから頑張ってね」

母親は上機嫌で頼もしく成長した達也を見て、嬉しそうに将来のビジョンを語った。

「いや、まだ覚えなきゃならない事がありすぎてまだ任されるような立場じゃないよ。とにかく今は色んな関係者に会って、顔を覚えてもらって、経営のノウハウも覚えて、おまけに学校にも行かなきゃならないし、やることが多過ぎて頭がいっぱいいっぱいだよ」

達也は謙遜して少しはにかんだ表情を見せた。

「そうね、大学だけはキチンと卒業しないとね。ゴメンね達也、ただでさえ忙しいのにこういう事まで手伝ってくれて」

「大丈夫、母さんには色々と面倒見てもらってるからこのぐらいはしないとね」

ひとしきり繁華街をチェックして二人は車に乗り込んだ。

運転は達也がした。

「ちょっと運転大丈夫なの?免許取ったばかりでしょ?気をつけて運転してよね」

助手席で母親は少し不安そうな顔をしていた。

「大丈夫だって、ここら辺の道はよく通ってるから、近道も知ってるんだよ。母さんももし1人で運転するような時はこの道を覚えておいた方がいいよ」

達也は繁華街から少し離れた暗く人通りが無く、歩道は木に囲まれた道を通った行った。

「なんだか暗い道だけど大丈夫なの?」

母親は窓の外を眺め、細くて暗い夜道を覚えようとしていた。

「ここはね、滅多に人が通らないんだ。それに周りが木に囲まれてるでしょ?こんな夜道に出歩く人なんていないよ」

達也は軽快なハンドルさばきでスイスイと細くて暗い夜道を走っていった。

しばらくすると大通りに出て、あっという間に家に着いた。

「ホントね、随分早く着いたわ。今度からあの道で帰れば時間が短縮できそうね」

母親は助手席から降りてマンションの入り口へと入っていった。

「お疲れ様、遅くなったけど大丈夫?よかったらご飯でも食べていかない?」

エントランスのオートロックのキーを差し込み、母親は達也を部屋に入れようとした。

「いや、これから勉強しなきゃなんないから。じゃ車は駐車場に停めておくよ。
というワケで、また明日よろしくお願いします、社長」

「フフッ、社長だなんて。でもアナタは今は学業が優先だから。無理な時はいつでも言ってね」

「うん、大丈夫。じゃ、おやすみなさい」

「気をつけてね、おやすみ」

母親はエントランスの自動ドアを開け、奥へと消えてった。

(よし、これでかなりの信頼を得た。後は興信所からの連絡を待つだけだ)

高層のマンションを見上げ、ニヤっと笑みを浮かべながら達也は駐車場に車を置き、マンションから少し離れた場所で、鴨志田に渡したスマホに連絡を入れた。

もう店は終わり、部屋にいる頃だろう。

鴨志田は店が寮代わりとしてつかっているアパートの一室に住んでいた。

(いきなり電話かけて、側に誰かいたらマズイかも)

達也は電話じゃなく、LINEで今電話しても大丈夫か?と送った。

すぐに返信が来て、大丈夫だというコメントだった。

達也は鴨志田に電話をかけた。

「もしもし、お疲れさん。今のところ順調だ。もう少しで返事がくるところだ」

【ねぇ、弁護士見つかったの?】

「いや、この前興信所に行って、どんな仕事でも引き受ける弁護士を早急に探して欲しいと依頼した。2,3日中には返事が来る事になっている」

【興信所?なんでそんなとこに頼んだの?】

「自分の足で探すより手っ取り早いからだ。それに今、オレはオフクロと行動を共にしてる時間が多くて中々探す機会がない。だから興信所に頼んだんだ」

【で、アナタはその間何をしているの?】

「オフクロと亮輔を分断させるように手を打ってある。なんせあの二人、一緒にいる時間が多すぎるからな。知り合いに頼んで亮輔をつれ回して遊びに連れてってくれって頼んである。こうすりゃあの二人が一緒にいる時間が少なくなるからな」

【だって会社を乗っ取るんでしょ?別に古賀くんがいても何の障害にもならないでしょ?】

「いや、アイツが側にいると色々厄介だ。とにかく興信所から連絡が来たらすぐに紹介してくれる弁護士の下へ行く。申し訳ないがそれまで待ってて欲しい」

【…ねぇ、何かヤバい事企んでない?何か事件になるような事じゃ…】

「事件か…まぁ事件っちゃ事件には違いないな。でも心配することはない。まずはアンタが1日でも早く、あの世界から足を洗う事が先決だ」

【…わかったわ。その代わり弁護士が見つかったら早く連絡ちょうだい】

「大丈夫だ、オレを信用しろ。そのためにアンタをあの店から抜け出す事を優先に事を運んでいる最中だ。何度も言うが、アンタがいなきゃあの会社を乗っ取る事はできない。だからもうしばらくの辛抱だ、頼む」

【あまり無茶な事はしないでね】

「問題ない、今は下手な動きはできないからな。じゃ、また連絡入れる」

【うん、わかったわ】


電話を切り、達也は再度夜空を眺めた。

はっきりと満月が見える。

もうすぐだ。もうすぐでオレの思い通りになる。

達也は再び歩き出した。

(会社を乗っ取る方法はただ1つ、オフクロが消えてもらう事だ)

達也の野望は母親を消し去る事だったのだ。

不適な笑みを浮かべ、家路に向かった。

裏社会の弁護士

2日後、達也の下に連絡があった。
興信所からで、弁護士が見つかったという事らしい。

ちょうど達也は母親の会社で経理や営業等の事でレクチャーを受けていた最中だった。

「社長、申し訳ないのですが、急用が出来てすぐにでも行かなければならないのですが…?」

達也は母親の事を会社では社長と呼んでいる。

親子とはいえど、会社ではキッチリと線引きをしなければならない。

母親はそこまでしなくていいと言ったが、達也は公私混同は良くないという事で、社長と呼ぶことにしている。

「あら、そう。学校か何かで用事が出来たの?」

母親は達也を全く警戒していない。

「はい、私用で申し訳ないのですが、すぐにでも出掛けなければならないので」

母親はクスッと笑い
「わかった、彼女でしょ?いいわ、行ってきなさい。今度紹介してね」

「いや、そんなんじゃなくて…」

「いいからいいから、早く行きなさい」

母親は達也を快く送り出した。

会社を出た達也は、タクシーを捕まえ、興信所へと向かった。

達也は事務所のドアを開け、椅子に座って調査をしていた人物を待っていた。

「いや、どうもお待たせしました」

スキンヘッドにしたヤクザ風の中年が柔らかい物腰で達也の向かいに座った。

「で、弁護士が見つかったという話なんだけど」

達也は単刀直入に聞いた。

「ええ、見つかりました。ただね、この弁護士少し危険なんですが…」

「危険?危険てどういう風に?」

(しまった、ヤバいところかもしれないな)

とにかく話を聞いてみよう、達也はそう思った。

「まぁ、ご依頼通り、かなり危ない橋を渡ってる弁護士でしてね。おまけに法外な金額を要求してくるんですよ。
ですから依頼してくる客のほとんどが裏の世界の人間て事です」

ヤクザ相手の弁護士か…
法外な金額ってどのくらいなんだろう。
とにかく会ってみるしかない、達也はその弁護士に会って話をしてみようと。話次第では他をあたろうと考えていた。

「で、弁護士としての仕事は…?」

達也は物怖じしながらもその弁護士の仕事ぶりを聞いてみた。

「はい、そりゃもう弁護士としての腕は超一流です。ただ依頼する相手が相手ですからね。
グレーゾーンなんてもんじゃない、真っ黒な弁護士ですよ」

成る程、法外な報酬を取るという事はそれなりの自信があるという事なのだろう。

よし、会ってみよう、達也は腹をきめた。

「で、その弁護士の連絡先は?」

「いえ、それがね、連絡先が解らないんですよ」

「えっ…連絡先が解らないって?じゃあどうやって仕事を依頼すれば…?」

興信所の男は頭をポリポリ掻きながら、メモを達也に渡した。

「ここから車で20分ぐらい行った所に事務所があるんですよ。勿論、ヤクザ相手の弁護士だから看板なんて出してない。
だから直接ここに訪れて依頼するしかないんですがね」

かなり危険度が高そうだ。

でも危険度があれば鴨志田を救い出す事は可能だろう。
ましてや自分は依頼人だ、身の危険にさらされる事はない、達也は席を立った。

「調べてくれてありがとう。これは約束の調査費用だ」

達也はスーツの内ポケットから少し厚めの茶封筒を渡した。

調査した男はその中身を確かめた。

「えっ、こんなに?」

「構わない、こっちも無理を言ってもらったワケだから。とにかく助かったよ、ありがとう」

達也が立ち去る際、調査員は達也にそっと耳打ちした。

「ここに行ったら、【掃除して欲しい】と言ってください。それが合言葉みたいですから」

掃除して欲しい…消して欲しいという意味なのだろうか。

「わかった、ありがとう」

達也は事務所を出た。

先程渡されたメモを頼りに達也は再度タクシーに乗り、そこに書かれてある住所の近くで降りた。

(確かこの辺りだと思うんだが…)

達也は周囲をキョロキョロして、それらしき建物はないかと探し回った。

周囲は閑散とした住宅街だが、どこか寂れた感じがして、異臭がする。
一言で言えば、汚ない界隈だ。
住宅街だが、昔の長屋のような一階建てのトタン張りの建物が並んでいる。

一体どこからこの異臭が漂っているんだろうか。

すると前方に二股に別れた道路の角に、三階建ての変形したビルらしい建物を発見した。

そのビルの階段口には住所が記されていた。

(ここだ!)

外壁には無数のクラック(ひび割れ)がある。

勿論エレベーターなどない。

達也は恐る恐る階段を上った。
狭く、踊り場には無数のゴミらしき物が山積みになっている。

そして2階には塗装が剥げて錆び付いた扉がある。この中に例の弁護士がいるのか。

チャイムが無い為、達也はコンコンとノックした。

返事がない。

おかしいな、と思い、再度ノックをした。

すると中から、「あいよ~、勝手に入ってくれ~」という男の声が聞こえた。

ガチャっとドアノブに手をかけ開けた。
薄暗い部屋で窓が無い。

事務所というよりは住まいのような間取りだ。

奥の部屋は書斎になっているのか、本棚にはギッシリと分厚い本が並んでおり、その横で簡素な机で新聞を読んでいた初老の男性がこちらをジロリと見た。

達也は背筋が寒くなるような身震いをした。

それはその初老の男性の目が眼光鋭く、達也を動けなくさせる程の恐怖な眼差しだった。

「おい、そんなとこに突っ立ってねえで入ったらどうだ」

しゃがれた声をした男は、玄関に立ち尽くしている達也に入ってこいと促した。

靴を脱いでその男の座っている机の前で達也は今まで経験したことの無い、不気味さを感じた。

「おぅ、なんだ若いの。用があんだろ?」

男は達也に目もくれず、新聞に目を通していた。

「え、はい、あの弁護士さんは…」

達也は眼前にいる男が弁護士だとはわかっていたが、念のため聞いてみた。

「他に誰がいるんだ。ここにはオレしかいねぇんだよ」

ぶっきらぼうにその弁護士は答えた。

眼光は鋭いが、キチンとスーツを着て、それなりの格好をしていた。だが、弁護士のバッチは付けていない。

達也はこの不気味さに怯え、帰りたくなったが、後には引けず、思いきって興信所の男から聞かされた例の合言葉を言ってみた。

「あの、掃除をお願いしたいのですが…」

新聞を読んでいた弁護士が達也の顔をジロっと見た。いや見るというより、突き刺すような視線だった。

「ほう、誰から聞いてきた?そこら辺のヤクザか探偵にでも聞いたのか?」

この眼光鋭い弁護士の前では下手なウソはつけそうもない。

裏の世界でかなりブラックな案件を数多くこなしてきた弁護士にとって、達也のような若造が太刀打ち出来るような相手ではない。

異様なオーラを放っている。

「あの、興信所の人から聞きました。で、ここを訪ねるといいと言われて…」

「あー、ここ2,3日、この辺りをウロウロしていた坊主か。あの男は探偵だったのか」

そんな事まで分かっていたのか!

達也はかなり怯え、恐怖で身体が動けなくなる程、弁護士の恐ろしさを身をもって知らされた。


「で、何の用だ?」

弁護士は立ち上がり、達也に椅子を差し出した。

「突っ立ってちゃ話しになんねーだろ、座れや」

ホントに弁護士なのか?ヤクザなんじゃないか?疑心暗鬼にかられながらも達也は座った。

「実は、ある女性がヤミ金から金を借りて…その利息が膨れ上がり、返せなくなったので、ソープに売り飛ばされました。
で、その女性を助けたいのですが、一体いくら借りて利息もどのくらいあるのか解らなくて…」

「なんだ、お前さんカタギか?」

「は、はぁ」

「オレはてっきりお前さんをヤクザの使いっパシりかと思ってたよ。で、そのカタギのお前さんがソープに沈められてる女を救いたいと。そうだな?」

弁護士は達也の目をじっと見た。

目を逸らしたいが、逸らせたらマズイような気がした。
達也は怯えながらも目を逸らさずに弁護士の目を見つめた。

「で、お前さん金はあるのか?」

「あ、はい。とりあえずいくら渡せばいいのか解りませんが、1000万用意してあります。この金で店側とすんなり和解して女性を救って欲しいのです」

「ほう、随分金持ちじゃねぇか、そんなに金があるならオレんとこに来ないでその金ポンと渡しゃ済む話だろ」

「そうしたいのはヤマヤマですが、何せ相手はヤミ金とも繋がってる関係で、オレなんかじゃ上手く丸め込まれて救える自信がないんです。ですからお力を貸してもらえないでしょうか?」

達也は全身で訴えるように弁護士に頼んだ。

「で、向こうに1000万、オレにはいくら出してくれんだ?」

「…500万あります。これでも足りないでしょうか?」

弁護士は机の引き出しから葉巻を取り出し、火を点け煙を燻らせた。

「気に入らねえな」

「えっ、足りませんか?ではいくらだったら…」

「逆だ、逆!オレが1000万で向こうには500万だ。どうせ借りた額なんて大したもんじゃないだろ。むしろ500万でも多い程だ」

弁護士は成功報酬として、店側に用意した1000万を要求し、500万で店の人間と話をしてやるという事らしい。

「わ、解りました。では金は用意します」

「おい、お前いくつだ?」

「え、はい、つい最近19になったばかりです」

「随分若いのに金あるな。で、その女自由にして何がしてぇんだ?」

達也は何の事だか理解できなかった。

「何と言いますと?」

「おめぇ、その女にゃ惚れてねえだろ。なのにそんな金まで出して抜け出そうとしてるってのは何か企んでんだろ?その目は野心に満ちた目だ」

達也は弁護士に全て見透かされていた。

やっぱりこの人物の前ではウソはつけない、そう思い、達也の野望を弁護士に話した。

亮輔誕生の真事実

達也は弁護士に鴨志田の事、父親の事から弟、そして母親の会社を乗っ取り、追い出そうとしている事まで話した。

「鴨志田…聞いた事ある名前だな」

そう言って弁護士は立ち上がり、本棚にあったファイルを取り出した。

「あぁ、コイツか、鴨志田紗栄子。鴨志田政夫(かもしだまさお)と養子縁組を結んだ女だな」

達也は何故そこまで知ってるのか?と驚きを隠せなかった。

「この鴨志田政夫ってのは、元々はヤクザもんでな、どっかの企業のバックについて裏の事をやってきた男だ。で、ヤクザから足を洗ってその企業の常務になったみたいだな」

鴨志田の父親がヤクザ…そして父親の勤務していた会社の常務?
達也は頭が混乱していた。

そこまで過去のデータがあるのか。

「この女の元の名前は広瀬紗栄子、孤児院上がりの女だな。どうやら昔、ホステスをやって鴨志田が気に入ったらしく、養子縁組にしたのはいいんだが、男女の関係になっちまって、女は妊娠したらい。で、鴨志田は中絶をさせたらしいが、女の方はどうしても生みたいとか言い出して、生む条件として、オレは認知しない、生まれてきても暫くは他所で育ててもらうって事で生んだらしいな」

…っ!達也はイヤな予感が頭をよぎった。

鴨志田の生んだ子供は亮輔だ。
まさか?

「あの、その生まれた子供は男ですか、女ですか?」

達也は身を乗り出して弁護士に聞いてみた。

「ったく何でそこまでお前さんに言わなきゃなんないんだか。まぁいい、生まれたのは男で、今頃は15,6才になってるはずだ」

達也の顔色が変わった。鴨志田が生んだ子供が男で現在は15か16になる。

「それ、オレの弟です!亮輔といって今は15才です。オレはてっきりオヤジと鴨志田との間に生まれた子供だとそう聞かされました。
まさか亮輔が全く血の繋がってない弟だったなんて…」

達也は愕然とした。あの父親と母親との間に生まれたのはオレだけなのか?
ならば何故、父親は鴨志田との間に出来た子供だと言ったんだろう。

それが原因で両親は離婚した。

「まぁ、これはあくまでもオレの推測に過ぎないが」

弁護士が口を開いた。


「お前さんのオヤジは離婚後にかなり昇進したらしいな。しかも何人もの連中を追い越して重要なポストに就いた。
てことはだ、鴨志田がお前さんのオヤジに頼んだんだろ、父親はお前だと。で、お前さんのオヤジも同時期に紗栄子と深い関係を持ってたみたいだ。二股かけてやがったんだな、その女は」

「てことは、オヤジは昇進するという条件で亮輔を認知したワケですか?」

「んー、まぁあの男の事だ、何せ社長に頼まれて汚ない仕事も随分やってきたからな、社長も鴨志田には頭が上がらなかったらしい。何せ弱味を握られてたからな。だからお前さんの弟ってのも、オヤジと関係もった後に妊娠したって事だから、鴨志田にとっちゃ、お前さんのオヤジの息子って事にする代わりに重要なポストを与えたって事だろ」

腑に落ちない、だったら何故、母親にそれを知らさなかったのだろうか?

「何で鴨志田がお前さんの親に話をもっていったか。社長の愛人を続けてたんだよ、お前のオフクロは」

もう、何がなんだかワケが解らなくなってきた。

亮輔の出生の秘密が二転三転してきている。
どれを信じればいいのやら…

「まぁ、お前さんとこのオヤジやオフクロの仲はその頃既に冷えきっていたって事だ。社長の愛人しながら家では良き妻、良き母を演じてたんだろうが、何かのきっかけでそれがバレたんだろうな」

そう言って弁護士はファイルを閉じて本棚に戻した。

納得いかないのは達也だ。
何故そんなことまでして重要なポストに就きたかったんだ、オヤジは?
何故、幼いオレがいながら社長の愛人をしていたんだ、オフクロは?

達也の中で更に憎悪が増し、母親の会社を乗っ取り、その後は母親を完全にこの世から消す!

今の達也にはその事しか頭になかった。

「まぁ、これも因縁なのかな、鴨志田は随分前に死んだが、娘はヤツの僅かな財産しか手に入らず、またホステスしながらバイトして大学を卒業したみたいだな。まぁ、しかし、ろくでもねぇとこは鴨志田にそっくりだな、その女も。で、もう一度聞くが、そんな女でもソープから足を洗わせたいってんだな?」

念を押すように弁護士は達也に再度聞いた。

(家の中をグチャグチャにしたのは鴨志田でもない、オヤジやオフクロが好き勝手な事してオレはその犠牲者だ)

達也の目の色が変わった。

「ほぅ、いい目付きになったな」

ククッと笑いながら弁護士は達也の野心に道溢れた目を見て葉巻を吹かしていた。

「是非お願いします!あの女をソープから救ってください!金額はすぐにでも用意します!」

達也は席を立とうとした。

「待ちな、まだ終わっちゃいねえよ」

弁護士に言われ、再び席に座った。

「この仕事は引き受けよう。だがな、これはオレのお節介かもしれんが、あの女救ってもろくな事にならないぞ、それでもいいんだな?」

再度鋭い眼光で達也を最終確認する為に弁護士は問うた。

「はい、それでも構いません。
あの女を釈放しない限り、オフクロの会社を乗っ取るなんて事はできません。ですからどうか…お願いします!」

達也は深々と頭を下げた。

「それともう1つ、お前さんはオフクロの会社を乗っ取るなんて事はできっこない」

達也は一瞬、険しい表情をした。

「どういう意味ですか?」

「お前さん、野心が強すぎる。
会社を乗っ取る事は容易いかもしれない。だがな、その会社をどう運営していくかだ。お前さんにそれが出来るのか?」

「それは…やってみなきゃ解らないじゃないですか」

「お前さんのようなタイプは独占欲が強すぎる。会社を破滅させるような人間だ。いいか、もし会社を経営したいのなら、もっとしっかりしたブレーンが必要だ。まぁ、余計なお節介だがな」

確かにオレは独占欲が強い。
でもやってみなきゃわかんないだろ!

「そうですか、わかりました。で、仕事の件ですが」

達也は話を切り替えようとした。

「いつまでならその金用意できるんだ?」

葉巻を燻らせ、弁護士は鋭い眼光で達也の目を見て答えた。

「2日、2日後には用意できます。で、これは手付金なんですが」

達也は封筒に入った金を机の上に置いた。

「いらねぇよ、手付金なんて。前金で全額もらう。それでいいな」

弁護士は依頼人を信用しない。
だから引き受ける際は必ず前金でもらう事にしている。

「わかりました。それと連絡先が無いっていうのは何故ですか?」

達也は興信所の男に言われた事を思い出した。

連絡先が全くわからない、依頼人にも教えようとしない、と。

「そんなもん必要ない。またここに来ればいいだけの事だ。わかったな?」

「…はい」

疑心暗鬼になりながらも達也は渋々了解した。

「ではまた2日後にここに来ますので」

「おう、ちゃんと金用意してこいよ」

そう言って弁護士は再び新聞に目を通した。

(大丈夫なんだろうか、あの弁護士…しかも名前を名乗らないなんて)

何から何まで不穏な雰囲気を醸し出す人物だ。

達也は事務所を後にし、金の工面を始めた。

依頼

約束通り、2日後に達也はバッグに現金を入れ、弁護士の事務所を訪れた。

そして机の上に1000万入った分厚い封筒と、500万入った封筒を2つ置いた。

「こちらが報酬額の1000万です。確認して下さい」

弁護士は封筒の中をチラッと見ただけで引き出しに閉まった。

「ちゃんと確認しなくていいんですか?」

達也はてっきり弁護士が札束を数えるものだと思っていたが、あっさりと見ただけで些か拍子抜けした。

「数えなくても見れば解る。で、この金を店に渡せばいいんだな?」

弁護士は500万の入った封筒をポンポンともてあそぶかのようにして、懐に閉まった。

「で、いつ頃までに出来そうですか?」

達也はこの眼光鋭い弁護士はタダ者ではない事が解ったが、ちゃんと任務を遂行してくれるのかどうか、半信半疑だった。

「明日、店が終わったら外で待ってろ。それでこの仕事は終わりだ」

「明日でカタがつくんですか?」

ホントなのか?そんなにすぐに片付く案件なのだろうか。

「おう、オレは信用が第一の弁護士だ。不義理などしたらヤクザ相手に仕事なんか出来るか」

弁護士は平然と言ってのけた。

「で、どこの店なんだ?」

弁護士は達也に鴨志田がいるソープランドの場所を伝えた。

「源氏名は皐月って名乗ってます。よろしくお願いします」

達也は頭を下げた。

「この店か。あぁ、確かにヤミ金の連中と繋がってるな、ここは。バックにいるヤクザもよくここへ来て仕事を依頼してくるな。ものの10分もあれば話は終わって、あの女はソープから抜けるようにしてやる」

そんなに早く話が解決できるのだろうか。
かなり胡散臭いが、この弁護士に任せるしかない。

「解りました。では明日の営業時間が終わる頃に店の近辺で待機してます」

「うむ、しかし高校教師が借金でソープ嬢とは、絵にかいたような転落ぶりだな、お前、ホントにこの女助けてもロクな事ないぞ?いいのかそれで?」

弁護士は鴨志田はまた同じ過ちを犯すだろう。1度大金を手にすると、麻薬の如く、また借金地獄に陥る。

そんな人間を何度も見てきたのだろう。
だが、達也には鴨志田の協力が必要だ。
この際、ロクな女だとかそんな事はどうでもいい、自分の野望を叶えるには鴨志田を利用するしかない。

「それは承知の上です。ですからこの仕事引き受けて下さい」

達也は再度頭を下げた。

(クソッ、こっちが客だってのに、なんで下手に出なきゃなんないんだ)

達也は弁護士の上から目線な口調に少し苛立っていた。

「解った解った、じゃあもう用は済んだろ。さっさと帰れ」

弁護士は達也を追い返すように手をシッシッとばかりに振り、帰れと促した。

「1つだけお聞きしたいのですが…」

達也は高慢な態度の弁護士に腹が立ちながらも、聞いてみたい事があった。

「ん、何だ?」

「先生のお名前を教えてもらいたいのですが…」

この弁護士は事務所に看板も掲げてなければ、入り口に表札すらない。

しかも会った時から一切名を名乗らない。
いくらヤクザ相手で危ない橋を何度も渡ってきたとしても、名前ぐらいは教えてくれてもいいじゃないか、達也はそう思い、聞いてみた。

「名前?何でオレの名前が必要なんだ。オレはお前から金を受け取った。後はもうお前とは会う事はないだろう。だから名乗る必要もない」

相手にならないとばかりに弁護士はぶっきらぼうな口調で名前を教えてくれない。

「いや、あのもしまた依頼する機会があれば、と思って聞いたんですが…」

「その時はまたここに来ればいいだけの事だ。もう用がないから帰ってくれ。仕事は必ずやる」

弁護士は最後まで名を名乗らずに達也を事務所から追い出した。

(何だあのヤロー、ふざけやがって!あんな弁護士が偉そうに何様気取りだっ!)

達也は憮然とした表情で事務所を後にした。

あの鋭い眼光は裏の世界でかなりの修羅場をくぐり抜けてきた者の証だ。

だが、ホントに鴨志田を助け出せるのか?

達也は異臭を放つこの界隈を足早に去っていった。

不気味な界隈で、誰1人として外にいない。

借りにここで殺人が起きても、おかしくない程、身の危険を感ずる通りだ。

達也はその足で母親のマンションへと向かった。

この時間は亮輔がまだ寝ている頃だろう。
夜遊びをして、朝方に帰り、寝ているという昼夜逆転の生活をしている。

達也はマンションに着き、地下の駐車場に停めてある母親の赤いベンツに乗り込み、母親に教えた会社までの道のりを通っていた。

そして、木に覆われた細い路地に車を停め、辺りを見渡した。

(よし、この場所だ)

達也はこの細い路地から木に覆われて見えなかった横路を見つけた。

ここなら車を置いても、路地からは見えないはず。

頭の中で計画のイメージが出来上がった。

後は鴨志田を待つのみだ。

達也は再び車に乗り込み、駐車場に車を停め、ワンルームのマンションへ帰った。

部屋に戻り、シャワーを浴び、あの界隈に漂う異臭が見に染みて、一刻も早く身体を洗い流したかった。

もう後戻りは出来ない、賽は投げられた。

達也はその後、深い眠りについた。

全ては明日、まずは鴨志田を弁護士が話をつけてソープから足を洗ってからだ。

完全なる計画

翌日の深夜、達也はソープランドの近くにある深夜営業をしているファミレスでコーヒーを飲みながら待機していた。

鴨志田には事前に、店が終わったらここに来てくれと連絡をいれてある。

達也は窓際の席で外を眺めながら今か今かと鴨志田が来るのを待っていた。

腕時計に目をやると、午前0時を回っていた。

営業が終わった。
それから色々と個室の清掃や身支度をするのに30分から一時間はかかるはず。

あの弁護士上手く話をまとめたのだろうか?

しばらくして達也のスマホに着信が鳴った。
鴨志田からだ。

「もしもし、お疲れさん。今近くのファミレスにいるから来てほしい」

そう言って達也は電話を切った。

その数分後に鴨志田が現れた。

達也は入り口に向かい、鴨志田に手を振った。ここだ、と言わんばかりに。

鴨志田は疲れきった顔をして、席に座った。

「どうだった?」

単刀直入に達也は聞いてきた。

「店長に明日から来なくていいって、でもアパートの荷物は2,3日中までにはキレイにしておけって言われて…これって晴れて自由の身になったって事よね?とりあえず礼を言うわ、ありがとう」

達也はニンマリと笑みを浮かべた。

(あの胡散臭い弁護士、どうやら上手く話をまとめたみたいだな。しかし報酬額が1000万とは。おまけにコイツを救い出すのに500万かかった。)

口座には半分以上の金を引き出している為、しばらくは派手な事は出来ない。

「とにかく、これでアンタは晴れて自由に身になったワケだ」

達也も鴨志田も一安心した。

そして達也は鴨志田に金の入った封筒を手渡した。

「そこには300万入っている。だが、決して無駄遣いするんじゃない。当面の間、ビジネスホテルに滞在してもらう。
その時の費用として使ってくれ。間違ってもまた変なブランド物なんて買うなよ。今のオレはもう口座にあまり現金がのこってない。だからしばらくこの金でホテルを転々として欲しい。
で、こっからが正式に作戦開始だ。オレとアンタは入念な打ち合わせを何度もしなきゃなあ」

「ねぇ、いつまでビジネスホテルに滞在すればいいの?」

鴨志田はメンソールのタバコに火を点け、ホッとしたように白い煙を吐き出した。

「どのくらいって、計画が実行するまでだ。と言ってもこの数日の間にはやるつもりだ」

鴨志田はテーブルに身を乗りだし、達也の顔の近くで小さい声で
「ねえ、もしかして乗っ取るって事はアナタの母親を消すって事?」

達也は無表情で首を縦に振った。

鴨志田はこれ以上巻き込まれるのはゴメンだとばかりに達也を睨み付けた。

「冗談じゃないわ、そのためにアタシを救ったの?これならまだあの店にいた方が良かったわ、アタシそんな事には協力出来ないから!」

「とりあえずここを出よう、場所を変えて詳しく話する」

達也は立ち上がり、テーブルにあった伝票を取り、カウンターで会計を済ませた。

(一体何考えてるの、この男は?消すって殺すって事…それだけは出来ない!)

鴨志田は背筋がゾッとした。

実の母親をこの世から葬り去るという計画の為に自分をソープから抜け出すようにした。
だが、結局は母親殺しの共犯として達也に利用されるのではないかと。

店を出て、鴨志田は先程、達也から受け取った封筒を返した。

「…このお金返すわ。アタシはとてもじゃないけど共犯になんかなりたくない、アナタのやろうとしている事は犯罪なのよ?それに絶対にバレないなんて保証はないじゃない!
無理、アタシには出来ない」

恐怖のあまり、足がガクガク震えてきた。

そんな怯えた表情をした鴨志田を達也はポンと肩を叩き、ニッコリと笑みを浮かべた。

「いいからこの金は受けとるんだ。大丈夫、オレもアンタも罪は犯さない。犯さないように消えてもらうだけだ」

罪を犯さずに消すって、何?
キョトンとしている鴨志田の肩を抱き、達也は真夜中の路地裏を歩いた。

「とにかくオレがこれから話す事は絶対に誰にも言うんじゃない。確かこの駅前にホテルがあったよな?そこに入って詳しく話をする。アンタはオレの話を聞いてから協力するかどうか判断してくれればいい」

達也の真剣な眼差しに鴨志田は何も言えず、達也にくっついて駅前にあるビジネスホテルにツインベッドの部屋にチェックインした。

エレベーターに乗り、6階で降りてドアを開ける。
ホテルの部屋はベッドが2つあり、テレビとテーブルだけの質素な空間だった。

達也はベッドに腰掛け、腕を組ながら何かを考えているようだ。

鴨志田は窓際にあるソファーに座り、達也が考え込んでる様子をジッと見ていた。

「ねぇ、計画ってどういう風にするの?」

「うーん、オフクロがすぐにでもオレに会社を譲ってくれりゃいいんだが、そうはいかないだろ?じゃあどうするか?
オレに会社を譲るようにする計画を立てればいいって事だ」

「そんなすんなりとアナタの母親は会社を譲ってくれるの?」

達也は立ち上がり、窓のカーテンを閉めた。

ここは6階で、外から中の様子は見えない。
だが、用心深い達也は中から様子が見えないようにした。

「オフクロはいつも帰りに通る細くて木に覆われた道がある。
その道は途中で十字路になってるが、木に囲まれて運転してると視界に入らない。
その十字路の所に車を停めてオフクロが来るのを待つんだ」

「待ってどうするの?」

「オレがオフクロを待ち伏せする。オフクロはオレを車に乗せてくれるだろう。で、アンタは車の中で待機してればいい。それだけだ」

「…何だかサッパリ解らないわ。で、どうするの?」

「それは…」


達也と鴨志田の話は朝方まで続いた。

達也はこの計画にはどうしても鴨志田が必要だ、乗っ取った後は達也の秘書として破格の待遇をするから協力してほしいと根気強く鴨志田を説得した。

母親の資産は合わせて12,3億ある。
達也が以前に母親から直接聞いて確かめた。

その資産のうち、約3分の1、4億程の金額を鴨志田に渡すと言い、金に目が眩んだ鴨志田は最終的には達也に協力することを約束した。

鴨志田もあの女のせいでソープに沈められた屈辱を晴らす絶好の機会だと達也に説得され、鴨志田の中にあった憎悪が再燃した。

「これからアンタは今まで住んでたアパートの荷物を整理しなきゃなんないだろうから、必要な物だけ持って出来るだけ最小限にまとめて欲しい。
で、数日間はここにいて、なるべく外出は避けて欲しい。
欲しい物があればオレが用意する。それとこれが1番重要な事だが、計画が終わるまで絶対に亮輔と会わないでくれ、解ったな?」

「…とにかく、やるなら早めにして欲しいわ。こんな窮屈なとこにずっといたくないから」

「オレはその間、オフクロに付いて色々と経営のノウハウを覚える。まぁ、全部覚える事は出来ないが、少なくとも半分以上の事は覚えておくつもりだ。後はオフクロに付いている腹心達がやってくれるからさほど問題になる事じゃない」

「じゃあ、連絡は常にしてよね、アタシはここで待ってるから」

「解った、じゃあまずは部屋の整理をして荷物をここに持っていこう」

二人はようやく朝陽が昇った頃に一旦チェックアウトして、鴨志田が住んでいたアパートの部屋にある荷物を整理した。

荷物といっても、鴨志田に必要な物は衣類ぐらいで、後は元々備えてあった備品ばかりで、キャリーバックに詰め込み、部屋を出た。

「オレはこれからオフクロと一緒に会社に行く。何かあったら連絡くれ、オレも連絡する」

「ちょっと寝てないけど大丈夫なの?」

「何言ってんだ、これからオレたちの会社になるんだぜ、そう考えたら興奮して寝るどこの話じゃないぞ」

達也は意気揚々とした表情で会社に向かった。

(ホントに大丈夫なんだろうか?)
一抹の不安を抱えながらも、大金が目の前に転がり込んでくる喜びに鴨志田もフフっと笑みを浮かべホテルへ戻った。

ミッション完了

当日、達也は鴨志田に連絡を入れた。

この日達也は夕方まで母親と共に行動し、サークルのコンパという口実で一足先に会社を出た。

(いよいよだ、これがオフクロの最期だ)

達也は軽自動車をレンタカーとして借り、鴨志田のいるビジネスホテルへと向かった。

ホテル前では鴨志田が待っており、助手席に座り、再び車を走らせた。

「さて、いっちょやるか」

達也は不適な笑みを浮かべ、母親が通るであろう、細くて木に覆われた通りへ向かった。

相変わらず人通りの無い、暗く不気味な道だ。

達也は十字路になっている更に細い路地に入り、車を停めた。

「今何時だ?」

達也はシートを倒して悠然と構えていた。

「今、21:30ね。何時ぐらいにここを通りそうなの?」

鴨志田は車内で帽子にマスク姿で解らないようにして、少しソワソワしていた。

「焦るな、まだオフクロはここを通らない。しばらく横になって寝てりゃいいさ」

「寝れるワケないでしょ!これからが本番なのよ?」

達也も鴨志田もこの計画に賭けている。

失敗したら終わりだ。

「そりゃ寝れねぇよな、オレだってこんなんなってるんだぜ」

達也は鴨志田の手を自分の股間に当てた。

若く猛々しい肉棒がいきり勃っていた。

「さっきから興奮して仕方ねえんだよ、アンタにヌイてもらいてぇけど今はそれどころじゃない。アンタ、帽子とマスク取れよ。こっからじゃこっちの様子は見えないんだ」

「ホントに大丈夫なの?」

「アンタはこっから一歩も出るな、いいな?後はオレがやる」

「ねぇ、殺すの?」

「はぁ?」

「アタシそんなこと出来ないからね!」

「しつけーな、消すだけだよ」

「消すって、殺すって事でしょ?」

鴨志田の心配をよそに達也はスマホでゲームをしながら時間を潰していた。

「いいか、まずこれからオフクロを消す。で、明日は多分会社ではオフクロが来ない事に不審に思うヤツラがオロオロする。それでオレかオフクロの部下連中が警察に捜索願いを出す。
まぁ見つからないけどな。
それから1週間後にアンタはオレの秘書としてあの会社に入るんだ。
勿論、その時はオレが社長になってるってワケだ」

鴨志田には目もくれず、ゲームに夢中になっている。

どのくらい経ったのだろうか、鴨志田にはこの1分1秒が長く感じた。

「今、23:30過ぎたとこよ」

「よしっ」

達也はシートを起こし、ドアを開けた。

「いいか、何があってもここから絶対に動くなよ!下手な動きは命取りになる、わかったな?」

さっきとは違って、真剣な表情で達也は鴨志田に指示した。

「わ、わかったわ」

「よし、オレはここから少し歩いた所にいるから。しばらく待っててくれ」

達也はドアを閉め、暗い路地を歩いた。

そして歩道に腰を下ろし、再度スマホを手にした。

(殺さずに消すってどういう事よ?何考えてるの、あの男は?)

ジッとしていろと言われても、恐怖と計画の達成を目の前にしていてもたってもいられない精神状態だ。

やがて明かりと共に1台の車がこっちに向かって走ってきた。

鴨志田はとっさに身を隠し、恐る恐る外の様子を伺った。

車は達也が腰掛けている場所に停まった。

達也はうなだれてるような感じで座り込み、母親の運転する車に向かい手を振った。

ドアが開き、中から母親が出てきた。

「達也、どうしたのこんなとこで?」

多分酔っぱらっているんだろう、母親はそう思った。

「あぁ、母さん…待ってたよ。いやぁ、ちょっと飲み過ぎたかな…帰ろうとしたらどこだか分からなくなっちゃって、気がついたこんな暗い道に来ちゃったよ」

達也は酔っぱらいのフリをして座ったままだ。

「全くもう、こんなとこにいるからビックリしたわよ、もう!さぁ、立ちなさいっ…」

その瞬間、母親の背後から手で口を塞ぎ、羽交い締めにする男と、バタバタともがくように動いていた足を掴むもう1人の男が木の影に隠れて隙を狙って母親を襲った。

達也はスクっと立ち上がり、後部座席のドアを開けた。

抵抗する母親だったが、男の力は強く、成す術もなく後部座席に押し込まれた。

もう1人の男は運転席に座り、ドア越しに達也があらかじめ用意していた封筒を渡した。

「後はヨロシク。オフクロ、じゃあな、アンタの会社はオレが乗っ取った!アンタはこのまま消えてもらうぜ、まぁ、ついこないだまでアンタがオフクロだなんて知らなかったけどな。短い間だったが、お世話になりましたぁ~、これでお別れだっ、このくそ女っ!」

後部座席ではもう1人の男に押さえつけられ必死にもがいている母親の姿を見て、達也は笑った。

「じゃあ、頼んだぞ」

達也は運転席の男に向かい、手を振った。

「ダイジョウブ、マカセテ」

片言の日本語で返事をし、車は走り去っていった。

(なぁにが母親だ、テメーが今まで築き上げた地盤、そっくりそのままブン取ってやったぞ!)

達也はタバコに火を点け、空に向かい、思いっきり煙を吐き出した。

任務完了だ。

そして鴨志田が待ってる車へと向かい、ドアを開けた。

「ミッションコンプリートだ」

ニヤっとして達也は運転席に座り込む。

「ねぇ、どうなったの?」

鴨志田は窓から一部始終を見ていたが、あの車がどこへ向かっていったのかは知る由もない。

「あの二人は東南アジア系のヤツラだ。これから埠頭まで行って車ごと船に乗せてどっかに飛ばされるんだろ」

「飛ばされるって、日本から出るって事?」

鴨志田は信じられない、という顔をしている。

「どこに飛ばされるのかねぇ、東南アジアか南米か…アイツらはそういうのを商売にしてる仲介人、まぁブローカーってヤツだ。本来なら日本人に頼みたかったが、オフクロはそれなりに裏の人間とも繋がりはあるだろうから、ルートをたどって外国人に頼んだってワケだ」

「それって人身売買じゃないの?」

鴨志田が思わず声を上げた。

「そうだよ、それが何か?」

平然として達也は言ってのけた。

「一応アナタの母親でしょ?それを売り飛ばすなんて…」

鴨志田は達也の冷酷な考えに恐怖で怯えていた。

「何がオフクロだ、オレは小さい時から母親はいないって言われて育ってきたんだ。それがつい最近になって母親です、なんて言われて、ハイそうですかなんて言えるか?そこまでオレは人間が出来ちゃいねーんだよ、ザマーミロだ!」

興奮気味に達也は捲し立てた。

「なぁ、さっきから興奮して勃ってばっかなんだよ、早く咥えてくれないか?」

達也はシートを倒し、素早くズボンを下げた。

暗がりでもそそり勃つ肉棒が天を突き刺さんとばかりに激しく脈打ち、硬直していた。

言われるがままに鴨志田は達也の肉棒を優しく咥え、手で陰嚢を愛撫しながら音を立てて首を上下に動かした。

「あぁ、人生で最高の日だ…」

達也は鴨志田のフェラと野望が達成した悦びにうち震え、あっという間に勢いよく口内に射精した。

「…ブホッ、グッ…」

あまりの射精の勢いに鴨志田はむせてしまった。

「飲んでくれよ、全部飲んでオレたちの計画を祝ってくれよ」

鴨志田は大量に出た精子を顔をしかめながらゴクンと飲み干した。

苦い味が口内に残った。

「サイコーの日だ、オレたちはとうとう計画を達成したんだ」

達也は射精と任務遂行の余韻に浸っていた。

「これであの会社はアナタのものになったのね?」

口の回りをティッシュで拭きながら鴨志田は達也の顔を見つめた。

気のせいか、最初は随分とチャラい今時の若者にしか見えなかったが、今は暗くてよく見えなくても、その横顔が精悍に見えてくる。

「さて、これから忙しくなる。こっからがアンタの出番だ、ヨロシク頼むぜ」

鴨志田の肩をポンポンと叩き、車はビジネスホテルへと向かった。

邪魔な存在が1人消えた。

後はオレの自由が待っている。
恍惚の表情を浮かべ達也の運転する車は暗くて細い路地を抜けた。

大金は目の前だ

翌日、達也は亮輔に連絡を入れた。

亮輔は小島と遊ぶようになってからは、朝帰りの日々を送り、母親とはすれ違いの生活をしていた。

亮輔は寝ていたが、着信音に気付き、眠たそうに電話に出た。

「ふわぁい、もしもし」

【亮輔、オフクロそこにいないか?】

もちろんいるはずもない。

昨夜、母親は車ごと拐われて今頃は海の上だ。

会社では、母親が出社してないことに不審に思った幹部連中が何度も母親のケータイに連絡を入れたが応答はない。

社長の身に何かあったのか、社内では色々と各関係者に連絡を入れてみたが、手がかりは得られなかった。

達也も、幹部連中から昨晩の事を聞かれたが、達也は夕方に会社を出て、大学のサークルのコンパで居酒屋で飲んだ後、家に帰ったと答え、朝来てみたら、蜂の巣をつついたような騒ぎで、母親と連絡がつかないという事を初めて知った、と驚いた顔をした。

(騒げ騒げ、どうせオフクロは見つからない、警察にも捜索願いを出してみるかな。まぁ、それはもう少し様子を見よう)

「オフクロとはここ最近すれ違いだったから…」
ふわぁ~とあくびをしながら亮輔は事の重大さを理解していなかった。

【オフクロが会社に来てないんだ。何度も連絡したんだが、全く通じない。お前、ホントに知らないのか?】

電話越しからでも、達也の切羽詰まった言葉に亮輔は徐々に眠気から覚め、事の重大さに気づいた。

「確か最後に会ったのは3日ぐらい前の朝だったかな…うん、そうだ、小島さんと朝までカラオケにいて、それから帰って来た時にいたからそれが最後だけど、オフクロに電話しても全く通じないの?」

【もう、朝からずっと何度も連絡してるんだが、応答がない。
何かあったのか…とにかくオレはオフクロの関係者に連絡を入れる。何かあったら必ず電話してくれ、いいな?】

「…うん、わかった」

そう言って電話を切った。

オフクロが行方不明?どういう事だ?

亮輔には何がなんだか解らずにただベッドの上で呆然としていた。

試しに亮輔は母親に連絡を入れてみた。

【トゥルルル、トゥルルル…】

しばらくそのままにしてみたが、応答が無く、電話を切った。

「何があったんだ一体?」

嫌な胸騒ぎがする。

母親に身の危険が及んでいるのか、すぐに探さなきゃ。
だが、亮輔は母親の普段の行動をよく知らない。

どこに行けばいいのか、誰かに話せばいいのかさえ解らない。

「待てよ、もしかしてたらケータイを無くしたのかもしれない。だから繋がらないのかも」

楽観的に事を構えていた。

昨夜の出来事を亮輔が知るはずがない。

ここ数日、小島に誘われ、夜の繁華街をウロウロして遊ぶ事に没頭していた亮輔は母親の事など気にもとめなかった。
夜に出かけ、朝陽が昇る頃に帰り、夕方近くまで寝ていた為、母親とはほとんど会ってない状態だった。

「前にもこんなことがあったよな、確か1週間ぐらい帰ってこなかった時もあったし」

亮輔が中学の頃は、家を空けている機会が多かった。
だから今回の事も、またしばらくしたら戻ってくるだろうと思い、再び眠りについた。

一方、会社ではなかなか連絡がつかない母親の事で、警察に捜索願いを出そうかどうか話し合っていた頃だった。

達也と幹部連中の数人で、今すぐ捜索願いを出そうという幹部と、達也を含む数人の幹部がもう少し様子を見てみようという意見に別れた。

達也は幹部連中の前では母親の行方が解らなくなり、困惑の表情を浮かべていながらも、今後の事をシミュレーションしていた。

(まずはコイツらを手なずけなきゃならないな…どうやって手なずけようか)

母親は2度と戻ってこない、となると次の社長を決めなければならない。

母親は達也を次期社長として、学業の傍ら、色々なノウハウを吸収し、人脈もそれなりに築いてきた。

幹部連中は熱心に会社の経営のありかたについて学んでいた達也が次期社長になることに依存はない。

だが、それは達也が大学を卒業し、母親の右腕として様々な経験を積んでから社長業をバトンタッチするという計算だったはず。

それが社長である母親がいきなり失踪して行方が解らず、代役として達也を社長に就任するとなれば、他の連中は黙っていないだろう。

達也が経験を積むまでの間、誰かが社長に就任するのが定石だろう。

となると、この連中の中で1番優秀な人物、そいつを手始めに懐柔作戦に持ち込めば、達也が社長に就任する。

そこで鴨志田の出番となる。
だが、どのタイミングで出せばいいのか、達也はその機会を伺っていた。

とりあえず今はまず母親の安否を確認するフリをするのが妥当な行動だ。

「とにかく今日1日待ってみましょう。それでも連絡が無いのであれば、私が警察に行って捜索願いを出します」

達也は少し動揺しているように見せかけ、幹部連中を説得した。

「皆さんは他の仕事が残ってるでしょうから、私が母親、いえ社長の行きそうな場所等を調べてきます。もし途中で何かあったら連絡ください、自分も逐一連絡入れますので」

達也はそう言い残して外に出た。


(さて、あと一歩だ。あと一歩でオレが会社を乗っ取る)

達也は会社の前でタクシーを拾い、その足で鴨志田のいるビジネスホテルへ向かった。

タクシーの中では鴨志田に今から行くから待ってろとメールを入れた。

会社から鴨志田のいるホテルまで車で20分程の距離で、この辺りは母親は滅多に来ることのない場所だ。

全ては達也の計算通りに事が運んでいる。

ホテル前に着き、達也は鴨志田のいる6階の部屋で、コンコンとノックをした。

しばらくしてガチャっとドアが開き、鴨志田がジャージ姿で出迎えた。

「随分くつろいだ格好してるな~、これからは秘書になるんだぜ、もう少し知性溢れるような格好にしないとな」

笑みを浮かべ達也は部屋の中に入っていった。

そしてすぐさま窓のカーテンを閉めた。

「おい、出来るだけカーテンは閉めておけ。中を覗くヤツがいないかも知れないが、念には念をだ」

鴨志田は部屋に缶詰め状態になっていてかなり退屈な時間を過ごしていた。

「ねぇ、どうなってんの会社は?」

灰皿には吸い殻が山のようになっていて、かなりヤニ臭い。

「タバコ吸いすぎだぞ。いいか、秘書になったら人の前でタバコなんて吸うな。アンタは才色兼備の秘書という形であの会社に入るんだ」

「タバコも吸えないの~?なんか窮屈な肩書きね。で、今どうなってんのよ?」

達也はベッドに腰掛け、今の状況を説明した。

「オレは今夜辺りに警察に行って捜索願いを出す。まぁ、オレは色々と事情聴取を受けるだろうが、オレにはアリバイがある。
そして1週間後にはオレは社長になり、アンタはオレの秘書になる。それでいいな?」

「それはいいけど、住む所は?まだここにいなきゃならないの?」

もう、うんざりという顔をして鴨志田はこの窮屈な部屋を見渡した。

「安心しろ、アンタの住む場所も確保してある」

「どこへ?」

「オフクロのいるマンションだ」

えっ!鴨志田は一瞬耳を疑った。
あのマンションには亮輔がいる。

まさか一緒に暮らせというのか?

「亮輔をあのマンションから追い出す。本来ならアイツも消す予定だった。だが、アイツはまだガキだ。金も多少はあるだろうから、どっかの住み込みの仕事でも探してこいと言うつもりだ」

鴨志田は複雑は表情を浮かべた。

亮輔は実の子だ。出来ることなら一緒に住みたいが、まずは完全に会社を乗っ取ってからの方を優先するしかない。

「そう、古賀くんを追い出すのね。でも、どうやって追い出すの?」

「オフクロがいなくなって、あの会社は実は赤字経営で不渡りを出したとか適当な口実を作って、あのマンションも抵当に入って早々に出で行かなきゃならないって言うつもりだ。
まだ15のガキにそんなこと言ってもピンとこないだろうが、要は会社は潰れる寸前で、あのマンションを売り払わないとならなくなった、とでも言えば否が応でも出で行かなきゃならないだろう」

「じゃあ古賀くんにもいくらか渡してあげないと」

「おいおい、今のオレには金が残ってねえんだよ。アンタをソープから引き上げるために弁護士使って合計で1500万使った。
で、オフクロを拐っていったヤツラに300万、アンタに渡した300万、興信所には合計で200万払ったんだ。オレの手元には後300万あるか無いかだ。
ま、これも先行投資だと思えば安いもんだ」

「ごめんなさい、アタシの為にそれだけのお金を使わせてしまって…」

申し訳なさそうに鴨志田はうつむいた。

「これも作戦のうちだ、気にする事はない。で、次はアンタの出番だ」

「出番って、まずは何をすればいいの?」

もはや鴨志田は達也の手足のように動くしかない。

鴨志田も自分に幾らかの大金が入るならば多少の事は目をつぶるしかない。

「オレの社長就任に反対する幹部連中が何人かいる。アンタはその中で1番の切れ者を手懐けるようにすればいいんだ」

「手懐けるって…どうやれっていうの?」

達也は立ち上がり、鴨志田の隣に座り、ジャージの上からでも目立つ大きな胸を鷲掴みにした。

「ちょっと、何するのよ!」

「アンタの初仕事はこれだ。このおっきいオッパイを武器に骨抜きにしてやればいい」

…鴨志田は達也の手を払いのけた。

「またソープ嬢みたいになれって事?冗談じゃないわ!」

「やってもらわねえと困るんだよ、オレらの計画がパーになってもいいのか?大金はもう目の前にあるんだ。だからこの仕事はアンタにしか頼めない。
いいか、アンタは数日前までソープ嬢だった。そのテクニックと今まで嫌と言うほど見てきた男の醜い部分を引き出してやればいいんだ、なぁ?」

確かにソープの時は、色んな客を相手にしてきた。

そして男の厭らしく、醜い部分も数々見てきた。

「ホントにそれで計画が成功するの?」

念を押すように確認した。

「成功する。幹部連中の1番の切れ者をこっち側に来てくれりゃ完全に会社はオレたちの物になる。人間に必要な欲望を叶えさせてやりゃ、自然とこっちになびいてくるさ」

まだ19才なのに、この強かさ、鴨志田はこの絶対的な自信を持つ達也に従えば、またブランド物に囲まれて過ごす生活が出来ると頭の中で描いて、達也の作戦に乗るしかないと心に決めた。

次期社長について

ホテルを出た後、達也は会社に連絡を入れた。

「あ、もしもし、お疲れ様です、達也です。あれから何か進展はありましたか?
…そうですか、まだ連絡がないですか。
ええ、はい。ではこれから僕は警察に行って捜索願いを出してきます。
……はい、大丈夫です。皆さん仕事があるでしょうし、何せ自分の母親ですから。
…えぇ、解ってます。
じゃあ何かありましたら、また連絡下さい。僕も連絡しますので。はい、では失礼します」

電話を切り、達也は警察署へと向かった。

捜索願いを出して、警察は母親の足取りを調べるだろう。
勿論、会社にも警察が来て、色々と聞かれる。

まぁ、色々と聞かれても、元々一緒に住んでないし、一足先に会社を出た達也にはアリバイがある。

もうすぐだ、もうすぐでオレの会社になる。

達也は含み笑いをしながら警察署に着き、急に神妙な顔つきに変わり、捜索願いの申請をした。

警察からは、最後に母親と会ったのは何時頃で、その時は何をしていたのか、母親と最後に会った人物は誰か、一緒に住んでる亮輔はすれ違いの生活を送っていた為、ここ数日会ってない等々色々と話をした。

とにかく一刻も早く探して欲しい、朝から全く連絡がとれないのは、母親の身に何かあったからに違いない、と役者顔負けの迫真の演技で訴えた。

そして捜索願いが受理され、警察が動き始めた。

達也は、よろしくお願いします、と深々と頭を下げ、警察署を後にした。

そして再度、会社に連絡を入れた。

「あ、もしもし、度々すみません、達也です。全く連絡がないですか?…そうですか…
今、警察署に行って捜索願いを出してきました。
多分、明日には警察が会社に来るかと思いますが、お手数ですが、よろしくお願いします。
…ええ、はい大丈夫です。
とにかく後は警察に任せましょう。
皆さんも遅くまで残ってくださってありがとうございます。
今日のところはこれで帰ってください。
母の為に誠に申し訳ありませんでした。
…ええ、大丈夫です。
じゃ僕はこのまま帰ります。
明日も会社に来ますので…はい、大丈夫です。
こんな時に学校に行ってる場合じゃありませんから。
…はい、解りました。
それではまた明日、はい、失礼します」

これでよし、と。

達也はその日は自宅に戻り、そのまま眠りについた。

翌朝、達也は起きてまず始めに亮輔に連絡を入れた。

亮輔は事の重大さが解ってないのか、また夜遊びをして帰ってきたばかりだった。

「もしもし、亮輔か?あれからオフクロから連絡があったか?」

亮輔はちょうど寝ようと思い、ベッドで横になっていた。

【いや、オレも今帰ってきたばかりで何も…】

「お前、こんな時だってのに、遊びに行ってる場合か!お前が一緒に住んでて何でわからねえんだっ!オフクロの身に何かあったらどうすんだ!」

達也は亮輔の夜遊びを叱責した。

【うん、悪かったよ…でもオフクロ、前にもこんな事が何度もあったから、またしばらくしたら戻ってくるんじゃないかな、と思ってたからさ】

全ては達也の計画の通りに動いていた。

どこを探してもオフクロは見つからない、ましてや車ごと密輸船に拐われて太平洋を横断している最中だ。

達也は切羽詰まった口調で更に続けた。

「いいか、オレは昨日警察に捜索願いを出した。多分そっちにも警察が来るはずだ。お前、今日はどこにも出るんじゃないぞ、解ったな?」

【う、うん。でも全く連絡つかないって、どこで何やってんだろう…】

このバカが!随分と呑気なヤツだな。

次はお前がターゲットになることも知らずに毎日夜遊びとは。

達也を連日のように連れ出している小島も達也からいくらかの謝礼を受け取って、亮輔を毎日のように連れ出している。


いつも一緒にいる亮輔と母親を分断させる作戦は効を奏した。

「いいか、オレはこれから会社に行くから何かあったら必ず連絡しろよ、解ったのか?」

達也が語気を強めた。

亮輔はその声に気圧されて、うんと言うしかなかった。

電話切って達也は会社に行く為、スーツに着替えた。

今日は警察が来るはずだ。

オレや幹部連中は事情聴取を受けるだろうが、これも計算通りだ。

家を出た時は、不適な笑みを浮かべていたが、会社に着く頃には、憔悴しきった顔で、母親が使用していた社長室に入った。

中には既に何人かの幹部連中がいて、達也は昨晩警察に捜索願いを出した事を伝えた。

そして会社にも警察が来て、色々と聞かれるだろうが、ご了承下さいと言って頭を下げた。

案の定、警察が来て、達也を始め、数人の幹部連中が色々と聞かれた。

社内では社長が失踪した、もしくは誘拐されたと口々にする社員もいて、仕事どころではなかった。

達也はこの様子を見て、一人の幹部にターゲットを絞った。

その幹部の名は、副社長である沢渡(さわたり)。母親が社内で1番信頼しており、右腕的な存在であり、幹部の中でも、群を抜いて優秀な人物だった。

その日は警察に何度も母親が会社を出たのは何時で、その時に一緒にいた社員は誰か?
そしてその時の母親の様子はどうだったのか?等と質問攻めにあった。

達也も、その日は夕方に会社を出て、大学のコンパで居酒屋に行っていたので、足取りは解らないと言って、シラを切り通した。

しばらくはこんな状態が続くだろう。

そして達也は沢渡に話を持ち掛けた。

「沢渡さん、もしこのまま社長が見つからなかったら、次は誰を社長にするのですか?」

心配そうな表情を浮かべながらも沢渡に尋ねてみた。

「いや~、それはまだ先の話でしょう。それより社長の安否が先決です」

沢渡は50代前半で、母親とは長い付き合いだ。

元々は母親がスナックの雇われママをしていた時の常連で、パトロンを利用して会社まで設立した当初、母親に口説かれるかのようにこの会社に移った。

以来、母親は沢渡を信頼し、沢渡も持ち前の営業力でこの会社を大きくした立役者だ。

「ですが、このままでは業務に支障が…代役でもいいから誰か社長にしないとマズイのでは…」

達也は沢渡が誰を社長の代役するのか、もしかしたら、沢渡が暫定的な社長になってこの会社を何とかするとでも言うのだろうか。

「当面の間は私が代役を努めます」

やっぱり!達也はそう答えるだろうと思った。

「で、その話なのですが、仕事が終わったら僕に少し付き合ってもらいたいのですが、よろしいですか?」

達也はここで鴨志田を使うつもりだ。

「今日ですか?しかしこんな状況で…」

沢渡は戸惑いの表情をして、少し渋っていた。

「お願いします、こんな状況だからこそ、こういう話をしないといけないんじゃないですか?母親、いや社長の行方は警察に任せるしかないでしょう。会社としては、社長も決まらずに仕事なんて出来ないのではないですか?だから沢渡さんにこうやってお願いしてるんです」

達也はこの通りだ!とばかりに深々と頭を下げた。

「わ、わかりました。では終わったらお付き合いします」

よし、誘いに乗った!

「じゃあ、終わりましたら、店で…それと沢渡さんに是非とも会っていただきたい人がおりまして…」

「会う?どんな方ですか?」

沢渡は少し考え込んだ。
どんな人物だ?この会社に関係する人物なのか?と。

「実は僕の知り合いで、経営コンサルタントをしている女性がいるんです。
いずれ社長にも会う予定だったのですが、こんな事になってしまったもので…だから沢渡さん、社長の代わりとして会っていただけないでしょうか?」

「経営コンサルタントをしていた女性ですか?まぁ、社長と会う予定だったと言うならば、私でよければ…」

「はい、では後程セッティングの場を設ける所をお教えしますので。一旦失礼します」

頭を下げ、達也は部屋から出た。

そしてトイレの個室に入り、スマホで鴨志田にメールを送った。

LINEの方が手っ取り早いのだが、やり取りが見つかった時の事を考えて、敢えてメールにした。

達也は指定の場所に来るよう鴨志田にメールを送った。

僕が社長になります

達也は沢渡を連れ、会社の近くにあるファミレスへと案内した。

そこには既に鴨志田が待っていた。
高校教師の頃のような、黒髪のロングヘアーを一つに束ね、メガネをかけ、黒のスーツに白のインナーという出で立ちだ。

そして白のインナーの胸元はかなりボリュームがあり、谷間が目立つ。

鴨志田は立ち上がり、達也と沢渡に頭を下げた。
その時に見える大きな胸の谷間を沢渡は凝視していた。

達也は勿論、鴨志田も沢渡が自分の胸に視線がいっているのが解る。

「紹介します、この方が元経営コンサルティングの鴨志田紗栄子さん。
鴨志田さん、この方が沢渡さんで、社長が1番信頼していた右腕的な存在の方です」

達也は二人を紹介した。

「はじめまして、鴨志田と申します。この度の件では何と申し上げたらよいのか。
古賀社長にお会いするのを楽しみにしていたのですが…
早く見つかるといいですね」

鴨志田は心中を察しますとばかりの表情を浮かべ、挨拶した。

「こちらこそはじめまして、沢渡と申します。今回の事は私どももサッパリ解らなくて…何か身の危険でもあったのじゃないかと、我々は警察に捜索願いを依頼しました。ですからこんな状況なもので、仕事もろくに手がつかない状態です」

沢渡は沈痛な表情で話、席に座った。

「で、沢渡さん。このまま社長の行方が解らないとなると、誰が社長の代わりをするかという話です。
そのために今日は鴨志田さんを紹介しようと思いまして、沢渡さんにご無理を言ってお誘いしたわけです」

達也は申し訳なさそうに沢渡に詫びながらも、次の社長についての話をしに、この店に案内したという事を伝えた。

「まぁ、確かにいつまでも社長不在のままで業務は難しいですね」

沢渡は自分が社長代行として、やるつもりだと思っていた。そのための話をすると思っていた。

が、しかし、達也の口から出たのは意外な言葉だった。

「沢渡さん、社長は僕に次の社長になって欲しいとおっしゃってましたよね?それで僕なりに考えたのですが、私が代役として社長を引き受けたいのですが」

「えっ?」

沢渡は呆気にとられた。

達也はまだ大学生でしかも未成年だ。まだまだ社長になるのは早すぎる。

沢渡は難色を示した。

「達也さん、確かに社長は貴方を次期社長として、指名しましたが、いくらなんでも今は早すぎます。
達也さんはまだ大学生でしかも未成年だ。こう言っちゃなんですが、経営の事をご存知なんですか?」

てっきり自分が社長の代役を任されるのかと勘違いした沢渡は、話にならない、とばかりに言い放った。

「確かに僕はまだ大学生でしかも19才という年齢です。それに沢渡さんから比べたら、僕なんて、まだまだガキです。
だからこそ、鴨志田さんを我が社に引き入れて、新体制を作るんです。
社長は、いや、オフクロは鴨志田さんの事をヘッドハンティングする予定だったのです。
経営コンサルティングという経歴を持つ鴨志田さんをオフクロは前から引き抜こうとしていたんです。
鴨志田さんは経営のプロです。
だから鴨志田さんを秘書に僕が後を継ぎます。
沢渡さん、貴方が了解してくれれば、他の社員達も納得してくれるはずです。
どうか、お願いします!」

達也はテーブルにおでこをつけるようにして頭を下げた。

「沢渡さん、達也さんから色々とお話しは聞きました。
あくまでも仮説で、その間に古賀社長が現れくれればいいのですが、もし万が一という事もあります。
その時は私が達也さんの秘書となって御社の経営アップの為に尽力します。
どうでしょうか?」

達也は鴨志田が話している間も、土下座のようにして、テーブルにおでこをつけたままだった。

「いや、でもしかし…」

沢渡は戸惑った。

こんな青二才に会社を任せるなんて無理に決まってる。

とはいえ、あの社長が是が非でも引き入れたいという鴨志田という経営のプロが目の前にいる。

でも、おかしい。それなら何故、社長は自分にこの事を一言も言ってくれなかったのだろうか?仮にも社長の右腕として会社を支えてきた自分には何でも言ってきたのに、今回の件は初耳だ。

沢渡はそこが不審に思った。

「鴨志田さんと言いましたね。
古賀とはいつ、どこで貴女とお会いして、このようなお話しをされたのですか?」

何か引っかかる、沢渡は鴨志田にその事を聞いてみた。

「実は私、古賀社長とは大学時代の先輩後輩という間柄なのです。
卒業して、久しくお会いしてませんでしたが、つい先日、古賀社長が私の勤務先、経営コンサルタントの事で相談にいらっしゃった時に偶然お会いしたのです。
それから連絡を取り合うようになって、あくまでもプライベートなお付き合いで、飲みに行ったりしました。
最初はこの話を持ちかけられた時、私はお断りしました。
でも、何度も古賀社長は是非ウチに来て欲しいと言われて…
それで私、返事を保留したのですが、その矢先に今回のような件がありまして。
古賀社長は達也さんを連れてよく私と食事をしたりして何度か顔を合わせております。
で、今回の古賀社長の失踪の話を達也さんから直接聞きました。
達也さんは大変母思いで、会社の事も随分とご心配なさってます。
この件がきっかけというわけではありませんが、私は御社で今まで培ってきた経験を活かし、いつ古賀社長が戻ってきてもいいように、いや、戻ってきた時は更に大きくなった会社を見てもらいたい為にお引き受けしました」

鴨志田はキリッとした知性溢れるメガネの奥に光る目力で、沢渡に訴えかけた。

「そうは言ってもですね、今こうして初めて会って、達也さんを社長にする、貴女を秘書として迎えると言われて、ハイそうですか、というわけにはいかないんですよ。私も長年社長と共に会社を切り盛りしてきました。その自負もあります。
こう言ったら失礼になるかもしれませんが、外様の人に会社の実権をそう簡単に渡すわけにはいかないんですよ、解りますよね、私の言ってる事は?」

沢渡は鴨志田の胸の谷間をチラチラと見ながらも、難色を示した。

だが、鴨志田はついこの前までソープ嬢として、数々の男を相手に、その豊満な肉体を使って悦ばせてきた。

この男、さっきから私の胸ばかりを見ている。
欲求を満たしてあげれば、我々の条件を飲んでくれるはずだ、鴨志田はそう思った。

すると、達也が何かを思い出したかのようにスマホを取り出した。

「申し訳ありません、沢渡さん、鴨志田さん。先程警察から連絡がありまして、オフクロの家にも捜査が入るみたいで、立ち会いをしなければならなくなったのです。
ですから、今日はここで失礼させていただきますが、お二人はこの後、場所を変えて話し合いをしてみたらどうでしょうか?僕はまだ未成年ですから、お酒は飲めませんですが、お二人なら気兼ねなくお飲みになれるでしょう。
それから判断してもいいかと思うのですが…いかがでしょうか?」

達也は鴨志田と沢渡を二人きりにする計画を立てていた。

「私はお断りする理由はありません。むしろ、沢渡さんと今後の事についてじっくりとお話ししたいです」

鴨志田は笑顔で達也の申し出を受けた。

「ま、まぁ、それなら一杯飲みながら話をするぐらいなら平気ですが」

沢渡は何度も鴨志田の大きな胸に目線をやりながら返事をした。

(この男、アタシとヤリたくて仕方ないんだわ。後で骨抜きにして、こっちが主導権を握らせてもらうわ)

沢渡が鴨志田の身体を狙っているのは見え見えだった。

その誘いに乗った沢渡は後は鴨志田のソープ仕込みのテクニックで、何度もイカせてあげればこっちのものだという作戦に出た。

「じゃあ、すみません、僕はこれからオフクロの家に行きますので、後はよろしくお願いします」

達也は頭を深々と下げ、鴨志田とアイコンタクトをとった。

(後は任せたぞ)

(了解、こっちは任せて)

そして足早に達也は店を出た。

マンションから追い出す

鴨志田は沢渡と共にファミレスを出て、ゆっくりと話が出来る場所を探していた。

「沢渡さん、この店どうでしょうか?個室居酒屋って書いてありますけど。
こういった話は非常にデリケートなので、仕切られた部屋で話すのがいいかと思うんですが…」

鴨志田はビルの3階にある、個室居酒屋という店を見つけ、沢渡を誘おうとしていた。

沢渡も下心が見え見えで、個室ならば、誰の目も気にせず、その大きな胸の谷間をじっくり見ながら飲むのもいいかな、というスケベ心で、エレベーターに乗り込んだ。

個室とはいえ、薄いカーテンで仕切られ、ペアシートの様なソファーで、身体をくっつけながら酒を飲むという感じの個室だった。

鴨志田はわざと沢渡にピタッとくっつき、メニューを見ていた。

「沢渡さん、ビールでよろしいかしら?」

先程と比べると、鴨志田の口調が少し甘えたような感じに聞こえる。

沢渡は悪い気はしなかった。

「えぇ、じゃあビールで乾杯しましょう」

テーブルにあるブザーを鳴らし、中生ジョッキといくつかのつまみを注文した。

「沢渡さん、実は私、お酒そんなに飲めなくて弱いんですが、大丈夫ですか?」

更に身体を寄せて鴨志田は上目遣いで沢渡を見つめた。

「あぁ、そうですか。ならばビールは止めてソフトドリンクに変更しましょうか?」

あくまでも紳士的な対応で沢渡はメニューの変更をしようとブザーを押そうとしたが

「あ、大丈夫です。少しなら飲めますから、ご心配なく」

沢渡の手を触れ、ブザーを鳴らすのを止めた。

「では乾杯しましょうか?あ、ごめんなさい、こんな大変な時に乾杯だなんて」

鴨志田はついうっかりという口調で沢渡に謝った。

「いや、あの件は警察に任せるしかないですから、お気になさらずに」

そう言って乾杯した。

その後、二人は現在の会社の状況、今後の展開について話し合った。

だが、特にこれといった結論は出ず、鴨志田は先ほどのビールで少し酔ってしまったみたいだ。

沢渡に肩にしなだれ、甘えた口調で、普段は何をしているのか、お子さんは何人いるのか、という雑談へと変わっていった。

一方、達也は亮輔に連絡を入れ、今からそっちに行くと言ってタクシーを拾い、母親のマンションへと向かった。

(向こうはあの女に任せて、オレはまず亮輔をあのマンションから追い出す事から始めよう)

所詮はまだ15のガキだ。
少し小難しい事でも言えば、やむを得ず、あのマンションから出て行くに違いない、達也は頭の中で何度もシミュレーションをした。

そしてマンションに着き、部屋に入った。

亮輔は呑気にゲームをやっていた。

「亮輔、ちょっとゲーム止めてオレが今話すことをちゃんと聞いて欲しい」

真顔で亮輔に問いかけ、亮輔は一旦ゲームを止めた。

「あれからオフクロから何か連絡はきたか?」

「いや、まだ何も」

「そうか…」

達也は沈痛な表情で亮輔に伝えた。

「実はな、オフクロの会社かなりヤバいんだよ」

「ヤバいって何が?」

「それがだな…」

達也は一呼吸置いてから話を切り出した。

「オフクロの会社、かなりの赤字らしい。ああ見えて優雅な生活を送っていたが、実際は火の車で、融資も断られたみたいだ。
で、今からこの事をお前に言うのはかなり辛い事なんだが…このマンションを手放さなきゃならなくなった。
勿論、オレの住んでるワンルームマンションの土地も建物も売却するらしい。
亮輔、お前しばらくの間、どっか住む場所とかないか?オレは大学のツレの家にしばらく厄介になるが、お前は住み込みでもどこでもいい、とにかく住む場所を見つけてしばらくの間は我慢してくれないか?
会社は必ず立て直してみせる。
だから、しばらくの辛抱だ、頼む!」

達也は亮輔に申し訳ないと、頭を下げた。

会社を乗っ取るのに何度頭を下げたことか。
しかし、こんな事も全て達也の想定内だ。

勤勉な好青年を演じ、周囲から好感度を上げる為にはこのぐらいの事は容易い。

亮輔は達也の項垂れた様子を見て、本当に母親が失踪したんだと思い、頭の中がパニックしていた。

「あ、アニキ、ホントにオフクロは行方不明なの?」

「…そうだ。多分、会社が傾きはじめ、色々と金策に回ったみたいだが、全て断られて失望して行方をくらましたんじゃないかと思う。あの会社も他の企業に買収され、オレたちは何もかもを失った。
亮輔、オレは大学を辞めてその買収する企業の一員として再スタートする。
…亮輔、ホントにすまない。
お前はまだ15才だというのに…本来なら高校に通って皆と遊んで楽しい学園生活を送っていたはずなのに。ホントに申し訳ない!」

達也は亮輔に土下座をして謝った。

母親の側で経営のなんたるかを学びながら、会社が倒産寸前だった事さえ気づかなかった自分のせいだ、と。

「で、このマンションはいつ売られるの?」

亮輔には、今すぐこのマンションから出て行けと言われてもアテなどない。

だが、こうなった以上は立ち退くしか他は無いのだ。

「アニキ、オレまだ少し金残ってるからインターネットカフェとかカプセルホテルとかで泊まりながらどっか住み込みで働ける場所を探してみるよ…」

そうは言ってみたものの、オレみたいな年齢を雇ってくれるとこなんてあるのだろうか?
段々と不安になってきた。

それとオフクロの安否も気になる。

「で、オフクロの手がかりとかは全く掴めてないの?」

亮輔は達也に何度も確認した。

「警察も動いてるんだが、今のところは何の手がかりもない。もしかしたらオフクロは絶望して…」

「えっ?」

「…いや、まだハッキリとは解らないが、もしかしたらオフクロは自殺してる可能性もある…」

達也はギュッと拳を握りしめ、声を震わせながら答えた。

「そんな…だってまだそう決まったワケじゃないんだろ?オフクロは必ずどこかにいるよ、いや絶対にいる!」

亮輔は反論するように言ったが、達也は更に続けた。

「オフクロは借金があってな…しかも借りたところがヤミ金らしい。利息が何倍にも膨れ上がり、とても返せる額じゃない。
だから悲観して…確かにお前の言うとおり、まだどこかにいる可能性もある。オレだってまだオフクロが生きてるって信じたい。
でもな、お前にはまだ解んないだろうが、ヤミ金てのは恐ろしい連中だ。バックにはヤクザがついてる。
アイツらはとことん追い詰めるからな…」

「…じゃあ、オフクロは?もうこの世にいないって事?ウソだろ?」

「…だからまだハッキリとした事はわかんねえんだよ!こっちだってあちこち探し回ってるんだ、おまけに借金があって会社も無くなってしまう。
亮輔、お前オフクロと一緒に住んでて何も感じなかったのか、異変とか?」


そう言われると、返す言葉もない。
ここしばらくは小島に誘われ、夜な夜な出歩いていて、すれ違いの生活を送っていたからだ。

「こんな時に呑気に夜遊びなんてしやがって!1番身近にいたお前が解らないなんて、今まで何をしてたんだ、おいっ!」

達也は急に物凄い形相で亮輔に詰め寄った。

「ホントに知らなかったんだょ…だってそれまで普通にしてたのに…何でこんな事になったんだよ、オフクロ~っ!」

亮輔は泣きながら母親の異変に全く気がつかなかった事を後悔した。

「…そうだな、悪かったな、責めたりして。お前はまだ15才だし、まだまだ遊びたい盛りだしな…悪かったな怒鳴って」

達也は優しく亮輔の手を握った。

「オレ、すぐに荷物まとめてここを出るよ。しばらくは貯金で生活して、どっかで部屋借りて仕事さがしてみるよ…」

亮輔は力なく言ってみたが、働くどころの状態じゃない。
母親の事が気がかりで、不安がドッと押し寄せてきた。

「亮輔、何かあったら必ず連絡よこせよ。オレは何があってもお前のアニキだからな!」

(へっ、テメーなんか元々赤の他人なんだよ!さっさと出てって野垂れ死になれ、このくそガキが!)

心の中で達也は亮輔の事など眼中にない。

さっさとここを出てって、ここは高値で売り飛ばす。

達也は亮輔を一刻も早くここから追い出したかった。

「…解ったよ…今から少しずつ荷物まとめて出て行く用意するから…だからアニキも気をつけて…そして必ず連絡してくれよ」

「あぁ、解った。オレとお前の二人だけになっちまったからな。じゃ準備が出来たら連絡してくれ、オレはまたこれから会社の事で色々と行かなきゃならない所があるんだ。亮輔、元気でな…」

達也は立ち上がり、フラフラと夢遊病者の如く玄関で靴を履いた。

「アニキ、オレ必ず連絡するから!」

亮輔の言葉を背に受け、軽く手を上げて達也はドアを開け、出ていった。

(よし、こっちは任務完了だ。後はあの女が沢渡をどうするかだ)

マンションのエントランスを出て、達也は次の作戦へと場所を移動した。

鴨志田と沢渡を後を尾行する為に、鴨志田から連絡を受けた個室の居酒屋へと向かった。

ホテルでの痴態

鴨志田は酔ったフリをして、最大の武器である大きな胸を沢渡に押し付けるような形で、肩にもたれかかった。

「ごめんなさい、沢渡さん…私ホントにお酒に弱くて…でもこうして沢渡さんとお話しするにはこういう場所がいいと思って…」

沢渡は腕に鴨志田の胸の感触で刺激され、いつしか股間がムクムクと膨れ上がった。

(この女、オレを誘ってるのか?)

猜疑心の強い沢渡は、理性で何とか抑えようとしたが、狭いソファーでピッタリと身体を寄せ合い、胸を何度も押し付けてくる鴨志田の肉体に男としての本能が徐々に露になってきた。

(これはヤレそうだな…)

しばらく妻との夫婦生活も無く、ご無沙汰だった下半身が充血し、理性より本能が上回った。

「鴨志田さん、大丈夫ですか?こんなとこでフラフラになると店に迷惑がかかってしまう。
少し外の空気を吸って酔い醒ましにここを出ましょう」

「あぁ~、はい、そうですね…すいませ~ん、ホントに」

酔っ払った鴨志田を介抱しながら、会計を済ませ、店を出た。

そのタイミングを見計らって、近くのファストフード店の窓際でコーヒーを飲んでいた達也は二人の後を尾行した。

マンションを出て、鴨志田から連絡を受けた居酒屋付近までそれほど距離は離れてなかった。

その間、鴨志田は何度もトイレに行き、達也と連絡を取り合っていたのだ。

達也は二人を尾行し、一定の距離を保ちながら達也は繁華街を抜け、ホテルが立ち並ぶ通りを歩いていた。

鴨志田はホテル入り口でヨロヨロとして歩く事さえおぼつかなくなっていた。

「よし、あのホテルだな」

達也は二人がホテルに入る瞬間をスマホのカメラで撮った。

沢渡の横顔と鴨志田が肩に頭を乗せている場面をおさえた。

後は鴨志田が部屋でソープ仕込みのテクニックで骨抜き状態にして、この作戦は完了だ。

達也は後ろを振り返り、その場から立ち去った。

後は明日を待つのみ。

明日になればオレは社長になる!
興奮を抑えきれず、達也は近くにあったソープランドに入り、興奮状態の下半身を沈めようと、その店のナンバーワンのソープ嬢を指名した。

今頃はあの二人も互いの身体を貪り合ってるのだろう。
そう考えただけで達也の肉棒はそそり勃ち、ソープ嬢の口に無理矢理押し込んだ。

頭を押さえつけられ、イラマチオ状態のソープ嬢が苦しがっていたが、お構い無しに腰を前後に振った。

「んぐっ、ゲホッ…」

ソープ嬢の口から大量の唾液が垂れて、一旦口を離し、ブハーっと苦しげに息を吐き、またイラマチオで喉奥まで肉棒を突きまくった。

そして段々と腰の動きが早くなり、肉棒に快感が押し寄せる波のように陰嚢の中にある全てのザーメンを喉奥にぶちまけた。

「…あぁ、いい、気持ちいい…」

達也は大量のザーメンを吐き出し、ヘナヘナとソファーに座り込んだ。

ゲホゲホっと口からザーメンが滴り落ちてくる。

「飲めよ、今こぼしたのも全部飲め、飲むんだ!」

鋭い眼光と恐ろしいまでの威圧感を醸し出し、達也はソープ嬢に床に滴り落ちたザーメンを舐めるよう命令した。

怖くなったソープ嬢は達也の言われるがままに床に舌を這わせザーメンをすすり、飲み込んだ。

「ふぅ、やっと落ち着いた。
悪かったな、これ取っといてくれ」

懐から数十枚の一万円札をパッと宙にばらまいた。

ソープ嬢はその万札を1枚たりとも残らずに床に散らばった金を拾い続けた。

その様子を見て達也は部屋を出た。

ヌキたくなったからヌイた。
別に口じゃなく、膣内でも良かったのだが、口が手っ取り早いと思い、無理矢理フェラをさせ、1秒でも早くザーメンをぶちまけて、クールダウンしたかっただけだ。

店を出た達也はそのまま家に帰り、シャワーを浴びて明日に備えて深い眠りについた。

一方鴨志田は、沢渡とホテルに入り、ヨロヨロと床にへたりこみ、バタンと横になった。

「鴨志田さん、そんなとこで寝てないでベッドに入りましょう」

下心見え見えの沢渡は鴨志田を抱き抱えるようなフリをして、大きな胸を掴みベッドへ移した。

「う~ん、苦しい、服脱がして~」

鴨志田は酔っ払ったフリをして沢渡を誘惑した。

「えっ、服を?あぁ、はい、脱がないとシワになりますからね」

ニヤけながらも鴨志田のジャケットを脱がした。

白のインナーがより一層大きな胸の盛り上がりを誇張しているかのようだった。

「あぁ、暑い、下も脱がせて~」

(おいおい、こりゃホントにヤレそうだな…)

無言で沢渡は鴨志田のタイトな黒のスカートを脱がした。

黒のパンストにセクシーな紐のような赤の下着が性欲をかきたてる。

後は沢渡の思うがままに1枚1枚とパンスト、インナーを脱がし、赤のブラジャーに赤のパンティ、しかもTバックだ。

「うぅ~ん、メガネ、メガネも外さないと」

鴨志田はメガネを取り、枕元にある有線のチャンネル脇に置いた。

「沢渡さぁん、ホック外してくれませんかぁ?」

うつ伏せになり、沢渡は下半身を怒張させながらブラジャーのホックを外した。

大きな胸が露になり、もう我慢出来ないとばかりに、沢渡も服を脱ぎ始めた。

「あぁ、沢渡さん変なとこ触っちゃいやぁ」

一応抵抗してみるが、雄の本能のまま、沢渡が乳首を舐めながら、秘部に指を滑り込ませた。
愛液で濡れた花弁の中に指を射れ、クチュクチュと愛液が溢れ、イヤらしい音を立てた。

「あぁ、ダメ、吹いちゃう…」

ブシャーっと鴨志田の肉壺から潮が吹き出た。

堪らず沢渡はその秘部を舐め、クリトリスを舌で刺激した。

「あぁ、またイッちゃう、イッちゃう!」

ビクンと痙攣するように鴨志田は絶頂に達した。

だが、沢渡はお構い無しに愛液をすすり、指を挿れてさらに刺激する。

「お、オレのも舐めてくれ…」

沢渡は鴨志田の顔に勃起した肉棒を近づけた。

ジュルジュル、ジュポジュポと音を立て、喉奥まで咥えこんだ。

シックスナインの体勢で互いの秘部を刺激しあう。

「もう、ダメだ、挿れさせてくれ!」

沢渡は素早く肉壺に久々に屹立した肉棒を押し込み、正常位でゆっくりとピストンし始めた。

部屋には男女の歓喜のヨガリ声が響く。

「あぁ~ん、沢渡さん生で挿れたの?ゴムして~、あぁ、ダメまたイッちゃう!」

ベッドの脇に備え付けであったコンドームを着けずに、色々な体位で鴨志田を突き上げる。

「おぅ、スゴい、スゴい締め付けだ…」

ソープで鍛えた締まりの良い肉壺がキュッキュッと肉棒を締め付ける。

「あぁ、イク、オレもイキそうだ…」

「中に出さないで、外に…あぁ、外に出して~っ!」

「あっ、出るっ」

素早く肉棒を抜いて鴨志田の胸に精子をぶちまけた。

ここ最近、ご無沙汰だったからなのか、鴨志田が名器の持ち主なのか、大量のザーメンを放出し、まだビクンビクンと脈打っていた。

「はぁ、はぁ…久しぶりだこんなに気持ちよかったのは…」

ゼイゼイしながら沢渡は仰向けになり大の字になって余韻に浸っていた。

「沢渡さん、お掃除してあげる」

むくりと起き上がり、まだ勃起が収まらない肉棒を咥え、1滴残らずザーメンを吸い出した。

「あぁ、くすぐったい、でも気持ちいいっ」

日頃の会社での冷静沈着な面影はなく、肉棒を咥えられ、悶絶している姿を鏡張りの天井が映し出していた。

こうなると、後は鴨志田が主導権を握り、ありとあらゆるテクニックを駆使して何度もイカされた。

だが、この痴態をバッチリと収録されていた。

それは鴨志田のメガネのフレームには小型の内蔵カメラが仕込まれており、その様子を一部始終撮られていたのだった。

ハニートラップ

翌朝、二人は時間差でホテルを出た。
誰が見てるか解らないように、時間をずらせて出ていった。

部屋では鴨志田が目を覚まし、側では沢渡が寝ていた。しかも全裸に近い格好だ。
何で?どうして?
鴨志田は沢渡を叩き起こした。
沢渡もパンツを履いているだけの格好だった。

「沢渡さん…私、昨夜は酔ってあまり覚えてないのですが…まさか何もしてませんよね?何でこんな格好に…?」

あくまでも酔って記憶を無くし、介抱されてホテルで休憩したという事なんだと思っていたらしい。

沢渡はやや動揺しながらも、あくまで紳士的に介抱して何もせずに一夜を過ごしたと言ってごまかした。

(マズイな、この女昨夜の事覚えてないのか?いや、そんなはずはないだろう。あれだけ何度もヤッたんだから…とにかく何もしてないとシラをきるしかない)

沢渡は何もしていない、ただ鴨志田をベッドに寝かせて自分はソファーで寝て一晩を過ごしたと言い張った。

「ごめんなさい、私、アルコール弱くて…何か沢渡さんにご迷惑をおかけして…」

「いや、お気になさらずに。私も酔った女性をそのまま一人にさせるワケにはいきませんからね。大丈夫、私は何もしてませんから。それに私には妻も子供もいる。そんな軽はずみは行動は出来ませんよ、ましてやこんな大変に時に」

顔をひきつらせながらも笑顔で沢渡は身の潔白を主張した。

(覚えてないのか…しかしまぁ、随分と酒の弱い女だ。しかもあんなに淫乱だったとは…これならまた誘って少し飲ませればまた…クックックック、しかしいい身体してたな)

「じゃあ、何もなかったんですね?良かった、私、沢渡さんを疑っちゃって…ホントに申し訳ありません」

鴨志田は沢渡の言葉を信じて、ホッとしたような安堵の表情を浮かべた。

「では私はこのまま会社に出勤します。鴨志田さん、会社の件ですが、私は鴨志田さんがウチの会社に来てくれるなら一緒に頑張っていつ社長が戻ってきてもいいように会社を大きくしていきましょう」

「はい、こちらこそよろしくお願いします。で、その間の社長の件なのですが…達也さんを社長にするというのはやっぱり反対ですか?」

何としてでも達也を社長に就任させないと、今までの計画がパーだ。
訴えかけるような眼差しで鴨志田は沢渡に申し出た。

しかし、沢渡は全く話しにならない、とばかりに一笑した。

「バカな事を言っちゃいけませんよ。こんな事言ったら何だが、あの青二才に何が出来ると言うのか?
貴女も経営コンサルティングの肩書きを持つお方だ。
誰が次の社長になるか、そんな事は解りきってるじゃありませんか」

次の社長はオレしかいない、どんな思いであの会社を大きくしたと思ってるんだ、オレの力量であの会社を支えてきたんだ、という自信があった。

「では次の社長は誰に…?」

沢渡はポケットに手を突っ込み、胸を張るようにして自信満々で答えた。

「それは私です。今まで社長の側で粉骨砕身、会社に身を捧げてきたのです。それをいくら社長の息子とはいえ、まだ大学生の身分で社長だなんて誰が認めますか?貴女がもし私の立場だったら、ハイと言えますか?言えないでしょう」

実際、沢渡があの会社を実権を握っているようなものだった。

社長の右腕的存在と呼ばれていたが、泥をかぶるような事も何度かあった。

その都度、沢渡が上手く立ち回り、事なきを得た。

そんな自分が次の社長になるのは当たり前だ。

後からひょっこり現れてバイト感覚で社長にくっついていたガキなんかに任せたら会社が傾くに違いない。

「お言葉を返すようですが…」

鴨志田は沢渡の目を見ながらキッパリと言い切った。

「沢渡さんの仰るとおり達也さんは大学生でまだ19才という若さです。
でも達也さんには古賀社長の血を引き継いでいる方です。
達也さんは古賀社長以上の才覚があります。
後は経験を積むだけです。
そこは私が秘書としてサポート致します。
達也さんなら必ずあの会社を大きくするでしょう」

沢渡はふざけるな、とばかりに反論した。

「冗談じゃない、会社はゲームじゃないんだ、ゲームなら途中で終了してもまた続きから始められる。
架空の世界じゃないんだ、現実の世界なんだよ、会社は!あんな若造に何が出来るというのだ?」

「沢渡さん、時にはゲームのような感覚も必要です。もう少し柔軟なお考えをお持ちになって下さい」

沢渡は不機嫌になり、吐き捨てるように
「鴨志田さん、貴女とはやっぱり一緒に仕事は出来ませんな。どんな考えか解らないけど、私には私の信念がある。
とりあえずいつまでもこんな所で朝っぱらから論議してる暇はないのでね。
早くしないと会社に遅れる。
まぁ、また暇があったらお話しに付き合ってあげますよ」

沢渡は玄関で革靴を履き、ドアに手をかけた。

「沢渡さん、達也さんを社長にしないと後悔なさいますよ?それでもよろしいのですか?」

背中越しに鴨志田の自信に満ちた言葉を聞きながら沢渡は部屋を後にした。


(フフっバカな男…会社に行けば全てが解るわ)

妖艶な笑みを浮かべ、沢渡が部屋を出て数分後に鴨志田もホテルを後にした。


「もしもし、おはよう。あの頑固オヤジ、どうしてもアナタを社長にするのが面白くないみたいね。一応やるだけの事はやったわ。後は全てアナタに任せるから。もうすぐで社長の座はアナタのものになるわ」

鴨志田は達也に連絡した。

【ご苦労様、で、バッチリ撮れたんだろうな?】

「ご心配なく、ちゃんとこの中に全て入ってるわ。あの男の醜い姿がね」

【よし、では仕上げにかかろう、亮輔は今頃荷物をまとめて出て行く準備をしてる。ようやく作戦が終了しそうだ。アンタには随分手伝ってもらって感謝してるよ】

「それより約束は守ってね。財産分与の件を」

【解ってる。それもこれもオレが社長に就任したと同時にアンタに渡すから期待してくれ】

達也は電話を切った。

まず沢渡をこちら側に抱き込む。アメと鞭を使って。

そして亮輔はあのマンションを出て行く。

計画は順調に進んでいる。

最後にアイツを闇に葬り、仕上げだ。

達也は不敵な笑みを浮かべ、自宅を出た。

ついに社長就任

達也は母親のマンションに向かった。
ちょうどその頃、亮輔は荷物をまとめていた。

ノートパソコンにタブレット、ゲームと衣類、それをキャリーバックとリュックに詰め、出て行く準備をしていた。

するとインターホンが鳴り、達也がマンションの入り口に立っていた。

自動ドアを解除し、達也は部屋に入った。

「もう準備は出来たのか?」

達也は神妙な顔つきでリビングのソファーに座った。

「うん。荷物っていってもこんなもんしか無いから。それにこれ以上持って歩くのは無理だし」

達也は内ポケットから封筒を取り出し、亮輔に渡した。

中には100万の札束が入っていた。

「どうしたの、この金?」

フッと笑みを見せ、亮輔の上着のポケットに押し込んだ。

「オレからの餞別だ。こんなもんしか出来ないが、元気でな」

達也は亮輔の肩をポンポンと叩いた。

「いいよ、この金は。アニキだってお金必要なんじゃ…」

受け取っていいのか、亮輔は迷った。
これからアニキも住まいを失い、それなりの金は必要だろう。

「いいから気にするな、取っとけ。これはオレのヘソクリだ」

達也が頼もしく見えた。
アニキならきっと会社を取り戻す事が出来るだろうと。

「ありがとう。オレ、しばらくはホテルで過ごしてアパートを探しに不動産を見て回ってくるよ」

(バカが!テメーみたいなガキに部屋を貸す不動産屋がいるかよ!)

内心ではほくそ笑みながらも達也は亮輔を励ました。

「いいか、何かあったら必ず連絡してくれよ、いいな?」

「うん、わかった。アニキも元気で」

亮輔は今にも泣きそうな顔をしていた。

「泣くな、いいか、オレは必ずオフクロの立ち上げた会社を取り戻す。その時は必ずお前を呼び戻すから待ってろ!」

ニコッと笑い、亮輔と握手をした。

「それまで何とか頑張ってくれ。お前なら大丈夫だとオレは信じてるから」

優しい兄の気遣いに亮輔は黙って頷いた。

「じゃあ、そろそろ行くよ。このテレビやテーブルはどうするの?」

「勿論処分する。それはオレがやるから心配するな。とにかく身体には気を付けろよ」

「アニキも元気で」

「うん、解った。じゃあまたな」

「住むとこが決まったら連絡するよ」

「おう、必ず連絡しろよ」

亮輔は荷物をまとめて部屋を出た。

このマンションに住んで数年の間に色んな事があった。
それらを思いだしながら、亮輔は出ていった。

達也は窓から亮輔がキャリーバックをゴロゴロと引きながら淋しげな後ろ姿でトボトボと歩いていったのを見て、タバコに火を点け、フゥーと煙を吐き出した。

「やっと出ていったか…これはもう用無しだな」

達也は亮輔と唯一の連絡手段であるスマホの電源を切り、テーブルの上に置いた。

あらかじめ、ショップで解約手続きを済ませていた。

これで亮輔と連絡をとることは2度と無い。

そして今日からこのマンションは達也のものになった。

後は沢渡をこっち側に抱き込めば社長に就任出来る。

全ては達也の思惑通りに事が進んでいった。



数日後、達也は会社を訪れ、沢渡に声をかけた。

「沢渡さんちょっとお話しがあります」

「何でしょうか?」

達也は大きな封筒を抱えていた。

「ここでは話せないので会議室で…」

思い詰めた表情で達也は沢渡を会議室まで連れていった。

どうせまた社長就任に話だろ、いくら頼んでもムダだ、面倒臭いとばかりに後を付いていった。

「一体何の話です?達也さんの社長就任の話ですか?それなら私は賛成しかねますが」

「違うんです。ちょっとこれを見てもらたいんです」

達也は封筒の中からケースに入ったDVDを会議室にあるプレイヤーに入れ再生した。

「…なっ、これは!」

鴨志田との情事に耽って、全裸で醜態を晒している沢渡の姿が映し出された。

そこには鴨志田の顔は一切映ってない。

枕元に置いた小型内蔵カメラが仕込んであったメガネが一部始終を撮っていたのだ。

鴨志田は酔ったフリをして、メガネの位置を確認しながらわざと顔が映らないように計算して沢渡だけが映るように上手く位置をずらしながら沢渡の怒張した肉棒がひたすら鴨志田の肉壺に押し込みパンパンと音を立てながらピストン運動を繰り返している姿だった。


「…な、なんでこれをっ…」

沢渡はかなり動揺した。

まさかあの晩の出来事が隠しカメラに収まっていたとは…
画面では、下卑た笑いを浮かべ、鴨志田の身体をおもちゃの様にもてあそんでいた。

「沢渡さん、これは一体何ですか?何をしてたのですか?」

達也は沢渡に詰め寄った。

「差出人は不明だが、会社宛てにこんなものが送られました。
それとこんな写真もあります」

達也は沢渡が鴨志田と共にラブホテルに入っていく写真を見せた。

達也がスマホで撮って、プリントアウトした写真だ。

「沢渡さん、こんな大変な時期に何をやってたんですか?
僕は社長の座を沢渡さんに譲ろうとあれから考えてました。
まだ僕のような若造がやるより、沢渡さんのようなベテランの人がやるべきだと。
でもこれはどういう事なんですか?
こんなもの会社にばらまかれたらどうなるか分かっているはずですよね?
どうするおつもりですか?」

達也は畳み掛けた。

沢渡は顔面蒼白で狼狽えていた。

「いや、その、何と言いますか…」

「言い訳は聞きたくありません!」

達也は声を張り上げた。

「もし、これが会社じゃなく、ご自宅に送られたら、奥様やお子さんがどう思うのか?」

「まさかこれ、達也さん貴方が…」

沢渡は達也を疑った。

「バカな事言わないでください!何故僕が沢渡さんにこんな事するんですか?それで僕に何のメリットがあるというんですか?」

達也は真剣な表情で問い詰めた。

「この事は僕と沢渡さんだけの問題にしておきます。バレたら一大事です。ただ」

「ただ?なんですか?」

「もしまたこのようなものを送られてくる可能性があります。
そうなったら会社はどうなることか…」

沢渡は後悔した。
誘ってきたのは鴨志田だ。しかし誘惑に負けて鴨志田の肉体を貪ったのは沢渡なのだから。

どこかに隠しカメラが仕込まれて盗撮された。

まさか鴨志田が?いや、でもあんな泥酔でカメラを仕掛けていたとは考えてにくい。

あのホテルの部屋のどこかに隠しカメラがあったのだろう。
ラブホテルではよくある話だ。

「申し訳ありません、こんな大事な時期に」

沢渡は頭を下げた。

「これじゃ他の社員に示しがつかない。やっぱり僕が社長になります。
沢渡さん、アナタはしばらくの間、おとなくしてください。
こんなものが出回っては…」

「…くっ!」

「私がこの事を揉み消します。
母親が懇意にしていた方がこういう方面に顔が利く人物に依頼して、どこから出回ってきたのか調べる事ができます。それでいいですね?」

「それで、ホントに揉み消す事が…」

達也は会議室の椅子に座り、肘をテーブルに置いて頬づえをついた。

「もし、もしですが、僕に社長に就任してくれたら1つ提案があります」

「提案…?」

「そうです。実は僕の住んでいるワンルームマンションは母親が所有してるのはご存知ですよね?あの建物と土地を売却します。その金額を全て沢渡さんにお渡しします。それでどうでしょうか?」

あのワンルームマンションは立地条件も良く、一坪だけでもそれなりの金額だ。

金に目が眩んだ沢渡はどうしようか迷ったが、この件を揉み消して、尚且つ大金を得られるなら、社長の座に就かなくてもそれなりの旨味がある。

どっちを両天秤にかけると、このまま達也に社長を任せ、実権を握るのはオレだって可能だ。

要はコイツは雇われ社長として扱えばいいじゃないか、沢渡はそう思い付いた。

「…致し方ありません。社長の座は達也さんに譲る事にします。ただ必ず約束は守ってもらえますか?」

沢渡は不安そうに尋ねた。

「大丈夫です。沢渡さんの身に一切の危険が及ばないようにします。それでよろしいですね?」

念をおすように達也は沢渡に聞いた。

「それならば私はもう何も言う事はありません。ですからこの事は…」

「了解しました。それで沢渡さん、僕が社長に就任するという事を他の幹部の方々に伝えてもらえませんか?沢渡さんは母親に次ぐナンバー2の立場です。
その沢渡さんが僕の社長就任を伝えれば納得すると思うのですが」

あと一息だ、達也は返答を待った。

「…ではそういう事に致します」

やった!達也は内心でガッツポーズをとった。

「ありがとうございます。沢渡さん、今後は私のサポートをよろしくお願いします。この件は任せて下さい」

この瞬間、達也が社長に就任した。

後は思うがままだ。

沢渡をこっち側に抱き込む作戦は成功した。

マンションを売り飛ばす

鴨志田をソープから救い、母親を売り飛ばし、亮輔をマンションから追い出し、沢渡を罠にはめ、達也はとうとう母親の会社を乗っ取った。


母親もかなりの野心家だったが、達也はそれ以上の野心家だ。若干19才にしてとてつもない事を成し遂げ、尚も野心を絶えずに持ち続けている。

達也は独占欲の塊だ。
そして他人を一切信用せず、危険だと思った人物を石ころの如く蹴飛ばす。
恐ろしく冷酷な男だ。

そして社内では、就業前に沢渡が他の幹部連中や社員を呼び寄せ、達也が新たな社長として就任する事を伝えた。

本来ならば、代表取締役員会議や、株主の承諾が無ければ社長にならないのだが、前社長の母親が株のほとんどを所有し、ワンマンのような経営をしていた。
それに追い風が吹くように、ナンバー2の沢渡が他の幹部連中の中でも抜きん出て優秀で、発言力もあるため、沢渡が認めたとなれば誰も不服を申し出る者がいなかった。

達也の社長就任と同時に、鴨志田が達也の秘書として就任する事も発表した。

沢渡は鴨志田の顔を見て一瞬気まずい表情をした。

(あの女、まさかこの前の夜の出来事を覚えてるんじゃないのか…)

ふとあの晩の出来事が脳裏をよぎった。

達也も鴨志田も、社員を前に堂々と立ち、挨拶をして、滞りなくお披露目は終了した。

社員達がいなくなった会議室で、達也と鴨志田、沢渡の3人が残り、今後の展開の事について話をしていた。

「沢渡さん、沢渡さんは今まで通り、業務を進めて下さい。
僕は鴨志田さんと共にあのワンルームマンションの売却の為に各不動産を回っていく予定です。
元々あのマンションは母が家賃収入の為に建てたいわば道楽みたいなものです。
この会社はナイトレジャーをメインにした会社なのに、あのマンションは必要ないでしょう。
それよりも店舗拡大の為に、3人で力を合わせていきましょう!
沢渡さん、鴨志田さん、よろしくお願いします」

達也は二人に深々と頭を下げ、ガッチリと握手をかわした。

「では沢渡さん、これから不動産に回っていきます。会社の事はお任せしますので…」

達也は沢渡の顔を見てニヤっと笑みを浮かべた。

約束通り、達也はあのマンションを売却して、その金額を全て沢渡に渡すつもりだ。

あのワンルームマンションは新築で、立地条件も良い。
かなりの額で売却出来るだろうと、計算した。
その金額で沢渡をこっち側に誘い込むなら安いもんだ。

「解りました。では達也さん、いや、失礼しました。社長、気をつけていってらっしゃいませ」

沢渡はお辞儀をして会議室を出た。

「とうとう目標を達成できたわね…アナタってホントに凄い人物だわ」

鴨志田は鴨志田で、母親の財産のいくらかを貰う約束で、沢渡を自慢の肉体を使い、罠にはめ、達也の意のままに操作できるようにまで成功した。

「まだまだ、これからだ。これからが始まりなんだよ。じゃ行こうか」

そして二人は会社を出て、不動産巡りをした。

すぐに買い手が見つかり、出来るだけ高値で売却できるように。

会社の事は沢渡に任せればいい。自分はは鴨志田と共に売却の為に奔走する。

達也は事前に沢渡と打ち合わせをしていた。

「沢渡さん、僕はしばらくの間、マンション売却の為に外に出ます。出来るだけ早く、そして高く売却できるような不動産を見つけ出します。
沢渡さんとの約束は必ず守りますので、会社の事をお願いします」

「解りました。しかし、どうやってそんな都合良く売却できるんですか?」

達也は沢渡に耳打ちした。

「鴨志田を使います。経営コンサルティングとして優秀ですが、それ以前に…これはまだ内密にしておきたいのですが、夜の交渉もかなりの腕前らしく」

沢渡はギョッとした。まさかあの晩の出来事も?

「どうしました?」

達也は沢渡の態度を見て、覗きこむように顔を見て尋ねた。

「い、いや何でもないです。でも社長、それはいわゆる枕営業というヤツでは…」

「芸能界風に言えばそうなりますかね。でもご安心ください。
鴨志田はそれも承知の上で僕の秘書になったのですから。
くれぐれもこの話は他に漏らさないように。
誰かに聞かれたら色々と厄介になって、せっかくの約束が叶えられなくなります。
では、よろしく頼みますよ」

達也はニコッと笑い、その場を去った。

沢渡としても、大金が入る予定だ。下手な事は言えない。
おまけに達也に弱みを握られている。

とにかく自分は自分の仕事をするだけだ、沢渡はそう自分に言い聞かせるようにして落ち着きを取り戻した。

そして達也と鴨志田はまず、国内でも屈指の不動産業において有名な会社を訪れた。

「この土地と建物なのですが、売却するとなると、ざっといくらぐらいになるでしょうか?」

達也はまず、ワンルームマンションの売却がいくらになるか、見積りをして欲しいと頼んだ。

窓口で対応した人物は、それなりの重要なポストに就いていた男だった。

見積り額は達也の思っていた額より低かった。

「あの物件であの立地条件でたったこれだけですか?」

達也は話にならん、とばかりに憮然とした態度をとった。

「私どももこれで精一杯な額なんです。多分、他の不動産に行っても、これ以上の額では無理です、むしろもっと低くなるはずです」

達也は考えた。この額でもさほど問題にはならない。
ただ、出来るだけ高く、そして一刻も早く売却したい、それだけだった。

そして達也はもう1つ窓口の相手に提案した。

「では、このワンルームマンションとプラスして、今私が住んでるマンションの土地を売却したらどのくらいになるでしょうか?」

「えっ、あのマンションを?」

鴨志田が思わず声を上げた。

達也は母親が残したマンションさえも売却する考えだった。

(何考えてんの、この男!あのマンションまで手放したらどこに住むつもりなのよ!)

鴨志田は達也の考えが読めなかった。

「となると、今住んでいるマンションも売却するという事ですね?」

「そうです。間取りは3LDK、築二年のマンションです。
新築のワンルームマンションと土地、それに今言ったマンション合わせてどのくらいになりますか?」

達也は平然と言ってのけた。

「失礼ですが、お客様は何故そこまでして売却を?」

不審に思ったのか、対応した男が達也に売却の理由を聞いた。

「実はお恥ずかしい話なんですが…母親が経営している会社がちょっと不振なもので…で、母親は同時に体調を崩して、私が後を継ぐ事になったのですが、何せ会社は赤字なもので、貧乏クジを引いたというか…まぁ、そんな事がありまして、だったらいっその事、売ってしまおうと。
我々のような小さな会社にはあのマンションは必要ありません。
それを売って、会社の運営資金として補おうと」

「成る程。でも、売却しても色々と後が大変ですよ。譲渡所得税の事もありますからね」

そんなものはどうとでもなる、問題なのは、買取りか仲介にするか。

買取りだと不動産が買い取るから素早く売れるが、不動産の言い値に従うしかない。

仲介だと買取りに比べ、高く売れるが、買い手が現れないまでは売れない。
しかも不動産から仲介手数料としていくらか引かれてしまう。

だが、達也の決断は早かった。

「解りました、買取りでお願いします。仲介だといつ売れるか解りませんし、私どもとしては1日でも早く売却したいものですから」

「左様でございますか。それならワンルームマンションと今現在お住まいになってる分譲マンションを弊社が買い取るとなると、このぐらいの額になりますね」

見積書に目を通した。

合計で約7千万だ。

やっぱり少ないな、達也は奥の手を使うしかないと思った。

「解りました、ではこの見積書を持ってもう一度私どもが検討してからお返事致しますので」

達也は見積書を手にし、店を出た。

車に乗り込み、開口一番鴨志田に伝えた。

「こっからは秘書であるアンタの出番だ。やり方は言わなくても解ってるよな?」

後部座席で足を組ながら、運転する鴨志田に伝えた。

バックミラーから見える達也の表情は薄ら笑いを浮かべていた。

信用出来ねえのか!

ちょっと、またアタシがまた誘惑するの?これじゃソープにいた時と変わらないじゃないの!」

運転席で鴨志田がバックミラー越しに後ろに座っている達也をキッと睨み付けた。

「成功報酬は3千万、それもオフクロの財産とは別途だ。だから売却の額を1億にしてくるんだ」

3千万…そんなに貰えるの?
鴨志田も金の欲に目が眩んだ1人だ。

「本当に成功したら3千万くれるんでしょうね?」

「何だ、疑り深いな。信用してないなら今すぐここで車停めて降りてくれ。そこまで疑われちゃ、アンタとは仕事が出来ないからな」

達也は鋭い目付きでバックミラー越しから鴨志田を睨み返した。

一瞬背筋がゾッとする程、恐ろしい目付きだった。

「わかったわ…で、あの窓口にいた男を誘うの?」

「いや、違う。ターゲットはあの男じゃない。奥の部屋にいたメガネをかけた神経質そうなヤツだ」

奥の部屋にいた男?鴨志田は窓口で対応した男の顔しか見ていなかったので、他の連中の顔は覚えていなかった。

ただ、数名が店舗で電話をしたり何やらデスクでパソコンに向かって作業していたぐらいしか覚えてない。

「何故、その男をターゲットに?」

腑に落ちない鴨志田はハンドルを握りながら聞いた。

「窓口で対応したヤツはただの主任だ。あんなヤツたぶらかしても何の得にもならない。
奥にいたヤツ、あの男があの店舗の責任者、まぁ部長クラスの人間だろうな」

達也は窓から外の風景を見ながら、自信満々に答えた。

「何故、その男が1番偉い人間だと解ったの?」

「勘だよ、勘」

「勘?勘だけで決めつけるの?もし違ったらどうするの?」

「いや、あの男だ。アイツがあの店舗の責任者だ。まぁ、名前までは見てなかったがな」

「ホントに大丈夫なんでしょうね?」

達也は声を荒げた。

「おいっ!さっきからしつけーよっ!だったらこっから降りろ!もうアンタとは組めねえ!さっさと降りろ、コラァ!」

「わかったわよ、ごめんなさい…疑ったりして。で、どういう作戦に出ればいいの?」

鴨志田はやや怯えながら達也のやり方を聞いてみた。

「2,3日中にあの男の素性を調べる。それまで待機してくれ」

(めんどくせぇ女だ、まぁ、テメーは所詮ソープ上がりの巨乳しか取り柄のないヤツだからな)

達也は鴨志田の存在が鬱陶しくなってきた。

所詮は金で繋がった関係だ、切ろうと思えばいつでも切れる。

会社に着き、達也は鴨志田を社長室に連れていき、今後のスケジュール管理をまとめるよう伝えた。

「スケジュールって、アナタのスケジュールをどうやって作るのよ?」

社長になったものの、まだこれといった仕事はしてない。

しかも、どんな仕事をするのかさえ、鴨志田は解らない。

「何でもいい、ここに資料がある。オフクロがよく会ってた関係者だ。
何時に誰と打ち合わせとか、何時に誰と会食するとかテキトーでいいから入力してプリントアウトしてくれ。
それが終わったら、その用紙を沢渡に渡すんだ」

何が何だかサッパリ解らない。
とにかく鴨志田は目の前にある関係者の資料を元に、スケジュールを作成した。

資料には、業者の名前、会社名、年齢、住所や、趣味嗜好まで記載されている。

そして今までどのような付き合いをしていたのかまで、事細かに書かれていた。

社内にとっては大事な資料であることには違いない。

これで架空のスケジュールを作成するの?
とにかく鴨志田は目の前の資料を見ながら、スケジュール作成に取りかかった。

「じゃあ、オレは今からあの男の素性を調べに行ってくる」

「アタシは行かなくていいの?」

「だから、さっさとスケジュール作りゃいいんだよ、わかったか!」

日に日に達也の態度が傲慢になっていった。

鴨志田はただ言われるがままにスケジュールを作成した。

達也は会社を出て、タクシーを拾い、以前に調査を依頼した興信所へと向かった。

達也が鴨志田に言ってた人物、つまり奥の部屋にいた男は1番偉い人間でも何でもなかった。

ただテキトーに言っただけだ。
だが、窓口で対応した男より地位は上のはずだ。

鴨志田を上手くコントロールする為にデタラメを言っただけにすぎなかった。
洞察力や判断力を誇張する為に、敢えてそう言い切ったのだった。

興信所のあるビルに着き、達也は前回、あの胡散臭い弁護士を調べてくれた、スキンヘッドの強面の男に依頼した。

「この不動産の店舗で1番偉い人物の素性を知りたい。で、そこから更に上の地位の人物、統括の部長クラス辺りの人物の素性まで解ればいいんだが、頼めるかな?勿論、報酬はこの前と一緒で、倍の金を払う。で、期間は2,3日の間でお願いしたい」

達也は手付金として、100万入った封筒をスキンヘッドの男に手渡した。

「了解しました。多分、この感じだとその期間までには十分調べられますので」

男は封筒の中身を見て、札を数えていた。

「じゃ、何か進展があったら連絡して欲しい。前みたいにメールで構わないから」

用件を伝え、達也は事務所を後にした。

(しかし、社長になったのはいいが、かなりの出費だな…)

思惑通りに会社を乗っ取り、社長の座を射止めた達也だが、まだ何か物足りない。

色々な事を考えながら、繁華街まで来てしまった。

ここも随分と夜の店が多いもんだ。

そして、達也が何かを閃いた。

(アイツの処遇はこれで決まった)

達也は会社には戻らず、今日はこのまま直帰すると鴨志田に連絡し、繁華街の中へと消えていった。

二億で買い取ってもらおう

週末の夜、繁華街から少し離れ、ひっそりとモダンな造りをしたバーで鴨志田はカウンターに座り、ジンライムを飲んでいた。

元々は酒に強く、いくら飲んでも酔ったことがない程、無類の酒好きだった。

そのカウンターの2つ隣の席ではスコッチを飲んでいる50代らしき紳士的な人物が葉巻を燻らせ、店内に流れるジャズを聴きながら、物思いに耽っていた。

「あの、もしかして松田さんですか?」

鴨志田はその男に声をかけた。

「松田?いえ、私は吉村という者ですが」

男は人違いだとばかりに、あくまで紳士的な対応でやんわりと否定した。

「あっ、ごめんなさい。てっきり私の知り合いだと思って…」

鴨志田は席から立ち上がり申し訳ありません、と頭を下げた。

Vネックのニットからは豊満な胸の谷間が露にあって、黒のブラジャーまでハッキリ見える程、頭を下げていたのだ。

その吉村という男は、見ないフリをしながら、横目でしっかりと鴨志田の谷間をチラッと見た。

「いえ、お気になさらずに。私の事を知り合いだと思ったのですか?」

吉村はにこやかに話をした。

「え、えぇ、まぁその実は昔お付き合いしていた人と横顔が似ていたものでつい…」

恥ずかしそうに鴨志田は人違いの理由を話した。


この3日前、鴨志田は達也から1枚の写真を渡された。

ダンディーな中年男が葉巻を持っている姿だった。

「この男の名は吉村 孝介(よしむら こうすけ)あの不動産のコンシェルジュ統括だ。
週末の夜はこうしてジャズバーに通い、ジャズを聴きながら、飲んでるらしい。
まぁ、後は沢渡の時と同じ方法で任せる」


達也にそう言われ、この日鴨志田は1人でバーに訪れた。

どうやって声をかければいいのか?
悩んだ挙げ句、知り合いかと思って声をかけたら別人だったというきっかけから接近することにした。

「しかし、このような場所に貴女みたいな女性が1人で来るなんて珍しい。こういう店にはよく来られるんですか?」

「いえ、実はその、初めてなんですが…でも前からこういう店に入ってみたいなぁ、なんて思って。ハハッ、ジャズとか全然わからないんですけどね」

鴨志田は照れながら吉村と話をした。

「ちょっとお隣に座ってもよろしいですか?こういうお店の事やジャズについてお教えしましょう」

「はい、是非!」

鴨志田は嬉しそうな顔をし、吉村は隣に座ってきた。

このバーには毎週通っている事、ジャズの事、カクテルの由来や様々な事を鴨志田に話をした。

「吉村さんてステキな方ですね。何か大人の男性って感じで落ち着いていらっしゃる。それに引き換え、ウチの上司なんて…」

こうやって徐々に身の上話をしてみた。

「失礼ですが、どちらにお勤めですか?」

吉村は鴨志田に何の仕事をしているのか聞いてみた。

「あ、私はただのOLです。吉村さんはどのようなご職業を?」

鴨志田は恐る恐る聞いてみた。

「あぁ、私は不動産に勤務しています」

鴨志田がその話に食い付くように乗っかってきた。

「えっ、不動産の方ですか?じゃあ、何かいい物件はないですか?実は私、ちょうど引っ越しを考えてまして。何て言うか、今の部屋、色々と不便で、しかも周りがうるさくて。どこかいい部屋ないかなぁ、なんて思ってたとこなんです」

(この話に乗ってくるかしら…)

鴨志田は引っ越しをネタに話を切り出した。

「それは大変ですね。良かったらどういう部屋をお探しか私に話してみてもらえませんか?」

(よし、食いついた!)

「あの、吉村さんはどちらの不動産にお勤めなのですか?」

「あぁ、失礼、実は私こういう者です」

そう言って、内ポケットから名刺入れを出し、鴨志田に名刺を渡した。

「へー、統括部長さんなんですね?何か違うなぁと思ってたんですよ、落ち着いて紳士的だし」

鴨志田は吉村の名刺をマジマジと見ながら、嬉しそうに話した。

「こちらに書いてある所に行けば吉村さんがいらっしゃるんですね?」

「ええ、私はいつもここに書いてある場所にいますから、お引っ越しの部屋探しならいつでもいらしてください」

「わぁ、ありがとうございます!吉村さんなら安心していい部屋見つけてくれそうだし、今度そちらに行って、詳しくお話しをしに行きますね」

こんな感じで鴨志田は吉村の事を色々と聞いてみた。
仕事の事や家庭の事等。

鴨志田は沢渡の時の様に、カクテルを2杯飲むと酔ったフリをして、大きな胸をカウンターのテーブルに乗せるようにして、突っ伏して寝てしまった。

「鴨志田さん、大丈夫ですか?」

声をかけたが、返事がない。

肩を揺すってみたが、どうやらかなり酔ってろれつが回らない状態だ。

「困ったなぁ…」

吉村はテーブルにドンと置かれてある大きな胸を見ながらも、どうしたものかと考えた。

今後の事の付き合いもあることだし、吉村は鴨志田を介抱した。

「さぁ、帰りますよ。立てますか?」

吉村は鴨志田を起こし、立たせようとした。

だが、足がもつれ、1人では到底帰れない泥酔ぶりだ。

仕方ない、とばかりに鴨志田を抱き抱えるように店を出た。

「鴨志田さん、家まで送ってあげますよ。どこにお住まいですか?」

吉村が声をかけるが、鴨志田は何を言ってるのかサッパリ解らない。

このまま1人にしておくのはマズいとばかりに、吉村は繁華街まで肩を貸して歩き、目の前にあったラブホテルにチェックインした。

後は沢渡を誘惑したように、吉村もその餌食になった。


朝になり、鴨志田が酔いが醒め、隣に見知らぬ男がいるので、キャーっと声を上げた。

「ど、どうしました?」

鴨志田の叫び声で吉村はガバッと起き上がった。

「私に何したの?何で私、裸なのよ?まさか私の事…」

「ええっ?」

吉村は動揺した。最初こそ拒んだ鴨志田だったが、最終的には互いの性器を貪り、激しいセックスを繰り広げた。

「ひどい!私、酔わせてこんなとこに連れ込むなんてサイテーっ!絶対に許さないわ!」

鴨志田の迫真の演技に呆気にとられた吉村は、鴨志田を追いかけようとして後を追ったが、鴨志田の姿はもういなかった。

そして数日後、達也は鴨志田が吉村からもらった名刺を頼りに、その不動産の本社へ向かった。

例のブラックな弁護士と共に。

達也は正面玄関の窓口にいる受付嬢に、吉村コンシェルジュ統括はいますか?と聞いた。

「失礼ですが、お名前は?」

「私、こういう者です」

達也は名刺を取り出し、受付嬢に提示した。

そこには代表取締役、古賀達也と、社長就任時に新たに作った名刺を差し出した。

「ご用件はなんでしょうか?」

「いや、ウチの秘書が御社の吉村様と懇意にしているので、是非ご挨拶にと伺ったもので」

「少々お待ち下さい」

受付嬢は内線電話で、吉村に来客だという旨を伝えた。

「では古賀様、しばらくお掛けになってお待ち下さい」

達也と弁護士は来客用の椅子に座り、吉村が来るのを待った。

しばらくして、吉村らしき人物がエレベーターの扉が開き、こちらに向かって来た。

「はじめまして、吉村と言います、ここのコンシェルジュ統括をやっております」

そう言って名刺を差し出そうとしたが、達成はポケットから吉村の名刺を出した。

「あの、失礼ですが、以前どこかでお会いしましたか?私の名刺を持っているという事は以前私とお会いした方にしかお渡ししてないのですが…」

吉村は誰だろう?と達也の顔を見て思い出してみたが、記憶にない。

すると達也は数枚の写真を吉村に見せた。

みるみるうちに吉村の顔が青ざめた。

写真は吉村と鴨志田がホテルで全裸で交わっている場面の写真だった。

「吉村さん、鴨志田は私の秘書です。そして隣にいるのが私共の会社の顧問弁護士です」

弁護士は吉村に名刺を差し出した。

達也がこの日の為に、顧問弁護士という肩書きが入った名刺を作ったのだ。

そこには、顧問弁護士、今宮 敏夫(いまみや としお)と記されていた。

勿論、これは仮名である。この弁護士は絶対に名を名乗らない。

ヤクザ相手にかなりブラックな仕事をしている為、正体不明の弁護士だが、仕事は必ず遂行する。

「吉村さん、貴方はウチの鴨志田を強引にホテルに連れていって、このような破廉恥な行為を強要したらしいですね。
これは立派な強姦罪です。
鴨志田は貴方を告訴する予定です。ですから今日はこうしてウチの顧問弁護士と共に御社に伺いました」

あくまでも冷静な口調で、淡々と達也は話した。

「いや、でもそれはお互い合意の上での事であって、私が一方的にというのは…」

吉村は言葉を濁した。

「吉村さん、ご存知かと思いますが、鴨志田はあの身体で非常に胸が目立ちます。
今まで何度も痴漢にあって、かなり自分の身体にコンプレックスを持ってました。
ですから私は鴨志田に護身用と防犯用を兼ねた小型内蔵カメラを持参するように助言しました。
もし、お望みならその場面をここでお見せすることも出来ますが…」

吉村はあわてふためいた。

「あ、あの、ここではアレですから、ちょっと応接室までご案内しますので、そこで…」

「わかりました」

達也と弁護士は立ち上がり、吉村の後を付いて、応接室へと入った。

「私はお宅の秘書が酒に酔って介抱したんですよ?とても歩けない状態です。その場にいたらそのままにしておくワケにはいかないでしょう?ですから少々不謹慎な場所ですが、あのホテルで休ませたんですよ?」

吉村は身の潔白を主張した。
そして、鴨志田とはあくまで合意の上でベッドインしたと説明した。

「吉村さん」

今まで一言も発言しなかった弁護士が口を開いた。

「とぼけるのもそれまでにしてもらいませんかね?まぁ、こっちには証拠がもう1つあるんですがね」

達也はバッグからタブレットを取り出し、吉村と鴨志田の様子を映し出した動画を再生した。

「あぁ、止めてください、こんなとこで…」

「違いますよ、せめて上着は脱いでベッドに入ってください」

タブレットの動画は吉村が鴨志田の服を脱がそうとしていた。

「あぁ、だめ吉村さん、止めて…」

「何言ってるんですか、ただ上着を脱がせてるだけですよ」

吉村は鴨志田の上着を脱がし、ハンガーにかけていた。
が、わざとなのか偶然なのか、吉村がよろけて鴨志田に覆い被さった状態になり、鴨志田は分からないように吉村を手振り払うフリをして、自分の胸に押し当てるよう、仕向けた。

「どこ触ってるんですか、吉村さん…」

「いや、でも今のは偶然で…」

「んもう、イヤらしいんだから」

「…しかし大きなオッパイだね」

「ダメです、触らないで下さい」

「いや、ハハハハッ、これは失敬。ついうっかり」

そこで動画は終わった。
というより、その後は鴨志田が積極的に吉村を誘惑するような行為にでたのだが、達也は編集でカットし、あくまでも吉村が鴨志田を襲ったかのように仕立て上げる動画にしたのだ。

「吉村さん、これでもシラをきるというのかい?そこまで言うならこっちはアンタを強姦罪として告訴する予定だ。じゃあそういう事で我々は帰ろうか」

弁護士は席を立ち、達也と一緒に応接室を出ようとした。

「あ、あの待ってください!違うんです、これは」

吉村が情けない顔で引き留めようと必死になってる。

「何が違うんですか?ここに動かぬ証拠があるじゃないですか?」

達也は冷たい目で吉村を見下ろした。

「あの、示談でも何でも応じますから、告訴だけは、どうかこの通りです!」

吉村は土下座をして示談に持ち込もうとしている。

こうなれば達也の思惑通りだ。

「示談ですって?こんな事までして示談って、ムシが良すぎるんじゃありませんか?」

達也は吉村の申し出を断った。

「そこを何とか!そちらの都合の良い条件でも何でも飲みますから!」

達也と弁護士は顔を見合せ、ニヤッと笑みを浮かべ、再度席に着いた。

「吉村さん、では具体的に示談とはどのようにするお考えですか?」

達也は悠然とした態度で吉村の言う示談とやらを聞こうか、というような目で吉村の顔を見た。

「その、…えっと、単刀直入に聞きますが、いくらなら…?」

恐る恐る吉村が示談の額を聞いてみた。

達也は以前、店舗で見積もってもらったマンション売却の額を吉村に見せた。

「これ総額で7千万と記載されてますよね?私共としてはこの額は些か不満でね。で、吉村さんの仰る示談という形でこの額で買い取ってもらえませんかね?」

達也は指を2本立てた。

「えっ、2本て…?」

「ズバリ、2億です。2億で買い取ってもらえませんかね?」

かなり法外な額だ。

普通に考えてみても、見積書に記載された7千万が妥当だ。

しかし、達也は強気に約3倍の値段で買い取ってもらおう、それでこの件は終わりにしましょうと吉村に条件を出した。

「2億なんて、いくらなんでも…」

「吉村さん、貴方は統括だ。そのぐらいどうとでもなるでしょう?ダメなら告訴致しますので」

ヤクザよりタチが悪い存在だ、だが、要求を飲まなきゃ告訴されてしまう。

たった一夜の過ちがこんなにも大きな代償と引き換えになるとは。

「…わ、わかりました。2億で買い取ります。ですからこの件は…」

「わかってます、ただ2億を用意してもらわないと、私共は告訴に踏み切るので、それをお忘れなく」

達也と弁護士は席を立ち、応接室を出た。


本社を出て、達也は弁護士に礼を言った。

「今日はありがとうございました。弁護士がいるというだけで、あの男かなり狼狽えてましたね」

「ふん、こんな簡単な事、お前さん1人でも出来ただろうに」

ぶっきらぼうに弁護士は答えた。

「いえ、先生がいてくれたお陰であの言い値で買い取ってもらう事が出来ました」

「じゃ、金が出来たらオレんとこに持ってこいよ」

「わかってます。必ずお渡ししますので」

達也は深々とお辞儀をして、弁護士と別れた。

数日後には2億という大金が手に入る。

さぁて、この2億をどうやって活かそうか、達也は頭の中で色々と考えながら、歩いて駅まで向かった。

五千万で掌握

1週間後、吉村は達也の会社を訪れた。
アタッシュケースの中にはキャッシュで2億円が積まれていた。

本来なら、口座に振り込むべきだろうが、使途不明金としてバレてしまうので、敢えてキャッシュで渡した。
鴨志田も同席し、示談に応じ、この件はこれで終わりにします、というサインをした。

ホッとした表情を浮かべ、吉村は立ち去った。

「ねえ、2億ならアタシにも少し多めにしてよ。それぐらいいいでしょ?」

現金が山積みになっているのを目の前に鴨志田は浮かれながら報酬の増額を要求した。

「バカ言うな、この金であのインチキ弁護士に払って、沢渡にもいくらか渡さなきゃならない。で、アンタに3千万だ。
あっという間に2億なんてぶっ飛ぶんだ。
それより、もっとこの会社を大きくしてやる。
そん時はアンタも億単位の金が転がってくる。
ま、楽しみにしててくれよ」

達也は約束通り、3千万を鴨志田に渡した。

「ねえ、母親の資産てどこにあるの?それ山分けする約束だったじゃない?」

鴨志田は達也に協力するために汚れ役を買ってでた。

「資産か、資産ならいくらでもある。あちこちに展開してる店舗が資産だ。
今のところ順調に利益を上げているからそれまで待っててくれよ」

達也は鴨志田に大きな紙袋を渡した。

「その中に金入れるんだ、バレないようにロッカーにでも入れておけ」

「ま、3千万手に入ったんだからこれで約束通りね。でも今度こんな事があったらもう少し色つけてよね」

鴨志田は部屋を出て、ロッカーに紙袋をしまった。

「これならもっと甘い汁が吸えそうだわ…」
ウキウキ気分で鴨志田はロッカーのキーを取り出し、3千万を閉まった。

さて、もう1つの約束を守らなければ、と達也は電話をかけた。

「あ、もしもし、お疲れ様です。沢渡さんをここに呼んでもらえますか?」

しばらくして社長室のドアをコンコンとノックする音がした。

「どうぞ」

「失礼します」

沢渡がドアを開け、入ってきた。

「社長、何か御用ですか?」

「いやだなぁ、沢渡さん。約束したじゃないですか。忘れたんですか?」

達也は机の上にドン、と紙袋を置いた。

「確認してください。全部で5000万入ってます」

「えっ…」

沢渡は紙袋の中を見た。

そこには札束がぎっしりと積まれていた。

「こ、これは…」

「そうです、これでお約束の件をちゃんと守りましたよね、沢渡さん」

達也は目の前に積まれた大金を前に呆気にとられている沢渡を見て笑った。

「沢渡さん、そんなとこに突っ立ってないでそこにお座り下さい」

「あ…あぁ、はい…」

まさか5000万もの大金が手に入るとは…さすがの沢渡も、達也の豪快さに参った様子だ。

立ち上がり、ガラス製のテーブルを挟んで互いに向き合う形でソファーに座った。

「沢渡さん、貴方は前の社長、つまり母の右腕としてこの会社に貢献してきました。
ですが、母はワンマンでヒステリックな性分な為、怒鳴られたりした場面を何度か見たことがあります」

母親は何かと沢渡に厳しく当たっていた。
ナンバー2で母親のブレーン的な存在であるにも関わらず、事ある毎に沢渡を怒鳴り、時には八つ当たりもしていた。
それも他の社員のいる前でもお構い無しに。

いくら社長とはいえ、女性に怒鳴られ、八つ当たりされては男のプライドにキズがつく。

だが、沢渡は文句1つ言わず、母親に付き、献身的にフォローしてきた。

「…」

「確かに僕は沢渡さんとの約束を守り、社長に就任しました。
ですが、僕は母のように沢渡さんのプライドをキズ付けるような事はしません」

「…はい」

「確かに母はかなりやり手でここまで会社を大きくしてきました。でも、それもこれも沢渡さんがいるからこそ、ここまで成長したんです。母はワンマン過ぎました。それに男の気持ちが解ってなかった。
何故、あんなに辛くあたるのか、沢渡さんも限界だったのでしょう」

「…いえ、私が至らないばかりに」

「そんな事はありません。母はヒステリック過ぎだ。僕はそれを目の当たりにして、これじゃいけないと思ってました。
言わば、織田信長と明智光秀のような関係になってしまう、そう懸念してました」

「そうでしたか…」

沢渡も母親から随分と怒られた事を思い出し、ついカッとなってしまう事も度々あった。

「僕は社長ですが、実質上の会社の代表は沢渡さんだと思ってます。それにまだヒヨッ子の僕が沢渡さんにそんな事出来るワケないじゃないですか」

達也は真剣な眼差しで沢渡の表情を見ていた。

「ありがとうございます。そこまで私の事を思っていたとは…」

沢渡は礼を述べた。

「沢渡さん、今母はどこにいるのか解らない、行方不明です。
息子の僕としては、1日でも早く見つかって欲しい。だが、この会社の代表取締役という事を放棄して、言わばバックレたんです。
もし、万が一、母が戻ってきたとしても、この会社を明け渡すつもりは無いです。
今更ノコノコ出て来て、また社長に戻るなんて事は絶対に許しません」

「了解しました」

「ですから沢渡さん、これからは新体制でこの会社を更に大きくしていきましょう」

そう言って達也は右手を差しのべた。

「いえ、こちらこそよろしくお願いします!」

沢渡は両手でガッチリと握手した。

5000万で沢渡をも掌握した達也の野望は止まらない。


次なるターゲットは、もう頭の中で決めてあり、どのようにして消し去るかシミュレーションしていた。

底知れぬ不気味さ

達也が社長に就任してから1ヶ月が経過した。

社長の達也、秘書の鴨志田、そして新たに副社長として就任した沢渡の3人を中心に会社を運営していた。

達也はマンションを売却した後、会社の近くにあるマンションの一室を借り、鴨志田と一緒に住んでいる。

だが、達也は鴨志田の事はあくまでも秘書であり、愛人のような関係ではなく、同じ部屋に住むルームメイトのような関係で暮らしていた。

そんなある朝、達也は鴨志田に休暇を与えた。

「たまには羽を伸ばしてどこかに行けばいいじゃないか、今日は休んでもいいよ」

「えっ、どうして?」

不思議そうに鴨志田は出勤の為、身支度をしていたとこだった。

「何か疲れてるんじゃないか?今日は特にこれといった用事も無いし、ゆっくりしてればいいじゃん」

達也は鴨志田の肩をポンと叩いて部屋を後にした。

達也は分譲ではなく、賃貸のマンションに住んでいた。

何故、賃貸にしたのか。
それは万が一の事を備えて、いつでもここを出て行けるように敢えて賃貸マンションを選んだ。

そして会社に着き、社長室に入ってすぐに沢渡を呼んだ。

「おはようございます。お呼びでしょうか?」

「あぁ、おはようございます。実はある店舗の事についてなんですが」

達也はパソコンでマップに接続し、とある繁華街を沢渡に見せた。

「この店、かなり前から売り上げが芳しくないですね。こんな繁華街なのに何故でしょうか?」

その繁華街は会社から車で30分程の距離にある有名な繁華街だ。

そしてその周りには何店舗ものキャバクラが立ち並び、言わば激戦区のような地帯でもある。

「それは前社長の頃から問題にしていて、どうしてこんなに売り上げが良くないのだろう、と頭を悩ませていました」

立地条件は悪くない、むしろ好条件だ。なのに利益が良くない。

「てことは、母が単なる無能って事だったんですよ」

サラリと言ってのけた。

「と、言いますと?」

沢渡はどういう意味なのか聞いてみた。

「実はこの前、1人でこの店に行ったんですよ。で、店内の様子やキャスト、接客態度と色々見てきました」

「そうだったんですか…で、何が原因か解りましたか?」

「いえ、店内の様子もキャストの接客にも特に問題はありません」

「では一体何が原因なのでしょうかね?」

沢渡は腕を組んで、原因は何なのか頭の中で考えていた。

「それと同時に他の店にも何度か足を運びました」

「何か違いはありましたか?」

達也はパソコンをシャットダウンした。

「いやぁ、どれもこれも同じでしたよ。どこが良い店で、どこが悪い店なんて甲乙つけがたい程の店ばかりでしたよ」

「どこも同じという事ですか」

「そうです、どこに行っても料金の相場は一緒、キャストもこれと言ってあまり変わりはない。つまり、この地帯はキャバクラだらけで飽和状態なんですよ」

「まぁ、確かにあの辺は激戦区と呼ばれてますからね。どこの店も苦労してるんじゃないでしょうかね?」

「多分そうだと思います。で、僕はある結論を出しました」

「どんな結論ですか?」

沢渡は達也にどんな案があるのか聞いてみた。

「スクラップ&ビルドという言葉をご存知ですか?」

「ええ、勿論。てことはあの店を撤退して大幅に大改造するって事でしようか?」

「だから能無しなんですよ、母は。キャバクラに対抗してキャバクラじゃ客はどこの店に行っても同じだろうと思ってリピーターなんて増えやしませんよ」

「そう言われてみればそうでしょうね」

確かに達也の言うとおりだった。
1人でも多くの客を捕まえる為にありとあらゆるイベントを開催したが、成功には至らなかった。

スクラップ&ビルドとは、工場設備や組織などで、採算や効率の悪い部門を整理し、新たな部門を設けることを指す。
達也なりに経営学を勉強してきたのだろう。


「で、その店舗をキャバクラから風俗の店にシフトチェンジするんですよ」

何て事はない、とばかりの顔で言い切った。

「しかし、風俗と言われましても…」

「ソープでもヘルスでもピンサロでも何でもいい。あの辺りはキャバクラだらけでそういった店は一軒もない」

「それがスクラップ&ビルドの理由ですか?うーん、今からキャストを変えて店舗を改装するんですか?」

そこまでは気づかなかった、沢渡は達也の斬新なアイデアに前社長とは違う攻めの姿勢に、少し戸惑いながも、一理あるな、と感じた。

「例えばあの店をソープランドに変えたとします。キャバクラだらけの店に一軒ソープが出来たらどうなります?」

「それは、勿論男だったら行くでしょうね」

「そこですよ。キャバクラに行ったって女の子と話して酒飲んでそれだけで終わりでしょう?同伴やアフターに付き合うキャストがいても、そう簡単に最後の一線を越えるなんてことはまずありえません。
女性と話をするだけの店と、性欲を満たしてくれる店、どちらを選びますか?」

「成る程、ソープに行って性欲を満たしてからキャバクラに行く人もいれば、キャバクラでキャストと話をして、ムラムラしてソープに行く人もいる」

「でしょう?ましてや業種が違うから競う必要もないんですよ。もしかしたら、他のキャバクラとの相乗効果で繁華街に訪れる人も多くなり、そこでお金を落としてくれれば儲けもんですよ」

こんな考えを持っていたのか。
沢渡は達也のアイデアに乗ってみようかと思った。だが、どうやって人を集めるのか、そしてソープには男を悦ばせるテクニックが必要だ。

いわばソープの講師的存在が必要となる。

「ですが、どうやって人を集めますか?ましてや店内の改装もしなければならない」

「まぁ、最初は改装費だとか、ソープ嬢になるぐらいの女は借金抱えてるのが多いから、それなりの額はかかります。
ですが、先行投資だと思えばそれも何とかなるでしょう」

沢渡は達也に、ソープ嬢に知り合いがいるのだろうか?
そんな事を聞いてみた。

いるんですか?」

この質問を待ってましたとばかりに達也は即答した。

「鴨志田を使います」

「えっ?だって彼女は社長の秘書じゃあ…」

「問題ありません、鴨志田は経営コンサルティングとしても優秀だからこそ、僕がここに連れてきたんです。彼女がソープの経営に携われば何とかなるはずです」

沢渡は鴨志田をソープの経営を任せるとして、誰がソープ嬢を集めて、テクニックを教えるのだろうか?

「まぁ、沢渡さん、ここは僕に任せてもらえませんか?きっといい店になりますよ、大丈夫です。仮にもし、ソープが失敗しても、全ての責任は鴨志田にとってもらいます」

「な…そんな事を彼女が納得するのでしょうか?それに社長の秘書はその間誰が?」

「必要ないですよ、秘書なんて。鴨志田はあくまでも秘書という【名目】でこの会社に引っ張ってきましたが、僕の当初からの予定は、鴨志田に風俗店を任せる為までの間、秘書になってもらってるだけです」

不適な笑みを浮かべ達也は自分の描いている構想を沢渡に話した。

「いいんですかね、それで…まぁ経営コンサルティングという経歴だろうから、それなりの勝算はあると踏んでこの話をしてるんでしょうから…」

とはいえ、経営コンサルティングと言っても、風俗店の経営など務まるのだろうか?
些か腑に落ちないが、沢渡は達也の意見に従った。

「あれ、そう言えば今日は彼女は出勤してましたか?今朝から姿を見てませんが」

「それはですね、僕が今日は特に用事が無いし、疲れてるだろうから、たまには休めと言って休んでもらったんです。沢渡さん、ここで僕と貴方が鴨志田を抜いてこういう話をする。どういう意味か解りますか?」

っ!!て事は鴨志田を外す、もしくは切るという意味なのだろうか?

「もしかして社長、彼女はこの話に加わる必要が無いという事ですか?」

「そうです。確かに優秀な秘書で経営にも長けている。
ですが、ちょっと僕の見込み違いだったところもありました。
まぁ、それは僕に見る目が無かった事なのでしょうが」

ソープの経営が上手くいけば会社に利益をもたらす、しかし失敗すれば鴨志田を切る。
もしかしたら、達也は前社長より強かで冷酷な人物、という事は、もし自分が何かミスを犯したら、鴨志田と同じ例になるという警告にも聞こえる。

「安心して下さい、僕は何があっても沢渡さんを切るなんて事はしませんから、ハハッ」

沢渡は背筋が寒くなった。

あの約束の5000万の金を受け取った以上、達也に従わなければならない。

だが、あの金を受け取らずに達也を社長として認めない、と断固たる姿勢をとれば、鴨志田とのホテルでの痴態を晒されるかも知れない。

どっちに転んでも、沢渡は達也の言いなりになるしかなかったのだ。

「沢渡さん、どうかしましたか?」

「えっ、いや何も…」

この柔和な笑みの奥に潜む冷酷な顔があり、とことん相手を奈落の底へ突き落とす程の怒りに満ちた顔を持っているはずだ。

沢渡は達也が阿修羅像のように3つの顔を持つ恐ろしい存在に思えてきた。

ソープランドはアンタに任せる

達也は仕事を終え、マンションに帰宅した。

鴨志田は既に部屋にいて、ビール片手にのんびりとテレビを観ていた。

「あ、お帰り、今日はいっぱい買い物してきちゃった」

鴨志田はブランド物のバッグや服、靴等を買って嬉しそうに達也に見せた。

「あんまり金使うなよ。もっと利益が上がればアンタにも山分けしてやるから、それまでその金全部使うなよ」

達也は先日鴨志田に3000万渡したばかりだ。

暇さえあれば、ショッピングに出かけ、気に入ったブランド物を手当たり次第買い漁る。

それが原因で高校教師から借金のカタにソープに沈められた苦い経験を味わっているのにまだ浪費癖は直っていない。

「ねぇ、いつくれるのよ、アナタの母親が残した財産は?」

最近、口を開けば金カネと言い出す鴨志田に達也は嫌気が差してきた。

「まぁ、そう言うなよ。で、今日はその儲け話をアンタにしてもらおうと思いついたんだ。利益は全部アンタにやろうと思ってな」

「えっ、何々、どんな話?」

鴨志田は早速儲け話に食い付いた。

「前に全く利益の無いキャバクラの店があるって言ってたの覚えているか?」

「あぁ、確かあそこはかなりキャバクラが多くて激戦区だとか言ってたあの店?」

「そうだ、あの店は閉店することにした」

「…で、閉店するのに何が儲け話なの?」

鴨志田はブランド物のバッグを手に、上の空で話を聞いていた。

「その店舗な、ソープとしてリニューアルする予定だ」

…えっ?鴨志田の表情が一瞬固まった。

「で、またアンタの登場だ。そこの店の売り上げはそっくりそのままアンタに渡す。
その店の経営を任せようと思ってるんだが」

「イヤよ!経営なんて言ってるけど、またソープ嬢になれって事でしょ?冗談じゃないわ!」

ヒステリックに叫び、達也に詰め寄った。

「誰がまたソープ嬢やれって言ったよ?第一、アンタ今いくつだ?熟女のソープ嬢をやるつもりはない、20代前半の女が主流の店にするつもりだ」

「誰が熟女よ!アタシはまだ36よ!」

「十分熟女だろうが、アンタは経営と教育係としてその店を任せる。悪い話じゃないだろ?」

「その教育係ってのは何?」

「決まってるだろ、ソープ嬢としての講習だよ。アンタはその講習を店の女にレクチャーするんだよ」

「…な、何でまたソープなのよ!もうあんな思いはしたくないの!」

「いいか、あの近辺はキャバクラばかりだ、そこへソープを入れたら客は自然とソープへ流れる。その店のアガリをそのままアンタの懐に入れれば済む事だ。
アンタだって元ソープ嬢だったから店がどのくらい儲かるかぐらい知ってるだろ」

「だって経営の事までよく知らないのよ!客の相手をするのが精一杯でそこまで詳しくはないわ!」

「アンタ、経営コンサルティングという肩書きでウチの会社に入ったんだ。店の立て直しにゃうってつけの人物じゃないか」

「それはアナタが経営コンサルティングという肩書きにしろって言ったじゃない?」

「それを承知で入ったんだろうが!いいか、とにかく認可がおりたら1日でも早く開店する予定だ。それまでに店の女にテクニックを教えるんだ、わかったな?」

鴨志田は鴨志田で、達也に不信感を抱いていた。

当初の約束である、財産の山分けをまだ貰っていない。

それどころか、秘書から今度はソープの経営兼教育係になれと言われている。

ソープ嬢だった鴨志田を救ってくれたのは達也だ。
しかし、その恩返しは十分してきたはず。なのにまたソープに関われって、これじゃ秘書から降格させられたような気がしてならない。

「じゃ、何?アタシは秘書を降ろされて左遷させられるのと一緒じゃない?」

鴨志田は頭を抱えてテーブルに突っ伏した。

「そう言うな。秘書の時より金はかなり良いんだぞ。まぁ、やり方次第じゃ、巨額の金が転がり込んでくるんだが。
じゃあ、アンタがやらないなら他のヤツに頼もうかな。やりたがってる連中はいっぱいいるし、別にアンタじゃなくてもいいからな、この話は」

鴨志田は顔を上げ、達也の顔を見た、いや顔というより目を見た。

いつもは冷酷で人を見下ろすかのような目付きをしているが、今日の目付きは至って穏やかだ。

鴨志田もソープ時代に色んな客を相手にしてきた経験から、目を見て会話をすればその人の考えも解るようになっていった。
イヤという程、人間の醜い部分を見せつけられて、それが人を見極める事が出来るようになった。

しばし考え込み、鴨志田はどういう店のイメージにするのか達也に聞いてみた。

「それは全くのノープランだ。だってオレ、ソープの経営はよく知らない。だから何をコンセプトにするのか全部アンタに任せるよ。大衆店にするか、高級店にするか。アンタが今までやってきた経験を生かせばいいだけじゃないか?資金は会社が出すんだ、後はアンタが軌道修正すればいい、ただそれだけの事だ」

達也は隣に座り、鴨志田の肩を抱いた。

「今すぐ返事をしなくていい、2,3日考えてから答えをくれ」

「いいわ、その条件引き受ける。但し、やり方はアタシのやり方でやらせてもらうから」

意を決したように鴨志田は引き受けた。

「あぁ、いいぜ、何せオレはそっちの方面に口出しする程詳しくないからな」

「で、いつから開店する予定なの?」

「まぁ、そうだな。内装もキャバクラからソープ仕様に変えなきゃならないし、認可の申請も必要だからな。1ヶ月から2ヶ月の期間が必要かもな。
で、その間アンタは面接に来た相手を見て、採用するかしないかその判断を任せるよ」

達也は上着を脱ぎながら、鴨志田にソープランドの全権を一任すると言って、部屋から出て、浴室に入り、シャワーを浴びた。

鴨志田も沢渡同様、金で達也に操られている。
ソープから足を洗う事が出来たのは達也が金を用意してくれたお陰だ。

それに達也は鴨志田に十分過ぎる給料を渡している。

その給料を上回る程の利益を独り占めできる…

決して悪い話じゃない。

資金は会社持ちだと言ってるし、自分はただ教育する立場と金を管理するだけでいい、それならかなり上手い条件だ。

よし、ならばやってやろうじゃない!
鴨志田はビールをグイッと飲み干して決意した。

死に場所

その間、亮輔は何をしていたかというと、ビジネスホテルやカプセルホテル等を転々として、アパートの部屋を探していた。

だが、15才という事と、借りるには保証人が必要だと言われ、どの不動産に回っても部屋を借りる事が出来なかった。

達也に保証人になってもらう為、電話をかけたが、この番号は現在使われておりません、というガイダンスで、中々連絡が取れない。

達也の住んでいたワンルームマンションを訪ねたが、既に達也はおらず、母親が所有していたマンションも売却され、どこにいるのか全く解らない。

(オレはアニキに見捨てられたのか?)

いや、そんな事はない、あのアニキは今はまだ連絡が出来ない状況なのだ、おまけに母親の行方もまだ解らない、亮輔はひとりぼっちになってしまった。

ホテルに泊まる料金を払っているうちに段々と金が目減りしていく。

となると、住み込みで働ける場所を探すしかない。

でも以前働いていた、型枠大工の仕事は、あまりの横暴な態度に腹を立て、僅か2日で辞めてしまった。

しかし今はもう帰る場所が無い。

この際、何でもいい、多少の事はガマンしようと、求人サイトを片っ端から調べた。

そこで見つけたのは、整備士の見習いで、寮完備と記載されていた。

バイクや車にそれほど興味はないが、住む所と働く為に背に腹は代えられない。

亮輔はその整備士の見習い募集の所に面接に行った。

が、しかし、履歴書には家族が記入されてない事を問われ、事情を説明したが、身元が解らない少年を雇ってくれるはずもなく、不採用となった。

そこで亮輔が見つけたのは、登録制の派遣会社で、週払いや日払いも可能という事で、その派遣会社に登録した。

ビジネスホテルから集合場所に行き、その日その時によって勤務場所も職種も日替わりだったが、それでも亮輔は毎日のように連絡して、明日はここに行ってくれ、明後日はこの場所に行ってくれと伝えられ、それでも亮輔は住むために、食うために働いた。

その僅かな日当も、宿泊費だけですぐに無くなってしまう。

切り詰めたギリギリの生活で亮輔の心は限界に近づいてきた。

(アニキはどこにいるんだ、オフクロも行方が解らない、どうすりゃいいんだオレは…)

15才にして、住所不定という過酷な生活で、フラストレーションが溜まりに溜まっていた。

そんなある日、仕事で製品の袋詰めをする作業をしていた。
いつまでこんな事してりゃいいんだ、オレは一体何をやってるんだろう?

そう考えてきたら、空しくなり、こんな作業バカバカしいと思えた。

亮輔は作業を止め、外に出た。
ふざけんな、こんな事やってられっか!とばかりにそのまま帰ってしまった。

住む所も無い、仕事は安くてロクな作業しかない。

亮輔はまたリュックを背負い、キャリーバックをゴロゴロと引きずりながらアテもなく歩いた。

(何だこのロクでもない人生は?オレはこのままフラフラとアテもなく歩いて何処へ行こうとしてるんだ…)

情けなくなって思わず涙がこぼれ落ちた。

残りの金も後僅か、こうなったらこの年でホームレスになるしかないのか。

どのくらい歩いたのだろうか、いつの間にか知らない場所まで来ていた。

空は夕暮れ時、腹が減って歩くのもしんどい。

ラーメンでも食べようか、でもそんな贅沢は出来ない。
向かいにコンビニがある、そこでカップラーメンを買い、店内にあるポットでお湯を注ぎ、店の前で座り込みながらラーメンを食べた。

その様子をコンビニに入る客は、ジロジロと見て、マナーの悪いガキだな、とでも言いたげな視線を投げつけているかのようだった。

カップラーメンを食べ終わり、再び亮輔は歩いた。

外はもう真っ暗だ。
つい、この前まで小島と共に夜遊びをして、朝に帰って夕方まで寝るという自堕落な生活をしていたのが、たった数日で住む所を無くし、帰る場所が無くなった。

一緒に遊んでいた小島とも連絡がつかない。

それもそのはず、小島は達也に頼まれて亮輔の相手をして欲しいと言われ、金を受け取っていた。
マンションを追い出された時点で達也は小島に、もう亮輔の相手をしなくていい、着信拒否をしてくれと言われ、亮輔とは一切連絡を取れないようにしている。

全ては達也の計画なのだが、亮輔は知る由もない。

(もう疲れた…何もかもがイヤになった…)

この先が見えない日々に絶望を感じ、いっそこのまま死んでしまおうかと思い、亮輔は死ぬ場所を探しに歩いた。

どこかに高い建物はないか、そこから飛び降りれば楽になる、もうこんな生活から解放されるには死ぬ事以外無いと思った。

やがて、高層のマンションが前方に見え、あのマンションの屋上から飛び降りよう、そう決めてマンションの入り口まで来た。

だが、そのマンションはオートロック式で中に入る事は出来ない。
(死ぬ事さえも出来ねえのか、オレは!)

このマンションがダメなら他の建物を探そう、亮輔はまた歩いた。

何時間歩いたのか解らない、ただ死に場所を求めにひたすら歩いた。

ふと道路を挟んだ向かい側に、募集という文字を目にし、亮輔は道路を渡り、その募集と書いてある貼り紙を見た。

【寮完備、見習い歓迎 舗装工事作業員募集 年齢不問】と書いてあった。

舗装工事と言えば聞こえはいいが、土木作業員、昔で言えば土方という日雇い人夫の事だ。

(肉体労働か…死ぬかここに連絡するか)

亮輔はその貼り紙をしてあった建物の前でしばし考え込んだ。

(ここに連絡して、ダメなら死のう)

今すぐにでも連絡したいが、もう夜も更けている時間だ。

このままどこかで野宿して、翌朝になったら連絡しよう。

亮輔は公園のベンチを探した。

辺りは住宅街で、公園らしき場所は見当たらない。

亮輔は立ち止まり、財布の中身を確認した。

残り20万弱、よしインターネットカフェで一晩過ごそうと思い、駅前にあったインターネットカフェに入り、横になった途端、歩き疲れたのか、すぐに深い眠りについた。

兄と呼ぶんじゃねえ!

夢の中で亮輔は母親と過ごした日々を見ていた。

母親が亮輔に何か言おうとしているが、上手く聞き取れなくて、目の前にいる母親の姿が徐々に消えていく。
亮輔は母を追うが、足が上手く動かない。

そして母親は視界から消え去った。

亮輔はハッと目を覚まし、何だ夢か、と胸を撫で下ろした。
時計を見ると、朝の5時を回っていた。

しかし、イヤな夢だ。
急に目の前から母親が消えていくなんて。

ふと亮輔は不吉な予感がした。
(もしや、オフクロはもうこの世にいないのでは…?)
いや、まさかそんな事は無いだろう。
だが、いつまで経っても母親の手掛かりさえ解らず、亮輔は不安になってきた。

警察は何をやってるんだろう?
ちゃんと捜索をしてるのだろうか?

達也が言うには、母親は巨額の負債を抱え、行方をくらましたと言ってた。

本当にそうだったのだろうか?
一緒に住んでいて、そんな素振りは一度たりとも見たことはない。

いくら血の繋がってない母親とはいえ、何でも包み隠さず、亮輔には話してきた。

そして、毎晩のように激しく抱き合い、肉棒を貪った。
そんな母親がある日突然いなくなるなんて事が理解し難い。

達也の話だと、負債を抱えた会社は他の企業に乗っ取られ、マンションも抵当に入っていた。

いくら世間知らずな15才の亮輔でも、不審に思う点がいくつかある。

達也は買収された会社に拾われる形で入社し、大学を辞めたと言った。

そして別れ際に達也は餞別として、100万を亮輔に渡した。
その100万はどこから出してきたのだろうか?

ほぼ無一文になった状況でそんな大金が出せるのだろうか?
達也はあらかじめストックしておいた金だと言ったが、そんな大金を亮輔に渡したら、達也はどうやって生活しているのか?

あの時は気が動転して何も考える余裕は無かったが、今にして思えば、妙に引っ掛かる話だ。

(アニキに会うしかない、となると会社に行けば会えるかも)

そう思った亮輔は、インターネットカフェを出て、会社のある場所へと向かった。

会社には何度か来た事があるから場所はわかる。

亮輔は電車に乗り、一時間程の距離にある会社の入り口までたどり着いた。

多分、まだ出社前のはずだ。ここにいれば必ずアニキに会える。

亮輔は達也が来るのを待った。

そして何人かが会社の中に入っていった。
そろそろ出勤の時間だ、亮輔は達也が来るのを今か今かと待ち続けた。

すると1台の車が地下にある駐車場へ入っていった。

(今のアニキじゃないか?)

車が駐車場に入る際、運転席の横顔が達也に似ていた。

間違いない、アニキだ!

亮輔は後を追った。

車はバックして指定の駐車場所に停まった。

運転席から姿を見せたのは達也だった。

「アニキ!」

亮輔は達也に向かって叫んだ。

その声に後ろを振り返った達也は亮輔の姿を見て、一瞬驚いた。

「アニキ、探したよ。何で連絡がつかないんだよ?」

亮輔は達也に向かい、何故連絡がとれなかったのか聞いてみた。

達也は無言だった。

「何だよ、何で黙ってんだよ?」

更に亮輔が詰め寄ると、達也は右の拳を亮輔の顔面に叩き込んだ。

「ぐゎっ…」

いきなり殴られた亮輔は何も出来ず、よろけた。

すかさず達也は亮輔の頭を掴み、壁に叩きつけた。

ゴン!という音を立てて亮輔はうずくまった。
そして達也は亮輔を蹴りまくった。
革靴で蹴られ、口や鼻から大量の出血が流れた。

大の字になって倒れている亮輔を見下ろし、達也はスーツの襟を直し、吐き捨てるように言い放った。

「誰がアニキだ?テメーはどっからこんなとこに入ってきたんだ、おいっ!これは住居不法侵入だぞ、聞いてんのか、コラァ!」

更に達也は亮輔の顔面を踏みつけた。

「言っとくが、オレはお前の兄じゃない。何が目的でここに来たか知らねえが、オレとお前は全く血が繋がってないんだよ。
解るか?血の繋がらねえ兄弟なんて兄弟じゃねーんだよ!」

「…っ!」

激痛に追い打ちをかけるように達也は本当の事を告げた。

「お前はあの女と、あの女を養子縁組にした義理の父親との間に生まれたガキなんだよ!今後一切オレの事を兄と呼ぶな!
本来ならテメーは古賀なんて名字じゃねえんだよ、解ったかコラァ!」

更にもう1発蹴りを見舞い、懐から財布を取り出し、何十枚と入っている一万円札を宙にばらまいた。

「これは慰謝料と手切れ金だ。いいか、2度とここに近づくんじゃねえぞ!もし近づいたらテメーの命は保証しねえぞ、解ったのか、おいっ!」

達也は亮輔に唾を吐きかけ、地下のエレベーターに乗っていった。

倒れている亮輔の周辺には一万円札が散らばっていた。

顔面を血に染めながら、亮輔は落ちている一万円札を拾った。

殴られ、蹴られた事より、達也とは全く血の繋がってない事の方がショックだった。

放心状態のまま、ただひたすらに一万円札を拾って、亮輔は再び倒れた。

「…あのヤロー、裏切りやがったな…もしかしてオフクロも…」

激痛のあまり、しばし立ち上がれなかったが、達也に対し、激しい憎悪を抱いた。

母性愛

血だらけになり、激痛と共に達也に浴びせられた言葉のショックで亮輔は失意のまま駐車場を出た。

その時、血に染まった顔を隠す為、下を向いて歩いてた亮輔がドンと前を横切った女性とぶつかってしまった。

「あ…ごめんなさい。…あれ古賀くん、古賀くんでしょ?どうしたのこんなに怪我して?」

声の主は鴨志田だった。

「先生…」

何故この会社に先生がいるんだ?
確か母親の話だと、ヤミ金に追われ身柄を拘束され、ソープに沈められたはずじゃ。

だが、目の前にいる鴨志田は、高校の教師をしていた頃の髪を一つに束ねてメガネをかけ、相変わらず大きな胸が目立つスーツ姿で、最後に会ったソープランドの店の前で見かけた格好とは随分雰囲気が変わった。
変わったというより、元に戻った出で立ちだ。

「古賀くん、そんな血だらけになってどうしたの?」

「…」

亮輔は無言のまま立ち去ろうとした。

「待って」

鴨志田は亮輔の腕を掴み、ハンカチで出血していた鼻や口元を拭いた。

「誰にやられたの?」


「…」

相変わらず無言のままだ。

「まさか社長が…」

社長?社長ってまさか…

「先生、ここの会社の社長ってもしかして…」

鴨志田にも聞きたい事はいっぱいあった。鴨志田も亮輔の事は気がかりでいたので、鴨志田は亮輔に肩を貸すようにして支え、建物の隙間に押し込むようにして止まらない出血をハンカチで押さえていた。

「何で先生がここにいるんだよ…まさか先生もこの会社の人間なのか?」

激痛に耐えながらも、亮輔はビルの外壁を背にしゃがみこんでしまった。

殴られ蹴られ、挙げ句の果てには血の繋がらない兄弟だ、とも言われた。
「とにかく、ここじゃ人の目が気になるからどこかで治療しないと…」

「先生、確かソープランドに働いてはずじゃ…」

「…古賀くん、ここじゃちょっと…場所変えましょう」

鴨志田はスマホを取り出し、どこかへ連絡している。

「もしもし、おはよう。今日ちょっと例の件で面接があるんでけど…ええ、2,3人程来る予定なので。うん、申し訳ないけど、はい、では失礼します」

そう言って電話を切った。

「古賀くん、どこか人目のつかない場所で話をするから」

鴨志田は達也に連絡して今日は会社に行かず、例のソープランドの件で面接するから留守にするとウソをついた。

「さぁ、乗って」

鴨志田が運転する車の後部座席に横たわるように乗り、車は駐車場を出て、近くのラブホテルに入った。

ラブホテルなら人目につかないだろうという事で、フロントに目を合わす事はない。

部屋に入り、ボコボコになった亮輔の顔をタオルを拭いてあげ、ベッドに寝かしつけた。

「先生、どういう事なんだよ…一体何がどうなってんのか説明してくれよ…」

どこから話せばよいのか、鴨志田は困惑していた。
まさか母親を消し去る事に関わっているのだから、迂闊な事は言えない。

とりあえず母親は失踪したという事にして、今までの経緯を亮輔に話した。

亮輔はベッドに横たわり鴨志田の話を黙って聞いていた。

「先生…」

「何?」

鴨志田はソファーに座っている。
タバコを吸っては消し、またタバコを吸うというヘビースモーカーぶりだった。

「じゃ、先生はアニキの部下って事かよ?」

「…」

鴨志田は何も言えなかった。

ソープから抜け出たい一心で達也の会社乗っ取り計画の手伝いをした事もあるが、母親の残した財産のいくらかを貰うという事もあって、亮輔に真実を語る事は口が避けても言えない。

「何でアニキがあの会社の社長がになってんだよ、おかしいだろ、どう考えても」

「それはお母さんがあなたのお兄さんが会社を継ぐという事を事前に言ってあるし、お母さんが急にいなくなったんだから、お兄さんが会社を継いで社長になるのは当然の事でしょ…」

何だろ、まだ何か隠してる事があるのか、亮輔は鴨志田の様子を見ながらもう一度聞いてみた。

「オフクロは何で急にいなくなったの?どう考えてもおかしいだろ、そして大学生のアニキが社長になるなんて、周りが納得しないだろ、違うか?」

母親や亮輔の前では優しい好青年を演じていたが、それもこれもあの会社を乗っ取る為の芝居だった。

「ホントに失踪の件は解らないのよ、何せ急にいなくなったから。で、話し合いを進めて、お兄さんが会社を継ぐ形で社長になったみたいだし」

「先生…他に何か隠してる事ない?あまりにも不自然だ。
もしかしたらアニキはあの会社を自分のものにしたいからオフクロを消したんじゃないかと思ってるんだけど」

「…そんなバカな事は出来ないでしょ!そんな事したらあっという間にお兄さんは逮捕されてあの会社は倒産してしまうわ」

「じゃあ、何でアニキが社長になって先生がアニキの秘書になってんだよ?おかしいだろ、先生、秘書なんてやったこと無いだろ?なのに何で先生が秘書になってんだよ?」

「…それは」

鴨志田は出来れば亮輔には正直に話したい。
だが、それを話したら、自分の身も危うくなってしまう。

「オフクロの下で仕事を学んで、急にいなくなって社長かよ!そんなに上手い話があるか?全て用意周到じゃねーか!なぁ先生、ホントはもっと別な事があるんだろ?」

亮輔は激しく鴨志田を問い詰めた。
それでもこれだけは言えない。
鴨志田自身も儲け話に目が眩み、犯罪の片棒を担いでいるからだ。

「私は外部の人間で、あの会社に来てまだ日が浅いのよ。だから真相はよく知らないの。これだけは信じて!」

鴨志田は訴えるように亮輔に語った。

亮輔はベッドから起き上がり、玄関に向かった。

「古賀くん、どこに行くの?」

「あのくそヤローをぶっ殺す!間違いなくオフクロを消したのはアイツだ!テメーの欲の為に実の親まで消すなんて、あり得ねえ!あんなクズは生かしておくワケにはいかないんだよ」

「待ちなさい、今会ってもお兄さんはあなたを相手にしないわ!それに周りに何人もの人に囲まれた状態でどうやって殺すのよ!」

鴨志田は亮輔の腕を取り、引き留めた。

「先生が知らないんじゃアイツに直接聞くしかないだろ?とにかくあんなクズはオレが殺る!」

「いい加減にしなさい!今は待つしかないの!ホントの事が解るまで迂闊な事は出来ないの。
下手すると古賀くんが警察に捕まるかもしれないのよ!」

「アイツ殺して警察に捕まるなら上等だ!どうせ生きててもロクな事がない。マンション追い出されてあちこちのホテルやネカフェを転々としてんだ。
この先良いことなんてありゃしない。だからアイツを殺してオレが少年院に入りゃいいだけの事だろ!」

「いい加減にしなさい!」

パシーンと鴨志田は亮輔の頬を叩いた。

「あなた、ホントは私の子なのよ!それは知ってるでしょ?」

「そういやアイツ、オレの事、全く血の繋がってない兄弟だと。なぁ先生、先生は義理の父親の子供を妊娠したんだろ?その子供がお前だと見下すように言われたんだよ、これはホントなのか?」

亮輔は鴨志田の肩に手をかけ、壁に押し込むように詰め寄った。

「それは、ホントの事よ。あなたのお父さんと私の間に出来た子供という事になってるけど、実際は義理の父親との間に生まれたの、あなたは。
でも、生まれても認知はしないと言われて、当時お父さんが勤めていた会社の社長と常務がお父さんに役職に就かせる条件として、私とお父さんの間に生まれたって事にしてくれって…」

亮輔は一気に身体の力が抜ける思いだった。

自分の出生が二転三転している。どっちがホントなんだ?

オレは一体誰の子なんだ?
ヘナヘナとその場に座り込んだ。

鴨志田は亮輔を優しく抱きしめ、諭すように言った。

「古賀くん、そんなバカな事するより、これから先はどうするの?住む所は?仕事は?今のあなたにはそっちの方が重要なの、分かる?」

「住む所なんてねえよ。どこを回っても、保証人が必要だと言われて断られてばっかだ。
だから毎日住む所を転々としてんだよ」

「保証人なら私がなるわ。そして少ないけど、毎月私があなたの生活費を渡すから。
そしてまた学校に通って。
定時制でも通信制でも何でもいいから、高校だけは卒業して?
これは先生としてじゃなく、母親としての願いなの、ね?あなたはあなたの道を進めばいいだけの事だから…」

亮輔は鴨志田の腕に抱かれ号泣した。
鴨志田が初めて亮輔に母親らしい面影を見せた。

「大丈夫、私はあなたの本当のお母さんだから。ごめんね、今まで辛い思いさせて…」

鴨志田も涙を流しながら亮輔に謝った。

15才の少年にしては、あまりにも過酷な生活を強いられた。

鴨志田は初めて亮輔に対し、母性が芽生え、何が何でも亮輔を守ろうと心に決めた。

例え、達也の言いなりになっても、必ず亮輔だけは守ると。

最期

亮輔は鴨志田が保証人になるという事で、六畳一間のアパートを借りる事が出来た。

同時に定時制高校に通うようになり、昼間はファストフード店でバイトをするという生活を始めた。

時給は安いが、比較的簡単な作業で、スタッフにも恵まれ、それなりに充実した日々を送っていた。

高校は亮輔より年上の連中がほとんどで、最初は中々話しかけるのに躊躇したが、徐々に打ち解け、何でも話せるような関係になっていった。

亮輔はバイトの給料だけでは生活出来なかったのだが、鴨志田がせめて母親らしい事がしたいという思いで、毎月15万を亮輔の口座に振り込んでいた。

ホームレスみたいな生活を送っていた亮輔にとって、住む場所や働く場所、そして学校で仲間と一緒に色んな話をしているという、ごく当たり前の生活を満喫していた。

一方、鴨志田は達也の指示通り、ソープランドの店を任され、オープン前までに、面接や接客態度、そして男を悦ばせるテクニック等を指導していた。

店に付きっきりで、会社に顔を出す機会も減り、達也とはマンションに帰宅して、その日の報告をするぐらいで、多忙な日々を過ごしていた。

達也は何も言わず、あの店はアンタに任せたとだけしか言わず、他は何も言ってこなかった。

そして新たに、キャバクラが密集する繁華街に一軒のソープランドがオープンした。

滑り出しは上々で、ソープ嬢も若くてキレイどころを集めたやや高級志向の店として、風俗雑誌でも取り上げられる程の人気店になった。

その間も店の運営や新人のソープ嬢に教えるマナーやテクニック等、今まで以上に忙しくなり、朝方近くにマンションに帰ってすぐに寝て、そして午前中には起きてまた店に行くというハードなスケジュールだった。

マンションから店まで車で30分程かかる距離なので、鴨志田は達也と一緒に住んでいたマンションを出て、店の近くのマンションを借り、店の売上金や必要な経費、ソープ嬢やスタッフに払う人件費等を管理していた。

店をオープンするにあたって、達也は鴨志田と契約書をかわした。
そこには、この店の管理は全て鴨志田が行い、独立採算の店舗という約束事が記入されており、鴨志田は契約書にサインした。

これで自分の店が持てるようになった。
鴨志田の頭の中は、店の経営と亮輔の事ばかりで、達也と約束した前社長、つまり達也の母親が残した財産の山分けという話はすっかり忘れ、とにかく店を軌道に乗せる事でそんな話はもうどうでもよくなってきた。

今の鴨志田の生き甲斐は、店を大きくさせる事と、亮輔の面倒を見るという2つの事しかなかった。

あれから母性に目覚めたのか、亮輔の事が気がかりで、一緒に住もうと言ったが、亮輔は今のままで十分満足しているし、同じ部屋に住んでも、鴨志田は店の経営の事で遅くまで仕事をしている為、自分がいたら邪魔になるからと言って、一緒に住む事を断った。

店が軌道に乗った頃、ある客についたソープ嬢のマナーが悪すぎる等と難癖をつけてきた。

店長も兼ねていた鴨志田はその非礼を詫び、客は何とか帰ったが、その客についたソープ嬢は特にこれといった問題点もなく、鴨志田が指導した通りに行っていたと言う。

これを境に、店の経営状態が傾き始めた。

他店から人気ナンバーワンのソープ嬢の引き抜かれ、タチの悪い客が来ては、色々と難癖をつけてきた。

いつしかネットの掲示板には、あの店はマナーも悪いし、ソープ嬢の容姿も最悪だと書かれていた。

まともな客が来なくなり、1日に客が1人来るか来ないかという状況がしばらく続いた。

何とか再建しようと、色々なアイデアを試みたが、更にネット住民の連中は、あの店は無くなれ、誰もあんな店に行くな、等と書かれ、地雷ばかりの店だと噂されるようになった。

これにより、店はあっという間に赤字経営に陥り、これ以上店を続ければ続ける程、負債を背負うばかりになって、僅か数ヵ月で閉店した。

それだけでは終わらず、警察が来て、この店は違法行為をしているというタレコミがあり、店内を捜査したところ、ソープ嬢が使用していた個室から、乾燥した大麻が発見された。

これにより、店の責任者である鴨志田は署に連行され、取り調べを受けた。
鴨志田にとっては寝耳に水で、ソープ嬢を含め、スタッフで薬物使用をしていた人物は誰もいないと説明したが、大麻という薬物が見つかった以上、警察が見逃す事はなく、鴨志田を含め、スタッフ全員が尿検査や毛髪鑑定をして調べたが陽性反応が出る者は1人もいなかった。

だからと言って無罪放免というワケにはいかず、責任者の鴨志田は徹底的に警察の取り調べを受け、しばらくの間、署に身柄を拘束された。

その報を受けて、達也が警察署に向かい、保釈金を払い、ようやく鴨志田は署から出られるようになった。

だが、更に追い打ちをかけるように達也は鴨志田とかわした契約書を盾に、巨額の負債を肩代わりした金額を返せと迫った。

容だった。

おかしい、前に見たときにはこんな項目は書いてなかったと主張したが、この契約書に記載されてある通り、全責任は鴨志田が背負うという約束上、鴨志田は被害を被った会社に対し、損害賠償を支払わなければならない。

莫大な負債を背負った鴨志田は、無一文になり、おまけに薬物所持という疑いで署に連行されたという最悪の結末となり、
失意のまま鴨志田は夜逃げ同然の形で忽然と姿を消した。

翌日、自宅近くの大通りで、大型トラックと鴨志田の運転する車が正面衝突し、車は大破、鴨志田は全身を強く打って、搬送先の病院で死亡が確認された。

警察はブレーキを踏んだ形跡がなく、わき見運転により、トラックと正面衝突して事故を起こしたものだと判断し、鴨志田は事故死という事で処理された。


だが、それもこれも全て達也による陰謀だったのだ。

慟哭

亮輔が定時制の授業を終えて、帰宅した時、アパートの前に一台の高級車が停まっていた。

そして中から達也が現れた。白い納骨袋に覆われた桐箱を手に。

「テメー、何しに来やがった!」

亮輔は怒りを露にして達也に殴りかかろうとした。

「待てよ、ほらこれ。テメーの母ちゃんの遺骨が入った骨壺だ」

えっ!…遺骨?何だ遺骨って?

亮輔は何の事だか理解できなかった。

「お前の生みのオフクロの遺骨だ、この前事故死した」

先生が?何故、どうして?
頭の中が真っ白になった。

達也は更に続けた。

「ったく、テメーが経営してるソープが潰れてかなりの負債を背負って、挙げ句に事故死だなんて」

ウソだ!そんな事あるはずがない!

達也はポケットからタバコを取り出し、火を点けた。

「その借金の額をこっちが肩代わりして、おまけに葬儀の費用までこっちでもった。本来ならテメーが葬儀代出すはずなんだぞ。でもまぁ、ウチの会社の秘書としていたワケだから会社で葬儀をあげた」

「何だ、その借金て?大体先生はお前の秘書だろ!テメー、また何かやりやがったな!」

先生が死んだ。ありえない!

しかも何だ、その借金てのは?

「おいおい、人聞きの悪い事言うなよ。いいか、お前の母ちゃんはウチとは別にソープを経営してたんだよ。だが、客は入らねえ、おまけに店に薬物が見つかって警察にパクられたんだよ」

薬物?まさか先生が薬物使用なんて…

何がどうなってんだ?

「で、結局お前の母ちゃんはシロだという事で釈放されたが、店の運営資金が無くなり、どっかからまた金を借りたんだろ?
よく解らねえが、会社には無断でそういう事をして、借金作って死んだ。そういうワケだからこの遺骨はお前に渡すわ」

「おい、テメー何から何まで不自然な事ばかりしてんな。オフクロも消したのはテメーだろ」

「オレは潔白だ、バカヤローが。とにかく、会社としては無断でソープなんてやりやがって赤字で潰して借金まで作りやがったんだ。ウチとしてはえらい迷惑してんだよ!挙げ句に死にやがって、どこまで人に迷惑かけりゃいいんだ、お前の母ちゃんは」

あの先生が死んだなんて考えられない。
確かに最近は疲れきった表情を見せていたが、事故死だなんて絶対にあり得ない…それに何があってもオレの事は守るとまで言ったのに。

「とにかく、この遺骨はテメーの母ちゃんだから、お前に渡すのは同然の事だろ?むしろ葬儀までしたオレに感謝の言葉すらねえのか、テメーは!
ホントにロクでもねえガキだ!
母親が死んだのを知らずにフラフラしやがって親不孝もんが!
いいか、とにかくこれはお前に渡すから墓はテメーの金でつくってやれ!いいなっ、それからもう二度と会うことは無いが、ウチの会社に来たら今度は警察呼ぶからな、覚えとけ!」

達也は亮輔に骨壺を渡し、再び車に乗り、走り去っていった。

この白い桐箱の中に先生が…

部屋に入り、骨壺を前に亮輔は呆然としていた。

あの先生が、こんな小さな箱の中に…

亮輔は初めて鴨志田に会った高校の入学式、高校を辞めざるを得なくなった時に一緒に住んだ日々、サラ金に追われ、母親に金を工面してもらう為に、目の前で鴨志田と交わった事、
行方をくらまし、ソープに沈められた時を見かけた日。

そして、アパートの保証人になって生活費を援助してもらい、実の母親として亮輔を見守ってくれていた。

色んな事がこの数ヵ月の間にあった。

亮輔はまた一人ぼっちに戻った。

一人ぼっちになったよりも、鴨志田、いや実の母親がこんな最期を迎え、遺骨となって対面する事になった。

亮輔は声を上げて泣いた。
一体自分の周りで何人いなくなればいいんだ、何で死ななきゃならないんだ!

亮輔は自分を呪った。もしかしたら、オレと関わる人々は全て死ぬんだろうか?

もうこんな悲しい思いはしたくない。

もう、誰とも仲良くならない。
もう、誰も信じられない。
もう、誰も愛せない。

亮輔は泣きながら心に決めた。

自分と関わっちゃいけない、関わったら悲惨な結末を迎える。

ならばいっそ、他人と関わるのは止めよう。

だが、亮輔はやる事が1つ増えた。

それは達也を地獄に突き落とす!

そのためなら何だってやってやる、今まで亡くなった人や行方不明になった母親の為に。

真相

亮輔は鴨志田という実の母親を失い、同時に生活も苦しくなってきた。

ファストフード店のバイトだけでは食っていけずに、やむ無く辞めた。

そして定時制高校も辞めようか続けようか考えたが、鴨志田の願いでもある、せめて高校だけは出て欲しいという言葉を思いだし、続ける事にした。

そしてまた、働き口を探しに色々と調べまくった。

出来れば時給の良い所なのだが、そうなると肉体労働しかない。

この際、背に腹は変えられない。
前に見た、舗装工事の募集の貼り紙を思いだし、電話をかけてみた。

翌日面接に来てくれと言われ、亮輔は履歴書を持って、指定された事務所を訪れた。

面接をしてくれたのは、その会社の社長で、いかにも土建屋という雰囲気で、強面のガッチリとした中年の男だ。

社長は履歴書を見て、定時制高校に通っているという事が引っ掛かった。

この仕事はあちこちの現場に行って、工事をして、工期が間に合わない場合は残業もある。

「定時制高校ってのがなぁ。ウチは年齢や学歴は問わないけど、たまには遠い現場もあるんだ。そうなったら学校には通えないだろう。
まぁ、学校辞めてウチで働くっていうなら雇ってもいいんだが、これじゃあ難しいな」

「学校は何としてでも卒業したいんです。母との約束でもありますから」

亮輔は鴨志田の事を母と呼んだ。

亡くなってから、母と呼ぶならば、もう少し前に母と呼びたかった。

「そうか、オフクロさんとの約束か。まぁ、仕方ないな。じゃ、いつからここに来れるんだ?」

とりあえず雇ってみよう、社長は思った。まだ15才だが、ギラギラとした目付きに何かを感じたのだろう。

「明日からでもお願いします!」

亮輔は力強く答えた。

「よし、じゃあ明日から来い!言っとくが、仕事はかなりキツいぞ!それでもいいのか?」

「はいっ!大丈夫です」

「よし、じゃあ明日から頑張れよ!」

社長は亮輔の肩をバンと叩いて笑みを浮かべた。

とりあえず仕事は決まった。
とにかく今は食っていく事だけを考えよう。

そしていつか、達也に復讐してやる、亮輔を目標は、兄を地獄に落とす事、ただそれだけだ。



一方、達也は邪魔者の鴨志田を消し、ますます勢いに乗る。

達也の大胆かつ巧妙な手腕で、会社は母親が所有していた時よりも、更に拡大していった。

同時に達也の態度にも変化が表れた。
今までは沢渡をはじめとする役員に対し、物腰の柔らかい好青年だったが、徐々に本性を表し、傲慢な態度で、役員連中を叱責し、誰も逆らう者はいなくなる程で、副社長である沢渡の意見にも耳を貸さず、ワンマンな経営で社員は戦々恐々となっていた。

ほとんどの社員が達也より年上だが、お構い無しに怒鳴り散らし、物を投げつけ、ヤル気が無いと判断したら、即刻解雇にする。

あまりの酷さに、労働基準監督署や、ハローワークに駆け込み、パワハラを訴える社員もいたが、裏工作で揉み消され、泣き寝入りをするだけしかなかった。


そして、鴨志田を消しにかかった。母親の会社を乗っ取る為にソープから引き抜き、母親を売り飛ばし、沢渡をハニートラップで罠にはめ、社長の座についた。

この時点で達也の中では鴨志田は用済みだった。
ハナっから財産を山分けするつもりなど毛頭にない。

鴨志田をソープ仕込みのテクニックでターゲットの人物を罠にはめ、後は達也の言いなりにさせてしまう。
今まではそういう作戦で鴨志田を使ってきたが、今はもう、そんな事をしなくてもいいような立場になり、後はどうやって鴨志田を消すか、その事を頭の中で描いていた。

そして思い付いたのは、売上の芳しくないキャバクラをソープに変え、そこへ鴨志田を送り込んだ。
全ての儲けは鴨志田が手にするという謳い文句で、渋々鴨志田が了承し、店を任せた。

第65章真相

キャバクラ激戦区と言われた場所にソープランドが出来たとなれば、今までキャバクラに行ってた客はソープへと足を運んだ。

鴨志田が教育係りとして、徹底的にマナーや接客態度をスタッフに教え込み、あっという間に人気店となった。

達也は鴨志田に任せた店は成功するだろうと思っていた。
案の定、人気店として雑誌にも取り上げられる程の店となったのを機に、達也は、嫌がらせや難癖をつける客を送り込み、ネット掲示板では、あの店の評判の悪さを何度も書き込むようになり、それに煽られ、いつしか人気店から、最悪な店という評判になり、人気ナンバーワンのソープ嬢を他のソープ店へ引き抜き工作をしたのも、達也の指示だった。

極めつけは、クレーマーのような客が、いつものように難癖をつけ、こっそりと店の個室の中に大麻を隠し、匿名で警察に、あの店は違法な事をしているとタレコミ、ついには店を潰してしまった。

契約書も、鴨志田が何度も目を通して、トラップが無いかどうかを確認してからサインしたものの、全ての責任は鴨志田自身が背負うという項目は、鴨志田に解らぬよう、その部分だけ二枚重ねになっており、その部分をめくると、その項目が記載されているという、見た目には解らない工作をした。

警察に事情聴取され、責任者として、取り調べを受けている鴨志田を釈放し、赤字になった店の負債を鴨志田が全て背負うという裏工作をした契約書を盾に、達也は鴨志田を追い込んだ。

だが、それだけではなく、鴨志田は母親を異国の地へ売り飛ばした時に関わっているため、この事を警察に話すだろうと見越して、鴨志田が運転する車に細工をした。

鴨志田の乗る車のブレーキオイルが少しずつ漏れるよう細工した。

そして鴨志田は車に乗り、ブレーキが効かなくなったままトラックと正面衝突し、死亡した。


多額の借金を抱えた鴨志田は当初自殺の疑いもあったが、遺書も見つかっておらず、色々と捜査したが、自殺の可能性は少なく、事故死として警察は判断した。

これで達也の邪魔をする者がいなくなり、全ての資産を独り占め出来るようになった。

遺言

達也が我が物顔で邪魔者を蹴散らし、独裁者気取りでふんぞり返っている頃、亮輔は汗だくになりながらも、舗装工事を始めていた。

残土をかき分けたり、アスファルトをトンボでまんべんなく敷いて、ローラーで平らにして固める。

かなりハードな仕事だが、以前の型枠大工のように、扱いが悪くなく、必死になって作業している亮輔を皆可愛がった。

「おい、アンちゃん!そんなに張り切るとバテるぞ!休み休みやれ」

「はい、わかりました」

額から流れる汗を拭いながら、亮輔は黙々と仕事をした。

そして夕方になると、定時制の授業が始まる為、一足早く上がる。

「じゃ、すいません。お先に失礼します」

「おう、ちゃんと勉強してこいよ!」

汗臭いまま、学校に着いて、授業を受ける。
日中ハードな作業をしているせいか、授業中に寝てしまう事も度々あった。

そしてアパートに帰って、風呂に入って飯を食ったらすぐに寝る、その毎日だった。

かなり疲れる仕事だが、周りの人達はいい人ばかりで、亮輔はキツいとは思わなかった。

とにかく働いて生活をしなきゃならない、そして鴨志田の言葉通り、学校にも休まず通った。

今思えば、あれが実の母親としての遺言だったのではないだろうか。

休日はどこへも行かず、ただひたすら寝ている。
外に出ても、遊ぶ相手もいないから、部屋にこもり、ダラダラと過ごし、夕方になると晩飯の支度の為にスーパーで食材を買い、自炊する。

なるべく切り詰めるだけ切り詰めて、金は極力使わないようにしようと考えていた。

だが、まだ15才、買いたい物は山ほどある。

そんな休日に亮輔は今度給料が出たらゲームソフトでも購入しようと、久しぶりにパソコンを開いた。

すると一件のメールがあるので、何だろうとメールの内容を見た。

亮輔はメールの差出人を見て驚いた。
鴨志田からのメールだった。

久しくパソコンを開いてなかったせいか、日付がかなり前に送られてきたものだった。

その内容は、亮輔が衝撃を受ける程、達也に関する重大な事が書かれてあった。

【古賀くんへ

多分このメールを読んでいる時、私はもうこの世にはいないでしょう。
だからこれは私の遺言書として読んでください。

貴方の母親、つまり育ての親である千尋さんが失踪した件は、貴方のお兄さんが、人気の無い暗い夜道で待ち伏せ、気をとられている瞬間、外国人らしき人物に拐われて、車ごと千尋さんを外国船に乗せてしまったのです。

今何処で何をしているのか不明です。
異国の地で生存の確認すら出来ない状況です。

それもこれも、私がソープ嬢をしている頃、貴方のお兄さんが客として現れ、私の借金を肩代わりする代わりに、千尋さんを消し去り、会社を乗っ取り、資産を分配しようという誘惑にかられ、お兄さんの手伝いをしてしまいました。

その時、私は別の車の中で一部始終を目撃したのです。
それからというもの、私はお兄さんの手足のように、色々と汚い手を使い、お兄さんを社長にするべく、何人もの人達を罠にはめ、お兄さんは社長になったのです。

お兄さんが社長として就任して私はお兄さんの秘書という形で会社に入り、千尋さんが所有していたマンションと、お兄さんが住んでいたワンルームマンションの建物と土地を売却したのです。

そして貴方には、会社が赤字で倒産寸前まで追い込まれたとウソをつき、貴方をマンションから追い出したのです。今思えば、私がお兄さんの思い付いた作戦に断固反対すべきだと後悔しています。

その後もお兄さんは社長として会社に君臨し、会社を思うがままに操り、私には赤字のキャバクラ店をソープランドに変えて、そこの店を任せると言われました。
最初は断りましたが、私をソープ嬢から救ってくれた恩と後ろめたさから、その話を引き受けました。

でも、結局は嫌がらせにあい、店は閉店し、私は莫大な借金を背負い、無一文になり、会社を追い出されました。

そして今、私はそのお金を工面するべく奔走しているのですが、多分私は口封じの為に命を奪われるでしょう。

今までは真相が言えずに本当にごめんなさい。

私がお金に目がくらんだばかりに、犯罪の片棒を担いでしまった。

お兄さんは社長に就任したと同時に、私の事を消すつもりでいたのでしょう。

もう、私は用済みという事です。

そして最後に、このメールの内容を警察に見せ、告発して欲しいのです。

お兄さんの暴走を止めるのは貴方しかいません。

暴力に対して暴力では解決しません。
貴方がこの事を発表すれば、お兄さんは人身売買という罪で逮捕されるでしょう。
ですが、これ以上の犠牲者を出さない為にもお願いだからこの内容を警察に見せてください。

そして、実の母として古賀くん、いや、亮輔、貴方は真っ当な人生を歩んでください。

私やお兄さんのような汚れた人間にはならないで下さい。

最後まで母親らしい事が何一つ出来ずにこの世を去るのは本当に辛いです。

だから、貴方には堂々と表を歩けるような立派な大人に成長して下さい。

これが私の遺言です。

では、身体に気をつけて、そして必ず高校だけは卒業して下さいね。

鴨志田紗栄子】

やっぱりオフクロを消したのはアニキだ!

そして先生を死に追いやったのもアニキだ!

亮輔は白い桐箱を抱き、号泣した。

もう、泣くまいと誓ったのに、涙がこぼれ、声を上げ、泣いた。
お母さん、ごめんなさい、と。

ひとしきり泣いた後、亮輔はパソコンを持って、警察署へむかった。

本来ならば、この手でオレがアニキ、いやあのクズを殺してやりたい。

だが、ここは遺言通り、このパソコンを持ってメールの内容を見せよう。

そしてこれ以上犠牲者が出ないように。

破滅

亮輔は鴨志田のメールを証拠品として、パソコンを持ち、警察署へ向かった。

そこで母親が失踪した件の真実として、メールを公開した。

母親や鴨志田、そして達也との関係を全て洗いざらいに話し、達也を告発した。

達也はその頃、小島と共に東南アジアへ旅行へ出掛けており、帰国と同時に達也を重要参考人として署に連行した。

取り調べ室では、母親を海外に拐っていった事を徹底的に問い詰められた。

達也は留置場に入る事になった。

達也はひたすら黙秘権を使い、一切話さなかった。

達也は保釈される自信があったからだ。

常日頃から、もし自分の身に何かあったら、この場所にいる弁護士に依頼して欲しいと。

もうすぐ弁護士が保釈するように手を打ってくるはずだ。

しかし、誤算だったのは鴨志田が最後に亮輔宛にメールを送った事だった。

(あのヤロー、よくもオレをこんな目にあわせたな。ここを出たら真っ先にあのくそガキを消さないと)

達也は留置場の中で、どうやって抹殺するか考えていた。


とにかくすぐに殺さず、ジワリジワリと痛めつけてから止めを刺そう

なぶり殺しにしよう、まずは手足を切断して、目ん玉えぐって耳を削いで、それからそれから…

とにかく亮輔に対する殺意が半端なく、今すぐにでも乗り込んで身柄を拘束してやりたい!

激しい憎悪の中で、達也が弁護士が現れるのを待っていた。


その翌日、沢渡が手配した、例の弁護士が署に行き、身柄の釈放を要求した。

どのような手を使ってでも依頼者の仕事は完璧に遂行する弁護士は、あっという間に達也を保釈させる事が出来た。

数日ぶりに外に出ることが出来た達也は、うーん、と伸びをして、意気揚々と署を出た。

「助かったよ、先生。これでようやく釈放だ。ったくオレを罠にハメようなんて100年早ぇんだよ!で、先生、今回はいくら払えばいい?」

署から少し離れた場所まで歩き、弁護士に今回の仕事の金額を聞いた。

「そうだなぁ、とりあえず一本持ってこい」

一本とは1000万の事である。
報酬金として、1000万払えという事だろう。

「一本かよ、ったく相変わらずキツい金額だな。まぁ、でもアンタのお陰でシャバに出れたんだから明日用意して持ってくよ」

フン、と鼻でせせら笑い、傲慢な態度で言い放った。

「おい」

弁護士が達也の方を向いて、凄みをきかせ、今まで見たことの無い、恐ろしい形相でドスの効いた声で達也に警告した。

「お前、随分と調子に乗ってるじゃねえかよ…オレからしたらテメーなんざ、まだまだガキなんだよ!いつまでもテメーの思い通りになると思うなよ…なぁおい、聞いてんのか?
その舐めた態度、2度とオレにするんじゃねぇぞ!
…ま、いつまでも裸の王様気取りしていろよ、ただそれがいつまで続くことやら」

一瞬、弁護士の脅しにも似た言葉に怯んだが、暴君と化した達也は耳を貸すつもりはない。

「何だって、アンタオレを脅すのかよ?アンタは黙って高い金取って仕事してりゃいいんだよ、わかったか?」

もはやこの男には何を言ってもムダだとばかりに、弁護士は

「テメーの足元をよーく見てみろ。分かるか、この意味が?
とにかくオレの仕事は終わった。
明日金用意してオレんとこに来い!」

そう言って弁護士は立ち去った。

「偉そうに、たかが弁護士風情が!アイツも邪魔だな…いっそ消しちまおうか、あのくそガキと一緒に」

胸くそ悪い!とばかりに達也はスマホを取り出し、迎えの車を手配するよう連絡した。

だが、社内はほとんどの人間が外に出て、迎えに行くことが出来ない。

「ったく、何やってんだ、あのバカどもは!オレが出て来たんだから迎えに来るのがフツーだろ!そう伝えておけ!」

一方的に怒鳴りまくり、電話を切った。

(何でこのオレが歩いて帰らなきゃなんねーんだ?オレは社長だぞ!迎えに来るのが筋ってもんだろが!)

苛立ちながらタクシーを拾おうとしたが、中々捕まらない。

しゃーねぇ、電車で帰るか…

達也は署から10分程歩いて駅に着き、ホームに立った。

ちょうどラッシュアワーでホームはたくさんの人だかりだ。

(ったく、どいつもこいつもバカ面して、何も考えてないでただ仕事してるんだろな、コイツら…オレみたいにちっとは頭使えってんだよ、いくらでも金儲け出来るだろうに。まぁ、だからコイツらはこんなクソみてぇな場所に集まって電車乗るしか脳のない連中だがな)

達也は順番に並んで、電車が来るのを待ってる人々を罵っていた。

この中では、オレが一番偉いんだ、オレが一番金持ちなんだ、と。

【間もなく急行列車が通過します。大変危険ですので、ホームのラインに下がってお待ち下さい】

構内で急行列車が通過するアナウンスが流れた。

この駅は、急行列車が停まらず、各駅停車のみしか乗れないにも関わらず、乗降客がかなり多い。

人混みに揉まれ、肩がぶつかる。

(くっそ!何で急行が停まんねぇんだよ、使えねえ駅だな!)

迎えの車は来ない、急行は通過するだけ、おまけにこの人混みで達也のイライラは頂点に達した。

また、肩がぶつかる。

「邪魔だ、コラァ!」

達也が怒鳴り、前の列に割り込もうとした。

ホームでは急行列車が速度を落とさずに通過する。

ドン!と後ろから強い力で押され、一瞬にして達也は肉片となって飛び散り、血しぶきが舞った。

「キャ~っ!!」

構内は騒然となった。

達也の身体は急行列車によって無惨に轢かれ、肉の塊と化して線路に飛び散った。

多くの乗客がこの瞬間を目撃し、ショックのあまり、気を失った人々もいた。

構内は逃げ惑う人々でパニックになった。

欲に走り、欲の為に邪魔者を蹴散らした達也に天罰が下ったかの様な凄惨な最期だった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー駅前のロータリーでは、高級車の後部座席に座っていた弁護士が、駅構内が騒然となって、ロータリーからでもわかる程の大騒ぎだった。

「バカなガキだ。おとなしく大学に通ってりゃいいものを」

「仰る通りです。ついこの前まで貧乏学生だった分際で社長になろうとしたのが破滅への始まりだったのです」

「今まで長いこと弁護士をやってきたが、あんなバカは初めてだな。だが、バカには相応しい最期だ」

「はい、ようやく白アリを駆除出来ました。先生、お約束の金額です、お確かめ下さい」

キューバ産の高級葉巻の煙を吹かしながら、アタッシュケースを開けた。

「キャッシュで1億です」

中は現金でギッシリと詰まっていた。

「しかし、アンタも酷い事するね。白アリ駆除とはいえ、大がかりな駆除だったよ」

「酷い?そんな事はありませんよ。たかだか19の子供が大人の世界に入り込んでオモチャを散らかしただけです。オモチャを散らかしたなら、片付けるのは当然の事でしょう」

「ふっ…成人になる前に肉の塊とは。まぁこれも大人を舐めすぎたお仕置きだな。
で、次の社長はアンタがなるのかい?」

「ええ、引っ掻き回した会社を再建しますよ。今度は真っ当な会社として…」

もう一人の声の主は沢渡だった。

再建

何故、沢渡は弁護士と手を組んだのか。

それは達也が社長就任の時まで遡る。

沢渡は鴨志田に誘われ、一夜を共にした動画が出回り、この事を揉み消す事と、前社長の達也の母親が所有していたマンションと土地を売却し、その金を受けとるという条件で達也を社長にする事に賛成した。

だが、沢渡は達也を全く信用していなかった。
そのうちボロが出るだろうと。

最初のうちは物腰の柔らかい好青年を演じていた達也が、いずれ図に乗り、ワンマンになる事を見越して、達也がよく依頼した弁護士と何度か顔を合わせるうちに、弁護士から言われた一言が引き金となった。

「沢渡さん、アンタいつまであの小僧をのさばらせておくつもりなんだい?ヤツは破滅するタイプの人間だ。
ほっといたらアンタんとこの会社、大変な事になるぜ」

それは沢渡も重々承知していた。

案の定、鴨志田を消すためにソープランドの店を任せ、裏では嫌がらせの為にクレーマーのような客を送り込み、鴨志田潰しに躍起になっていた達也を見限り、裏で弁護士と通じあっていた。

沢渡もそれなりに裏社会を知り尽くした人物で、弁護士の噂は耳にしていた。

沢渡は何度か弁護士と共に、仕事抜きで酒を酌み交わす程の間柄になった。

弁護士も百戦錬磨の人物で、沢渡という人物はただ者ではない、という雰囲気を醸し出していた。

弁護士は沢渡がこのまま達也を社長にしておくつもりでは無いと読んでいた。

勿論、沢渡も達也をいつまでも社長としておくワケにはいかなかった。

沢渡は水面下で弁護士と何度も会って、いずれ達也を潰すので、その時は力を貸して欲しいと依頼した。

弁護士の客のほとんどは裏社会で生きてる連中だ。

それなりに顔も知られ、一目置かれるような存在だった。

達也と沢渡の違いは、達也はただ己の欲望の為に、邪魔な者は排除する、そして自分はトップに君臨するという、自己中心的な考えしかなかったのに対し、沢渡は社員あっての会社という、堅実な考えを持って、前社長の右腕として会社に貢献していた。

確かに前社長はヒステリックでワンマンなところがあったが、それもこれも、会社を良くしたいが為の事で、沢渡にもキツく当たったりしたが、全幅の信頼を寄せていた。

だが、達也は口ではこの会社は沢渡さんが今まで支えてきたと誉めちぎっていたが、実際は自分の欲の赴くままに行動する達也の性格を見抜いていた。

長いことこの世界にいれば、行き馬の目を抜くが如く、いずれは達也はつけあがり、傍若無人な振る舞いをするであろうと思いつつも、表向きでは達也の忠犬の様に、イエスマンを演じ、更には達也を煽るようにして焚き付け、独裁者と変貌した達也の態度が最高潮に達した頃を見計らい、弁護士に大金をはたいて、達也を消す事を依頼した。

弁護士は裏で人を始末する事もしており、顧客の中でもその筋の人間に今回の件を依頼し、合意達したところで、達也を事故に見せ掛けるようにして、ホームから突き落とした。

それも端から見えないように、何人かのその筋の連中が達也を囲むようにして、後はその中の1人がドンと背中を押し、達也は文字通り砕け散った。

それもこれも、鴨志田を消す事しか頭に無かった達也が沢渡に本性を見せたのが運の尽きだった。

「先生、この件を最後に私どもは先生と会う事は無いでしょう。これからは優良企業として邁進していくつもりです。
今までお付き合いいただき誠に感謝しております」

沢渡は弁護士に礼を述べた。

勿論、弁護士もそのつもりだった。
今回の件を最後に沢渡とは関わり合いを持たずに互いの道を進めばいいと思っていた。

「解ってるよ。もうアンタと会う事は無いだろう。これでオレの役目は終わりだ。
沢渡さん、アンタが立派な会社に成長するのを期待してるよ」

「ありがとうございます」

「ところであのバカの葬儀は会社でやるつもりかい?」

「そのつもりです。まぁ、あちこちに飛び散った部分だけ集めてもらって火葬して遺骨は弟に預けるつもりです」

「そういや、血の繋がってない弟がいたな。鴨志田のオヤジが養子にしたあの女との間に出来たヤツが。そいつは何をしてるんだ?」

「はい、あの愚かな兄に振り回されて、高校を中退し、今は定時制に通いながら、昼間は肉体労働で真面目に働いてるらしいです」

「まだ15才なのに、天涯孤独の身になったのか…そりゃ気の毒だな」

「ええ、ですから今回の件で鉄道会社から莫大な賠償金を支払わなくてはならないでしょう。ですがまだ15才、これ以上の不幸な出来事には巻き込みたくないですね」

「真面目に働いてるヤツにそんな事はさせんよ。その弟の為に損害賠償が出んように手配してある。それにしてもかわいそうな弟だな、アニキがバカなだけに」

「私はその弟を何度か見たことはありますが、あの愚か者の事とはくらべものにならない程、真面目な子です」

「そうか。しかしバカな兄を持つと弟は苦労するだろな」

「そうです。まだあの年でこの前まで色んなビジネスホテルを渡り歩き、ようやく住む所を見つけた矢先ですからね」

弁護士が葉巻を咥え、少し考えた。

「遺骨はその弟に預けるのかい?」

「さぁ、遺骨にしようとも、あれだけ派手に身体がバラバラになったぐらいですからね。
でも、戸籍上は兄弟ですから遺骨が見つかれば、弟に返すしかないでしょう」

「それまでの葬儀代は会社でもってやれ。オレは真面目に働いてる人間には一切手を出さない」

「成る程、解りました」

そして弁護士は達也の始末を任せれた者たちに連絡をとり、
その場を立ち去るよう告げた。

やがて車は弁護士の住む、事務所へ着いた。

「それじゃ元気でな。アンタなら上手く会社を立て直せる」

「今までありがとうございました。先生もお元気で」

車はまた発進した。

最大の邪魔者の始末を終え、沢渡は会社に向かった。

精神力

達也の死の知らせを受け、亮輔は会社へと向かった。

警察の調べによると、駅のホームから転落し、列車に跳ねられ轢死という事で、事件性の可能性は薄く、構内ではラッシュアワー時という事もあり、何かのはずみで転落し、急行列車に轢かれたという事故死で処理されたらしい。

亮輔はまだ未成年だという事で、葬儀は会社が代表して取り仕切る事にした。

達也の亡骸は列車に轢かれ、無惨な肉の塊と化して、線路内に飛び散った肉片を救急隊、レスキュー隊によりかき集め、そのまま荼毘にふされた。

火葬場で遺骨を骨壺に入れ、桐箱に白のカバーを被せ、亮輔が受け取った。

亮輔はこの手で達也を地獄に突き落とすという目的があったが、それも叶わず、悲惨な最期を遂げた。

もしかしたら、誰かの手によって消されたのかも知れない。

普段車に乗っている達也が電車に乗るなんておかしい。

それとも、母親や鴨志田が無念を晴らすために、そのような場所に誘き寄せたのか、真相は定かではない。

だが、亮輔は達也が亡くなっても、眉1つ動かさなかった。
伸びきった天狗の鼻をへし折るが如く、鉄槌を食らったのだろうと。

仮にこれが事故死じゃなく、誰かの手によって殺されたとしても、当然の報いだと思った。

ただ願わくは、この手で達也の人生を終わらせたかった。
それが出来なかったのが残念で、心残りでもあった。

葬儀の帰り、亮輔は沢渡に呼ばれ、家まで車で送るという事で二人きりになり、車に乗った。

沢渡は運転席で、亮輔は後部座席で達也の遺骨を抱えて車は亮輔の住むアパートへ向かった。

その間、二人は無言で、亮輔は何かを話そうとしたが、何から話せばいいのか解らず、結局は黙ったまま、亮輔のアパートへ着いた。

「沢渡さんありがとうございます。もし良かったら中へ入ってもらえませんか?少しお話したい事もありますから」

亮輔は部屋で話をしようと、沢渡をアパートの部屋へと案内した。

亮輔と沢渡は以前、母親が社長の頃に何度か顔を合わせており、挨拶程度の事しか交わさなかったが、達也の事でどうしても聞きたい事があった。

沢渡もその事を解っていて、亮輔の部屋に入った。

部屋の中では、棚の上に鴨志田の遺骨が入った骨壺が置かれていた。
亮輔は鴨志田と達也の2つの遺骨を部屋に置くことになる。

「何もないですけど」

亮輔は沢渡にお茶を出した。

「あぁ、すまないね。亮輔くん、君がお兄さんと鴨志田さんの遺骨を2つ持たなきゃならないけど、まだ若いのにこんな事を押し付けて申し訳ない」

沢渡は亮輔が部屋の中で、鴨志田と達也の遺骨と共に生活するという事が気の毒に思えた。

元々沢渡は、達也よりも亮輔が小学生の頃からの顔見知りで、何度か母親に連れられ、その度に亮輔は沢渡に元気よく挨拶していた。

大人と小学生故に、これといった会話をする事も無かったが、沢渡は屈託の無い、亮輔の笑顔を思い出していた。

それが僅か数年で、ガラリと風貌が変わり、精悍な顔つきになり、同じ年齢の高校生に比べても、大人びた少年に成長していった。


「ところで沢渡さん」

亮輔は姿勢を正し、正座した状態で沢渡に単刀直入に聞いた。

「兄は本当に事故死だったのでしょうか?いつも車に乗っていた兄が電車に乗るなんて、変だなとは思っているんですが」

沢渡の目を見据えたまま、亮輔は疑問をぶつけてみた。

「亮輔くんが不思議がるのも無理はない。確かに君のお兄さんはいつも車で移動していた。
だが、亮輔くんも知っての通り、お兄さんはそれまで警察署に勾留されていた。
そして私が弁護士を手配して、お兄さんは釈放された。
本来なら、迎えの車が来るはずが、私を含め、他の連中も外に出て仕事をしていたので、迎えに行くことが出来なかった。
だからお兄さんは電車に乗って会社に向かおうとした矢先にこの様な事件になってしまった。
まぁ、亮輔くんが疑問に思うのは当然だ。だが、これが事件の真相なんだよ」

「そうでしたか…」

「亮輔くん」

「はい」

「君は強くなったな。本来なら君はまだ高校1年生で、部活をしたり、友達と放課後に遊びに行ったりしてるはずだった。
それがこの数ヵ月で色々な災難が君に降りかかった。
なのに君はそれを乗り越えようとしている。
私も君と同じぐらい年の子供がいるが、比べものにならないぐらい、君は大人になっている」

これはお世辞でも何でもなく、亮輔はこの数ヵ月で様々な出来事が起こった。
父親が出張先で命を絶たれ、母親の失踪、鴨志田の死、そして達也の無惨な最期…

普通ならば精神が崩壊してもおかしくない。
大人でも、こんなに立て続けに不幸が起こり、天涯孤独の身になれば生きる気力すら失い、自ら命を落とす危険性すらある。


亮輔はそれを受け止め、生活の為に働き、夜は学校に通う。
並外れた精神力じゃなきゃ到底出来ない。

「そんな事はないです…それより先生、鴨志田さんのメールの内容は本当なのですか?」

沢渡には聞きたい事がいっぱいあった。

沢渡は腕を組み、目を閉じながら、亮輔の質問を聞いた。

「残念ながら、その事も真相は分からない。
何せ、その鍵を握っていた二人はこうなってしまったからね」

沢渡は並んである遺骨を見て答えた。

「そうですよね、沢渡さんが分かるはずないですよね。先生も兄ももうこの世にいないですから」

「申し訳ない、何分、当の本人達が亡くなった今は、真相は闇の中だから」

「沢渡さん、こんな事ばかり聞いて申し訳ありません」

亮輔は頭を深々と下げた。

「いや、いいんだ。亮輔くんが聞きたがるのも無理はない」

「でも…」

「ん?」

「もし、例えばの話ですが」

亮輔は前置きをして沢渡に話を続けた。

「兄がもし、事故じゃなく、誰かの手によって殺されたとなれば、僕は当然だ、と思ってます。ただ、1つ残念なのは、僕がこの手で兄を叩き潰せなかったのが心残りです。兄はあまりにも人を欺き、蹴落とし、人の命すら何とも思わない最低な人間です。
僕がいずれこの手で地獄へ落としてやりたかった。
今の僕の正直な気持ちです」

亮輔は沢渡を見つめ、兄に対する憎しみを包み隠さず話した。

「亮輔くん、君はお兄さんのような道を誤るような人生だけは送らないで欲しい。
お兄さんを憎む気持ちは分かる。
だけど、目には目を、という気持ちだけは持たないで欲しい」

沢渡は亮輔には全うな人生を歩んで欲しいと諭した。

亮輔は、多分、鴨志田を消したのは達也で、達也は沢渡の手によって消された。

今、こうして話をしていて、沢渡が達也の傍若無人な振る舞いに対して、鉄槌を食らわせたのだと。

清算

「ところで亮輔くん」

沢渡が話を変えようと、亮輔に質問した。

「君は今、生活がかなり苦しいのでないかな?」

沢渡は亮輔が仕事でどのくらい給料を貰って、ここの家賃はどのくらいなのか知らない。
だが、生活は楽ではないはず。
その辺りを聞いてみたかった。

「生活はギリギリです。給料貰っても、家賃や光熱費、定時制の月謝や飯代でほとんど消えていきます」

「それなら貯金など出来ないだろう?」

「はい、実は先生が毎月生活費を渡してくれる代わりに学校だけはキチンと卒業してくれ、と言われました。それで、少しは楽になりましが、これからは1人で生活費を稼ぐしかないので、以前兄や先生に貰っていた金があるので、それを貯金してますが、いざとなったら、貯金を切り崩してでも生活するしかありません」

気の毒に…沢渡は亮輔と話しているうちに、我が子のように思え、不憫に感じた。

「そうか、その年で色々と苦労してるんだな。だが、この経験が今後の君の人生に大きく影響する。
大人になった時、君はこの時の事を糧に立派に生きていくんだ、わかったな?」

沢渡は亮輔の目をジッと見ていた。
兄の達也と違い、悲しみに満ちた目をしていた。

「沢渡さん」

「ん?どうした?」

亮輔は沢渡に土下座をした。

「どうしたんだ、一体?」

「お願いです!母を…母を探し出す事は出来ませんか?
母は必ず生きているはず。
どうか、沢渡さんの力で母を探し出す事はできませんか?お願いしますっ!」

亮輔は母親は必ず生きているはずだ。だが、どこに連れ去られたのかは解らない。

だから沢渡に懇願した。

「亮輔くん」

「…はい」

「その件は警察が動いている」

「でも、海外に連れ去られたんですよ!警察はそこまで探すんですか?」

沢渡は再び腕を組み、色々と案を考えていた。
だが、どうやって探すのか?
海外となると、どの辺りなのだろうか?
東南アジアか、南米か、はたまたヨーロッパやアメリカなのか。

「この件ばかりは私でもどうにもならない。海外といってもどこに連れていかれたのか。
残念ながら、私はそこまでの力がない…
これが国内だというのであれば何とか探し出せる可能性はあるんだが…」

無理もない。
沢渡は裏の世界にも精通している人物だが、海外に飛ばされたとなると、裏の力を持ってしても、探す事は不可能だ。

「…やっぱり無理ですか?」

「亮輔くん、すまない。こればかりは私でも無理なんだ、許してくれ」

沢渡は亮輔に向かい、頭を下げた。

「そうですよね。いくら何でも世界中を回って探し出すなんて無理ですよね。
沢渡さん無理を言ってすみません」

亮輔も深々と頭を下げた。

「その代わりと言っては何だが」

沢渡が話を切り出した。

「何ですか?」

「君の生活をバックアップさせてもらえないだろうか?当面の生活費は勿論、学校を卒業したらウチの会社に就職させてあげよう。君の事は援助する、それで納得してもらえないだろうか?」

…面倒を見てもらう。
この言葉に何度騙された事か。


亮輔は心に秘めた思いがある。
それは、もう誰も信じない、もう誰も愛さない、と。

それにあの会社は今の亮輔にとっては、忌まわしいものでしかない。

イヤな思いしかしない会社など、入るつもりはない。

亮輔はこの申し出を断った。

「せっかくですが…僕は兄と違って、あの会社に入って、社長になってやろうなんて気持ちは全くありません。
それにあの会社の事は忘れたいんです、今は」

「そうか。君にとっては、あの会社はイヤな思い出しかないからな。すまんね、君の気持ちを汲み取らずにこんな事を言って」

「いや、そんな事ありません。沢渡さんがそこまで僕の事を思っていてくれただけでありがたいです」

再び頭を下げた。

「だが、せめて私の気持ちだけは受け取って欲しい」

そう言って沢渡は懐から、通帳と印鑑、そしてキャッシュカードを取り出した。

「亮輔くん、これだけは受け取って欲しい。これは私のほんの気持ちだ。金だけじゃないのは重々承知してる。だが、この先の生活の足しにしてくれないだろうか?」

亮輔は通帳を開いた。

そこには1000万と記載されていた。
しかも亮輔の名義だ。

「こんなの受けとれませんよ!だってこれは兄がインチキして得た金じゃないですか?」

亮輔は兄が悪どい事をして得た金を受けとるつもりはない。
そんな汚い金などいらない、施しは受けるつもりはない、とばかりに。

「これはお兄さんが得た金ではない。元々は君のお母さんが君が将来、何かあった時の為に積み立てていた金だ。
そこに私のほんの気持ちだが、金額を足しておいた。
だからこれは君が受けとるべきなんだ、わかるな?」

オフクロがオレの為に?
通帳には500万まで積み立てていた金額、そして沢渡が更に500万追加していて、合計で1000万という大金がこの通帳に記帳されていた。

「母が…僕に?」

「そうだ。だからこれは君の物だ。だから受け取らなきゃならないんだ、いいな?」

1000万…このオレに1000万の金を?

15才の少年にとって、とてつもない金額に亮輔は現実味を感じていなかった。

「…」

しばし言葉を失った。

「亮輔くん、もし何かあったら遠慮なく私に言ってくれ。私は君の味方だ、これからもずっとな」

沢渡は立ち上がり、亮輔に肩に手を置いた。

「それじゃ、また。亮輔くん、君は何があっても必ず生きるんだ。
それが二人のお母さんの為にも」

生みの母親と、育ての母親の為にシッカリと生きるんだ、と。

沢渡は部屋を出ていった。
亮輔はしばらく通帳を見ていた。

1000万…もしかしたら、母親じゃなく、沢渡がオレの家系と縁を切る為によこした手切れ金なのかも知れない。

もう誰も信じない、と誓った亮輔は、母親がオレの為にコツコツと積み立てていたなんて信じられない。

猜疑心の塊と化した亮輔は、こんな泡銭など、いるか!
ならば、とことん使ってやる、残高が0になるまで使って、あの忌まわしい会社や達也との事を絶ち切ろうとするため、この通帳にある金額を全部使いきって、関係を清算してやろうと。

ドブ川で眠ってろ!

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー再び亮輔からの視点


オレは沢渡さんから貰った1000万という大金を全部使いきってやろうと思った。

この金をキレイサッパリ使いきって、あの会社に関わる連中との縁を切りたかった。

こんな泡銭、オレには必要ない。必要ないから1日でも早く0にしたい。
とはいえ、何に使おうか?
オレは物欲にそれほど執着心が無い。

あるのは食欲、睡眠欲、性欲の三大欲求だけだ。

睡眠も食事もまぁまぁ満足している。
となると、性欲だ。

ついこの前まで、母親と肌を合わせ、獣の様に激しく求めあっていたが、今はもうそんな事すら叶わなくなった。

オレは母親の性の道具として、数々のテクニックを教え込まれた。

いつしか、母親をイカせる事に快感を覚え、また母親にイカされる事にも快感を覚えた。

そして、母親の目の前で、実の母である、鴨志田と本当の近親相姦を何度もやった。

金に飢えていた鴨志田は母親の命令通り、オレと互いの性器を舐め、吸い、こねくり回して快楽に酔いしれていた。

母親はその都度、鴨志田に金を渡した。
金を貰った鴨志田は借金をしていた消費者金融に返済して、余った金でまた衝動買いをする。
そして金が無くなると、オレを連れていき、また母親の目の前で屹立した肉棒を鴨志田の秘部に差し込み、鴨志田は歓喜の声を上げた。

こんな非常識な事を繰り返すうちに、母親は飽きてきてしまい、鴨志田に払う金も徐々に減っていった。

あの頃を思いだし、また股間がパンパンに膨れ上がった。

だが、真っ先にやらなければならない事がある。

それは鴨志田の墓を建てる事だ。実母の遺骨は墓標に納めるべきだと。

そしてもう1つの遺骨に目をやった。

この、クソヤローの骨か…
コイツに建てる墓など無い。

そもそもコイツとは血の繋がってない兄弟だ。
コイツとの思いなんて、何一つない。むしろ思い出すだけで腹が立つ。

コイツの骨はさておき、先生の墓が先決だ。

オレは小さいながら、近くのお寺に墓を建てた。

先生、いやお母さん。
貴女との約束は必ず守ります。

手を合わせているうちに涙がこぼれた。

オレは家に帰り、枕に顔を押し付けて泣いた。
とにかくひたすら泣いて泣いて、泣きつかれるまで涙を流した。

そして、もう泣くまいと誓った。

涙と鼻水だらけの顔を洗いに洗面所でゴシゴシと水を流してタオルで拭き取った顔を鏡で見た。

(これが今のオレの顔か)

自分でも驚く程、顔つきが変わり、目が死んでいた。

顔色は悪く、死人のような表情だった。

と同時に、兄の遺骨を見て、どこかに処分してやろうと。

今までテメーがしてきた罪を地獄で味わえと。

オレはその夜、兄の遺骨を持ち、ドブ川に投げ捨てた。

お前にはこんな汚いとこで眠ってるのがお似合いだ!これがオレなりの兄に対する供養だ。

これでようやくあの忌まわしき思いから抜け出せる。

オレは残りの金をどう使おうか、その事を考え、家に向かった。

初体験

納骨から1週間後、オレは16才になった。
その間、様々な出来事があった。
そして何度涙を流したことか。

オレは沢渡さんから渡された1000万のうち、約150万近い金を使い、鴨志田、いや実母の墓を建てた。

残りは約850万。

何に使おうか。
形に残るような物を買おうとは思わなかった。

この金が忌々しく感じる。
早く使いきって、今までの悪夢を清算したい、その為には、テレビや冷蔵庫、エアコン等の家電品を購入しようとは思ってない。

仮に家電品を買っても、この金を使っていたと思うと、腹が立ち、ぶっ壊してしまおうか、何て事を思うだろうから、形に残らないような使い方をしようと思った。

となると、飲食やギャンブル、そして風俗。

16になりたてのオレがギャンブルや風俗等行けるはずも無い。

だが、今は何の足枷も無い。
寝床を転々としていた頃はそんな余裕すら無かったが、今は住む所もある。

よし、風俗に行こう。

この金で風俗に行きまくって使いきってやる!

もう、オレの下半身は想像しただけでパンパンに膨れ上がった。

駅前にソープランドがあったはずだ。
行ってみよう、もし年齢を聞かれたら、適当にごまかせば良い。

何せこっちは客だ。金さえ払えば何とかなるだろう。

居ても立っても居られなくなり、オレは夜の繁華街へと繰り出した。

あった、あの店がソープだ。
とにかく行ってみよう、もう半分勃起しながらオレはソープへ入った。

「お客様、失礼ですが、年齢はおいくつですか?」

案の定、店員が年齢を聞いてきた。

「え、18だけど。干支は酉年、誕生日は今日。18になった記念に行ってみようと思って。ダメなの?」

オレは堂々と答えた。
しどろもどろになれば怪しまれる。

「そうでしたか。ではこちらへどうぞ」

案外すんなりと入れた。

「何せこういうとこ初めてなもんで、出来るだけ人気のある娘がいいんだけど」

店員に好みを告げた。

「少々お待ち下さい」

店員は写真を数名持ってきた。

「今すぐに可能なのは、このジュリアって娘とあんなという娘です」

オレは写真をよく見た。
ジュリアという娘はスレンダーで、あんなという娘はグラマラスな感じの娘だった。

オレは今まで、母親や鴨志田が豊満な肉体で、その二人しか経験がないが、やっぱりどうしても豊満な肉体のあんなを選んだ。

「ではこちらの部屋でお待ち下さい」

個室に通され、あんなが来るのを待った。

「失礼します」

ガチャっとドアが開き、あんなが現れた。

おい、ちょっと待てよ。全然写真と違うじゃないか!

豊満どころか、豊満すぎてポッチャリじゃないか!

この時点で既にオレの下半身は萎えた。

「お客さん随分若いけど、こういう所は初めて?」

あんなはオレの服を脱がしながら聞いてきた。
よく見ると、目尻にシワがある。

コイツ一体何歳なんだろう。

「まぁ、一応18だけど」

オレは全くヤル気にならなかった。

オレを全裸にして、いきなりフェラをしてきた。

だが、母親や鴨志田がしていたフェラと違い、全く気持ちよくない。

後はシラケきったまま、射精をしないで時間は終了した。

「お兄さん初めてだから緊張したのかな?よくある事なんだけど、次は大丈夫よ」

何が大丈夫なんだ。

帰り際にあんなの名刺をもらったが、店を出て、ビリビリに破いて捨てた。

風俗ってこんなもんか。

母親と毎夜、互いの身体を貪り合っていた頃が懐かしい。

身体の相性も良かった。
オレに色んなテクニックを教えてくれて、オレも母親のテクニックで何度もイカされた。

そういうのを期待していたのだが、あれじゃ無理だ。

ムダな金使っちまったな…
いや、ムダな金をもっと使おう。

こんな調子でオレは昼間は働き、夕方から学校に通い、その帰りは必ず風俗に寄った。

だが、どれもこれもオレの想像していたものとは違って、母親を越えるような風俗嬢はいなかった。

それでも早く金を使いきりたいが為に、毎夜風俗へ行った。
空しい思いをしながらも。

同級生中山凜

毎晩のように風俗に通った。
ソープ ヘルス ピンサロ デリヘル等々。

何人の風俗嬢を相手にして、いくら使ったかさえ分からない程だ。

段々と飽きてきた。
次こそは、と思いながら意気込んで店に入るが、容姿だけで、肝心のテクニックはサッパリという連中ばかりだった。

オレは母親から、どうやったら感じ、どのようにして攻めればイクのか、性感帯は乳首やクリトリスだけではなく、耳たぶやうなじ、背中等、人によって違うという事を教え込まれ、風俗嬢がイッても、オレはイカなかったなんて事も度々あった。

不完全燃焼なまま家に帰り、オナニーするという、何ともやるせない気持ちになるのだが、それでもこの金を使いきりたいが為に夜な夜な風俗へ行く。

そして期待していたテクニックは全く無く、母親との行為を思いだし、気分が高まって射精するという感じだ。

これなら家でオナニーしてた方がよっぽといいと思う程だ。

時には東南アジア系専門のヘルスやデリヘルを利用したが、日本人よりマナーが悪く、サービスも良くない。

やっぱり母親と淫靡な日々を送っていた頃が1番良かった。

身体の相性もあるが、母親の妖艶な魅力に敵う風俗嬢はいなかった。

若い連中から熟女まで色んな連中を相手にしても、満足はしなかった。

無理矢理気分を高め、あの頃の快楽を思いだしながら射精する。

ふと思った。
オレは女とまともに会話したことは無いんじゃないか、と。

会ってすぐに性行為をするだけで、その過程である、コミュニケーションやらプラトニックな事を一切経験していない。

恋愛すらしたことない。

強いてあげるならば、母親ぐらいだ。

母親とは毎晩愛し合い、肌を重ねる毎に母親の愛を感じた。

当初は何で親子でセックスをするんだ、おかしいだろ、と近親相姦に嫌悪を抱いていたが、月日が経つにつれ、母親無しではいられない身体になってしまった。

恋愛と言えるものじゃないが、愛したのは母親だけだ。

それが今じゃ金で女を買うという日々。
それまでは、風俗なんて、モテない男の性欲処理場とバカにしていたが、オナニーばかりじゃつまらない。

そこへ沢渡さんがオレにくれた1000万が懐に入り、使いきる為に毎日風俗へと通う。

これだけ使っても、まだ金が残っている。


だから、性欲にまかせて、風俗に行くしかない。

金払って会ってすぐに服を脱ぐ。

オレにはセックスまでに行き着く過程というのを経験してないから、何を話せばいいのやら丸っきり解らない。

普通の連中が言う恋愛というのをするつもりはない。
ただ、恋愛云々関係なしに、女と話すという事をしてみようと思い、定時制の高校で年齢は違うが、クラスの女と少しずつ話をするようになった。

皆、昼間は仕事して、夕方になれば学校に通う。

様々な事情で高校に行けなかった、もしくは中退した連中がもう一度学校に通ってみようと思い、ここに集まって教科書を広げている。

親子程離れた人も、ここでは同級生だ。

オレはクラスでも年齢が1番低い。

ほとんどが成人を迎えた大人ばかりだ。

中でも、隣の席に座っている、中山凜(なかやまりん)という21才の女性と仲良くなった。

彼女は1度、女子高に通ったが、1年の2学期に父親が営んでいた会社が倒産し、やむ無く中退せざるをえなくなり、昼間はコンビニの店員、夜は居酒屋の店員として働いてきたらしい。

現在は昼間に事務員をしており、夕方には定時で上がれるようにと、融通の利く派遣社員になっているみたいだ。

パッと見、ヤンキーっぽいが、少しアニメのような子供っぽい声で、容姿も悪くはない。

愛嬌のある顔で、誰とでも気軽に話をする女だ。

「古賀くん、いつも眠たそうだよね?ちゃんと寝てるの?」

オレが年下なのか、弟のように何かと気にかけてもらっている。

「ん、まぁ仕事がハードだから」

まさか、毎晩風俗に行ってるなんて言えない。

何はともあれ、彼女をきっかけに女と話すことが出来るようになった。

時代錯誤な元ヤンのヤツら

学校生活はそれなりに楽しかった。
凜と話すようになり、凜を通じて他のクラスメイトとも徐々に話をするようになり、誰とも会話せずに1日が終わった頃を考えると、かなり変化したように思えた。

だが、表向きは仲良く話をするが、オレは誰1人として信用していない。

もう人を信じる事を止めようと誓ったからだ。
それでも、皆に合わせ、いかにも仲良くしてるように演じた。

凜を含め、他のクラスメイトはオレより年配の人ばかりだ。

それぞれが何かしらの事情で全日制の高校に行けなかった、または途中で辞めた人の集まりだから、深く立ち入るような事を聞く者は誰もいない。

オレは母子家庭で、母親を亡くし、生活の為に全日制の高校を中退して定時制に入ったという事にしている。

まさか父親が殺され、育ての親が海外に飛ばされ、実母が亡くなり、兄は木っ端微塵に砕け散ったなんて話をしたら、誰も信じないだろうが。

ただ、凜からはよく
「古賀くんていつも仏頂面してるけど、仕事で何かあった?」
と聞いてくる。

オレは無口で黙っていると、怒っているような顔に見えるらしい。

ただ単に表情が顔に出ないだけだ。
心の底から笑った事など、幼い頃以来、全く無い。

だが、凜はオレを弟のようにいつも気にかけてくれている。

「ちゃんとご飯食べてる?夜更かしして寝不足なんじゃない?仕事はかなりキツいの?」
等々、たまにウザいと思いつつ、適当に相づちだけ打って、聞き流していた。

毎晩学校が終わったら風俗に通ってるなんて言えない。

オレは心の闇を抱えながらも、皆の前ではそういう面を出さずに、仲の良い連中の輪の中に入って、なに食わぬ顔して話に加わっている。

週末授業が終わり、凜が
「ねえ、明日休みでしょ?この後、カラオケ行かない?何人か誘って」

オレはまた風俗に行こうとしていたので、学校が終わってまで連中と付き合いをしたいとは思ってない。

だが、凜をはじめ、何人かの男女に誘われ、オレは仕方なくカラオケに行くことにした。

皆、年齢はバラバラで、オレとは親子程離れた人もいる。

それが同じ教室で授業を受けてるんだから、どんなに年は離れてもクラスメイトという関係だ。

カラオケルームでは、オレを除く全員が成人なのでアルコール類を注文し、オレはウーロン茶を頼んだ。


この短期間で様々な人間の醜い場面を見てきたせいか、無表情になっていったのかもしれない。

酒が入り、会話が段々と下ネタの内容になってきた。
オレの隣に座っていた、坂本という30代前半の男がオレに色々と聞いてきた。

「古賀、休みの日って何してんだ?」

「いや、特に。ゲームしたり、ゴロゴロ寝ていたりとか」

「ウソつけ、毎日コレばっかりやってんだろ?」
とオナニーをする仕草をしてゲラゲラ笑っていた。

バカか、オレはセックスには困らないんだよ、テメーがオナニーしてろ、何なんだコイツは馴れ馴れしいヤツだな。

オレは返事をしないでシカトしていた。

「やだ、坂本さんたら、古賀くん返事に困ってるじゃん」

向かいに座っていた、20代後半ぐらいの女が笑いながら、会話に入ってきた。

「オレなんて、お前ぐらいの年はしょっちゅうマスかいてたぞ。なぁ、そうだよな?」

坂本は他の男達に同意を求めていた。

いつしか話は、坂本を中心に、その同時流行った出来事を懐かしがりながら盛り上がっていた。

坂本は中学を卒業した後、町工場に就職し、今は1児の父らしい。

「オレやんちゃだったからさ、全く勉強してなかったから、入る高校無かったんだよ!」

そのうち、武勇伝を語るようになり、他校の生徒としょっちゅうケンカしたとか、バイクに乗って夜はヤンキー仲間とたむろしていただの、こっちにしてみたらどうでもいい話だ。

オレは「へー」とか「そうなんですか」しか言わずに右から左へ聞き流していた。

坂本だけじゃなく、他の何人かも、昔はヤンキーだったらしく、楽しそうに当時の話をしていた。

(あぁ、もう帰ろう!ダメだ、こんなとこは)

オレは席を立ち、テーブルに五千円札を置いた。

「あの、すみません、明日朝から用事あるんでこれで失礼します」

ぺこりと頭を下げ、部屋を出た。

くっだらねぇ、何がヤンキーだ。
バカだから高校に入れなかった事が自慢話かよ。

やっぱ、オレは人と仲良くなることは出来ないな、改めて感じた。

兄の幻影に悩まされ

翌週、仕事を終え、教室に入った際、凜から千円札二枚と小銭を渡された。

「何、これ?」

「先週のカラオケで五千円置いてったでしょ?割勘で払ったからそのお釣よ」

あぁ、割り勘で払ったから、そのお釣なのか。
オレはお釣を受け取り、席に着いた。

隣で凜が小声で
「ねぇ、ホントは坂本さん達の話がイヤになって帰ったんじゃないの?」と聞いてきた。

図星だ。だがそうとは言えず、オレはテキトーに用事があったと言ってごまかした。

いい年こいて、いまだにヤンキー癖が抜けきってないヤツらの昔話なんて聞いてもこっちはつまらないだけだ。

それよか、ここ数ヵ月の間に起こったオレの出来事に比べりゃ大した事じゃないだろ。

言うつもりもないが、坂本達はあれでもオレより倍以上生きてる大人だ。

あれが大人なのか、ガキ臭ぇ話に盛り上がってバカじゃないか。

そんな事を思いつつ、また授業が終われば風俗に行こうと考えていた。

さっさとあの金を使いきりたい。

「ねぇ、今度は二人でカラオケ行かない?」

「ん?」

凜が授業中、オレにくっつくように身体を寄せて話しかけてきた。

「二人だけで?」

「そう、あの人達のヤンキー話、私も好きじゃないから、今度は二人で行こうよ、ダメ?」

断る理由も無いし、いいよ、と返事をした。

凜はスレンダーで、茶髪にしたセミロングのヘアーで目鼻立ちはハッキリしている美人だ。

服装もカジュアルで、着こなしがサマになって、読モと言ったら皆が信じそうなスタイリッシュな女だ。

どういうワケか、オレには何かと話しかけてくる。
オレは毎日、舗装の工事で汗臭いまま学校に来てるのに、何とも思わないのだろうか。

汗だくで薄汚れた服を着たオレと、カジュアルでセンスの良い凜が隣だと、オレの薄汚さが際立って晒し者みたいだ。

それでもお構い無しに凜はちょくちょくオレに話しかけてくる。

話といっても、特に共通の話題は無い。
おまけに年が5つ離れているから、何を話せばいいのか分からないので、オレから話し掛ける事はない。

今日は仕事でこんな事があった、この前観たテレビの話とか、そういった類いの話を主にしていた。

第75章兄の幻影に悩まされ

何せ女とこうやって会話したことがないから、接し方が分からない。

今までは会ってすぐセックスという事しか経験の無いオレにとって、会話は苦手だ。

ハッキリ言ってしまえば、女なんて性欲処理の道具としか思ってない。

誰も信じないし、恋愛もするつもりは無い。

これがオレ自身を守る術だと、身をもって知らされたからだ。

授業が終わり、帰るとオレはすぐに繁華街へ向かう。

通いなれたソープに入り、指名はせずに、店員に任せっきりにしている。

どのソープ嬢が来ても、ヤル事は同じだし、テクニックだって、母親と比べたら雲泥の差だ。

案の定、オレはイカずにソープ嬢がイッて時間が終了する。

これで何回目だろうか、こんな後味悪い思いをするのは。

店を出て、家に帰り、母親との性行為を思いだし、オナニーをして、満足感を得る。


何の為に毎晩風俗に行ってるのかバカらしくなってきた。

母親は今ごろ、どこで何をしているんだろうか?

出来る事ならオレが海外に行って探し出したい。

東南アジアか南米か、行く気になれば金もまだ余ってるし、明日からでも飛び立つ事は出来る。

だが、実の母、鴨志田の遺言となった、学校だけは卒業して欲しい、それだけは守ろうと思い、真面目に学校に通っている。

更に厄介なのは、母親や鴨志田の事を思い浮かべると同時に、あの最低最悪な兄の顔もちらついてくる。

もうこの世にはいないが、あのニヤけた顔を思い出す度にムカついてくる。

遺骨をドブ川に投げ捨てた事には後悔していない。むしろあの場所が1番相応しい。

だが、振り払おうとしても、あの顔が時折脳裏をかすめ、オレは兄の幻影を振り払えずにこの先も生きていかなきゃならないのか、そう考えると、気がおかしくなりそうだ。

に、毎日汗だくで働き、夜は学校で勉強し、帰りは風俗でセックスをする。

だが、どの最中でも兄の顔が浮かんでくる。

アイツは死んだんだ、それも不様に電車に轢かれ、ただの肉の塊と化してくたばったんだ。

そう自分に言い聞かせながら拭い去ろうとしても、オレの身体にベットリと付きまとうが如く、離れない。

どうやったら兄の幻影から逃れられるのだろうか、そんな事ばかりを考える日々が多くなった。

快楽に溺れ、過ちを繰り返す生命体

快楽に溺れ、過ちを繰り返す生命体

主人公、古賀亮輔の数奇な半生を描いた作品です。

  • 小説
  • 長編
  • ミステリー
  • ホラー
  • 成人向け
  • 強い暴力的表現
  • 強い性的表現
  • 強い反社会的表現
  • 強い言語・思想的表現
更新日
登録日
2018-03-13

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Copyrighted
  1. 俗物という名の人間
  2. 退屈な日々
  3. 母親の痴態
  4. 妖艶な母親の肢体
  5. 母という存在
  6. 母の暴走
  7. 早く卒業したい
  8. 性的倒錯
  9. 殺意を抱いた日
  10. もうすぐで卒業だ
  11. 父親との会話
  12. 父の顔
  13. 性の呪縛から解放
  14. 父の世話になる
  15. 出生の秘密
  16. 父の最後の言葉
  17. 金の亡者、種違いの兄
  18. 学校どころではない
  19. 無理なものは無理
  20. 女教師との同居
  21. まさか借金?
  22. いくら借金してるんだ?
  23. 母親に頼もう
  24. 再び母親と交わる
  25. 先生が母親?
  26. 本当の近親相姦
  27. 人を狂わす金の魔力
  28. 独り立ち
  29. 初仕事
  30. 荷物を処分
  31. ネットオークションで売り捌く
  32. 寸止めプレイ
  33. 振り出しに戻る
  34. 友達が欲しい…
  35. 兄を見過ごすワケにはいかない
  36. 母親からの援助
  37. 歯車が狂い始める
  38. 兄の策略
  39. 邪悪な野心
  40. 説得
  41. 積年の恨み
  42. 水面下での行動
  43. 裏社会の弁護士
  44. 亮輔誕生の真事実
  45. 依頼
  46. 完全なる計画
  47. ミッション完了
  48. 大金は目の前だ
  49. 次期社長について
  50. 僕が社長になります
  51. マンションから追い出す
  52. ホテルでの痴態
  53. ハニートラップ
  54. ついに社長就任
  55. マンションを売り飛ばす
  56. 信用出来ねえのか!
  57. 二億で買い取ってもらおう
  58. 五千万で掌握
  59. 底知れぬ不気味さ
  60. ソープランドはアンタに任せる
  61. 死に場所
  62. 兄と呼ぶんじゃねえ!
  63. 母性愛
  64. 最期
  65. 慟哭
  66. 真相
  67. 遺言
  68. 破滅
  69. 再建
  70. 精神力
  71. 清算
  72. ドブ川で眠ってろ!
  73. 初体験
  74. 同級生中山凜
  75. 時代錯誤な元ヤンのヤツら
  76. 兄の幻影に悩まされ